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スタートアップ育成のためにサンフランシスコ市が行なっている事
先日、日本のとある地方自治体の職員の方と共にサンフランシスコ市庁舎にて市の重役の方との会合を行なった。
テーマとしては、サンフランシスコ市のスタートアップ支援の仕組みを学ぶこと、そして2つの都市で何かしらの協定を結ぶことができないかをディスカッションすることであった。
しかし、その結果は全く予想していないものとなった。
時代とともに変化するスタートアップの中心地
スタートアップの中心地は? と聞いてどこを思い浮かべるだろうか。おそらく多くの人たちがシリコンバレーと答えるだろう。
Google, Apple, Facebookなど、世界的な企業が多く存在し、以前よりイノベーションの中心地として日本での知名度もかなり高い。
しかし、実際にこの地域で生活してみると、意外とサンフランシスコ市内の方が盛り上がっていると感じる。
毎晩のようにスタートアップ関連のイベントが開催され、道を歩くとスタートアップのロゴの入ったTシャツを着た人とすれ違う。カフェには入れば隣のテーブルで起業家が新しいビジネスアイディアをピッチしている。
こんな光景が日常のサンフランシスコでは、スタートアップを始める事がこの街に住む人々の”常識”なのだ。
実際、最近話題のスタートアップは全てシリコンバレーではなくサンフランシスコの会社である。
- Uber
- Lyft
- Airbnb
- Square
- Dropbox
- GitHub
- Stripe
実際、下記のグラフから見ても分かる通り、世界の都市別でのスタートアップへの投資額はサンフランシスコがダントツ。
パロアルトやマウンテンビューなどシリコンバレーを形成する都市も一応このランキングのTOP10には位置しているのだが、これらの都市が複数合わさってもサンフランシスコに及ばない。
スタートアップ創業数、彼らへの投資件数、エグジット数においてサンフランシスコは世界1位の都市である
出典 : 「San Francisco Has the Most Active Start-Up Scene」
そして、アメリカにおける未上場で評価額が10億ドル以上の企業 = ユニコーン企業のランキングTop20のうち過半数がサンフランシスコ会社でもある。
このことからも分かる通り、最近では名実ともにサンフランシスコは紛れもなくスタートアップのメッカと言えるだろう。
サンフランシスコ市政府とスタートアップとの微妙な関係
では、このような土壌を育むためにサンフランシスコ市にはどのような制度があるのだろうか。実はこの街の人口はわずか約84万人、市内の面積は山手線の内側程度しかない。
こんな小さな街を世界のスタートアップの中心地にするために市はさぞ特別な制度があるのではないかと思う人が多い。
スタートアップを盛り上げるためにサンフランシスコ市にはどのような施策を打っているのであろうか?
答えは
特に何もしていない
のである。
サンフランシスコ市はスタートアップの特区でもなければ、助成金や特別な減税措置、起業家育成のためのプログラムなどは存在していない。言い換えるとスタートアップを支援するために市政府側からは何もしていない。
試しにGoogleで、”San Francisco startup support program”と検索してみても出てくるのは、”Google for Entrepreneurs”, “StartX”, “500 Startups”など、民間のアクセレレーターばかりで、市が提供するサービスは見つけられない。
支援しなきゃいけないスタートアップなんてそもそも無理って思っている。育まなければいけないスタートアップとかありえない。こっちはスタートアップのメッカなのにスタートアップ支援とかないからね。
こっちだとチャンスはいっぱいあって、本気でやっている人に関しては、投資をいつでも受けれるようになる。なのでスタートアップ支援と聞くとなんで支援しなきゃいけないんですかって思う。
市長のアドバイザーとしての役割
では実際はどうなのだろうか?実は自分自身が市の外郭団体である、”San Francisco Center of Economic Development”を通じ、サンフランシスコ市長のアドバイザーを務めている事もあるので、その裏側を少し紹介したい。
スタートアップに関連する民間企業の有識者が十数名で構成されるアドバイザリーでは、市長を囲んで定期的にミーティングが行われる。
