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スタートアップのアイディアを考える際の意外な落とし穴
ここサンフランシスコでは、常に新たなスタートアップやユニコーン企業が生み出されているのは今や言わずと知れた事実になってきている。日本でも耳にすることの多い、UberやAirbnb、Pinterest、Slackなどは、まさにサンフランシスコを代表するユニコーン企業である。最近でも世界の常識を覆すようなサービスがスタートアップ企業から次から次に生まれている。
参考: サンフランシスコの主なユニコーン企と評価額 (2018年現在)
- Uber: $68b (約7兆円)
- Airbnb: $29.3b
- Pinterest: $12.3b
- Lyft: $11.5b
- Infor: $10b
- Stripe: $9.2b
- Slack Technologies: $5.1b
そんなスタートアップがひしめくサンフランシスコにて、先日もスタートアップや起業家の集まるピッチイベントに参加してきた。ピッチイベントとはスタートアップ企業、または起業家が投資家たちに対してアイデアをプレゼンする場である。
イベントの規模にもよるが、一晩で数万ドルから数百万ドルと言うお金が動き、スタートアップ企業はそれだけの資金を調達することも可能である。
日本でのイベントと一味違う、その夢と情熱に満たされた会場にはとても興奮した。このようなイベントはサンフランシスコのいたる所で常に行われており、サンフランシスコのスタートアップを生み出す源になっている。
しかし数多くのスタートアップ企業による自慢のプレゼンを目の前で見て、ふと疑問が浮かんだ。果たしてこれらのアイディアは本当に革新的で、どこにも無いすごいアイディアなのだろうか?このような疑問を持ったことのある人は、おそらく私だけではないはずだ。
実はここには、スタートアップが陥りがちなアイデアに関する大きな2つの間違いが潜んでいるように思われる。
間違い1:すごい「アイディア」に過剰に反応してまう
アイデア(idea)という英単語のニュアンスは実は、日本語での「アイディア」と聞いて持つ感覚とは少し異なるように思う。
と言うのも、日本では「アイディア」という言葉を美化し拡大して解釈してしまいがちなのだ。
試しに英和辞書で「idea」と引いてみると、「心に浮かんだ考え」と書かれている。アイディアとは、単に「考えや案」のことであり、必ずしも「スゴい」「革新的な」ものだけではない。あなたが時として考えたり、感じたりする全てがアイデアなのではないだろうか。
日本人はアイデアと言う言葉を耳にした時に、とにかくスゴいものをイメージしてしまう。そして、自分も何かすごいことを思いつかないといけない!と頭を抱え込んでしまうのだ。これは日本人特有な症状のように感じる。
実はアイディア自体がそこまで凄くなくても、すごい結果を生み出すことも多々あるのだ。
超巨大IT企業を生んだ些細なアイディア
アイディアとは決して、私たちがイメージしてしまうほど輝かしいものである必要はない。それどころか、もっと単純で、些細なものであることも多い。
今や世界中で21億人(2018年1月時点)という人が利用する、Facebookはもともとマーク・ザッカーバーグが始めた、大学の友人たちと繋がるサービスが始まりだったことは有名な話である。
また、私たちが毎日音楽を聞いたり、動画を観たりしてるYouTubeも、最初は創業者の2人が見たい動画を見つけられなかったり、パーティーで撮った動画がうまく送れなかったりした経験から始まった、クラウドサービスのようなものだった。
これらはとても「スゴいアイディア」とは、言えるようなものではないことは確かだ。少し偏った例にはなったかもしれないが、これは紛れもない事実なのである。
間違い2:オリジナルのアイディアを必死に探すこと
ところで、こんな経験をしたことはないだろうか。アイディアや意見などを発言しようとして、他の人に先に言われてしまった!なんて経験だ。
このような経験はきっと学校や職場など、人生の様々な場面で誰にでもある経験だろう。こういった場面では「先に言ったもの勝ち」のような風潮がある。まるで山手線ゲームのようだ。
しかし、ここにスタートアップビジネスで陥りがちな、2つ目の落とし穴が潜んでいる。
と言うのも、これはスタートアップにおいて、全く異なるからだ。スタートアップ企業にとって、ビジネスアイディアは必ずしもオリジナルの、世界でたった1つのものである必要は全くない。言い換えれば、スタートアップのアイディアは「先にやったもの勝ち」ではないのだ。
アイディアの被りは関係ない
そのアイディアが自分だけのものかどうかや、それが今までにないビジネスであるか。実はそれらは決して問題ではない。なぜだろうか。その答えはとてもシンプルだ。この世の中に競合のないビジネスなどないからである。
