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シリコンバレーが自動車業界に与える3つのインパクト
シリコンバレー地域では多種多様な変化が急激なスピードで進んでいる中で、最も変化が激しい業界が自動車業界だ。1885年のダイムラーによる自動車の発明以来、ヨーロッパ、日本、そしてデトロイトを中心に進んできたこの業界は、ついに大きな革命が起ろうとしている。
そのサインの一つが最近の世界の自動車メーカーによるシリコンバレーへの投資、そしてこの地域から生み出される自動車関連のスタートアップの量である。
もちろんシリコンバレー発の自動車ブランドであるTesla. GoogleやAppleなどのテクノロジー企業の自動車ビジネスへの参入、とどめはUberによる自動車をツールとして”活用”した新しいビジネスモデルの出現も見逃す事は出来ない。
では、現在自動車業界ではシリコンバレーに対してどのような動きが見られるのかを見てみよう。
最近の自動車業界のシリコンバレーに対する主な取り組み
- 2016年8月: FordとBaiduが共同でセンサー系スタートアップ Lidorに$150mを出資
- 2016年7月: BMWとIntel/Mobileyeが自動運転に関する共同開発を開始
- 2016年5月: Googleがデトロイトに開発拠点、Novi Development Centerを設立
- 2016年5月: Appleが中国のライドシェアサービスのDidiに$1B投資
- 2016年5月: Fiat ChryslerとGoogleが自動運転を共同開発
- 2016年5月: TOYOTAがUberに戦略的投資を行なう
- 2016年5月: VWがヨーロッパのタクシーサービスGettに$300m投資
- 2016年3月: GMが自動運転系スタートアップのGruiseを買収
- 2016年2月: Uberがピッツバーグに開発拠点、Uber Advanced Technologies Centerを設立
- 2016年1月: GMがLyftに$500m投資
- 2015年11月: TOYOTAが$1BをかけてTOYOTA Research Instituteを設立
自動車業界を取り巻く3つの大きな変化
上記の通り既に複数の自動車メーカーはシリコンバレーを中心とした次世代のテクノロジーとサービスへの投資を開始し始めている。その理由としては、シリコンバレー地域を中心とした3つの変化が自動車業界のビジネスモデルに大きな影響を与えているからであろう。
その3つの変化とは、カーシェアリング、EV、そして自動運転テクノロジーであり、これら全てはシリコンバレーの技術とサンフランシスコを中心とした新たなサービスモデルが重要な鍵になってくる。
しかし、自動車メーカーにとって大きな課題として、既存のノウハウや設備、技術では簡単に時代の変化に適応する事が難しく、外部とのコラボレーション無しには適応出来ないという事である。
では、それぞれの変化と課題がどのように自動車業界に影響を与えているかを考えてみる。
自動車業界に与える変化1: カーシェアリング
日本ではまだまだ実感が湧きにくいが、例えばサンフランシスコの街で生活していれば、ライドシャアやカーシェアと言ったシェアリング系サービスの人々に生活に与えるインパクトの大きさを日々実感する事ができる。
UberやLyftの出現によりタクシーに乗る事はほぼ無くなったし、人によってはバスや電車といった公共交通機関に乗る事すら減っている。また、日々の通勤にライドシェアを使うなど、これはでは自動車を所有していないと無理だと思っていた生活スタイルも可能になった。
また、ZipCarやサンフランシスコ地域限定ではあるが、ユーザー同士が車を貸し借りするGetAroundなどのサービスを上手に利用すれば、必要な時にだけ好きな車両を時間単位でさくっと借りる事も可能。
これは同時に都心部に生活する人々にとっては、自動車を購入する理由が減ったという事にも繋がる。自分自身のケースを考えてみても、所有する車よりもカーシェアで借りた車を運転するケースの方が多いという事実に驚かされる。
その一方で、アメリカ国内でUberやLyftを利用した事のあるのは人口の15%で、このトレンドはまだ都心部に限定される。しかし、そのトレンドは今後急激に郊外にも広がっていくと予想される。
この変化は自動車業界にどのような影響を与えるのであろうか? もちろん長期的に見れば消費者の自動車購入率は下がる可能性がある。しかし同時にUberのドライバーや、ZipCar社は引き続き車両が必要になるわけで、自動車の販売量がすぐに下がる見込みは無さそうだ。
起こりえる可能性としては自動車の販売先と販売方法の変化であろう。これまでは一般消費者向けにディーラーで販売される事が一般的なチャンネルであったが、今後はよりB2B向け販売チャンネルの充実と、カーシェア系サービスを通じた販売チャンネルの構築が必要とされる。
一方で、現在の法律ではアメリカの多くの州ではディーラー経由で無いと車両の販売が難しい。しかし、この法律が改正されれば、オンライン販売や、ZipCar, Uber, Lyft, そしてGoogleなどのテクノロジー系企業に対しての販売が主なチャンネルになる可能性も秘めている。
今のところ世界的な利用率が限定的なこともあり、カーシェアサービスの存在自体が自動車メーカーが大きなダメージを受ける事は少ないだろう。しかし、自ずと今までとは異なる顧客層に対しての新たな価値の創出と販売戦略を考え始める必要性はかなり高い。
自動車業界に与える変化2: EV
もう一つの大きな変化はEVテクノロジーの進化。自動車の発明以来100年以上も内燃機関を動力として推進して来た自動車産業についに新たな動力テクノロジーとしてEVの存在が現実となりつつある。
