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日本のデザイナーに送る、これからの時代の「デザイン」が与える12のインパクト
ここ数年であまりにも多くの事柄が起きており、人々の生活、働き方、価値観もが大きく変化している。そこには新しい課題が生まれ、それを解決するためのソリューションが速いスピードで求められる。
デザインが問題解決に対する最適な方法を見つけるための手段であるならば、この時代がデザイナーに与える影響も少なくはない。
これからの時代にデザイナーやデザイン会社、そして社会全体に求められるデザインに関するインパクトを考えてみた。
- 企業価値にデザイン力が大きく影響する
- 経営層にもデザイナーが参加し始める
- より広い視野でデザインを行わなければならない
- 他のスタッフの視点からものづくりを考えなければならない
- 行動心理学の理解が重要なデザインスキルになる
- ユーザー視点はお客様第一ではないことを理解する
- 人工知能 (AI) と仲良くデザイン作業を行う時代が近づいている
- デザイナーはデータを理解し活用しなければならない
- スクリーン以外のユーザーインターフェースをデザインする時代
- よりコミュニケーションスキルが重要になってくる
- キャリアアップにはスキルアップとスキルチェンジの両方が必要になる
- グローバルに活躍できないデザイナーは頭打ちになる
一つの時代の節目ともなる2020年。これからデザイナーの役割とそれを取り巻く環境の変化に関して、我々ビートラックスが信じているデザイナーの未来をご紹介したい。
1. 企業価値にデザイン力が大きく影響する
世界的に見ても企業価値が高い企業には一つの共通点がある。
それは、デザインをとても重要視している点。特にUXやCXデザインと言ったユーザーの直接のタッチポイントになるエリアに対する投資が非常に大きい。
スタートアップ企業の将来的価値を計る際にもデザインに関する知識やスタッフの能力、設備等の要素が評価の基準となるだろう。
一部のシリコンバレーのVCではいち早くデザイン業界経験のある人材獲得を進めている。また、Google Venturesも、スタートアップの価値を判断するときや成長ステージにおいてもデザイン力を非常に重要視していることで知られている。
ということは、世界的な視野で見ると、今後デザイナーの需要はどんどん高まると考えられる。
2. 経営層にもデザイナーが参加し始める
デザインがビジネスに与える影響が大きくなるにつれてエクゼクティブチームにデザイナーを参加させている企業が増えてきている。
物事の捉え方や解釈の仕方、また判断を下すときなどにもデザイン的考察を入れることで結果に大きな差が生まれる。これは、変化のスピードがどんどん加速していく中でロジックだけでは説明のつかない状況がどんどん増えていくのが理由だ。
企業のトップも、言葉や数字だけでは説明しきれないけれど“どこか良いと思わせる”何かに気づくが一つの重要なスキルとなる。
これまでは、“センス”や“直感”などの言葉で認識されていたが、それこそがもしかしたらデザイン的な感覚ではないかと思う。判断に迷ったらデザイン理論的に優れた方を選べば間違いはない。
アメリカでは既にCDO (Chief Design Officer) や、CCO (Chief Creative Officer) などの役職のポジションも存在する。そう考えると、現在はデザイナーとして働いている人でもキャリアパスとして企業の役員や、場合によっては社長を目指すことも間違っていない選択なのかもしれない。
3. より広い視野でデザインを行わなければならない
最近は日本でも知名度が高まってきている「ダイバーシティー」という単語。「多様性」を意味するが、具体的にはどのような要素が含まれているのだろうか?
LGBTなどに代表される性別的な要素や人種はわかりやすい例であるが、それ以外にも複数のファクターが存在している。
世界中には様々なバックグラウンドを持つ人々がいるが、一つの場所で生活しているとどうしてもそれを忘れがちになる。特に日本国内に住む98%が「日本人」であることを考えると日本が相当ダイバーシティの低い国であるということになる。
日本と比べても実に多種多様な人種が集まっているアメリカでもまだまだ多くのデザインが画一的なデモグラフィーを中心に考えられており、マイノリティーと言われるユーザーを考慮していないケースが少なくない。
それを象徴するのがターゲットを性別と年齢だけで区切ってしまう手法。おそらくこの手法は日本国外へ出た瞬間に一瞬で通用しなくなる。
加えて、今後は日本にも海外からの移住者がどんどん増えていくことを考えると、日本企業も早い段階からダイバーシティーへの理解とインクルーシブデザインの採用を進めていく必要があるだろう。
4. 他のスタッフの視点からものづくりを考えなければならない
デザイン思考の基本はユーザー視点でものづくりを進めることであるが、デザイナー職の人たちはどうしてもデザイナー的視点に終始しがちなところがある。
デザインの役割が広がってきている現代においては仕事上で関わる人の幅も広がる。これまではデザインチーム内で仕事をしてきた人も、エンジニアやビジネス、場合によっては人事系の役割の人たちとのコラボレーションも増えてくるだろう。
そうなった際に相手の気持ちを理解するために、相手の仕事内容に加え、技術面も多少は身につけておくとコミュニケーションが非常にスムーズに進む。
