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ロゴのリデザイン ー Gapの失敗 Airbnbの成功の背景にある理由とは
ブランディングにおけるロゴの重要性が高いことについては今さら議論する必要はないだろう。
数多くあるブランド形成を担う要素の中でも、企業や製品のシンボルとなるロゴこそが私たちの記憶に最も直結している要素だと言っても過言ではない。
それだけに、もし新しくリニューアルしたロゴが不評だった場合、元のロゴに戻すのかそのまま使い続けるのかの決断は難しいものになる。その決断次第では、その後のブランディングに大きな影響を及ぼしかねないからだ。
この記事ではロゴのリニューアルを発表するも当初は不評だった2つの会社を例に、なぜ一方は元に戻すことを余儀なくされ、なぜ一方は使い続け成功をすることが出来たのかを分析してみたい。
優れたロゴを構成する5つの要素
まずはじめに、優れたロゴの条件はどのようなのかを軽くおさらいしたい。詳しくは以前の記事「優れたロゴを構成する5つの要素」に譲るが、ビジュアルアイデンティティを的確に表現しているロゴが持つとされる5つの要素を下記に挙げる。
- Simple – シンプル
- Memorable – 印象的
- Timeless – 普遍的
- Versatile – 多面的
- Appropriate – 妥当性
上記が“良いブランドロゴの定義”である。ではこれらを満たしていれば、そのロゴによるブランディングが”必ず”成功すると言い切れるのであろうか。
これから紹介する例を見ると、その答えはNoと言わざるを得ない。ブランディングとはチェックシートを埋めていくだけで成功するような甘いものではないようだ。
ロゴのリ・デザインを行った2つの会社
ケース1:Gap
アメリカのファストファッションブランドであるGap。SPA型運営という製造販売スタイルを作り出し、現在のファストファッションブランドの運営スタイルの元となったことでも有名なブランドである。
傘下であるBanana Republicと合わせると200以上もの店舗を日本に構える等、日本でも馴染みの深いブランドであるが、今から約7年前にロゴのリ・デザインを行ったことをご存知の方は少ないのではないだろうか。
それもそのはず。なぜなら、公表後わずか6日間という短期間で新しいロゴの使用を止め、元のロゴに戻してしまったのだ。
2010年にGapが新しくリ・デザインしたロゴは好みが別れそうな奇抜なものではなかった。
フォントは様々な企業のロゴにおいて採用されている”王道”のHelveticaを使い、色も以前のロゴにも採用されていた深いブルーにグラデーションをかけたもの。
上記の5つの条件と照らし合わせてみても、この失敗を発表前に断定することは難しかっただろう。
しかし、結果は不評の嵐。1週間と保たずに元のロゴへと戻し、100億円以上の損失をもたらしてしまったという。
では、この世紀の大失敗の原因はどこにあったのだろうか。その追求に入る前に、ロゴのリ・デザインによって成功した企業の例を挙げたい。
ケース2:Airbnb
もはやユニコーンの代表例となったAirbnb。同じくユニコーンのUberと並び、私たちの生活を劇的に変えたサービスである。今やゴールドマンサックスが「ホテル業界を駆逐してしまうかもしれない」という示唆するほどの影響力を獲得しつつある。
もはやAirbnb無しでの旅行は考えられないという人も多いだろう。そんなAirbnbの成長を勢い付けた要因の一つが2014年に行ったロゴの変更である。
しかしこのロゴ変更もすんなりと受け入れられた訳では無かったようだ。Gapと同じように、最初はAirbnbのロゴ変更にも不評が飛び交ったという。その証拠に、「Airbnb logo change」とGoogleで画像検索するだけで、変更当初に作成されたであろう多くの落書きを見つけることができる。
さらに発表後、似たようなロゴを使っている会社があることが判明し、盗作疑惑も持ち上がった。いまでは見慣れたAirbnbロゴも実はGapと同様、踏んだり蹴ったりなスタートだったのだ。
ロゴ変更を公表した後には不評だったという点で共通するGapとAirbnbという2つの企業。
