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【日本からグローバルブランドを Part 2.】ストーリーこそがブランド価値の源泉である
A PRODUCT IS A STORY, NOT A LIST OF FEATURES
プロダクトとはストーリーだ。見た目でも性能でもない。
“日本には素晴らしい技術がある” みなさんも一度は聞いたことがあるフレーズではないだろうか。
職人に密着したテレビのドキュメンタリー番組などを見ていて、実際にそう思ったことがある人も少なくないはず。もちろん私もその中の一人だ。
彼らに世界最高レベルの技術があるのは間違いない。しかし、だからこそ日本だけに留まるのではなく、世界への進出にもっと積極的になっていいはずだ。
それもどこかのブランドの部品としてなどではなく、自らが表舞台に立って世界中の誰もが知るようなグローバルブランドを目指して。やり方次第ではそれを達成出来るだけの素質を十分に備えている。
ではその“やり方”とはいったい何なのか。前回のPart1 「なぜ日本企業は「供給者」としてしか輝けないのか」ではブランドを生む出す上で、技術→デザイン→ストーリーと移り変わる価値の変遷を理解することが大切だと説明した。
今回のPart2では実際にこの“ストーリー”がブランディングにおいてどのように使われているのか、また一体どのようなプロセスで生まれるものなのかに焦点を当てたい。
実は日本は世界一の“老舗企業大国”
消費者のブランドに求めるものが時代と共に技術に加えてストーリーやビジョンも追加されたことによって世界で活躍する日本のブランドが衰退していってしまった、とPart1では述べた。
では、日本の会社にはそのようなビジョンやストーリーが無いのだろうか。決してそんなことはない。それどころか、世界にある創業200年以上の企業の約50%を日本の会社が占めていることを見ると、欧米の名だたるブランド達よりも深い歴史が隠されているはずなのだ。
ストーリーは確実に存在しているはずだ。しかしそれが伝ってきていない。
それは彼らがまだ「“技術”だけが“価値”だ」と思っているからかもしれない。価値の変遷にまだ気付いていないのかもしれない。伝える努力をしていないのだとしたら、非常にもったいないことではないだろうか。
歴史と伝統の使い方
そんな日本の老舗企業を尻目に、古くからブランドストーリーの構築を重要視してきたのが今やラグジュアリーブランドと呼ばれるアパレルブランド達だ。最初は小さな工房からスタートさせた彼らだが実は創業したのはここ150年と日本の老舗企業に比べるとまだ日は浅い。
しかし、彼らは歴史や伝統の使い方が非常に上手いのだ。例えばルイ・ヴィトンが旅行鞄メーカーから始まったことやエルメスが元馬具メーカーだったことは誰もが一度は耳に挟んだことがあるだろう。
ルイ・ヴィトンの例
ここではルイ・ヴィトンを例にあげてみよう。彼らは旅行鞄メーカーとして創業したという「ブランドストーリー」を「旅」というテーマにまで昇華させ、それを『ヴィトンらしさ』として掲げている。
そうすることにより、旅行鞄だけに留まらず、衣服や靴、財布など『ヴィトンらしい』ライフスタイルそのものを提案することに成功している。
そして彼らの手掛けるものはもはやアパレル企業のそれではなくなってきている。
例えば、2013年に初となる家具コレクションを提案した際には、佐藤オオキ氏によって設立されたデザインオフィス「nendo」と共に、LEDと充電池を使用した、巻いて持ち運べる革一枚の照明器具を発表し話題となった。これも『ヴィトンらしい』照明とは何かを考えた上でのものだろう。
またこの「旅」というテーマには「人生そのものこそが旅だ」というメッセージも隠されている。
言わずと知れたソ連最後の書記長であるミハエル・ゴルバチョフがモノグラムのボストンバッグと共にベルリンの壁を通り過ぎる広告を見たことがあるだろうか。
“なぜ人は旅をするのか。世界を知るため?それともそれを変えるため?”というキャッチコピーと共に社会主義国の象徴が民主主義の象徴とも言えるラグジュアリーブランドのかばんを持っている姿は、ただただ”技術”や”デザイン”を宣伝するよりも、はるかに大きなインパクトを与えたに違いない。
このルイ・ヴィトンの例のようにストーリーによって消費者の心を掴む動きが今いろいろな業界で起こり始めているのだ。
圧倒的なアップルブランドを生み出したもの
The Best Brands are Built on Great Stories.