例えば、デザイナーとエンジニアは2つの異なる職業とされて来た。しかし、テクノロジーが進むにつれエンジニアの経験やバックグラウンドを持つデザイナーは非常に重要な人材となるだろう。
逆にデザイナーからエンジニアに転身することも珍しくはない。この2つの職業の境界線はどんどんなくなり始めている。今後は、僕はエンジニアだから…, 私はデザイナーだから… などの言い訳は出来なくなる。
5. 行動心理学の理解が重要なデザインスキルになる
User Centered Design (ユーザー中心のデザイン) を行う歳には、利用する人の目的を最も正しい方法で達成するためのデザインが必要とされる。その目的を果たすために利用時のユーザーの心理を捉え、理解し、それに対して最適な施策を打ち出す必要がある。
例えばUXデザイナーでデザイン科卒ではなく心理学や人間工学、人類学を学んだ人も意外と多い。
逆に考えると、これまではデザインだけを学んで来た人も今後は上記のようなその他の幅広い学問の知識も必要とされるということだ。人間という生き物をより理解することでより最適なデザインを作り出せるようになる。
そういった意味では、脳科学を学ぶことで人間の脳がどのようなデザインにどう反応するかを理解することが出来たりもする。
6. ユーザー視点はお客様第一ではないことを理解する
日本で古くから商習慣として根付いている「お客様第一主義」は素晴らしい。しかし、そこからはなぜか世の中を驚かせるようなソリューションが生まれにくい。おそらくその理由は、お客様第一主義とユーザー中心デザイン (UCD) が似て非なるものだからだろう。
ビジネスやプロダクトデザインにおいて、お客様の声を最優先することは一見当たり前のように感じる。
しかし、お客様の声をそのまま商品に反映するのと、その潜在ニーズをより深く理解し、顧客の想像を超えるレベルのプロダクト作り出すのとでは、結果に大きな差が生まれる。
少し前に話題になった「ここがちゃうねんデザイン思考」にも紹介されている通り、ユーザー視点で物事を考えることは、顧客の言うことをすべてやることではない。
7. 人工知能 (AI) と仲良くデザイン作業を行う時代が近づいている
ユーザーにとって最適な見た目のデザインや体験を、システムが自動的に生成することも理論的に不可能ではない。そうなってくるとデザイナーの仕事は無くなってしまうのか?いや、むしろ、そのAIを最大限活用することこそがデザイナーの仕事になってくる。
ジェネレーティブAIなどのシステムが得意とするところと、人間が得意な部分を掛け合わせシステムにもより良いクリエイティブ作成を教えることによって、最も効率的で効果的なデザインを行うのがデザイナーの仕事だ。まさに人と機械のハーモニーがゴールの仕事である。
機械に仕事が奪われるのではないか?と危惧する声もあるが、0から1を作り出すこと、これは機械には出来ない。
AIは過去のデータを元に未来を予測することは出来るが、全く新しいものを作り出すのは人間にしか出来ない。デザイナーやエンジニア等のクリエイティブな仕事はこれからもどんどん必要とされていく一方であろう。
8. デザイナーはデータを理解し活用しなければならない
デザイナーが感覚やデザイン理論だけをベースに仕事を行う時代は終わるだろう。何が本当に正しいデザインかの判断をある程度データから読み取る必要がある。そして、常にデータを分析しながらデザインの改善を行う。
それぞれの目的に沿った正しいデザインを行うためにはデータありきで仕事をしなければならない。特に、ユーザビリティやユーザーエクスペリエンスなど、利用するユーザーありきのデザインの結果はデータが全てである。
ユーザーとテクノロジーをつなぐのがデザイナーの仕事だとしたら、データをビジュアル化する役割としてのでデザイナーの存在価値がどんどん高まっていくだろう。
では、急激なスピードで増え続けている膨大なデータを今後どのように活用していけば良いのか。この課題を抱えていない企業は恐らくないだろう。
得られた数字を元にデザインを柔軟に変更し改善を進めて行くことが重要になっていく。これからはデザイナーとデータサイエンティストという、一見関係の薄そうな2つの職業が密接に関連してくるだろう。
9. スクリーン以外のユーザーインターフェースをデザインする時代
デザインが必要とされるデバイスの種類がどんどん広がっている。これまでは“紙かスクリーンか?”の2択だったアウトプット媒体も、AR/VR、ジェスチャー、ボイスコマンド、そして脳波まで様々なインターフェースを通じてユーザーとの対話が行われ始めている。
そんな中で、全く新しいジャンルのデザイナーの必要性が高まってきている。
例えば、例えばリアルタイムで生成される3Dオブジェクトの表示方法や、人工知能 (AI) をベースとしたシステムを活用してVR環境内を動き回るアバターキャラクターのデザインなど、これまでには存在していなかったタイプのスキルが必要とされる。
また、感染を減らすための非接触インターフェイスのデザインや、リアルな画像/動画とバーチャルオブジェクトを組み合わせた形のいわゆるAR型インターフェースのデザインの出現も予想される。そこにはPCやスマホなどの既存のデバイスとは別次元の操作性とユーザー体験の設計が求められる。
目に見えない動きやインタラクションをデザインするには、新たな表現方法が必要とされてくる。