先日Teslaは既存のModel Sに新たなラインアップとしてP100Dをリリースした。このモデルは時速0-60マイルを2.5秒で達成する。これにより事実上、Teslaが現時点で市販の車両の中で最も加速が速い車両となった。これはフェラーリやランボルギーニと言った高級スポーツカーをしのぐ性能である。
イーロン・マスクによると、なにかと”エコ”がキーワードのEVのイメージを実力で覆すのが目的だという。
また、EV車の普及の背景にはインフラの充実が大きく関連している。これまでは車両自体が優れていても、どうしてもチャージステーションの少なさがネックとなり、購入を躊躇する消費者も少なかった。しかし、アメリカを中心に、EV向けのチャージステーションが急激に増加している。
事実、ついに2016年3月にはニューヨーク市ではTeslaのチャージステーションがガソリンスタンドの数を上回った。それも、40のガソリンスタンドに対して105のチャージステーションと、倍以上のさである。
その大きな理由の一つが、チャージャーステーションの設置手法の手軽さ。大げさな設備が無くても、パーキングエリアやガレージに設置しする事が可能で、サンフランシスコ空港のガレージにも設置。
また、以前よりGoogleやFacebookなどのシリコンバレーの企業でもこぞって従業員駐車場に複数のチャージステーションを設置している。
それに伴い、ユーザーからのEV車への人気も上がってきているようだ。その証拠に、Teslaの最新車両のModel 3は予約の時点で40万台を超える予約を獲得した。
北米のEVユーザーは未だ1%程度であるが、今後それも大きく変わる可能性を秘めている。
また、ユーザー視点から見ると、ガソリンエンジンとEVでは運転する際のエクスペリエンスはそこまで大きく異ならない。しかし、自動車の内側は全く異なる。
ガソリン車とEVでは、構成するパーツの量と種類が大幅に違う。EV車両はエンジンが無いだけではなく、それを取り巻くトランスミッション、ラジエター、エキゾーストなどのパーツが必要なくなる。
それにより自動車メーカーだけではなく、関連する供給業者のビジネスにも大きなインパクトを与える。
その点では実は既存の自動車メーカーよりも、TeslaやGoogle, Appleなどの新鋭企業の方が有利である。何故なら、既存のテクノロジーに関する従業員のトレーニングや下請け業者の整理が必要ない分、速いスピードで動く事が可能になるからだ。
今後は既存の自動車メーカーとそれを取り巻く企業を含めた業界全体としてのシフトが必要になってくるだろう。
自動車業界に与える変化3: 自動運転
そして最も注目を集めているのが自動運転技術。Google Carの出現で一気に知名度が上がり、Teslaがオートパイロットを実装、先日Uberが初めて自動車装備の車両をデビューさせた。もちろん、各自動車メーカーも外部のテクノロジー企業との取り組みを開始ししている。
もし自動運転が一般的に利用され始めたとしたら、自動車業界にとっては、100年前の自動車発明以来最大の革命になる。自動運転を実現するにはソフトウェアとセンサー技術の発展が必須になる。その点においてもAppleやGoogle, そしてTeslaといったシリコンバレーのテクノロジー企業に一律の兆がある。
自動運転はソフトウェアが制御することから、ソフトウェアの精度が上がれば自ずとその普及率もアップする。Fordは5年後の2021年までにハンドルの無い車を発売する事を発表した事からも、自動運転の波は確実に近づいている。
その一方で、完全に自動運転”のみ”の車両が販売される事は想像しにくく、Teslaのオートパイロットのような、広い直線で利用する”自動運転モード”が実装されている車両が今後増えて行く可能性の方が現実的だ。そして,その精度が実装ソフトウェアのアップデートによって改善されるだろう。
また、自動運転のテクノロジーから最もメリットを得られるのは個人ユーザーではなく、商業車両である。例えばUberが自動運転車両を導入する事でドライバーに支払う費用が無くなり、利益率が自動的に30%アップする。
また、大陸を横断するような長距離トラックも内陸部分の移動だけを自動運転にすれば、生身のドライバーが必要なのは都心部だけになるため、大幅なコストカットが可能になり、利益率を上げる事が可能になる。
このトレンドとニーズに対し,当然の事ながら既存の自動車メーカーは関連テクノロジー企業やスタートアップとの競業なくして対応する事が難しい。冒頭の取り組みがクリアにそれを物語っている。
これら全てが示すのは、自動車産業に対して近い将来大きな変革が待ち受けているという事実。しかし上記のような変化は一気にには訪れない。それぞれが少しずつ進化し、自動車業界に少しずつ影響を与え、最終的には大きなインパクトを生み出すだろう。
まとめ: 複数のトレンドが長期的にボディーブローの様に利いてくる
上記の3つに代表される複数の変化は順番にではなく、同時多発に進む。当然の事ではあるが、自動車メーカーもそれらの複数の変化に対して同時に対応しなければ時代においていかれる。大企業としてのフォーカスを定める事が非常に重要になってくる。
そして、既存の 「車を作る」 > 「売る」だけのビジネスモデルは終わりを迎え始めている事でもある。同時に既存の自動車メーカーにとっては、スキル、人材、組織、そしてビジネスモデルを速いスピードで構築する必要性がある。
巨大産業であるが故にその課題も膨大で、プロダクトからサービスへの大きな変革と、組織構造の変革、そしてそこで働く人々のマインドセットの変化が必須となる事は間違いないだろう。
変化に順応出来ない種族は滅びる以外に道は無い (Adopt or Die)
– チャールズ・ダーウィン
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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