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もっと早く知っておきたかったVCのリアルな実態
スタートアップエコシステムを語る上で、絶対に外すことにできない存在。それがVCだろう。
VCとは、ベンチャーキャピタリストの略で、資金を集め、ファンドを作り、スタートアップに投資を行い、そこからリターンを獲得するのが主な仕事。どうしても、このVCという人たちの本来の役割が意外と知られていないことが多い。
起業家や起業家に憧れる人たちがVCに対して抱くキラキラなイメージと、実際の現場には大きなギャップがあると感じられる。
参考: なぜVCはいつも偉そうなのか
下記は、アメリカで連続起業家として活動しているAaron Dininによるポスト”What I Wish Someone Had Told Me About Venture Capitalists”を日本語にしたもの。彼の起業家としての学びの一つとして、VCとは、投資のゴール、そして彼らとの関わり方などがわかりやすく説明されている。
アメリカの起業家が学んだVCの実態
私はシリアルアントレプレナーであることもあり、起業してから最初の10年ぐらいはVCに対して大きな憧れを持っていた。
まるで有名人に対してするように、彼らのTwitterをフォローし、著名なVCが登壇するイベントに出席し、Andreesen、Sequoia、Benchmarkなどの著名VCとのミーティングを他の起業家に自慢したりした。
もちろん投資はしてくれなかったが、上記のようなVCとのミーティングに漕ぎ着けられただけで、自分の会社の存在価値が証明された気になっていた。
しかし、後に私はVCの目的を完全に勘違いしていたことに気づく。そしてそれが、長い間資金調達がうまくいかなかった原因にもなっていた。
「VCはロックスター」という勘違い
おそらくスタートアップとVCとの関係性について誤解している人は私だけではないと思う。ある意味、若い起業家は取り巻く環境で、VCをちゃんと理解するよりも、崇拝するように仕掛けられている。
テクノロジー系のメディアには資金調達に関する見出しが踊り、成功者として称える。
そして、スタートアップの価値を、世の中に対するインパクト (例: 1万人の子供の命を救った) よりも、評価額 (例: 巨大なユニコーン誕生) で測る。カンファレンスやイベントでは、VCや資金調達に成功した起業家達がステージを飾る。
そんな環境の中で、スタートアップの創業者達は、いつの間にかユーザーの課題解決よりも、投資家が求めることを中心に戦略を立てるようになっていく。
VCをもっとちゃんと理解してほしい
この記事を通じて私は、自分がVCから投資を受ける側であるスタートアップの起業家になりたての頃に教えて欲しかった、VCの真の目的とその実態について説明できればと思っている。
それにより、これから起業家になる人たちに対して、1. VCとの正しい関わり方、2. そもそもVCから投資を受けるべきか、を理解してもらえればと思う。
なぜVCが存在しているのか?
起業家目線からは、どうしてもVCは「スタートアップを支援する存在」だと思いがちである。究極的には、VCはスタートアップに投資し、その成長を助ける。それにより、彼らは「創業者達の成功を支援するのが最終目的」のように見えてしまう。
しかし、VCの最終目的がスタートアップの成功と考えること自体が、VCの本当の目的を理解しにくくさせているのも事実だ。
VCは投資機関として、投資家や組織のお金をより幅広く投資することを担っている。したがって、VCの最終ゴールは起業家の夢を実現することではない。彼らの最終目標は投資家に対してより多くのリターンを還元することだ。
上記のポイントは、起業家がVCに対して持つイメージと、VCの実態とのギャップを埋めるためにも、しっかりと理解しておくことがかなり重要だ。
VCが成功するために、投資ターゲットとなるスタートアップは、下記に対して大きなポテンシャルを持っている必要がある。
- 投資額よりも何倍も大きな評価額を生み出す
- 他の会社に買収されるか上場するといったエクジットを通じて、投資ファンドに対してリターンを提供する
ベンチャーファンドの仕組み
これから紹介するのは、VCのビジネスモデルの基本を理解してもらうために、自分の生徒に説明する際にも利用する、極端にシンプル化にしたアナロジーである。完璧ではないが、基本的な理解を得るためには十分だと思う。
例えば10億円のベンチャーファンド (投資向けのお金) があったとする。そのお金を株式市場に投資すると、おそらく10%ぐらいのリターンは得られる。VCはそれよりも多いリターンを目指すのが仕事。
VCはその10億円のファンドを活用し、スタートアップに投資することで、”市場に勝つ”ことを目指す。今回の例では、シンプルにその10億円を10分割し、一口1億円で10社への投資を行うことにする。
