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スタートアップとスモールビジネスとの違い
以前に日本で会社を経営する友人から、
「この前のセミナーを聞いてスタートアップっていうのが理解できたつもりなのですが、ぶっちゃけ自分の会社がスタートアップなのか中小企業なのかイマイチわかってません」
孫 泰蔵さんとの対談セッションの中で触れられた下記のポイントについての質問であった。
ベンチャー企業だからと言って、スタートアップであるとは限らない。
英語では緩やかな成長を目指す場合はスモールビジネス (中小企業), 急激な成長とスケールを目的としてするのがスタートアップと呼ばれており、その2つはその成り立ちとゴールが大きく異なる。
スタートアップと呼ばれる企業には1つの明確なゴールがある
そもそも”スタートアップ”とは何なのか?”シリコンバレー”と同様、この定義が曖昧な名称を定義する際に一つだけ確実に他の企業と異なる点がある。
それは「急成長」である。
サービスを作り、会社を作り急激な成長を成し遂げる。それこそがスタートアップの使命であり、そのゴールを達成するために全ての仕組みが生み出されていると言っても良いだろう。
以前の記事「ベンチャー企業とスタートアップの違い」でも下記のように記載されている。
新しいビジネスモデルを開発し、ごく短時間のうちに急激な成長とエクジットを狙う事で一獲千金を狙う人々の一時的な集合体
例えば、一部のハードウェアスタートアップを除き、デジタル化が進む今の時代に、特に大きな工場や立派な設備もないのに多額の資金を調達する。
一体なんのためにそのお金を使うのだろう?と疑問に思うケースもあるのだが、その答えは”人”である。この”人”というのは二つの意味が隠されていて、一つめが従業員。そして二つ目がユーザー。
実は、この「短期間で急激な成長」の「成長」という言葉がトリックで、実は売り上げや利益ではないことが多い。
では何をもってスタートアップの「成長」と読んでいるのか。その答えはユーザー数であり、従業員数なのである。
なぜ売り上げよりもそっちを優先するのか?その理由は意外と単純で、その二つの数字がM&AやIPOなどの最終的なエクジット額に大きな影響を与えるから。
もう少し細かく言うと、それに紐づいた形で、会社の評価額 (バリュエーション)や次の資金調達に影響するのが理由。
例え経営が大赤字だったとしても、調達したお金を躊躇なくユーザー獲得施策や従業員獲得に使いまくるのがスタートアップの流儀。
この辺は日本の感覚だとちょっと理解しにくいかもしれないが、シリコンバレー界隈のスタートアップで黒字の会社はむしろ珍しい。
短期間で急激な成長を遂げ、一攫千金を達成する。これがスタートアップが持つ大きな命題である。
着実な成長と永続性を重視する中小企業
その一方で、スモールビジネス、いわゆる中小企業はなるべく早い段階での黒字化と着実な成長、そして末長くしっかりと続くための仕組みづくりを行う。
そこで重要になるのは、なるべく借入金を少なくして、会社規模も最小限で回せる効率性の高さ。そして、会社も従業員もじっくりと成長できるための戦略である。
これは全ての新規企業を”ベンチャー企業”と呼んでしまっている日本の感覚だと若干ややこしくなってしまうだろう。
なぜならば、日本国内には”スタートアップ”っぽいベンチャー企業もあれば、”中小企業”っぽいベンチャー企業もあって、その両方が混在しちゃっているのが現状だから。
そして事をよりややこしくしちゃってるのが、成長の度合いにも限度があるので、日本国内でスタートアップを始めてもターゲットを国内に絞ってしまっている場合はどうしても中小企業的動きをせざるを得なくなってしまう。
例えるならバケツリレー vs 水道管
この二つの違いは、バケツリレーと水道管に例えるとわかりやすいだろう。同じ”水”を運ぶという目的を果たすにも、2つの大きく異なる方法がある。
手法1: バケツリレー
A地点からB地点に水を運ぶ際に最も確実な方法である。一定のスピードでしっかりと目的を果たすことが可能だ。バケツリレーでは高い確率で水を確実に供給できるし、そのための戦略も立てやすい。リスクも最小限である。
その一方で、距離が伸びるごとに必要となる人員もコストも比例して上がるので、上記のグラフの青い線で見られるような、確実だが地道な成長しか期待することが難しくなるし、人が欠けると水の供給も途絶えてしまう弱点もある。
中小企業はどうしても人頼みになりがちなのも理解できる。
手法2: 水道管
もう一つの方法として、水道管を作ると言うやり方がある。これは、最初にその仕組みを作るために膨大な資金と労働力が必要とされるが、一旦それが完成し、水源に当たれば爆発的な量の水を一気に多くの場所に提供が可能になる。
そして、何が素晴らしいかというと、一度水道管を作ってしまえば、あくせく働かなくても水は流れ続ける。その規模を大きくしたければ水道管を延長すれば良いわけで、拡張性も高い。
