デザイン会社 btrax > Freshtrax > 意外と知らないデザインとブラン...
意外と知らないデザインとブランディングの関係性
デザインとブランディング、どこかクリエイティブな雰囲気ゆえに一括りに認識されていることが多く感じる。
本記事では、そんな「デザイン」と「ブランディング」という2つの概念について、両者の関係性を考えてみたい。
同じ「デザイン」でも3つの顔がある
まず、日本語では一口に「デザイン」といっても、実は英語圏には、デザインを3つの種類で捉える考え方が存在する。その場合、以下のように大文字と小文字の表記でその違いを区別するケースが多い。
- design
- Design
- DESIGN
1. design
小文字のみで表記されるこちらは、いわゆる「見た目のデザイン」。グラフィックデザインや、工業デザイン、広告デザインが対象となる。明確なターゲットを設定した上で、彼らに訴求するデザインを完璧に仕上げることを目的とするデザインだ。
2. Design
Dのみが大文字のこちらは、利用されることを目的としたデザイン。例えば、UIデザインを含むWebデザインなど、デジタルという非常に広いフィールドが対象になる。これはつまり、1のような「特定の誰か」ではなく、「不特定多数のみなさん」にとって使いやすいデザインである必要があるということでもある。
3. DESIGN
全て大文字表記のこちらは、サービスデザインやUXデザイン、デザイン思考など、経営やサービスに直接的なインパクトを与えるデザインを指す。「デザイン経営」の文脈で日本でも注目を集めてきたデザインはここに分類される。
ここではユーザーを設定することが重要視され、具体的に想定されたユーザー中心のサービス体験の設計、ひいては経営判断により、ビジネスを成長させることを目的とする。
上記3つのデザインに共通することは、いずれもデザインが何らかの目的や課題を解決するための手段であるということ。デザインの対象こそ異なるが、この点は一貫している。
ブランディングの基本
では次に、ブランディングについて。
そもそもブランドとは一言で表すと、「顧客を含むステークホルダーとの約束」。そして、ブランディングとは、「その約束を結び、守っていくための活動」だと定義したい。
ただ約束を結ぶのではなく、それを守り続ける継続性と、長期的な一貫性が重要だ。そして最終的には、企業価値を向上させることが目的になる。ここを見失ってはならない。
ちなみにこの記事では、ブランディングは、マーケティングとの比較において、「相手に自分のイメージを持ってもらう努力」と記されている。
では、そんなブランディングはどの部署が行うべきか?
こう問われると、マーケティングや広報部門の担当というイメージが浮かぶかもしれない。
一方、企業価値は誰の手に委ねられるべきか?こう問われたならどうだろうか。自分には無関係だと目を背けるのは難しくなるはずだ。
上記の定義のもと、ブランディングを企業価値の向上を目指す活動だと捉えると、ブランディングは、マーケティングや広報のみならず、サービスを管轄する商品企画から技術・開発系の部署、ひいては経営層もその重要性を認識すべき、企業活動における芯と言えるのである。
また、ブランディングにおいて向上を目指す企業価値とは、目に見えない企業の資産、または、その企業やサービスが選ばれる理由と表現することもできる。ブランディングで向上を目指す企業価値には以下のようなものがある;
- ブランド・ロイヤルティ(ex:「やっぱりビールはアサヒ」)
- ブランド認知(ex: 「あ、資生堂の新しい化粧品が出てる」)
- 知覚品質(ex:「ナイキのスポーツシューズならまず間違いないだろう」)
- ブランド連想(ex:「ジャガー= 高級車」)
デザインとブランディングの関係性
デザインとブランディング、それぞれの定義を明らかにしたところで、次に両者の関係性を見ていきたい。
デザインとブランディングの関係性、それは簡単に言うと、手段と目的だ。
企業価値を向上するという目的を持ったブランディングに関わるさまざまな活動に対して、デザインの力を活用するのだ。 (さらに言うと、ブランディングもそれ自体が目的になってはならず、企業活動の目標を達成するための手段であるべきなのだ。)
両者に違いが存在するというよりは、もはや「手段」と「目的」というレベルで根本的に異なる。そのため、同じレベルで比較をしたり、優劣をつけたりすることはそもそも難しいとお伝えしておきたい。
デザインがブランディングに与える価値
では、具体的にデザインがブランディングにどんな価値を与えることができるのかを考えていきたい。
まずは、ブランディングをざっくりと5つの段階に分ける。これはbtraxがブランドづくりをサポートさせていただく際にも採用しているプロセスである。
- Envisioning:ブランドのビジョンや提供価値を言語化・可視化する
- Brand Experience Design:言語化したブランドのコアに基づくブランド体験をデザインする
- Service Design:ステークホルダーとの接点がブランドを纏った総合的なサービスを設計する
- Service Architecture:より具体的にブランドを伝える手段を整え、マーケティング戦略を作り出す
- Growth Strategy:マーケティング施策の実行や分析、サービスの拡大を考えていく
この5つの段階総じて、デザイン思考のマインドセットを持って取り組むことは前提にある。
しかし、ここで特筆すべきは、いきなり「design」見た目のデザインが出てくるのではなく、まずはブランド(自社)を理解することから始まること。
改めて言語化されたブランドをより対外的にわかってもらうためにはどうすべきかを考える 3. Service Design以降で「design」に本格的な出番が回ってくるのだ。
よくある誤解が、ブランディングは、ロゴやアイコンをデザインすることだと考えてしまうことだ。これは間違ってはいないが、これが全てではない上に、それだけを行うのではブランディングとは言い難い。
あくまでもその前に、ブランドがステークホルダーに届けたい価値を明確にしたり、自社理解を深めたりすることがまず辿るべきプロセスになると覚えておいていただきたい。
ブランディングにデザインの発想が欠けていたら?
