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令和に絶対押さえるべきインクルーシブマーケティングとは。事例6選
時代の変化とともにマーケティングに求められる効果とその内容に大きな変化が生まれてきている。
例えば、あなたが家庭用食器洗剤ブランドの広告ビジュアルを考えていたとして、どのようなシーンをイメージして作るだろうか。
もし台所にいる女性を想定していたら、あなたのマーケティング手法は時代にあっていない可能性がある。なぜなら、現代において台所に立つのは必ずしも女性とは限らないからである。
あなたのマーケティングは時代遅れかもしれない。画像転載元
ダイバーシティー実現にはマイノリティへの配慮を
ダイバーシティという言葉が様々なところで使われるようになった一方で、マイノリティへの配慮が足りていない制度やコンテンツ、発言をいまだによく見かけるのではないだろうか。
著名人による差別的発言、企業と従業員の間で起こる性的蔑視、人種について嘲笑する動画など、これらの問題や報道を他人事のように感じている人さえ、無意識的に排他的な発言や行動をしているかも知れないのである。
企業にとっても必須事項
現状がどうであれ、ダイバーシティを受け入れることは、企業にとって「オプション」ではなく「マスト」であるということだけは言える。企業としてマイノリティーを考慮できていないと、信頼や評判は落ち、消費者や従業員、ステークホルダーはみるみる離れ、企業存続を揺るがせかねない。
ここアメリカでは、日本よりもダイバーシティが一般的であり複雑だ。ゆえに先進的な取り組みが多いのも事実。そしてこのような多様性を受け入れる姿勢・理解を自社のマーケティング活動に反映させようというインクルーシブマーケティングがすでに広がりつつある。
上の写真はサンフランシスコのプライドパレードの様子。毎年6月はLGBT(レズビアン、ゲイ、バイ、トランスジェンダーの頭文字からなる造語。最近ではクエスチョニングやクィアのQが最後につくことも)を啓発するプライド月間となっている。ここサンフランシスコは主要都市の1つとして、6月はLGBTQを表すレインボーの旗がメインストリートに掲げられる。(写真転載元)
流行と捉えるべきではない、インクルーシブマーケティングとは
インクルーシブマーケティングとはダイバーシティ(多様性)を受け入れ、それを考慮し、マーケティング活動へ反映させることだ。ダイバーシティーがインクルードされている(含まれている、受容されている)マーケティングである。
これにより、マイノリティとされる人たちが、自分たちも企業のサービス対象に含まれているという自覚を持てるようになるのだ。
そもそもインクルーシブマーケティングを理解するにはダイバーシティを理解する必要がある。
「【2019年】絶対おさえておくべき、4つのマーケティングトレンド」でも説明している通り、ダイバーシティとは人種、性別、年齢に限ったことではない。宗教や障害、性自認、食習慣(ビーガン、ベジタリアンなど)、体型など、個人を成形するあらゆる点が含まれる。
Airbnbが2017年のアメフト全米1位を決める決勝戦、スーパーボウルで流した広告キャンペーン。画像転載元
これは当たり前のことのように聞こえるかも知れないが、人口の98%を日本国籍保持者が占める日本では、なかなか身近には感じづらいことだと思う。日本が相当ダイバーシティの低い国であるということを自覚しておく必要がある。さもなくば、無意識に排他的なマーケティングをしかねない。
次に、今までの固定概念を疑っていく必要がある。先に質問した、家庭用食器洗剤を使うのが女性だ、というような固定概念だ。現在では働き方や性に関して多様化しているため、「家庭用食器洗剤ユーザー=女性」と強く押し出してしまうのは排他的ともなる。
顧客管理アプリケーションを開発・販売するセールスフォースは職場におけるダイバーシティやインクルージョンの価値についてオンライン学習ツールを提供している(日本語での受講も可能で、単元ごとに受けやすくなっているのぜひ社内で受けてみてほしい)。
ここでは受講者のダイバーシティに関する固定観念に問いかけるようなコンテンツもある。
これらを改めて想像すると、ステレオタイプに気づくことができる。転載・加工した画像はこちらのサイトから
インクルーシブマーケティングを取り入れているアメリカ企業
アメリカでは、既存企業が自分たちの社風やマーケティング活動にダイバーシティを反映していこうとする動きも盛んだが、最近ではダイバーシティをメインのミッションにあげるブランドも出てきており、インクルーシブマーケティングやインクルーシブな商品開発のお手本となっている。
