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デザインとアートの違い: 問題解決と自己表現
デザインとアートは何が違うのか?いまさらこんなシンプルで基本的な質問に対しての答えを考えてみたい。
というのも、先日クライアント向けにデザイン思考に関しての社内セミナーを開催させていただき、そこでそもそもなぜ “デザイン”思考と呼ばれているのか、を考えてみたことがきっかけで、一度デザインとは、そしてアートとは何が違うのかをまとめてみたいと思っていた。
アートは自己表現、デザインは問題解決
デザインとアートの違いの問いに対して最も端的な答えは、アートは自己表現で、デザインは問題解決であろう。もう少し長めに書くのであれば、
アートは、なるべく制限のない状態で最大限の自己表現をすること。デザインは、与えられた制限の中で求められる最大の結果を出すためのプロセスだと考えられる。
その点においてアートとデザインは対極にあるぐらい異なるのであるが、両方とも同じ“ビジュアルを作り出す”ということから、混合するケースが後を絶たない。自己表現と問題解決、ビジュアルというメソッドが同じでも、その目的は大きく異なる。
したがって、最初のデザイン思考がそのように呼ばれる理由も、効率的な問題解決の方法としての“デザイン”の役割、及び”デザイナー”の考え方やプロセスを活用した方法論であるからである。
以前に大きな反響があった記事、「米国のデザイン教育から学んだこと」では、デザインとアートの違いについて下記のように表現されている。
Why?をBecauseで説明出来なければ、それは明らかにデザインではない
ここでも分かる通り、デザインはいたってロジカルであり、すべてのアウトプットに具体的な意味を持たせる必要がある。アートでは“なんとなく”の表現がアリとされるが、デザイナーは“なぜ”が説明できないと仕事にならない。
デザイナーとアーティストの仕事内容は大きく異なる
デザインとアートには大きな違いがあるように、デザイナーとアーティストの仕事内容も大きく異なる。しかし、特にこれは日本国内で多いケースなのだが、本来はアーティストである人がデザイナーをしているケースや、本来はデザイナーがするべきでは無い仕事をデザイナーが行なっているケースがある。
例えば、美大で絵画やイラストを学び、その後“デザイナー”という肩書きで実際はイラストを描くことをメインの仕事をしたり、Photoshopを使った単純作業の連続などがそれに当たる。
以前に、Goodpatchの土屋君とのポッドキャストでも話した内容で、「日本でのデザイナーの多くが実際の仕事内容はイラストレーターやPhotoshopオペレーターである」というもの。これは業界の構造や広義のデザインを学べる場所が非常に少ないことが起因していると思われるが、少し残念な状況でもあるだろう。
デザインの主な役割
では、具体的にデザインにはどのような役割があるのか。また極端にベーシックな質問であるが、あえて考えてみたい。そして、本当にものすごくざっくり分けると下記の3つが挙げられると思う。
コミュニケーションとしてのデザイン
まずデザインの最も普遍的で重要な役割として、物事を伝えるがある。企業から消費者へのメッセージとしての広告やロゴ、顧客との約束をコミュニケートするためのブランドデザイン、最近であれば、よりスムーズなインタラクションを通じてプロダクトの良さを伝えるUIデザインやUXデザインなど、提供側と受ける側との接点をより効率的に設計するためのデザインの役割は大きい。
ビジネスに対してのデザイン
デザイン思考も該当するのが、ビジネスの結果を生み出すためのデザイン。見た目の美しさだけではなく、プロダクトや組織、そして経営戦略に到るまで、ビジネスの全領域に対してデザイン的側面からプロセスとアウトプットの改善を行うのが役割。
英語で表現するところの大文字のDESIGNは、広義でのデザインで、ユーザー視点から物事を徹底的に検証し、最適な方法を見つけ出す。
そしてデザイナーの最終的なゴールも会社の売り上げアップや利益の向上、作業効率化を通じたコストの削減、顧客満足度の向上、スタッフの愛社精神アップなど、多岐にわたり、その重要性もかなり高くなる。
ユーザーに対してのデザイン
そして、今の時代に最も重要なのが、使いやすさであるユーザビリティを高め、ユーザーを正しい方向に導くことで最適な体験を届けるためのデザイン。
一般的にはユーザーエクスペリエンスデザインや、カスタマーエクスペリエンスデザインなどの表現で表されるが、これはWebやモバイルなどのデジタルのだけではなく、物理的なプロダクト、建物の設計や、サイネージ、都市設計に到るまで、使う人に対して最も最適な体験を提供することを目的にデザインを創り出すのが役割となる。
