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【デザインの危険性】デザインがつくり出すダークサイドとは?
毎分のようにスマホに通知が表示され、SNS上での反応に一喜一憂する。インスタがあまりにも使いやすく楽しいので、5分おきに見てしまう。夜中にふと目が覚めてメールのチェックをする。Amazonで必要のない物までついつ購入してしまう。運転中にメッセージの返信をしなければとの強迫観念に駆られ、危うく事故に巻き込まれそうになる。
その多くが恐らくデザイナーの仕業だろう。
デザインが今までにないほどの人々の行動に影響力を持つ現代において、その力が持つ危険性についての注目が高まっている。特にデザインドリブンな企業が多いこちらサンフランシスコ地域では、最近デザイナー達の間でも頻繁に持ち上がる話題だ。
プロダクトがどのようにデザインされるかによって、それを使う人々の行動、そしてそれ以上にメンタルに大きな影響を及ぼす。その一方で、提供側の視点からすると、より多くのユーザーに、より頻繁に利用してもらうことが当然のゴールとして掲げられる。そう、ユーザーを夢中にするのだ。
iPhoneの生みの親が感じる罪悪感
AppleでiPodとiPhoneの最高責任者であり、のちにスマートホームデバイスを提供するNestを創設したTony Fadellは、Appleでの功績に関して複雑な心境を語っている。彼の3人の子供が、スマホを覗き込み、夢中になっている姿を見るたびに「私はとんでもないものをこの世に生み出してしまったのかもしれない」という罪悪感に苛まれることがあるという。
彼によると、スマホは社会に大きな価値を提供していると同時に、多くのユーザーを中毒にさせ、フェイクニュースなどの誤った情報の伝達を加速させているのかもしれないとも感じ、真夜中に汗だくで目覚めることもあると語っている。
そう、iPhoneは最初から利用者の心を強く掴み、そして依存性を高めるように「デザイン」がされている。それゆえにユーザーにとっては手放せない存在となり、Appleを世界一の企業に成長させた。
その一方で、手のひらの中にひっきりなしに表示される「情報の洪水」は時に大きなノイズとなり、本当に重要な事柄とそうでないものの区別をつけにくくさせているのではないかというのだ。
現に、Fadell氏が自身の子供からiPhoneを取り上げると、まるで大切な人から引き離されたような感情を抱くほどに依存性が高まっているのを感じている。元々iPhoneが家族よりも個人に強いフォーカスを当ててデザインされたことが原因だと彼は語る。
これはまるで、ノーベルがダイナマイトを発明したことで、多くの人々の命が奪われたことを後悔したのとも共通する。
デジタル化が進む現代で「フォース」を有するデザイナー達
これはまるで、その設計やデザインの方向性一つで、そのプロダクトを利用する人の生活の一部を支配しているようなレベルである。現代のデザイナーは、まるで目に見えない力でユーザーを狙った方向に導くのが仕事となる。
特にユーザー体験 (UX) やサービスデザインのフィールドにおいては行動心理学を大いに活用する。言い換えると、何をどうすればユーザーがどのような行動を起こすかを念頭に入れて、デザインを進めるのが一般的である。
正しい方向にユーザーを導くこともできれば、わざとミスリードをして企業の利益に結びつけることも不可能ではない。これは、特にデジタルサービスやデバイスを設計するデザイナーは、「見えない力でユーザーの習慣を支配することができる力=フォース」を持っているようなものである。
商業主義が過熱しているシリコンバレー
デザインやテクノロジーが「何のため」に活用されるべきかという点を、それらを活用する者たちがしっかりと理解する必要があるだろう。特にGAFAに代表されるような、シリコンバレーを中心としたアメリカ西海岸のテクノロジー企業は、世界のユーザーの心と行動を左右するほどの影響力を持ち始めている。
プロダクトをデザインする者たちは、まさに「神の手」を有するレベルである。しかし、ここで難しいのは、ときに「正しいこと」と「儲かること」が相反するケースがあるということ。
もちろんユーザーを夢中にさせ、より多くの時間を費やさせる方がお金になりやすい。その一方で、果たしてそれが世の中の人々の生活、そして人生にとって良い効果を与える結果に繋がるのであろうか。
ここ数年であまりにもビジネス的に成長をしまくりすぎたシリコンバレーでは、デザインやテクノロジーを何のために活用するべきかという議論が注目を集めている。
スタートアップに潜むリスク