以下は該当するブランドの一例だ。
1. 世界の歌姫リアーナが始めたコスメブランド:Fenty Beauty
Fenty Beautyは世界的R&Bシンガーのリアーナが2017年に創業したコスメブランド。インクルーシブな商品展開が売りで、ファンデーションのカラーバリエーションは50以上にもなる。
既存のコスメブランドのファンデーションなどのカラーラインアップ対応範囲が、実際のユーザーである有色人種を含む全ての女性層とギャップがあることを感じ、Fenty Beautyの立ち上げに至ったという。Fentyはリアーナの苗字からきている。
リアーナはコスメブランドのMACとも過去にコラボしており、業界への関心を示してきたが、今回は初のソロでのブランドだ。ルイヴィトンやディオールを運営するLVMHの傘下であるKendo Holdingsという美容ブランドインキュベーターと共同で商品開発などを行っている。
なんとブランドローンチの1ヶ月目から7,200万ドル(約72億円)の売上があったという。
もちろん、彼女の歌手としての知名度があったことも影響しているが、インクルーシビティへの徹底ぶりも人気の理由だ。以下のウェブサイト商品ページを見ていただければわかる通り、カラーバリエーションの数が非常に幅広い。色を表す言葉もLightからDeep(Lightの反対Darkではなく)にしている点も考えられている。
メイクで顔に凹凸を作るためのハイライトと呼ばれる化粧品もカラーバリエーション豊富だ。
もちろん、ソーシャルメディアやビデオコンテンツもインクルーシブマーケティングを意識したものとなっている。
リアーナはコスメブランド以外にもSavage X Fentyというランジェリーブランドも展開しており、こちらも様々な体型にあった商品が揃う。さらに2019年にはファッションブランドも開始すると発表されており、インクルーシブマーケティングにおいて彼女の動向は今後も注目だ。
2. ユーザーの声に耳を傾けるコスメブランド:Glossier
こちらもミレニアルを中心に人気が高い、コスメD2C(Direct to Consumer)ブランドだ。ユーザーのフィードバックを積極的に商品に反映してきたことも人気の理由だ。ファンデーションのカラーバリエーションも豊富で、ウェブサイトに載せている試し塗りサンプルの様子も様々な肌の色で表現されている。
またGlossierのインスタグラムには度々男性のユーザーの写真が投稿される。必ずしも化粧をしている訳ではなく、日焼け止めやスキンケアなどGlossierの商品を使っているユーザーの写真だ。
ブランドカラーがピンクなだけに女性感が強いGlossierだが、そんな彼らが積極的に男性ユーザーのコンテンツを発信しているのは非常に興味深い。ユーザーの声を聞いている彼らだからこそ、素早くこのような発信ができたのではないだろうか。化粧品は女性だけが使うもの、という考え方は過去のものになりつつある。
3. ファッションのさらなる可能性を見せたアパレルD2C:Tread by Everlane
Tread by Everlaneはサステイナビリティとトランスペアレンシーを追求するアパレルD2CのEverlaneがローンチしたスニーカーブランドだ。2019年春に発売が開始されると、瞬く間に話題になり、Everlaneの実店舗には長蛇の列ができた。
究極のエコスニーカーを目指しており、ソールの部分に使われている素材は94%リサイクルプラスチックを採用している。もちろん価格についてもその内訳を公開し、透明性を高めている。
そんなTread by Everlaneの広告に、先進的とも言えるインクルーシブマーケティングを見かけた。それが以下の広告だ。
ただでさえ義足のモデルというのは珍しいのに、義足がブランドのスタイルとマッチしていて驚いた。マイノリティを無理やり起用するのではなく、むしろクールにファッションやビジュアルに落とし込んでいて非常に参考になる。
筆者がこれを見かけたのはソーシャルメディア広告であった。自社の顔ともなる広告にインクルーシブマーケティングを取り入れているあたり、Everlaneがどれほどインクルーシビティを重視しているかがわかる。
4. 子供にこそインクルーシビティを伝えたい:バービー(マテル)
玩具メーカーのマテルは、2019年車椅子や義足のバービー人形の発売を発表した。以前から肌の色や体型などは多様性を受け入れた商品展開をしていたが、今回は身体障害者も含まれている。
マテルはバービー人形が創業から提供してきた美やファッションの多角的な視点を見せていきたいとしている。人形用の車椅子デザインはUCLA Mattel子供病院と協同してデザインされたものというこだわりぶり。
