デザイン会社 btrax > Freshtrax > 意見が出ないときこそ“変なモノ...
意見が出ないときこそ“変なモノ”を作れ。事業仮説を前に進める、挑発するプロトタイプ「プロボタイプ」とは
新規事業や新サービス検討の場面で、こんな経験はないだろうか?
- 会議で話し合っていても、なんだか議論が深まらない。
- いつも同じようなアイデアばかりが出て、新しい視点が生まれない。
- ユーザーに意見を聞いてみても当たり障りない答えばかり返ってくる。
今回紹介する「プロボタイピング(Provotyping)」は、そんな停滞した場を揺さぶる手法だ。この手法が、デザインリサーチや共創の現場で注目されている。特に、正解のない構想段階で事業仮説を前に進めたいときに効果を発揮する。
本ブログ記事では、このアプローチをデンマークのデザインスクールで学んだ筆者が、事例とともに紹介していく。新規事業の初期構想やサービスコンセプトの検討に関わる人にとって、ヒントとなるはずだ。
プロボタイピングとは
プロボタイピング(Provotyping)とは、「provocation(挑発)」と「prototyping(試作)」を組み合わせた造語で、まさに「挑発するプロトタイプ」を作ることを指す。
一般的なプロトタイプといえば完成品になる手前の原型を指し、「機能を試す」ことを目的とするのに対し、プロボタイピングは「あえて違和感を与える」ことを通じて、ユーザーの思考や前提に揺さぶりをかけ、人々の反応や議論を引き出すことを目的としている。
その意味で、これは完成度の高い正解案を見せるためのプロトタイプというより、曖昧なアイデアの仮説に対して反応を取りに行くための「検証装置」である。

コンセプトを絞り込み形にする以前の、初期のフェーズで活用する。(画像出典)
「プロトタイプ」についての説明は下記の記事も参考にしてほしい。
皆さんがもし買い物に行って、店員に「ありえない」商品をおすすめされたら、「こんなの嫌だ!」と反応し、結果として自分の価値観や本当のニーズを語り出すのではないだろうか。このように、プロボタイピングは従来の要件定義やユーザーテストですくい取れなかった深層的なニーズや価値観を掘り起こすことができる点に価値がある。
プロボタイピングは、システムをつくるための技術ではなく、「考えさせること」「違和感から対話を生むこと」を重視する、問いかけの技術である。正解が見えない新規事業ほど、きれいな試作より“議論が割れるプロトタイプ”が役に立つ。
その意味で、これは開発者やデザイナーだけでなく、新規事業担当者、サービスデザイナー、事業責任者、イノベーション推進担当者など、社会の構造や文化に働きかけようとするすべての実践者にとって、有効なアプローチと言えるだろう。
プロボタイピングの起源
1992年に、この革新的なアプローチを最初に提唱したのが、デンマーク・オーフス大学の研究者、Preben Mogensenである。彼は、プロトタイプを単なる完成品の縮小版として使うのではなく、ユーザーの思考を刺激し、無自覚な前提や暗黙の了解を表面化させるための“挑発の道具”として位置づけた。
Mogensenによれば、サービスやシステムを作る際に起こる「使いにくい」「イメージと違う」「実態に即していない」などの問題の多くは技術的問題ではなく、ユーザーの習慣や前提が可視化されないことに起因しているという。
プロボタイピングは、そうした前提をあえて揺さぶり、ユーザーが無意識に感じていた違和感や問題を明るみにすることで、開発者との建設的な対話を促進することができる。
この手法は、ユーザーをサービス開発初期から巻き込み、共に考え、形づくるデザイン手法である「参加型デザイン(Participatory Design)」や、未来のモノや状況を“仮想”してみせることで、社会の価値観や制度を問い直すデザイン手法である「スペキュラティブデザイン(Speculative Design)」にも大きな影響を与えている。
プロボタイピングの例①デンマークのデザインスクールでの「遺伝子組み換え」についてのプロボタイピング
ここからは、プロボタイピングとはどういうものなのか、具体的な事例を紹介していく。
筆者は2018年に、デンマークのデザインスクールCopenhagen Institute of Interaction Design (CIID) のショートコースに参加し、プロボタイピングを学ぶ授業「Prototyping to Provoke」を受講した。その内容が今でも非常に印象深いので、例として紹介したい。