ブランディングにデザインの視点がいかに重要かをご紹介するために、デザインバックグラウンドがない場合のブランディングの失敗事例を簡単に取り上げてみたい。
かの有名なUberの事例だ。Uberはこれまで何度もリブランディングを行っている。そのうちの1回、事業拡大に際して行われたリブランディングプロジェクトにおいて、CEOのTravisは、その総指揮を執った。
ちなみに、ここ数年で大きく業績を伸ばしているスタートアップの経営層には、デザイナーとしてのバックグラウンドを持つメンバーがいるケースが少なくないが、Travisはデザインバックグラウンドを持っていない。
果たしてそんなプロジェクトで一体何が起きたのか。
簡単に言うと、Travisは「自分の好み」を表現しようと躍起になってしまった。
気持ちはわかる。自分が何よりも愛着を持った自分の会社のリブランディングときたら、創業者である自分が、と前に出て行きたくなるだろう。
しかし彼は結果的に、自分の頭の中だけで描いているものを「ロゴ」に込めることに夢中になり、他のプロジェクトメンバーを置いてけぼりにしてしまった。
このリブランディング プロジェクトは、完全に「Travisの自己表現の場」になってしまったのだ。
また、プロセスも望ましいものではなかった。いわば完全にトップダウン型で、Travisとその周囲のメンバーたち、といったように二分化が起き、有機的なチーム構造は破綻した。
その結果、他のメンバーはTravisのリクエストをデザインに反映するのに奔走。最終的に、酷評を受けるロゴが出来上がることになってしまったのだ。
関連記事:ロゴのリデザイン ー なぜGapが失敗しAirbnbが受け入れられたのか
ブランディングにデザインが必要な本当の理由
Uberの例からお伝えしたいのは、非デザイナーならブランディングに関わるべきではない、ということではない。ブランディングの重要性を理解し、意味や目的を設定した上で、それを達成しうるチーム・メンバーと共にブランディングを行うべきだということだ。
むしろ、企業全体に関わるブランディングという活動だからこそ、多様な視点を持ったメンバーを含めたクロスファンクショナルなプロジェクトメンバー構成が望ましい。そして、彼らとの対話やディスカッションの中でブランドを様々な角度から捉えていくことが重要だろう。
また、主にロゴのリブランディングだったということは考慮されるべきだろうが、Uberの事例では、「デザイン」はおそらく「ロゴデザイン」の文脈のみでの登場だったのではないかと客観的には感じている。
冒頭のデザインの3つの顔のうち、「design」にあたる、見た目のデザインをすることに終始してしまった印象だ。
しかし、先述したように、本来ブランディングでは、「DESIGN」で定義されているレベルでもデザインが適用されることが望ましい。つまり、デザイン思考やサービスデザインなど、ビジネスに直結するデザインの考えを持ってブランディングを行うことが必要なのだ。
デザイン思考のフォーカスがプロセスにあるように、ブランディングにおいてもプロセスが重要視される。
また、立派な果実が成るには肥沃な土壌が必要であるのと同じで、まず、ブランドのビジョンを言語化・可視化したり、言語化したブランドのコアを組織内に浸透させることで、土壌をしっかりとつくることが欠かせない。
その土壌あってこそ、ロゴやアイコン、プロダクト、Webサイトなど、アウトプットという果実がブランドの一貫性を持った素晴らしいものになっていくのだ。