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米国に進出したい企業、進出した企業が抱える悩みとその解決アプローチとは
強さ健在の米国市場
人口3億2,000万人(世界第3位)、0歳から64歳の人口が82.6%を占め(2022年)(日本は2023年6月現在、70.9%)、名目GDPランキングトップのアメリカ。既に多数の日系企業が進出しており、今後も事業拡大を狙っている(JETRO 2023年1月)。
米国での成功は世界での成功につながることは紛れもない事実であり、Btraxが日系企業の米国進出を支援してきたこと、これからも重点的に支援していきたい理由はここにある。
一方、虎視眈々と事業拡大を狙う世界の一流企業が米国市場にひしめきあっているのも事実。
日本でウケた商品やサービスでそのまま勝てるわけではないし、日本で「大企業」、「歴史ある企業」、であっても、米国市場での最初の位置づけはベンチャー企業のものと変わらないことを覚悟する必要がある。
米国に進出する日系企業が抱える悩み
さて、米国に進出したい企業や、既に進出している企業が抱える悩みとはどんなものであろうか。
ジェトロが2022年9月に実施したアンケート調査「2022年度海外進出日系企業実態調査(北米編)」では、経営上の課題は下記のようになっている。
新規顧客開拓につき、半数の企業が経営上の課題としているが、それに加え、従業員の賃金上昇・確保・質・定着に多くの企業が悩んでいることがわかる。
つまり、作る、運ぶ、といったサプライチェーン関連の悩みもありつつも、
- 「誰に」、「どうやったら」売れるのかわからない
- 現地に「良い人材」を集められない
というのが米国に進出する日系企業の抱える悩みの大きな要素であり、また、自身でのコントロールが非常に難しい部分であると言えるだろう。
そこで今回は、これらの悩みを解決するためのアプローチを探りたい。
よくある悩み① 「誰に」、「どうやったら」売れるのかわからない
米国進出をサポートする会社はこう伝えるだろう。
「まずは市場を入念に調べることが重要です。」
「それを自社でやるのは無理です。我々におまかせください。」
こう勧めるところもあるだろう。
「何ごとも数字で把握することが最重要です。」
「様々な切り口でデータを分析しましょう。」
既に多数の企業がこれらに取り組んでいるだろう中、なお、悩みとしてあがるのはなぜか。
米国市場の複雑性とダイバーシティ
日本市場と比べ、米国市場が複雑であることは、難しさの1要因としてあげられよう。
米国内では都市が違えば住む人の層や雰囲気、趣味趣向も異なる。
東海岸と西海岸を互いにおもしろおかしくディスるのは定番化しており、東海岸の消費者は非常にまじめ、ステイタスに固執し、より教育に熱心で、眼科関連の宣伝広告の反応が良い、また、白と黒が基調のシンプルなデザインが好まれる、等と分析されている。これに対し、西海岸の消費者は、ステイタスや古い世界のシステムへの関心が薄く、健康やフィットネスに熱心で、ピラティスやゴルフ、ダンスなどの広告の受けが良い、というような調査結果もある。
しかし、東と西とで分ければよいというレベルで済むほど事はそう単純ではない。人種・宗教は多種多様、米国で話されている言語は350と言われる。
身近な例をとりあげれば、食品の味の好みは人種や宗教によって全く異なるというのは何となく想像がつくだろう。所得や世代の差はもちろんのこと、同じ人種でも移民何代目なのかで置かれる環境が違ってきたりする。
これが、米国でマーケティング理論が確立され、マーケティングが重要視され続ける所以でもある。セグメント別に全く異なるニーズがある、という側面がある一方、異なる人種・消費者が集まっているからこそ、誰にでもわかる強いブランドが求められるという面もある。
米国ならではの常識や業界構造
生活習慣、好み・趣向が日本とは異なるのも、日本人が米国市場を理解しにくい原因である。
Freshtraxでは過去にも様々な切り口で、米国と日本の違いがわかるような記事 を発信しているが、例えば、ウェブサイトについては、日本では文字が多いのに対し、米国では写真・イメージ中心でないと見てくれない、という特徴がある。
