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テクノロジー中毒の危険性? 人間よりもデバイスと過ごす時間が多い時代に
1日のうち、スクリーンを見てない時間がどれだけあるだろうか?
朝起きてから夜寝る直前までスマホに触れ、自宅、通勤、オフィス、学校、隙間時間、日常の多くのシーンで、常にデジタルデバイスと寄り添っている方も少なくないはず。
実際、スマホの平均的な利用時間も2008年からここ10年で、0.3時間/日から3.3時間/日へと10倍以上も増えている。
10年間でデジタルメディアに費やす時間が2倍に
Mary Meekerによる2018 Internet Trends Reportによると、平均的な大人が1日でデジタルメディアに費やす時間は、2009年の3時間から、5.9時間とほぼ2倍に増えている。
それと比べると、直接人間と接している時間が削られ、1日の大半がデバイスによって占有されはじめている。同時に、ひと時もスマホをはじめとしたデバイスをを手放すことができない、テクノロジー中毒の症状が問題視されはじめてきている。
時代と共に変化する時間の使い方
ニューヨーク大学のリサーチャー、Adam Alter氏が行った調査によると2007年から2017年の10年間で、一人が平均で1日で費やす時間の中で、自分自身のために使える時間=パーソナルタイムの利用方法が大きく変化していることがわかった。
仕事や睡眠など、それ以外の時間の量には大きな変化はなかったが、最近では、趣味や余暇に使える自由な時間のそのほとんどが、何かしらのスクリーンを見ることに費やされているとのこと。
本来このパーソナル時間は、それぞれの人が自分らしく生きるために費やす時間であり、これがデバイスに占有されると、人生のそのほとんどがスクリーンを見ることで終わってしまうのではないかと危惧している。
デジタルデバイスは年齢制限のないドーパミン製造機
では、なぜそんなにも頻繁にデバイスに触れてしまうのか?
どうやら、その秘密は人間の脳の仕組みにあるらしい。例えば、送信したメッセージに対して返信が来たり、インスタにアップした写真がLikeされたりすると、脳内にドーパミンという化学物質が発生する。
このドーパミンという物質はご褒美ホルモンとも呼ばれ、喜びや興奮といった感情を与える。
元々は生物が生き延び、子孫を増やすために組み込まれた仕組みであるが、現代においては人工的なデバイスで刺激することも可能になっている。
SNSは英語で言うところの、”Instant Gratification (すぐに得られる喜び)” が魅力で多くのユーザーが利用する。期待したことが手に入ると脳内にドーパミンが発生すると言う仕組み。
年齢制限のない高中毒性プロダクト
ちなみにアルコールやタバコ、ギャンブル、アダルトコンテンツも同じくドーパミンを生み出す作用がある。
そう、上記はその中毒性の高さから、年齢制限が設定されている。それらと全く同じ仕組みでユーザーを夢中にさせているデジタルデバイスの利用には年齢制限がない。
このドーパミンはによって人々は喜びや興奮を感じるが、同時に慣れ過ぎてしまうと、それがないと気分が落ち込みがちになるという側面もある。
人間は、期待値と反応が一致することで大きな快感が得られるが、逆に得られないとイライラや不安を生み出す。
通知がいつ来るかわからないワクワク感や、無限スクロールで、どんどんコンテンツが更新されるSNSのUIなど、画面を見るたびに、次から次へと期待してしまう。
しかし、少しでもそれが失われると、ストレスを感じるとドーパミンを欲し、ついついデバイスに向き合うサイクルが生まれる。返信が来る際の興奮に合わせて、それが来ない際の不安要素も高まっている。
ちなみに、思春期はドーパミンの量が成人の4倍ほどになるとの調査もある。
高まるFOMO感
スマホをひっきりなしに見たくなってしまうもう一つの理由が、俗にFOMOと呼ばれる感覚。これは英語の”Fear of Missing Out”の頭文字を取った表現で、見逃してしまうことに対する恐怖心。
特にSNSやグループチャットなどは、その瞬間瞬間で得られるコンテンツと、それに対するレスポンスが重要になってくるため、少しでもタイミングを外して見逃してしまうリスク、そしてそうなった時の孤独感が人々をデバイス中毒にさせる。
このFOMOは、アメリカ国民の86%が常にメールとSNSをチェックしている理由の一つにもなっていると考えられている。
気持ちが落ち込むアプリにより多くの時間を費やしている
では、皆さんはどのようなコンテンツやアプリをよく利用するだろうか?実は、その内容によって、長期的に見ると、心が休まる系と、気分が落ち込む系に分かれる。
リラックスやエクササイズ、教育系が心が休まるのに対し、SNSや、ゲーム、マッチング系は心が落ち込むタイプのアプリだとAlter氏は指摘する。