複数のワークショップが、約1ヶ月にわたりコペンハーゲン市内の国連オフィスで開催された。
皆さんは、遺伝子組み換えについてどう思うだろうか。いきなりそう問われて、意見を述べられる人は少ない。
この授業では、まさに「遺伝子組み換え技術の活用を健康、生殖、経済、パフォーマンス、美容分野で促進するプロダクト/サービスのアイデアを考える」というテーマに取り組み、5日間でプロボタイプとしてムービーを作成した。遺伝子組み換えについての議論を促進し、考えさせるためのトリガーを作ることが目的だ。
このプロジェクトでは、事業アイデアとして実現可能かをすぐに詰めるのではなく、まずはどこに強い違和感や反応が生まれるのかを確かめるプロセスにフォーカスを当てた。
なお、遺伝子組み換えについてはあくまでテーマとして扱うだけで、現実性などは考慮しなくていいので特に医療や科学の知識は不要だ。

複数のワークショップが、約1ヶ月にわたりコペンハーゲン市内の国連オフィスで開催された。
私はイタリアとジョージアから来た2人のメンバーと共に、「遺伝子組み換え技術を生殖分野で活用するアイデア」を考えることになった。
ブレインストーミングを経て私たちが考えたアイデアは、「もし全ての人が、遺伝子組み換え(という設定で、何か魔法のような技術によって)妊娠できるようになるキット」だ。この「全ての人」には、生物学的男性、病気や加齢で妊娠できない人、あるいは家庭内の負担のバランスやキャリアの事情によって男性パートナーに妊娠を望む人など、ありとあらゆる人を含む。
このコンセプトを聞いて「ちょっとそれは…」と違和感を覚えた人もいるかもしれない。まさにそのような感情を刺激し、思考を引き出すのがプロボタイプの役割だ。

プロボタイプをチームで検討している様子
紙やペン、シール等を用いて、このキットの「プロボタイプ」を90分でクイックに作成した後、チームで街頭インタビューに出かけた。作成したプロボタイプを持って街に出かけ、街にいる人に10人ほど声をかけ、どのように感じるかの意見を聞いた。
ここで重要なのは、精度の高い検証を行うことよりも、フィードバックを多く得て、どの論点に反応が集まるのかを素早く見つけることにある。

作成した、「全ての人が妊娠できるようになるキット」のプロボタイプ
道行く人の反応は様々だが、概ね「不自然だと思う」「自然の摂理に反する」というネガティブな反応が多く、様々な意見が飛び交った。このようなセンシティブな話題でも、コペンハーゲンの街ではほとんどの人が立ち止まってインタビューに応じてくれたことに当時はとても感動した。
インタビューで得た情報を整理して、最後にプロボタイプとしてのビデオの制作を行った。製品発表や宣伝のためのムービーと異なり、このプロダクトを使えばどういうことが起こるのか、ストーリー仕立ての映像にまとめ、感情を揺さぶり、議論を起こすことが狙いだ。
チームでは、このキットを使った夫婦とその担当医師をチームで演じ、「既に妻が1人子供を産んでいて、キャリアに復帰するために、次は柔軟な働き方のできる夫に妊娠してもらった夫婦」のストーリーをドキュメンタリー風に表現した。

服の中に風船を入れ、「妊娠した夫」を表現

このようなサインが男性トイレに併記されるかもしれない。
妊娠した夫とそれをサポートする妻と主治医の姿から、「不自然だ」と誹謗中傷をSNSに書き込まれるシーンまで、「こんな未来がやってきたらどうなるか?」を考えさせられる内容に仕上げた。