また、例えば、住居事情に目を向ければ、アメリカ人には日本人の想像をはるかに超えた、理想の家へのこだわりがあり、ホームセンターは日本とはレベル違いに充実し、この市場は日本と比較し格段に大きい。
消費者への販売方法や卸を含めた業界構造も米国ならではのものがあり、これをしっかりと理解する必要がある。
例えば、米国では店内に丁寧な説明をしてくれる店員がいることは殆どなく、パッケージ自体に顧客とのコミュニケーションを担ってもらわなければならない。パッケージのデザインの良さや品質の高さが市場の戦いに直結する。
また、自前の営業マンでは米国の国土の広さをカバーするのは無理なので、歴史的に、セールスレップと言われる個人事業主をテリトリーごとに契約する、ということが主流(ここのところ直仕入れも多くなっているものの)であり、いかに優秀なセールスレップを見つけるかが事業拡大の肝となるケースもある。
他方、小売店に取り扱ってもらう大前提として、商品の良さよりも何よりも、決済や調達のインフラが十分に整っているかがバイヤーの意思決定の第一優先事項、ということも少なくない。
小売店に置いてもらうことの難易度の高さから、ECを活用しよう、となった場合、米国市場の特性を踏まえつつ、アマゾンや自社ウェブサイトをどう使い分けるか、インターネット広告やSNSをどう活用するか、というのが求められる。
営業チャネルを作ろうにも時間がかかって埒が明かないとなると、M&Aという案が出てくるが、これはこれでまた別なハードルが存在する。
移りゆく市場環境
そして米国に限らずではあるが、市場環境は、世代交代 、世相の変化、新しい技術の登場、と常に移り変わるので、戦略をアップデートしていかなければならない。
例えば、少し古い分析(2019年)ではあるが、日本と同様、米国の消費者は圧倒的に時間が足りなくなっている。また、近年、アフリカ系やアジア系、ネイティブアメリカンの人口が増え、その市場が拡大している。また、市場トレンドとして、ストイックすぎるエコやオーガニックへの反動が来ている、という声も聞かれる。
市場開拓の肝
米国で「新規顧客の開拓」という経営課題を克服するには、これらの要素を理解したうえでアクションをとっていく必要がある。
その前提としては、①米国に住むアメリカ人のリアルな肌感覚をとらえる ②調査の結果を自身・自社の肌感覚として定着させる の2つが重要だ。
アメリカ人の生活は紙の上での調査結果やネットリサーチ、数字だけではわからない。ビートラックスでは実際にサンプルとなる家庭を訪問し、その商品やサービスを使うシーンのみならず、1日の生活や家族全体を調査することがある。
すると、想定していなかった使い方やニーズが見えてきたり、深く知ることのできるチャンスが生まれたりする。
また、調査やプランニングを外部パートナーと共に実施し、成功裡に終わったとしよう。
それでも、自社の人材がその内容を肌感覚として真に身につけなければ、一時の自己満足で終わってしまう。結果につなげるには、日本の担当者や駐在員が市場調査や分析の結果を自らの血肉とする必要がある。
さらに、米国現地に優秀な人材を採用し、それらのメンバーが市場を理解し、ニーズにあわせた製品を開発し、販売戦略を更新していく、ということがポイントとなる。つまり、次項、2.の人材の話につながっていく。
よくある悩み②現地に「良い人材」を集められない
前述のJETROの調査結果では、多くの米国進出日系企業が経営課題として人材関連の悩みを挙げている。
- 従業員の賃金上昇(67.5%)
- 従業員(一般社員)の確保(51.4%)、従業員(技術者)の確保(39.4%)
- 従業員の質(42.7%)
- 従業員の定着率(40.2%)
そもそも応募者が少ない上、他社との競争が激しく、実務経験やスキルが十分な人材を獲得できないため、報酬を増やす、採用広告を増やす、などのコストをかけて対応をとっている。
しかし、せっかく採用しても、下記のようなカルチャーギャップもあり、早期に辞めてしまうケースが後を絶たない。
- 日本では、報告・連絡・相談を重視するが、米国の従業員はそれを知らない・慣れていない
- 日本では、「暗黙の了解」や、「空気を読む」、「おもてなしの精神」が前提としてあるが、米国の従業員にそれは通用しない
- 日系企業では、あまり褒めず、悪いところばかり指摘するようなカルチャーがある
このような状況に対しては、どのような施策が有効であろうか?
