デザイン会社 btrax > Freshtrax > デザインがビジネスに与える影響...
デザインがビジネスに与える影響 〜収益週200だったのAirbnbが急成長した秘訣とは〜
ここ数年で”デザイン思考”や”デザイン的プロセス”といった言葉を度々聞くようになったように思える。
しかしながら、実際にデザイン思考をビジネスに取り入れ、上手く活用出来ている企業はまだまだ少ないのではないだろうか。
そもそもデザイン思考とはWikipediaの定義によると、
“デザイン思考とは不明確な問題を調査し、情報を取得し、知識を分析し、設計や計画の分野でソリューションを選定するための方法およびプロセスを指す。”
と書かれていることもあれば、
“デザイン思考(Design Thinking)とは、人間中心デザインに基いたイノベーションを起こすための、主として非デザイナーを対象とした発想法である。”
と書かれていることもあるなど、書いている本人もよく分かっていない可能性が高い、極めて抽象的な概念である。そこで、デザイナーによって創業されたAirbnbでどのようにデザインがビジネスに影響を与えてきたのかを振り返りながら、デザイン思考について考えてみたい。
デザイン思考を活用して成長したAirbnbの例
世界中の人と部屋を貸し借りできるサービス
Airbnbとは世界中の人と部屋の貸し借りが出来るコミュニティー・マーケットプレイス。安く手軽に、現地の人の家に泊ることが出来る画期的なサービスとして、アメリカ国内だけでなく世界中で人気のサービス。
家のスペースをシェアするこのサービスをきっかけに、様々なシェアリングサービスが生まれてきており、新たなトレンドの火付け役でもある。
ちなみに、Airbnbのファウンダーはbtraxと仲がよくJapanNightやSOY TRIPなど様々なイベントで一緒に講演で登壇もしている。そして両社の共通点はビジネスにおけるデザインの重要性を認識していること。
Airbnb初期の状況
今では世界中で名の知れる企業となったAirbnbであるが、数年前までは誰も名前すら知らないどころか、実は成長度0で倒産直前に近いサービスであった。当時の状況は、世界級のサービスを展開している今では考えられない、真逆の状態。簡単に当時の状況を説明すると、
- 2009年当時のAirbnbは会社の収益は週200ドル
- 創業者メンバーはサンフランシスコの狭い1室を3人でシェアしてなんとか生活
- 贅沢をするどころか、生活費すらまともに稼げない
- 急激に変化しながら成長していくという投資家の理想とする成長とは真逆の成長線を辿る
- 成長率はほぼ0どころかマイナス
- 街中見渡しても、誰もairbnbのことを知らない
- ホストへのお金の支払いまでに3週間かかり、ホストを怒らせる
- 5回ローンチしていて、そのうち4回は失敗
そんな最悪な状況を打破していった裏にはAirbnbのメンバーたちが大切にしているデザイン的考え方にある。
1. “スケールしないことをやってみろ”
きっかけはとある日常の会話から
ある日、創業者メンバー3人と、Y combinatorのPaulで、当時のニューヨークの物件40件ほどを見ながら、なぜAirbnbが使われるようにならないのか会話をしていたときのこと。突然、とある重要な共通点に気がついた。
それは「どの家の写真もださすぎること」。全くもって良い写真を掲載している物件がない。いくら魅力的な家に安く泊れるサービスを提供していたとしても、それがユーザーに対して見える形で届いていなければ、ユーザーは何にお金を払っているのかわからない。気づいた課題はそんな根本的なことだった。
データよりも先に行動すること
写真が魅力的でないことが本当に問題であるか、データを用いて検証するよりも先に気づいた瞬間に次のニューヨーク行きの航空券を全員分購入。そしてその1週間後にはチームメンバー全員でサンフランシスコからニューヨークに向かっていた。
たった40件ならば写真を全てきれいに撮ってあげて、差し替えようと考えたのだ。たしかに、手作業で写真を差し替えていく作業は、ある都市で改善出来ても他の国や都市に簡単に応用出来るわけではないという大きな問題点を抱えていた。
しかし、スケールできない、とか、データがどうこう言うよりもまずやってみようと考えたのだ。そしてニューヨークの物件として掲載されている40件全てのホストの家に実際に出向いた。そこで高性能のカメラを用いて、元々デザイナーだったファウンダーが綺麗な写真を彼らの為に撮りウェブ上で差し替えていった。
結果はどうだろう?実はそのときまでの8ヶ月間会社は全く成長していなかった。毎週の売り上げはたった200ドルぽっきり。200ドルを下回ることはたまにあっても、大きく超えることは一度もなかったという。そんな売り上げが一週間でいきなり2倍になった。
この1つの出来事がきっかけとなり、コードだけで全ての問題を解決出来るわけではないと気がついた。たしかにコンピューターの力は強力であり、ソフトウェアだけで多くのことが解決できるように思えるが、実際は一部に限定されている。
シリコンバレーの起業家たちは優秀であるが故に、常にコードで何もかも解決しようとしがちであり、それが彼らにとっても快適な方法でもあるかもしれない。しかしそれだけに捉われず、スケールしないことでもやってみることが大事である。