なぜデザインは優れている方が良いのか
では、なぜそもそも優れたデザインが必要とされるのであろうか。まためっちゃ基本すぎる質問であるが、意外と答えられる人は少ない気がする。
1. 売り上げが上がる
見た目が美しい方が売れる。使いやすい方が売れる。美しいプロダクトと、優れた広告で消費者を惹きつけヒット製品を生み出しやすいし。単純なロジックであるが、デザインがもつ普遍的な価値である。
2. 時間の短縮になる
デザインの力を活用し、ユーザーを正しい方向に導く事で使いにくいものよりも利用する際に時間の短縮に繋がる。
3. コストの削減につながる
余計な要素が少なく、効率的なプロセスを見つけることができれば最短距離でのものづくりや無駄な素材が必要となくなり、最終的なコストが下げられる。
4. 長持ちする
優れたデザインを施されたモノはその寿命が長い。ユーザーに大切に扱われるし、普遍的な価値を生み出すことができれば、長い年月にわたって利用される。
5. イノベーションを生み出す
優れたデザインはイノベーションのための不可欠要素である。たとえ大きな技術革新がなくても、既存のテクノロジーを上手に組み合わせたり、デザインを改善することで生み出されたイノベーションは少なくない。
関連記事: イノベーションにおけるデザインの役割 – Design for Innovation 2016 参加レポート
アートの主な役割
では、アートの役割とは何であるか。それはおそらく見る人の心を動かし、豊かにすること。そしてその人の考えや行動、場合によっては人生に大きな影響を与えることであろう。
ロジックよりも感情に訴えることで、アーティストが伝えるべき感覚を音楽や絵画などの媒体を通じ、相手に響かせる。それこそがアートの役割である。
デザインとアートのクロスオーバーも実は多い
ではアートの役割が相手の心を揺さぶることであれば、それをデザインに活用することは可能であるのか?答えは絶対的なYesであり、とても重要な役割でもある。
その点においては、デザインにアートを取り込んだり、アートからの影響を受けたデザイン的技法も非常に多い。
例えば、最近ではデジタル媒体で目にすることの多いグリッド型のUIやフラットデザインは、19世紀末-20世紀のオランダ出身の画家、モンドリアンの作風からの影響が大きい。
また、逆に昔はアーティストとして活動していた画家が、その仕事内容を考えると実はデザイナーであるケースもある。
ムーランルージュ時代のフランスの絵描きのルートレックや、浮世絵の喜多川歌麿なども、その作品の多くが商業的な広告やポスターでとして活用されていたことから、現代で言うところのデザイナー的仕事をしていた。
ピカソはアーティストかデザイナーか?
最も有名なアーティストの一人としてピカソが挙げられるが、キュービズムに代表されるような彼の活動後期の作品などはその内容を今見て見ると、実にデザイナーっぽい。
同じくマティスが描いたポスターも、現代的に見るとデザイナー的作風に感じられる。そして、ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルに至っては、すでにそこにアートとデザインの境界線は存在しなくなってくる。
優れたデザインはアートの域に達する
せっかく冒頭でデザインとアートの違いをはっきりと示したのにもかかわらず、ここにきてまたややこしくなってしまった。アートは自己表現、デザインは問題解決、であるのに、両方が混在しているようなケースも少なくはない。
むしろ、優れたデザイナーはアートの力も活用し、デザインとアートの間を縦横無尽に行き来し、最適なプロセスやアウトプットを生み出しているように感じる。
例えば、Appleのデザインチーフであるジョナサン・アイブなんかは、King of Designerであるが、彼がデザインした初代iMacなんかを見てみると、優れた機能性を持ち合わせた歴史的アート作品にも見える。
優れた広告には芸術的要素が不可欠であるし、フェラーリなどを手がけるピニンファリーナの作り出すデザインは、まるで中世の彫刻を彷彿とさせる。
問題解決の中の自己表現、人の心を揺さぶりビジネス的価値も生み出す。もしかしたらこれが最上級のデザインなのかもしれない。
Design is not just what it looks like and feels like. Design is how it works.
(デザインの役割はどう見えるか、感じるか以上にどう動くかである。)
– Steve Jobs
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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