さらにマテルは2015年、女性であろうがどの職種にでもなれるというメッセージを謳った「Imagine The Possibilities(可能性を創造しよう)」というタイトルのバービー動画広告を公開し、話題になった。
大学教授、獣医、アメリカンフットボールのコーチなど、小さな女の子たちがその職業に扮して大人たちに支持・指導している(大人たちのリアクションは全てノンフィクション)。
バービー人形を使って遊んだどんな業界、職業も、性別関係なく誰もがなることができる、そんなメッセージがある。
玩具は小さい頃から触れるものだから、ダイバーシティへの理解や感覚を教えるのに非常に重要な接点だ。マテルは先陣を切って、インクルーシブマーケティングを行っている企業の一つだ。
5. デートの形一つとっても様々:Dating Around(邦題:5ファースト・デート)
動画ストリーミングサービスのNetfixオリジナルコンテンツである。これはマーケティング活動ではない(もしかしたらマーケティング活動かもしれない)が、非常に多様性が盛り込まれている内容だ。
これは「6人の独身男女がそれぞれ5度のブラインド・デートに挑戦し、ときめきや気まずさを体験しながら、初めて会った5人のうち、2回目のデートの相手を1人だけ選ぶ」というリアリティー番組だ。
初回2エピソードは1人の男性が5人の女性とデートをするというものと、1人の女性が5人の男性とデートするというものだった。しかしながら3エピソード目からは同性同士のデートや結婚経験もあるシニアのデートなど、非常に多様な角度でそれぞれのストーリーが展開された。
正直筆者も番組タイトルからは想像していなかった展開もあり、自分にも無意識の偏見があったのかもしれないという思いはあった。また、全てのセッティングに自分が置き換えられる訳ではないが、色々な形のデートがあるということは非常に興味深いし、コンテンツとして非常に見応えのあるものだった。
Netflixは社会問題に対する動画コンテンツも多く制作、配信しており、ダイバーシティを意識した番組はこれが初めてではない。インクルーシブマーケティングは商品そのものがインクルーシブでないことには始まらない。
その点、Netflixの商品(コンテンツ)はインクルーシブであり、社会への問題提起をしており、なおかつエンターテイメントとして楽しめるものを生み出していくことに非常に長けていると言える。
6. btrax事例(大手靴下ブランド)
btraxの過去クライアントでもインクルーシブマーケティングはアメリカ市場で成功するための重要項目だという位置付けだ。
例えばアメリカ市場向け、バレンタインキャンペーンでは必ずしも「男性から女性にプレゼントをあげる」訳ではないという点を考慮してターゲット、メッセージ、ビジュアルを作っていった。アメリカのバレンタインは男性から女性にプレゼントを送るという習慣はあるものの、カップルのあり方が、女性同士の場合もあるし、男性同士の場合もあるからだ。
ゆえに女性だけが好むと思われる、女性しか使えないもの、ガーリーすぎるもの、をプレゼントの提案として取り扱うのも注意である。
また、ウェブサイトやソーシャルメディアなどで使うモデルは、一般的に日本企業が海外のモデルと聞いて想像する「細身、白人、金髪」に偏らないように様々な人種を採用した。
まとめ
このような新しい概念はマーケティング活動に反映させることがゴールではない。それよりも、今までのステレオタイプが染み付いた思考を変えることに意味がある。その思考がインクルーシブマーケティングとなって世に広がっていくというのが理想だ。
現在皆さんのビジネスが海外向けに展開している・いないに関わらず、日本でも働き方といった面で多様になっていたり、海外からの人が増えていたりと、インクルーシブマーケティングの重要性は間違いなく高まっている(もっとも今後のビジネス拡大をしていく場合、海外は無視できない)。
会社としての歴史が長く、日本的・保守的・伝統的だという点に当てはまる企業は特に自分たちだけで変わろうというのは難しくなるが、変われない訳ではない。ぜひ先進的なインクルーシブマーケティングを行っているアメリカ市場に注目していただきたい。
そしてbtraxオフィスのあるサンフランシスコではダイバーシティやインクルーシブなブランドが特に進み、受け入れられている。btraxではこのようなトレンドのリサーチと発信だけでなく、トレンドを踏まえたサービス開発からマーケティング支援まで包括的なグローバルビジネス支援を行っている。ご興味がある方はこちらよりぜひお気軽にお問い合わせください。
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