そこではどのようにしたらよりスタートアップや起業家が活動しやすくなるかのアイディアを市長に進言する。
例えば、とあるミーティングでは500 StartupsのDave McClure (写真右) が ”ビザの問題をどうにかしてくれ。
このままだと外国人起業家が活動しにくくなる。シャレにならん。”と市長に噛みつき、市長 (写真中央) は”ホワイトハウスに進言してみる”となる。
また、別のミーティングではコミュニティーイベントを通じてよりスタートアップを盛り上げようという話になったが、開催場所をアドバイザーの人たち同士で話し合い、市の介入は無い。
これはどういう事かというと、”下手な支援プログラムを組むぐらいなら、何もしないでくれ。むしろ邪魔しないでくれ” というスタンス。市長のアドバイザーの一番の役割は市の介入や規制をなるべく下げる事である。
政府に対してガチンコ勝負を挑むスタートアップ
そもそも、UberやAirbnbなどの”破壊的イノベーション”のサービスは規制の”グレーゾーン”を狙って提供されるサービスであり、市政府との熾烈な”押し問答”が日々行われている。
例えばAibnbのサービスはそれがホテルとして見なされるのか、アパートに家主以外が泊まっても良いのかなどは法律の解釈に委ねられる。また、新たな市の条例が制定されるかにも関わる。
そこでAirbnbではサンフランシスコの本社オフィスに定期的にユーザーを集め、”Town Hall Meeting”と呼ばれる勉強会を開催し、署名活動を行い、市の職員に対しての嘆願書を提出したりもしている。
起業家は社会に対しての反逆者
起業家の最終的な使命は”世の中を変える事”である。それに対して政府の仕事は”現状をより良くする事”になっているケースが一般的。その点を考えてみても、起業家と政府は対立する関係になる事も実は少なくは無い。
日本と違うのは、その関係が限りなく対等に近いという事。政府が言うことが全てではなく、それに対してどのようにして”喧嘩”をするか。そして、どうやったら勝てるかを考えている。
我ら起業家はある意味、社会に対しての反逆者でもあるのである。それはまるでスーツ軍 vs Tシャツ軍の戦いのようにも思われる。
日本の自治体の職員との会合にて
冒頭で紹介した通り、日本の自治体の職員の方とサンフランシスコ市の国際ビジネス開発の責任者をとりもつ形で会合に参加させていただいた。
スタートアップのメッカとなったサンフランシスコのその秘密を探るべく訪問したのであるが、予想を裏切る結果に、その市の職員の方は、大きな驚きと、実はある意味納得感を得られたようでもあった。
スタートアップとの関係について、サンフランシスコ市の重役は下記のように説明した。
“世界中を探しても恐らくこのような街はないでしょう。そしてこれからも簡単には生まれないでしょう。
サンフランシスコという街はその裏に脈々と流れる若者を中心としたカウンターカルチャー、自由を求める人たちによる既存の規制に対する取り組み、自らが当事者意識を持って社会を変えるべくスタートアップを行なっています。
それに対して市として何かしらの支援をしているわけではありません。むしろ起業家側から市に対してプレッシャーを与え、法規制の変更などの取り組みを行なっています。”
日本から来られる方のその多くが、市の運営や支援の仕組み何かしら特別な仕組みがあると考えられている。
しかし、日本と比べてみても、実はスタートアップを支援する取り組みは自治体主導では、ほぼ行われていないのが実情である。
必要なのは自発的カルチャーの創造
ではどのようにしたらスタートアップが増えるのか?今までも複数の都市が”日本のシリコンバレーを目指す”と宣言し、達成できないケースが後を絶たない。
それもそのはずで、自治体が行うべきことが間違っているからである。
必要なのはそこに住む人たちによる自発的なスタートアップカルチャーの創造であり、地自体からの支援はそのほんの一部の役割しか果たすことができないだろう。
一番の支援は助成金や政府が運営するインキュベーション施設などではなく、自分も起業家として大きな成功ができると思わせるロールモデルを生み出すことや、起業やスタートアップコミュニティが生まれやすくするために旧態然とした法規制や商習慣の排除。支援をするよりも邪魔するのをやめる方が近道なのかもしれない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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