Instagramで#isthisnatural(これって自然なのか?)のタグで検索すると、このプロダクトを使った人への批判の写真が出てくるというシーンを表現
まさにこのムービーをクラスで発表した後に妊娠・出産やパートナー間の関係性、生命倫理など、様々な議論が勃発し、プロボタイプの持つ力を肌で感じた。
つまりプロボタイプは、アイデアの正しさを証明するためのものではなく、仮説がどのような議論を生み、どこにさらなる検証余地があるのかを明らかにするためのものだったといえる。
他のグループのプロボタイプも非常に興味深く、「言語を一つ習得できる代わりに自分のスキルを一つ失う薬」「スイッチを入れると集中的にパフォーマンス高く働けるキット」「遺伝子を操作して毎週のように人種、性別まで見た目を変えられる整形」などをテーマに、実際にそれを使っている社会がどうなるのか、映像の中の世界に没入しながら、よりリアルにイメージを膨らませながら考えることができた。
このように、「遺伝子組み換え」など普段馴染みのないテーマについても、感情や思考を引き出し、対話を促すことができるのがプロボタイプの力だ。
プロボタイピングの例②フィンランドでのUXデザインワークショップ
フィンランドのデザインワークショップでも、プロボタイプの手法が用いられた。このワークショップは、感情がデジタルサービスの設計と構築にどう影響するかを様々なビジネスパーソンに理解してもらうことを目的としていた。
このワークショップにはデザインについての知見や経験のない一般の人が多く参加していたが、そのような人々にデザイナーの視点で新機能のアイデアを出させたり、サービスの良し悪しをいきなり説明させたりするのは非常に難しい。それを解決し、デザインについて共に議論し、理解を深められるような機会を作るためにプロボタイプが用いられた。
ワークショップでは2つのアクティビティが行われた。1つ目は、フィンランドの税務署の現在のWebデザインと、「最も使いにくい、挑発的なバージョン」のプロボタイプを参加者に見せて比較させるというものだ。

このプロボタイプのどのようなデザインや要素を変更すべきかを参加者に尋ねると、ある参加者はフォントの違和感を指摘し、また別の参加者は、フォントよりもテキストの内容が気になるなど、非デザイナーからも様々な意見が飛び交うようになった。
2つ目のアクティビティは、「色覚異常の人にとって、ある実在の格安バス旅行サイトをどれだけ使いにいデザインにできるか」というテーマで、ウェブサイトのデザインを考えさせるというものだ。
いかにひどいウェブサイトを作るかを考える過程で、制作者は実際の色覚障がい者がどのような課題を抱えているのかを検索する羽目になったというのがこのワークショップの面白い点だ。ひどいものを作るには、良いものをつくる方法を知っておかなければならないからだ。
このように、UXデザインを考える際や、その視点や重要性をノンデザイナーにも理解してもらうために、プロボタイプは非常に有効である。同時に、新規事業や新サービスの初期段階で、関係者の頭の中にある曖昧な前提を外に出し、検証すべき論点を具体化するためにも役立つだろう。
まとめ
議論が停滞したときこそ、あえて“変なモノ”を作ってみる。プロボタイピングは、違和感を通じて思考を刺激し、見えにくい前提や価値観を引き出す手法だ。とくに、事業仮説がまだ粗く、何を検証すれば前に進めるのか分からない段階でこそ、その効果を発揮する。
完成度よりも対話のきっかけを重視するこのアプローチは、デザインや開発にとどまらず、新規事業の構想、サービスコンセプトの検討、価値仮説の見直しなど、あらゆる対話や共創の場で活用できる。
新しい視点や深い議論を引き出したいとき、あるいは曖昧なアイデアを一歩先の仮説に更新したいとき、ぜひ「挑発するプロトタイプ」を試してみてはどうだろうか。
btraxではこうしたプロトタイピング手法やデザイン思考の手法を用いながら、大企業内イノベーションや新規事業・新サービス創出、既存事業の改善、組織改革などに伴走している。また、構想段階のアイデアを、検証可能な事業仮説へと整理し、前に進めるための支援も行っている。
btraxのサービスや過去のプロジェクト事例にご興味をお持ちの方はぜひお気軽にお問い合わせください。