驚くべきことに、平均的なユーザーは、実に3倍もの時間を落ち込む系に費やしている。アメリカの別の調査でも、Facebookの利用時間が多くなりすぎると幸福度が下がると言う結果も出ている。
これは、多くの時間がデバイスに占有されるだけではなく、ユーザーの心にとっても必ずしも良い影響を与えていないことがわかる。
承認欲求が人間の行動を支配する時代
その一方で、FacebookやTwitter, Instagram, Snapchat, TikTokなどのソーシャルメディアがここまで普及した一番の理由は、”一時的に“ユーザーが自己承認欲求を満たされるところにあると考えられる。
自分が起こした行動に対して周りの人がポジティブに反応する。これにより自分の存在を認識してもらい、満足を得る。非常に単純な仕組みだが、ソーシャルメディア以上に上手にユーザーの承認欲求を満たすツールは見当たらない。
この細胞は、報酬や快楽等のポジティブな刺激に反応する。そしてこのリサーチでは68%のユーザーが、SNSにポストする目的を自己表現と答えてる。
例えば,見た目はネカフェとほぼ変わらないのに、飛行機のビジネスクラスの写真をアップしてドヤ顔している人や、著名人とのツーショット写真を毎日の様にアップし続けている人もその行動が自己承認欲求に支配されているケース。
“自分が好きか” よりも ”どう思われるか” の方が重要
何かしらの行動を起こす時には周りの人にどう思われるかが一つのファクターとなるが、ソーシャルメディアの出現によりそのモチベーションがかなり増長されている気がする。
これが日常の習慣になってくると、日々の行動の目的が無意識のうちにソーシャルメディアに支配されている可能性もある。
ソーシャル上でどのような反応が得られるかが一つの行動指針となり、知らず知らずのうちに自分が本当にそれが好きかどうかに関係なく、SNSでより多くの反応を得ることを行動の最大目的に選んでしまっている。
その場合、何を買うか、どこに行くか、誰と会うか、それらの決断をする際にソーシャルメディアにポストする価値が基準になっている。逆に考えると、もしソーシャルメディアでシェアすることが出来ない場合は異なる選択をする可能性がある。
本当にそれが自分の好きな事かどうかを知りたいのであれば、”もしソーシャルにポストできなかったら?”と時も自答してから判断してみるのも良いかもしれない。
自身の子供にiPadを使わせなかったスティーブ・ジョブズ
iPhoneを生み出したAppleのスティーブ・ジョブスは、その後2010年に受けたiPadに関する「素晴らしいデバイスですね。ご自身のお子さんもさぞ喜んでいるでしょう」との質問に対し「いや、うちの子はまだ触ったことがないんだよ。我が家では、子供のデジタルデバイスの利用を制限してるからね」と答えている。
iPhoneの生みの親が感じる罪悪感
そして、当時ジョブスの側近であり、iPodとiPhoneの最高責任者であったTony Fadellは、Appleでの功績に関して複雑な心境を語っている。
彼の3人の子供が、スマホを覗き込み、夢中になっている姿を見るたびに「私はとんでもないものをこの世に生み出してしまったのかもしれない」という罪悪感に苛まれることがあるという。
彼によると、スマホは社会に大きな価値を提供していると同時に、多くのユーザーを中毒にさせ、フェイクニュースなどの誤った情報の伝達を加速させているのかもしれないとも感じ、真夜中に汗だくで目覚めることもあると語っている。
そう、iPhoneは最初から利用者の心を強く掴み、そして依存性を高めるように「デザイン」がされている。それゆえにユーザーにとっては手放せない存在となり、Appleを世界一の企業に成長させた。
その一方で、手のひらの中にひっきりなしに表示される「情報の洪水」は時に大きなノイズとなり、本当に重要な事柄とそうでないものの区別をつけにくくさせているのではないかというのだ。
Googleの重役が語る中毒性
以前にアメリカの人気ドキュメンタリーである60 Minuiesによるインタビューにおいて、Googleの重役であるTristan Harrisは、テクノロジーは必ずしも人々の生活に良い影響を与えてはいないと語っている。
彼によると、多くのソフトウェア企業は「中毒コード」と呼ばれる、ユーザーを虜にする仕組みをマスターしており、それによって、多くの人々が片時もスマホを手放せない中毒症状が生み出されているという。
これは、業界では「ブレインハッキング」と呼ばれる手法で、それによって多くのユーザーの人間関係や集中力が低下していると語る。
デジタルデバイスを使わせないシリコンバレーのエリート校
世界トップレベルの人材が集まるシリコンバレーの、とある私立のエリート小中学校では、中学2年になるまで、スクリーンデバイスを使わせないという。
同校の生徒の親の約75%がテクノロジー関係の会社で重役として働いているのがなんとも皮肉である。
ファミレスに設置されたタブレット端末