その一方で、この方法はリスクがかなり高い。せっかく頑張って水道管を作ったのに、水源がない可能性もある。
なので最近では、まずは早い段階でサクッとパイプを作って見てそこに水源があるかどうかを探ってみる。それがいわゆる “デザイン思考” や ”リーンスタートアップ” の手法である。
始めるときにどっちにするかを考える
この水を運ぶ際の二つの手法。最初からどちらの作戦でいくかを決めた方が良い。その存在意義も、ゴール設定も全く変わってくるから。
そうでもしないと、経営戦略もフラフラしてしまうし、何より従業員が混乱してしまう。バケツリレーする人とパイプを汲み出す人が混在することになってしまうのだ。
堅実な収益を重視した仕組みと動きをするべきなのか、それとも一攫千金狙いのぶっ込み型神風チームを作るのか。
これは経営者がしっかりと考え決めなければならない。そして、それぞれに最適化された戦略と組織を作る必要がある。
もしくは、福岡のNulabみたいに、最初はバケツリレーのSI業から始め、余力でプロダクトづくりを進めて、見事に水道管に変換した例もある。これは、平日にパケツリレーしながら週末にパイプを組んでみるタイプのやり方で面白い。
スタートアップの条件は”同じことで100倍の規模になる可能性があるか”
上記の例えでも分かる通り、中小企業は労働集約型になりがちで、拡張性 (スケール) が低いケースがほとんど。
しかし確実な成長と永続的な存在を期待しやすいメリットがある。一方、スタートアップはリスクを取ってプロダクトを作り、早いスピードで急成長を目指すスケール重視のビジネスなのである。
これは言い換えると、今現在と同じ事をしていても、効率的に100倍の規模にスケールアップできるかどうかにかかっている。
このスケールにこだわったのが、映画「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」でも有名になったフランチャイズの仕組み。
もともとマクドナルドは地方に根ざした、品質重視のバーガーショップだった。
一度店舗数の拡張を試みてみたのだが、品質に影響が出るという事で創始者のマクドナルド兄弟の目の届く範囲での堅実な経営を行なっていた。
それに対して、アメリカ全土への爆発的な成長を目指した起業家、レイ・クロックがフランチャイズの仕組みを利用して、オリジナル店の同じ仕組みを多店舗に”複製”する事で急激なスケールを成し遂げ、世界一のハンバーガーチェーンにした。
これはまさにバケツリレー型経営から水道管型ビジネスモデルに変換した例である。
しかし皮肉にもその経営方針の相違から、創始者のマクドナルド兄弟とレイ・クロックが対立し、最終的には規模に勝るレイ・クロックが勝利したというアメリカらしいストーリー。
ちなみにこのレイ・クロックは、Amazonの創始者ジェフ・ベゾスが最も尊敬する人物の一人でもある。
これが現代だとユーチューバーになるのか、YouTubeというプラットフォームを作るのか。ブロガーになるのかブログプラットフォームを作るのか
Uberドライバーになるのか、Uberアプリを作るのか。などの差になってくるのであろう。地道に働くのか、もしかしたら大きく儲かる仕組みを作るのかに近い。
“地方に根ざしたスタートアップ”なんてあり得ない
ここまで読んでわかった方もいるかもしれないが、このスタートアップの使命である急成長=スケールを成し遂げるためには、その市場規模が大きくなければならない。
マクドナルドも一号店のあるカリフォルニア内だけでの展開だとスケールに限界があるため、アメリカ全土、そして世界にビジネスを展開した。
したがって、たまに聞くことのある、地元の地域に密着したタイプのスタートアップサービス、なんていうものは実現しようがない。
その都市や地域に限定した時点でスケールしないからである。これは日本国内だけで展開する場合でも同じで、やるならメルカリのように最初から世界を狙って始めるべきである。
なぜスケールする必要があるのか
そもそもなぜスタートアップはスケールをそこまで重要視するのか。
理由はいくつかあるが、おそらく一番大きいのは、”世の中へのインパクト“であろう。言い換えると、サービスを通じて世界を変えられるかどうか。
サンフランシスコやシリコンバレーなんかでは、社会問題や現在の状況を打破するべくスタートアップを始める事が一般的で、お金儲けよりもどれだけ世の中をよくできるか、世界を変えられるかがスタートアップに関わる人々のモチベーションになる。
そのためには、世界的に受け入れられる仕組みを提供する必要があり、自ずとスケールが重要視される。
さて、あなたのやろうとしているビジネスはバケツリレーなのか水道管なのか?これを機会に、今一度考えて見ても良いかもれしない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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