一般的にアメリカのVC界では、投資した会社の50%からはリターンを期待できない。投資したお金は紙切れになってしまう。残りの5社のうち4社からは投資した額と同等のリターンを期待する。今回の例だとこの時点でリターンは4億となる。
ということは、現時点で9社からのリターンは4億で、全体投資額の40%しか戻ってきていない。全然ダメだ。しかし、まだ1社残っている。その10番目の会社が”ホームラン”を打つ。大成功したことで、投資額に対して10倍のリターンを出す。すなわち1億が10億に化ける。
これらを合算すると、当初の10億の投資は、合計14億のリターンを生み出した。40%のリターンをファンドにお金を入れてくれた人たちに分配することが可能になる。なかなかおいしい仕組みと思うだろうか?でも、現実はもうちょっと複雑である。
持ち株率、希薄化、追加出資
上記の例では、投資した1億の資金がいとも簡単に10億のリターンを出したと仮定している。文字で書くと簡単そうに思えるかもしれないが、実際のにそれを実現しようとすると、なかなか難しい。
どうすれば1,000円が10,000円に化けるかを想像してみると、その難しさが実感できるかもしれない。「ユニコーン」と呼ばれるスタートアップが、実存しない動物に例えられる理由も理解できる。
では、どのようなプロセスで1億が10億のリターンを出すに至るかをもう少し説明してみたい。
話を単純にするために、最初に投資した時点で、他にそのスタートアップには投資家がいないと仮定する。そして、1億を投資する代わりに会社の25%の株式を取得したとする。(念のために説明すると、この投資を受けた場合、その会社はプレで3億、ポストで4億の評価額となる。)
この時点で10倍のリターンを生み出すためには、その会社が40億で買収される必要がある。(40億で買収されれば、その25%が10億になるので。)
残念ながら、現実はのVCやスタートアップの世界では、ほぼそうならない。当初4億の評価額を受けた会社が40億で売却されるまで、全く追加出資を受けずに済むことは、まれであるからだ。
多くの場合は、それまでに何度か追加出資を受けることになる。おそらく12ヶ月以内に (願わくば) 当初よりも高い評価額で。追加で出資を受ける場合、既存の株主は、新規の投資家のために自身の持ち株を目減りさせる必要がある。これを希薄化と呼ぶ。
今回のケースでは、当初投資側が4億の評価額の会社の25%を所有していたが、その会社に追加出資を獲得する新規投資家の取り分を与えるために、その25%の持ち株率が下がってしまう。
例えば、この会社が評価額8億 (プレ) で2億の追加出資を受けた場合は、ポストの評価額が10億になる。その場合の創業者、既存投資家、新規投資家の持ち株率は下記のように変化する。
- 創業者: 60% (75%からダウン)
- 既存投資家: 20% (25%からダウン)
- 新規投資家: 20%
追加出資をした新規投資家に20%を渡すために、創業者と既存投資家の持ち株率が下がってしまった。しかし、評価額が10億になったため、その20%の価値は2億になり、当初の4億の25%である、1億の倍の価値になったことになる。これをわかりやすくリスト化すると:
創業時: 評価額4億
- 創業者: 75%: 3億
- 投資家: 25%: 1億
追加出資獲得時: 評価額10億
- 創業者: 60%: 6億
- 既存投資家: 20%: 2億
- 新規投資家: 20%: 2億
なかなかイケてるだろう? VCが元々3億の評価額の会社に1億を出資したことで、追加出資を受けた時点で、その評価額は10億にまで膨れ上がった。実に6億も増えたことになる。VCの投資分も1億から2億へと倍になった。
ここで、当初のゴールである1億の投資を10億にまで増やすことを考えてみよう。持ち株率が20%になったので、そも目標を達成するには、当初の40億より10億多い、50億で会社が買収される必要が出てきた。
念のため、この追加出資の概念について補足する。今回の仮想VCのモデルでは、10億のファンドを10社に投資しただけであったが、現実のVCは、投資した会社の中で優良だと思われるところに、その後も追加で出資することが珍しくない。そうすることで、持ち株比率の希薄化を避けるのだ。
ややこしい追加出資やリターンの細かな説明や計算ロジックはここまでに。基本的な計算式は変わらない。追加出資が行われた場合は、売却額を上げる必要があるということ。
VCが投資したくなる会社の特徴
ここまでじっくり読んでくれたか、軽く飛ばし読みしたかはわからないが、その仕組みがわかれば、おそらくVCが投資するスタートアップには一定の特徴があることに気づいただろう。VCが投資対象として評価するのは、おのずと急激に大幅成長が見込める会社になってくるということだ。