仮にとても革新的なアイデアがあったとして、果たしてそこに競合がいないだろうか?答えは間違いなく「No」である。そのアイディアが狙う市場には、すでに様々な企業やビジネスが存在している。
狙う市場の中だけではない。ターゲットの周りには、数え切れないほどのサービスと企業が存在している。あなたはその数多くの企業の競合になる。
これはそのビジネスがすでに存在していても、していなくても変わらぬ事実だ。
少しばかり特殊な例にはなることを承知で言えば、飲食店は非常にわかりやすい。例えばイタリアンレストランがすでにあるからと言って、イタリアンレストランの出店を諦める人はまずいないだろう。
どのようなターゲットを想定していくら位の価格帯に設定して、どのような質なのか、どのように知ってもらい、来てもらうか。その1つ1つが、そのビジネスを成功に導くのであり、アイディアのユニーク性はそこまで関係ない。
むしろ有利な後出しビジネス
もし、同様のコンセプトのビジネスが既に存在していたならば、むしろそれはチャンスである。
なぜなら、あなたはその企業やビジネスが上手くいかなかった、または上手くいっていない理由を分析し知ることができるからだ。
またそのビジネスが過去に存在し、既にサービスを終了しまっているか、どうかも重要な情報だ。あなた自身がもしくはあなたの友人が今そのサービスや製品を利用していないのはなぜだろうか。そこにはあなたのビジネスを成功に導いてくれる、最大の鍵があるかもしれない。
後出しのビジネス例:
- Google after Yahoo
- Facebook after Friendster
- Sketch after Photoshop
スタートアップでアイディアよりも重要な2つのこと
確かにビジネスアイディアは、スタートアップにおいて大切な要素の1つであるし、先行者利益なるものがあることも事実だろう。しかしそれらは大した問題ではないと述べた。
では何が重要なのだろうか?その答えは2つある。
ユーザーニーズを中心にサービスアイディアを考えよう
誰しもビジネスを展開する際には、必ずマーケットやターゲットのリサーチを行うだろう。しかし、これをアイデアの段階で実行できる人は少ない。どんなスゴいアイディアにしようか思い悩むのではなく、簡単なアイディアをいくつか吟味してみることが重要なのだ。
リサーチのコツは、想定されるターゲットにビジネスアイディアを話すのではなく、自ら足を運び、耳を傾けることだ。ターゲットを知ることができれば、どこに競合がいて、どこにチャンスがあるのかを知ることができるだろう。そうすれば、アイディアが既に存在するかなどは、全く気にならなくなるはずだ。
これはデザイン思考のプロセスであり、btraxが企業に提供するワークショップの中でも多く用いられている。
何をよりも、どうやるか
そして何よりも大事なのは、あなたのアイディアをいかに成功へ導くかである。当然だと言われてしまいそうだが、これは意外とちゃんと理解されていないことも多い。
アイディアは時として、いとも簡単に模倣されてしまう。特に強いブランドを持った大企業などにマネされてしまえば、あっと言う間にビジネスチャンスを奪われてしまうかもしれない。つまりアイディアはアイディアでしかないし、それ自体に大きな価値はない。
これに対し、あなたが行ったやり方、戦略はあなたにしかできないやり方になる。全てはあなたが、どうやったか次第なのである。
最後に
ここで最後に、Dropboxの創業者が実際にピッチイベントで投資家と行ったやりとりを、1つ引用したい。
投:他にも似たような企業がある中で、なぜ私はこの企業に(Dropbox)に投資したらいいのですか?
創:確かに他に似たような企業はたくさんあります。しかしあなたはそれらを使っていますか?
投:いいえ
創:それはなぜですか?
投:良いサービスではないから。
創:OK。それがDropboxが解決する課題です。
(*投資家:投 創業者:創)
そしてご存知であろうようにDropboxは、現在日本を含む世界中の国と地域で、5億人を超える人に利用されるサービスとなっている。このやりとりからDropboxが成功した理由に、アイディア自体がそこまで重要ではないことがわかる。
今回はスタートアップの話を中心に取り上げたが、これらはスタートアップに限った話ではない。アイディアを求められる場面は、ごく頻繁に訪れる。しかしどのような時であれ、アイディアとの向き合い方をもう一度考え直すことは、今までになかった可能性とチャンスを、あなたにもたらすかもしれない。
参考: Startup Ideas: How do you know if your startup idea already exists? (Quora)
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