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【改めて基本を解説】デザイナーの役割とその仕事内容とは
ファッションから、グラフィック、Web, 建築、UXまで、さまざまな異なる職種のデザイナーが存在する。
実際の仕事内容はそれぞれのフィールドによって異なるが、”デザイナー”という人達の仕事は根本的には共通してる点が多い。
その一方で、デザイナーに対しての世の中の一般的なイメージはかなり現実と異なる事も少なくは無い。
そんなデザイナーと呼ばれる人達の本当の仕事、求められるスキル、そして日米でのデザイナーを取り巻く環境はどのように異なるかを考えてみたい。
デザイナーは絵を描く以上の仕事
デザイナーというと、絵を描いて形だけを決める仕事だと勘違いしている人が多いのだが、実はそれらは最終アウトプットのごく一部であり、本来デザイナーの仕事というのは、与えられた制限の中で、求められる最大限の結果を生み出すプロセスのその全てに関わる職業である。
その仕事の中には、ターゲット層の設定や、どのように売るか、そしてどのくらいの値段に設定するかなどの全体のコンセプトを決めるのも含まれる。
もちろん絵も描くが、絵は開発の手段として存在するのであって、それだけがデザイナーの仕事ではない。この辺が、出来るだけ制限の無い環境で自由に自己表現をするアーティストとの大きな違いになる。
一方で,そういう役割を果たすデザイナーが全ての事について専門家である必要は無い。エンジニアやマーケッターなど、それぞれの専門家から大事な情報だけを受け取って、大まかな筋道を決めるゼネラリストである必要もある。
場合によっては、デザイナーvsエンジニアという対立が思い浮かぶ人もいるが、現実は全く異なっていて、デザイナーは誰かと対立する存在ではなく、物事の優先順位を決める船頭のような役割である。
なぜそれがデザイナーの仕事になっているかというと、”絵を描く”という事に関係がある。
人間という生物はビジュアルな感覚を重要視しているため、いくら情報が寄せられていても数値で示されていたり、言葉だけで表現されていたりするとなかなか理解するのが難しい。絵に描いてみせないと直感的な判断が下せないからだ。
例えばWebページ一つとっても「横幅はミニマム800pxの可変、色は青をベースにしたトーンでシャープなイメージ」と言われてもいまいちピントこない。
その代わりに決定した情報をビジュアル化したラフデザインを見せるだけで、即座に理解する事が可能になる。場合によっては、数字を出して来た当事者でさえ絵を見てようやく実感する事がよくある。
多くの情報や前提条件が積み上げられた企画書が、最初に一元化するのがデザインプロセス。その為に、チーフデザイナーが、情報を交通整理する船頭の役割になっている。
デザイナーに求められる能力
そして、デザイナーは絵を描ければ良いというわけではないので、デザイナーを目指す人は、美大で絵の勉強だけをしているだけでは十分ではない。
プレゼンテーションの能力も必要だし、いろいろな専門家と自在に意見の交換が出来る優れたコミュニケーション能力も重要なスキルとなる。
かつては、美大を出て絵しか描けない人がデザイナーをやっていた時代もあったらしいが、現代のデザイナーには、全体を理解し、たくさんの情報を整理しながら、重要なことをピックアップし、ビジュアル化を通して最適なコミュニケーションを行う能力が必要とされる。
企業や組織によっては、それらの役割は、”ディレクター”や”プロデューサー”と呼ばれる役職の人々が担っているケースもあるが、基本的にはデザイナーにも求められる能力である事は間違いない。
加えて、どれが自分が下すべき決断であるかを判断する能力も重要である。
上司やクライアントの判断を仰がなければならない事を勝手に決めてしまえば、越権行為になるし、自分で決めるべき事をいちいち聞いていたら、無能だと思われてしまう。
デザイナーには客観性が重要
デザインはセンスで決まる、と考えている人が多いがデザインにおいてセンスというのは最後の方で違いが出る一部の要素でしかない。
デザインには主観的な部分と客観的な部分があって、主観的な部分の一つがセンスだが、それは最後に残った好き嫌いに影響するための一部のアウトプットでしかない。
その前には膨大な客観的要素、例えば機能性や用途に応じた適応性、価格、全体のイメージといった要素が複雑に絡み合い、絶妙なバランスで作り上げられるのが一つのデザインとなるのである。
もし好き嫌いだけでデザインができれば、こんなにも簡単な仕事は存在しないだろう。
しかし現実には、デザイナーのセンスが発揮出来るポイントに辿り着く前に必要とされる要素が非常に多く、それをこなすだけでも仕事全体の90%くらいを占める事になってしまう。