最近、アメリカのレストラン、それも家族が多く集まるようなファミレス系のチェーン店での客席にタプレット端末設置が進んでいる。この端末は、直接オーダーができるだけでなく、ゲームやクイズを楽しむことができる。
小さな子供を連れた家族の子供達が、ディナー中に会話ではなくゲームを遊んでいる光景も珍しくなくなってきている。
友達と食事中にスマホを見る行為が発する無言のメッセージ
実は大人同士でも、近い状況がどんどん増えてきている。友達とディナー中や、デート中にひっきりなしにスマホを覗き込んだり、テーブルの上に置いてあるだけでも「あなたは私にとってスマホよりも重要ではない」というメッセージを無言のうちに発している事と同じ作用がある。
これは、中毒症状の一つであると認識している学者もいる。
ちなみにここでは画面を上にしてるか下にしてるかは関係ない。
これ、結構やっちゃうんだよねー。気をつけないと人間関係が破綻してしまいそう。 pic.twitter.com/3XoGH1zjeF
— Brandon K. Hill | CEO of btrax 🇺🇸x🇯🇵/2 (@BrandonKHill) December 12, 2023
朝起きてスマホを見るのが最初の行為
すでに多くのユーザーは、朝起きて最初にするのがスマホの画面の確認、そして寝る直前までスマホを手放すことができない状況になっている。
David Greenfield博士によると、アメリカ人のおおよそ90%がスマホを過剰利用しており、スマホユーザーの10-12%がスマホ中毒になっているとの研究結果を発表している。
また彼は、スマホが生み出すランダム性はスロットマシーンのそれと同じ作用をユーザーに与える。仕方って、スマホは世界で一番普及しているスロットマシーンだとも語る。
変化し始めたマズローの欲求ピラミッド
人間の根本的な欲求から最高峰のニーズまでをピラミット型でわかりやすく説明しているのが、「マズローの欲求5段階説」最近、このピラミッドにおける、生理的欲求よりも、さらに根本的な欲求として、WiFiとバッテリーが入るという、冗談にならない説が浮上してきている。
実際、アメリカのティーンエイジャーの75%が、スマホを失うぐらいなら小指を失った方がマシと答えたという調査もある。
テクノロジー中毒がユーザーに与える悪影響
現在のところ多くの国では未だ「テクノロジー中毒」という概念は医学的には立証されていないし、正式な病気としても認識されていない。その一方で、すでに韓国ではインターネットも中毒の一つとして数えられている。
では、テクノロジー中毒になるとどのような弊害が生まれるのかを見てみよう。
- 不安: いつ連絡や通知が来るかわからない状態に対しての不安が増える
- ストレス増大: デバイスが使えない状態になるとストレスが増大する
- 注意力の低下: スマホからひっきりなしに溢れる情報に気が取られ、本当に大切なことに対する集中力が低下する
- 冷静な判断ができない: 気持ちが落ち着かなかなくなり、冷静に考えることができにくくなる。クリエイティブ性の低下: 情報やコンテンツに対して受け身になり、自分から新しいものを作り出す意欲が下がる
- 睡眠の質の低下: 体は寝ていても、脳が常に何かを気にしている状態になり、休まらない。スマホがベッドサイドにある場合は特に
- 自己中になる: SNSなどで自分の情報を配信し、それに対するポジティブな反応に快感を覚えすぎるため、ナルシスト的な性格になってしまう
我々デザイナーとしてできること
これまでのデザインの一つの大きな役割は、どれだけユーザーに使ってもらえるかであった。PVやアクティブ率、滞在時間などを上げ、それを企業の利益に変化するのがゴールと設定されているのが一般的である。
デザインの力を活用すれば、ある程度ユーザーの動きをコントロールすることができる。これは「デザインの力で人々の行動を変える – ビヘイビアデザインの裏側」に詳しく説明されているが、デザインの仕方によっては、ユーザーの動向を喚起することができたりもする。
企業の利益だけを最優先するのであれば、出来るだけユーザーを中毒にさせ、その時間とエネルギーをお金に変換すれば良い。それがこれまでの常識とされてきた。
しかし、本当に人々に、そして世の中にとって価値のある企業やブランドになりたいと思うのであれば、あえて「使わせない」導線を設計することも一度考慮してみても良いかもしれない。
ある意味、デザインは使う人に対して目に見えないレールを提供する役割もあるため、何が倫理的に正しいかもしっかりと理解した上で設計する必要があるだろう。特にUXデザインの一番の役割はユーザーメリットと企業メリットの両立なのだから。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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