一方で、そのような急成長を期待できる会社は限られる。起業家としてVCからの投資を求める前に、そもそも彼らが求めるタイプの会社であるかどうか、そして創業者としてそれを達成する能力があるかを自問して欲しい。
1億円は大きなお金のように感じるかもしれないが、VCにおけるリターンのロジックは変わらない。受け取る金額に限らず、スタートアップは何倍ものリターンを出すことが求められる。
今回の例では、1億を投資し、その会社に対してプラス6億の“価値”を生み出した。言い換えると、600%のROIを達成したことになる。
株式市場への投資が平均10%程度のROIであることと、それが世界のトップ企業からのリターンの平均であることを理解していただきたい。
それを踏まえると、VCがスタートアップに求めるリターンの大きさが理解できると思う。トップクラスの大企業でも毎年10%の成長を達成する程度であるのに対し、スタートアップは何百倍ものリターンを求められるのだ。
まさにハイリスクハイリターン。多くのスタートアップが失敗に終わるのも理解できる。同時にスタートアップを成功させる難易度の高さもわかっただろう。
VC自身も起業家である
投資を受けたスタートアップに求められるリターンの高さはハンパないが、VCが背負うプレッシャーも尋常ではない。何せ、預かったお金を使って株式投資よりも大きなリターンを生み出すことを期待されているのだから。
そのゴールを実現するために、VCの人たちはリスクの高いスタートアップ投資を通じて、最終的にポジティブなROIを生み出さなければならない。ほぼ不可能に近いぐらいの難易度である。VCの約半数は失敗し、45%はトントンのリターンで終わるのもうなずける。
自分もスタートアップを始めた頃は、VCの仕事がこれほど大変だとは全く知らなかった。てっきりVCは業界におけるロックスターであり、気に入ったスタートアップにさくっと何億も投資する。
まるで、アッシャーがジャステン・ビーバーを“発掘”したように、起業家を一晩にして成功に導いてくれる存在だと思っていた。
そんな夢を見てた頃の自分は、起業家というよりも、VCの前でピッチをしまくるパフォーマーだった。彼らの投資対象になるようなビジネスモデルを理解してもらうよりも、自分のピッチスキルとプロダクトがクールであることばかりをアピールしていた。
今から考えると、VCに対してピッチのスキルを認めてもらったり、プロダクトを好きになってもらう事は、投資をしてもらう事とは全く別の軸であった。
彼らは、ピッチの素晴らしさを期待しているわけではなく、自分たちの投資モデルに最も適した会社を探していたのだ。なぜなら、彼らも自分たちのプロダクトをピッチをしなければならないから。
VCもピッチをする責任がある
その通り。VC達が投資するそのお金はどこから来ているのか。多くの場合、それはVC自身のお金ではない。起業家とやりとりすることだけがVCの仕事ではない。それどころか、VCはその時間の大半を、スタートアップの起業家と同じように費やしている。そう、資金調達に。
VCも他のスタートアップと同じようにハイリスク、ハイリターンのプロダクトを提供している。VCの成功も資金調達、営業、プロダクト作り、マネージメント、マーケティング、そしてビジョンの実現に委ねられている。
その点においては、VCもスタートアップ起業家にかなり近い。実際のところ、多くのVCの人たちは、自身を起業家だと感じている。誰かもっと早くその事を教えて欲しかった。
ベンチャーキャピタリストも起業家なのである。だからこそ、彼らを神格化するのではなく、同じ起業家の一人として接して欲しいのだ。彼らを崇拝したり、売り込んだり、感動させようとせずに、純粋に理解して欲しい。
VCに対しての視点を変えるだけでも、両者にメリットを生み出すパートナーシップが築けるかもしれない。もしそれができなくてもOKだ。最低でもお互いを助け合う友達にはなれるだろう。ビールを一杯飲みながら、お互いのしんどさを愚痴り合うだけでもいいじゃないか。
原文: ”What I Wish Someone Had Told Me About Venture Capitalists” – Medium
まとめ: VCを理解する事の大切さ
このように、スタートアップのエコシステムにおいて欠かすことのできないVCであるが、日本ではまだまだ近寄り難い存在に思われる。しかし、こちらシリコンバレーでは、2020年1月にbtraxが主宰したイベント、SF Pitch Nightでも審査員として迎えたり、スタートアップの起業家と気楽にコミュニケーションしたりなど、かなり身近な存在である。
地元のVCやスタートアップとのコラボを希望している方は、ぜひお問い合わせいただければ、我々でも何かしらお力になれるかもしれない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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