2. デザインはどう見えるかではなく、どう機能するかが最も重要
良いデザインの裏には、なぜそのデザインなのかというストーリーが存在する。逆にただ見た目が良いだけのデザインに価値はあまりないのかもしれない。そしてそれ故に、デザイナーにはデザインの裏に潜むストーリーを語る力が必要不可欠である。
そうすることで初めてデザインの価値や機能の特性を、デザイナーでない人と共有し、コミュニケーションを取ることが出来るからだ。
1つ例をあげると、Airbnbでは新入社員に対してどこか小さいところでも良いのでサービスを改善するためのアイディアを提案させることを推奨するカルチャーを持っていた。
するとある日、一人の新しいメンバーが自信満々にアイディアを持ってきた。
Airbnbの機能の1つに、泊りたい物件があったとき、ユーザーが星のマークをクリックするとWish Listというお気に入りに追加することが出来る機能があるのだが、彼はその星マークをハートマークに変えたいと言い出したのだ。
その理由は、星マークというのは実用性が高いことから選ばれているようだが、Airbnbは何かもっと人々を熱望させるようなサービスであり、そのお気に入り登録機能のアイコンにはハートの方がふさわしいから。なんとなくのイメージや実用性だけで星マークにしておくのは惜しくいという。
Gebbiaを中心とするデザインチームは、わかった、それならやってみようと言って実際に実装してみたところ、星をハートに変えるというちょっとしたデザインの変更が、ユーザーのエンゲージメントを30%も増加させたのだ。
色合いや細かなデザインは変わってしまったが、ハートのアイコンはその当時から数年たった今でも残っている。
3. ユーザーのためにデザインする
誰の為にプロダクトを作っているのだろうと考えるとユーザーのためにデザインする重要性に気づかされる。それゆえ、実際に顧客に会い、ユーザーが抱える課題をはっきりさせ、確かな解決策を見つけ出すというプロセスが生まれる。
Airbnbの創業メンバー達はほとんどお金がないにも関わらず、初期にターゲットとしていたニューヨークのユーザーに直接会いにいくために計4回もNYに出向いている。
また、ユーザーの声を実際に聞くのと同じくらいまたはそれ以上に重要なことは自分がユーザーになってみること。実際に使ってみないと分からないことは思っているよりも本当に多い。
自分が作っているのだから全部わかっていると思いがちだが、使ってみることで初めて、普段ユーザーが不満に思っている点やさらに改善出来そうな点など気づきが得られる。
世界190カ国にサービスを展開するAirbnbでは新しく入った社員全員が入社1週目か2週目にAirbnbを利用して旅行に行き、サービスを実際に体験してもらう文化を持っていた。
そして帰ってきたらフィードバックを貰い、改善点をあげてもらい、プロダクトをグロースさせる。ちなみに、かかる費用は全てAirbnb持ち。
今では、最終的な意思決定はデータに基づき行っているAirbnbであるが、データに振り回されていないことが特徴。
まずクリエイティブな仮説から思考を開始し、その仮説に基づくデザインや機能を実際に実装してみてそのデータを分析そして最後にそれがどれだけビジネス的にインパクトをもたらしたのかを計測する、このプロセスの繰り返しである。
たったこれだけと思われるかもしれないが、実は10%のグロースを100回行うと13780倍になる。小さなグロースの繰り返しが、世界中から使われるサービスに繋がった。
これからはデザインの時代
デザインと言うと、ああデザイナーの話でしょ、と言われる事が多々あるが、デザインとはビジネスに関わる全ての人にとって重要な考え方である。実際、特にアメリカや欧州では社内の全てのプロセスに”デザイン的思考”を取り込み、大きな成功を成し遂げている企業が増えている。Airbnbもその一例。
ではなぜ重要か?
世の中に情報が溢れていると言われる現代社会では、プロダクトの価値がユーザーに対して短時間で分かりやすく伝わることは非常に魅力的なポイントである。
逆に、どんなに機能が優れていてもその良さがユーザーに正しく伝わらないプロダクトの価値は決して高くない。
それどころか、最後まで良さや特徴が理解されずにユーザー側から見ると自己満足のような形で終わってしまう恐れすらある。特に、市場が海外である場合は特に注意が必要。日本国内とは明らかに違った文化を有するユーザーに対して、正しいアプローチでその価値を伝える必要がある。
そんなときに国内、海外問わず、サービスのグロースにおいて鍵を握るのは、デザイン的プロセス。今現在の問題や解決案から思考を開始し、最終的にはプロダクトが最も伝えたいユーザーメリットを最大限引き出すことを目的とする。
そのプロセスでは、A/Bテストやデータ分析を行う前に、ユーザーと直接コミュニケーションを取り、ときには自分がユーザーになってみる必要がある。
そうすることでターゲットとする層のニーズ、本当に解決するべき課題を明らかにし、最も重要なゴールへ向けて寄り道を最小限に留め、出来るだけ最短距離で向かう事が出来る。