10. よりコミュニケーションスキルが重要になってくる
デザイナーと言うと、絵を描いて形だけを決める仕事だと勘違いしている人が多いのだが、実はそれらは最終アウトプットのごく一部。
本来デザイナーの仕事というのは、与えられた制限の中で求められる最大限の結果を生み出すプロセスのその全てに関わる職業である。
デザイナーは絵を描ければ良いというわけではない。プレゼンテーションの能力も必要だし、いろいろな専門家と自在に意見の交換が出来る優れたコミュニケーション能力も重要なスキルとなる。
むしろデザインの世界ではコミュニケーションは大きなカギを握っている。デザイナーの仕事のうち3分の2はコミュニケーションであると言っても過言ではない。
デザイナーの仕事の最初の3分の1が正しい人を探してその人から正しい情報を引き出すことで、次の3分の1が実際のデザイン作業。
そして最後の3分の1が出来たものの情報を正しい人に正しく伝えることだ。この行程を経て、はじめてきちんとしたデザインが作り上げられる。
つまり、最初と最後の3分の1がコミュニケーション能力にかかっている。“黙っていても良い物を作れば売れる”という時代は終わり、作ったものの見せ方や伝え方と言ったマーケティング、プロモーション、プレゼンテーションの部分もデザイナーが考える必要がある。
現代のデザイナーには、全体を理解し、たくさんの情報を整理しながら重要なことをピックアップし、ビジュアル化を通して最適なコミュニケーションを行う能力が必要とされる。
11. キャリアアップにはスキルアップとスキルチェンジの両方が必要になる
世界的に見てグラフィックデザイナーよりもUIやUXを設計するデザイナーの需要が高まってきている。給与水準にもそれが反映されている。これに合わせ多くのデザイナーが新しいスキルの習得を行っている。
世の中の急激な変化に対応するには学校でデザインを学ぶだけでは足りなくなって来ている。デザイン学校やデザイン科を卒業しただけではプロの世界では十分ではない時代である。もちろん基本的なデザインの知識はとても重要である。
それに加え、新しいメディアやデバイスなどに即座に対応出来る様に経験豊富なデザイナーでも常に新しい手法を学び続けることが必要とされる。
そしてキャリアアップを目指すにはスキルアップに加えスキルチェンジも必要とされてくるだろう。今までデザイナーとしてコツコツと身につけてつたスキルが時代の変化に合わなくなり、経験の少ない若手の方が適切なスキルを身につけている。
今までのスキルの向上だけでは間に合わない。新しいスキルにいちから“変換”する必要がある。なぜなら、これからデザイナーに求められる能力は、現在保持しているスキルの延長線上にはない可能性が高いから。
デザイナーという仕事はテクノロジーと世の中の流れに合わせて、常に新たな技術を磨き続けなければならない。デザイナーには常に学び続ける姿勢と大きな変化に柔軟に対応できるマインドセットが必要になるだろう。
12. グローバルに活躍できないデザイナーは頭打ちになる
統計的に見ると、実は日本でのデザイナーの地位の悪さは世界的に見ても異質である。待遇も地位も、世界水準と比べるとかなり低い。
日本では今だに多くの企業が経営にデザインを導入できてなく、経営側がデザインをビジネスに活用し、お金に変換する術を身につけていない。そうなると、デザイナーの地位がないがしろにされてしまいがちなのであろう。
ビジネスにおいてデザインの重要性を理解していない場合、企業の中でのデザイナーの立ち位置が非常に難しくなる。デザインチームが存在していないどころか、デザイン作業を他の業務と一緒に“片手間”で行っているケースすらある。
そうなると、キャリア的に考えてもデザイナーが経営の根幹に関わることは難しく、結果的にデザインバックグランドを持つスタッフが組織において重要なポストにつきにくくなる。
そもそも、国内向けの仕事しかしていないデザイナーがキャリアップを望むのが難しいのは当然。なぜなら、世界で日本語を話す人口は2%に満たないから。
もし関わっているプロダクトやサービスが日本国内向けに限定している場合は、どんなに頑張ってもこれを超えるシェアを取ることは不可能なのだ。日本国内シェア100%は世界でのシェアの2%にすら到達しない。
言い換えると、デザイナー達がどんなに頑張ってプロダクトづくりをしたり経営にデザイン思考を導入したところでそのビジネスが国内専用なのであれば、作り上げたデザインを使う人は世界の2%もいないのだ。
そんな小さなフィールドだけで活動するのはあまりにももったいないと思う。
まとめ: これまで以上にデザイナーが求められる時代へ
世の中に新しい課題が生み出された時に最も注目されるのが新しいテクノロジー。もちろんテクノロジーで解決できる事柄もあるが、新しい技術が継続的に世の中に受け入れられるかどうかはデザインが担う部分が非常に大きい。
同じ技術があったとしても定着するかどうかはその使いやすさだったり、ユーザーを楽しませるための仕掛けだったりする。その演出の中心にいるのがデザイナーである。
今年の様な時代の大きな変革期には世界を正しい方向に導くことのできるデザイナーがとても重要な役割を果たしていくだろう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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