素晴らしいブランドは素晴らしいストーリーにもとづいて作られる
—Ian Rowden, CMO, Virgin Group
今や世界のブランド価値ランキング第一位に君臨しているアップルもストーリーによって今の地位を築き上げたと言っても過言ではない。
創業者であるスティーブ・ジョブズが自身の役割を”マネージャー”ではなく、“Keeper of the Vision (ビジョンを保ち続ける者)”と呼ぶように、彼らはビジョンの共有を非常に大切にしている。
もちろん、MacやiPhone、iPodなど彼らの生み出してきた製品は機能的にもデザイン的にも非常にクオリティの高いものばかりだ。しかし、もしそれだけならば、SonyやSamsungなど他の競合達にも付け入る隙があったはずだ。
少なくとも新製品発売の何日も前からあそこまでの行列が生まれるようなことは無かっただろう。それも比較的不具合が多いとされているにも関わらずだ。
ここまでの“アップルブランド”を確立させたのは何かプラスアルファーがあったに違いない。それこそがストーリーなのだ。
MacもiPhoneもiPodも手段に過ぎない
”消費者が望んでいる売れる製品”を作るのは企業として当たり前のことだろう。アップルも例外ではない。
しかしそれだけではなく、彼らは製品を彼らの “Mission= 信念” を伝えるためのツールとして提供する。これは製品そのものを提供している他の競合とは大きな違いである。
彼らは売るためにMacやiPodを作ったというよりも、“伝えたいことを伝えるためにMacやiPodが必要だった” という言う方が適切なのかもしれない。
例えば、日本の企業をはじめとする他の競合が当時の消費者のニーズだった“軽くて持ち運びやすい音楽プレーヤー”を作っていた中、アップルは“重くて大きい音楽プレーヤー”を発売した。それも信じられないほど強気の価格設定で。これが初代iPodである。
詳しくは省略するが、アップルが“音楽を楽しんで欲しい”という想いを乗せたiPodは“重さ”も“値段”をも相手にすることなく、市場に受け入れられていった。この後の成功はみなさんも知るところだろう。
“ブランドとはストーリーそのものなのよ”
ルイ・ヴィトンやアップルだけではない。今多くの分野において現在ブランド価値が高い企業とそうでない企業の差別化を担っているのは製品ではなくそういった“ビジョンへの共感”や“価値観の共有”といった“ストーリー”の部分にこそあるのだ。
Starbucks
“To inspire and nurture the human spirit — One person, one cup, and one neighborhood at a time.”
人々の心を豊かで活力あるものにするためにーひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから。
Red Bull
“Red Bull Gives You Wings!”
のどが渇いたからじゃない。翼を手に入れるためにレッドブルを飲め。
NIKE
“JUST DO IT”
言い訳するな。とにかくやれ。
決してその製品の良さではない。彼らが提供するものは彼らの“Mission= 信念”である。コーヒーもエナジードリンクもランキングシューズもそれを伝える媒体でしかないのだ。
アップルでマーケティングを担当しスティーブ・ジョブズとも共に働いたAlessandra Ghini氏はこう語る。
It’s easy to fall into features and facts,
but Apple’s brand was about the story.
プロダクトの見た目や性能に目が行きがちだけど、
実はアップルのブランドとはストーリーそのものなのよ
ストーリーの作り方
「Why」こそがアイデンティティ
では現代のブランディングにおけるキーファクターであるストーリーとはどのように生み出されるのだろうか。それは「何を信じているのか・なぜその製品を作るのか」という「Why」の部分を確立させるところから始まる。
なぜならその「Why」こそがそのブランドのアイデンティティとなって消費者の心を掴み、彼らにとってその会社を「特別なもの」にするからだ。
「何を信じているのか・何を伝えたいのか・何をしたいのか」そんな質問によって浮き上がってくる「なぜそれを作るのか」という根源の価値観を掘り起こすことで「ストーリー」は浮かび上がってくるはずだ。
ストーリーをデザインするということ
しかし、「良い物を作れば自然と世の中に伝わる」なんてことが世界基準では起こりえないことと同じように「ストーリーによって確立されたアイデンティティによる素晴らしいビジョンは“勝手に”世の中に出回り“勝手に”消費者達の心に響いていく」なんてことはない。
つまり、どんな素晴らしいビジョンも消費者とシェア出来ていなければそこに価値が生まれることはないのだ。
世の中に発信した時に価値観を共有出来るようにするにはストーリーを消費者にわかりやすい形に変換する必要がある。それがストーリーを“デザイン”するということだ。
ストーリーデザインについてデザインコンサルティングファーム「Storymaker」のビヨルン・アイヒシュテッド氏は先日開催された「DESIGN for Innovation 2016」で「ストーリーは出汁と同様に、ユーザーが食べやすいように調理をする必要がある。
顧客やメディアが話したくなるストーリーにしなければならない。」と語っている。ストーリーを出汁に例えることでどんな“美味しい”ストーリーも世の中へと伝えられるようなものでなければ価値を持たないことを説明してくれた。
すべてのブランディングはアイデンティティの確立から始まる
まずは「Why」によって浮き上がってくる自らのアイデンティティを基にビジョンを確立させること。そしてそのビジョンに消費者が共感して、周りの人と共有したいと思わせる為にはどうしたらいいのか。
そんなことを考えることが現在のブランディングにおける最も重要なことだと言えるのではないだろうか。
Why → How → What
30年前までは「What」(何を)という機能や技術だけで価値を生み出せていた。
やがて「How」(どのように)というデザイン的な価値が重視され始め、現在では「Why」(なぜ) という“ストーリー”・“意味性”というところまで無いと、他の企業との差別化を図れず、コモディティ化していまい、ブランドとして消費者に認知されることは非常に難しくなって来ている。
世界でブランドとして成功するためには“共感”が必要不可欠な時代なのだ。
(参考:世界で最も有名なTEDプレゼンテーションの一つであるサイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すかもこのWhy → How → What の大切さを語っている。興味のある方はご覧になってみて欲しい。)
まとめ
「ひたすら良い物を作り続ける。」必要不可欠な精神であることには間違いない。しかし、それはブランドとして世界で成功するには最低条件でしかない。情報化社会によって国際間の距離がずっと近くなった現在において、武器が技術だけでは不十分だ。
もう一歩深掘りしてみて欲しい。
「あなたは素晴らしい技術を伝えるために製品を作るのですか?
それとも伝えたいことを伝えるためにその素晴らしい技術を使って製品作るのですか?」
これからはこんなたった1つの質問への答えがその製品に価値が帯びるかどうかを決めるのかもしれない。
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