もともとインターネットテクノロジーは、世界の情報を誰にでもアクセス可能にすることで、地の民営化を目的としていたはず。しかし、そこに大きなビジネスチャンスがあり、スタートアップが一攫千金を狙うための大きな原動力になっている。
その一方で、企業は容易にユーザーの行動を「操作」し、データを集めたり、安易にお金を生み出すことも不可能ではない。特にスタートアップのファウンダーのその多くは若く、未熟だ。
そうなってくると、自分たちが無邪気に生み出すプロダクトが、その後世の中をどのように変革させていくかまでは気が回りにくい。
それもそのはずで、そもそもスタートアップの定義が:
“スタートアップとは新しいビジネスモデルを開発し、ごく短時間のうちに急激な成長とエグジットを通じ一獲千金を狙う人々の一時的な集合体”
であることからも分かる通り、特に初期の頃には世の中にポジティブな影響が生み出せるかどうかまでは気が回らないケースがほとんどである。
必要なのはしっかりとしたビジョン
そんな中で、Googleの「Don’t be evil (悪者にはなるな)」に代表されるように、どこかのタイミングで企業としてのビジョンをしっかりと定め、ダークサイドに落ちないようにする必要があるだろう。
逆にどれだけ儲かるような施策であっても、ビジョンにそぐわない内容であれば却下するべきだ。Facebookでは、例え売り上げに大きく貢献できそうな機能であっても、「人々にコミュニティ構築の力を提供し、世界のつながりを密にする」にそぐわない場合は、実装しないと定めている。
デザイナーは何かをつくりだす際には、必ずこのビジョンに照らし合わせ、それがちゃんと世の中にポジティブな影響を与えることに繋がっているかを、自問自答するべきである。そうでもしないと、容易にダークサイドに落ちてしまうだろう。
デザインと経営が融合することでその力は増大する
すでに聞き慣れたであろう「デザイン経営」という言葉に代表されるように、経営にデザイン視点を取り入れることは、企業にとっては新しいイノベーションを生み出す際にも不可欠だ。
同時に、それに関わる我々のような立場の人間は、企業利益と顧客メリット、そして社会への影響をしっかりと見据え、戦略を立てる必要があるだろう。ここでも、デザインが持つダークサイドの危険性が潜んでおり、悪用しないようにしたい。
デザインと経営を掛け算することで、その影響力は何十倍にも膨れ上がる。それは同時に、そのパワーを慎重に扱う必要が出てくるということでもある。
神にも悪魔にもなり得るデザインの力
デザインがユーザーや消費者の行動とメンタルを「支配」しやすくなってきている中で、我々デザイナーは、デザインをどのように適用するかを考えなければならない。これは、包丁と同じで、使い方を間違えると不幸を生み出す。それも、現代ではかなり多くの人々に。
例えば、そのプロダクトを提供することで、消費者に与える長期的な影響をしっかりと考慮するべきだろう。もちろん全てを予測するのは難しいが、短期的なメリットだけを考えてしまうと、まるでファーストフードを提供している状態になる。ユーザーにとっては安くて美味しいが、長期的には健康被害を生み出す危険性がある。
デザインチームに求められるダイバーシティー
難しいのは、ユーザーがデザイナーが想定していなかった動きや利用方法をしてしまった場合。これは多くの場合、異なるユーザーのニーズが理解しきれていなかった事が原因である。もちろん偶然の産物で良い結果になるケースもあるが、そうならない危険性も十分にある。
その点でも、デザインチームに異なるバックグランドを持つチームメンバーがいることは大きな意味がある。一人のデザイナーだけでは気づかない価値観や、視点を十分考慮することで「正しい」設計に近づく。そして、デザインプロセスが「間違った」方向に進んでることに対して異を唱えることのできるチームカルチャーも求められるだろう。
これからのデザイナーに必要なのは強い倫理観念
今回のトピックはデザイナー単位でも考える必要もある。安易な結果だけに甘んじることなく、自分たちの仕事が世の中に与えるインパクトを十分理解し、安易な金儲けよりも問題解決にフォーカスを当てたいところ。
もちろん「デザイナー」という仕事柄、結果として企業に利益を生み出すのがゴールにはなるだろう。そこは綺麗事だけでは済まされない。その一方で、長期的な影響力もしっかりと理解したい。そのためには、正しいKPIの設定と定期的な影響のチェックが求められる。
安易な金儲けをしたければ、ユーザーの弱みに付け込むことで結果につなげることも不可能ではない。でも、ここで思い出してほしい。自分がデザイナーになろうと思ったその時の気持ちを。安易にダークサイドに落ちてはならない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.