その一方で、主観的な部分はいらないのかと言えば、そうではなく、一流と超一流を隔てる大きな壁がデザインセンスである事も事実である。
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デザインとコミュニケーション
デザインの世界では、コミュニケーションは大きなカギを握っている。恐らくデザイナーの仕事のうち、3分の2はコミュニケーションであると言っても過言ではない。
デザイナーの仕事の最初の3分の1が、正しい人を探してその人から正しい情報を引き出す事で、次の3分の1が実際のデザイン作業。
そして最後の3分の1が出来たものの情報を正しい人に正しく伝える事。この行程を経て、はじめてきちんとしたデザインが作り上げられる。
つまり、最初と最後の3分の1ずつは、コミュニケーション能力にかかっている。”黙っていても良い物を作れば売れる”という時代は終わり、作ったものの見せ方や、伝え方と言ったマーケティング、プロモーション、プレゼンテーションの部分もデザイナーが考える必要がある。
デザイナーを取り巻く日米での環境の違い
こちらアメリカと日本を比べてみても、デザイナーの力量に大きな差があるとは思えない。むしろ細かなポイントに気がつく優秀なデザイナーが日本には多くいる。
しかし、実際に創り出されるデザインのクオリティーに関しては、世界レベルで見た場合、日本のデザインが多少なりとも見劣りする部分もあるのも事実。
これは、デザイナーの資質の差よりも、日本の企業の仕組がクリエイティブな仕事の邪魔をしているからではないかと考えられる。
理想的なデザインプロセスというのは、デザイナーの考えがプロダクトを作る際に、最初から最後まで一貫できる環境である。しかし、多くの日本企業の場合、組織を中心に考え、アイディアやプランを会議で議論する。
しかし、実は会議というものは出て来たアイディアを整理したり、より発展した考えを導くキーワードを探したりする場に過ぎない。仕事を並べてみんなで仕事をした気になっていても、クリエイティブな要素は出てこない。
優れたアイディアはそういう場ではなく、もっとリラックスしたところで湧いてくる。そのために、デザイナーはぞれぞれに自分なりのシステムや環境を元に、効率良くアイディアを出す必要がある。
例えば、リラックスしているとα波が出やすくなり、面白いアイディアが出て来たりする。特にこの辺、サンフランシスコやシリコンバレー地域の企業はそれをよく理解しており、クリエイティブなオフィス環境を整えていたりする。
一方で、個人より組織を優先しがちな日本では、個人としてのデザイナーのカラーを集団が打ち消してしまい、最終的なアウトプットが当初デザイナーが情熱を持って考えだしたコンセプトと大きくブレてしまう事も珍しくは無い。
日本にはとてもクリエイティブで良い仕事をするデザイナーが多くいても、個人の魅力や能力を組織のシステムが打ち消してしまっているのは非常にもったいない。
よりデザイナーの地位が向上し,社会や企業の中でも彼らの意思がもっと尊重される様になれば、ビジネス的にも非常に有益なプロダクト作成が可能になると思われる。
デザイナーという仕事の重要さ
これからは、クリエイティブな仕事というのは、決して特殊なものではなくなるだろう。今の時代、いろいろな職種がある中で、クリエイティブな仕事は至る所に存在する。
既存の常識からつくりあげられたシステムから少し離れたところで、リスクを負いながら冒険する。それがクリエイティブであると言う事であり、イノベーションを生み出す為の最も重要なファクターでもある。
そんな今までに存在していない新しいプロダクトを創り出す際に、僕たちデザイナーの仕事は、素人に対していかに分かりやすくプロダクトの魅力を伝え、正しい判断に導くかということである。
しかも、上司の判断や、消費者の購入ポイント等、判断の場には自分自身がいないケースも少なく無く、かなり難易度の高い仕事であるとも言えるだろう。
そして、一つのアウトプットの為に何千もの時間を費やし、その多くがボツになる事が決定されている。
それでも、世の中に対して大きなインパクトを生み出す為に、エネルギーを費やし続ける必要がある。デザイナーは実際に仕事をしている時間以外にも、常に新しいアイディアを取り入れるために、
日々感覚を研ぎすましておく必要がある。そういう意味では、僕たちは24時間仕事をしているワリに合わない仕事でもあるかもしれない。
でも、デザイナーでしか生み出せないものは多く、考えるだけでもワクワクする。それ故に、気高い職業でもあると信じている。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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