しかし結果は全く違ったものになった。一つは6日間で元のロゴへ戻すことを余儀無くされ多大な損失を被り、もう一方は新しいロゴが起爆剤となり非上場にも関わらず時価総額は1兆円を超える企業へと成長。
GapとAirbnbの明暗を分けたものは何だったのであろうか。その答えの鍵は顧客とのコミュニケーションにある。
GapとAirbnbの明暗を分けたもの
ブランディングと顧客とのコミュニケーションの密接な関係
SNSの普及により、情報の透明化が加速した結果、ブランディングも顧客とのコミュニケーションによって築き上げられるものになりつつあることは皆様もご存知だろう。
世界中のラグジュアリーブランドがこぞって、SNSのアカウントに力を入れていることからもこの流れは明らかだと言える。
ファッション業界だけではなく、レストランやホテルを決める際にもオフィシャルホームページに載っている情報よりも、顧客の生の声であるYelpやTrip Advidor等の口コミサイトが参考にされている。これもこの流れを象徴していると言えるかもしれない。
見慣れたものが変わってしまうことへの恐怖
そこで顧客とのコミュニケーションという観点からGapの新しいロゴについて調べてみると、面白い実験結果に辿り着いた。あるマーケティング会社が被験者に新旧2つロゴを見せ、脳波や視点の動きを調べたという。
新しいロゴを見せられた被験者はやはり古いものよりもネガティブな反応が検出された。
しかし、その理由が驚くべきものであった。見た目の原因だけではなく、ただただ見慣れたものが変わってしまうことへの拒否反応も検出されたというのだ。
見た目が良い悪いに関わらず、「変化への恐怖」がネガティブな印象として表れた。もしこれが本当なのであれば、Gapがこのロゴを使い続けていたら、結果は違っていたものになっていたかもしれない。
そんなGapのロゴリニューアルの失敗を横目に、新しいロゴを使い続けたのがAirbnbである。その結果、「変化の恐怖」を乗り越え、以前のロゴの面影はすっかりとなくなった。今ではAirbnbと言えば誰もがあの赤いロゴが頭に浮かぶだろう。
ロゴを通して行うコミュニケーションの質が鍵
では、数々の不評を巻き起こし盗作疑惑まで持ち上がった新しいロゴを、なぜAribnbは使い続ける選択を下したのだろうか。それは、新しいロゴを使用することで顧客とのコミュニケーションの質が高いものになるということに自信があったからだろう。
一方でGapの新しいロゴは、白い背景にフォントはHelveticaという、ある意味“置きに行った”選択。メッセージ性を優先したロゴではなかったため、不評に耐えられず元に戻してしまったのではないだろうか。
そういう意味ではAirbnbはロゴのメッセージ性に満ちていたと言える。彼らのようなシェアリングエコノミーのサービスは「信頼」が無ければ成立しない。
この特徴的なマークには「人+場所+おもてなし+Airbnb」という意味が込められており、「家庭の温かみ」を感じやすいマークとなっている。これはAirbnbが掲げている「暮らすように旅をしよう」というスローガンに一致する。
更にロゴに暖色系の色を使うことで、寒色系の色だった以前のロゴよりもより「温かみ」の感じられるロゴとなった。これも「家族のような信頼関係」を表すのに有効な変更と言えるだろう。
Airbnbはより顧客と繋がりを持つ為のロゴ変更であった為、たとえ不評であっても、元に戻す必要は無かったのではないだろうか。
まとめ
良い悪いに関わらず「見慣れたものの変化にはとりあえず反対する」のが人間の性なのかもしれない。であれば、ロゴのリ・デザインの際の最初のリアクションはネガティブなものの方が多いだろう。
そんな時、元に戻すべきかそのまま使い続けるべきか。その答えの鍵は、ロゴ自体のデザイン性ではなく、そのロゴを通した顧客とのコミュニケーションの質にあるのかもしれない。
例え酷評され盗作疑惑が持ち上がろうとも、信念を伝えられて顧客とより密接にコミュニケーション出来るようになるロゴであれば、元に戻す必要はまったくないのである。
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