米国企業も人材定着化については悩みを抱えており、FORBESでは、下記の15の施策を挙げている。
- 給与水準を競争力あるレベルへ引き上げる
- 在宅勤務可とする
- フレキシブルな勤務スケジュールや時短を許可する
- ワークライフバランスを推奨・促進する
- 普段の貢献に対する感謝の意の表明や表彰
- 会社への帰属意識を高めるためのカルチャーづくり
- 従業員が会社を好きだと思えるような活動
- チームワークの強化
- 従業員が燃え尽きてしまうのを防ぐ活動
- 福利厚生制度の充実
- 特典の付与
- 成長機会・環境の提供
- カルチャーに合う人材の採用
- 社員が定着するような組織管理
- 辞めたいと従業員が言いだすタイミングや要素の把握
優秀な人材を採用し、引き留めるには、上記のような施策を一つ一つ積み重ね、総合的に解決していかなければならないのだが、ここで、特に注目したいのが、
6. 会社への帰属意識を高めるためのカルチャーづくり
7. 従業員が会社を好きだと思えるような活動
である。
これらは、日系企業が特に気づかなかったり、後手にまわったり、苦手に思う部分である。
ビートラックスは、シリコンバレーのカンパニーカルチャーの中で歴史を重ねてきたこともあり、ここを得意としているので、他記事も参照いただきたい。
さて、これらの人材定着化施策はもちろん重要であるし、やって行かなければならないのだが、限界もある。
スーパー営業マンが売上を劇的に改善してくれたとしよう。優秀な現地人材が商品をうまくカスタマイズし、一時的に事業が盛り上がったとしよう。しかしそれらの人材が競合他社に移籍してしまったらその隆盛はその時限りで終わってしまうかもしれない。
それを持続可能なものとするためには?
2つの悩みを根本的に解決するのはブランド力
ここまで米国に進出する日系企業の2つの悩みを見てきたが、根本的な解決に不可欠となるのが、当Freshtraxでも何度も取り上げている「ブランド力」である。これはBtoC企業に限った話では無く、BtoB企業にも言える。
米国は国土の広さから、営業ネットワークを構築するには非常に時間がかかり、また、だからこそECも発展している。
このような中で、小売店やECで継続的に売れるようにするためには、企業や商品、パッケージ、ウェブサイト、SNS、イベント、全ての営業活動・販売活動トータルでのブランド力が求められる。
米国で成功している日系企業は、ブランド認知度の強化に力を入れており、SNSをフル活用してミレニアル世代へのリーチを成功させている例や、ディーラー販売体制も巻き込んだブランドの確立ができている例などが見られる。
また、営業力というのは米国のビジネスにおいてはブランド力やマーケティング投資があってからこそ成立する。よって、優秀な営業人材は、ブランド力やマーケティング力が優れた会社に集まる。
営業に限らず、優秀な人材を確保し、定着させるためには、会社のブランドが不可欠である。
具体的には、会社のバリューやカルチャーを質・量ともに高いレベルで発信し続けること、マーケティングチームと密に連携し様々なアクティビティに落とし込むこと、採用の際に企業のストーリーをきちんと伝えること、等により、ブランド力を高めていく必要がある。
Google、Salesforce、Adobe、Microsoftなどは人材戦略のための企業ブランドを作り上げているお手本である。
ブランド力の強化や米国でのマーケティングの具体的手法については、別の記事で取り上げる。
ビートラックスでは、日系企業の米国でのブランド構築やマーケティングを企画・支援しており、今後もここをサポートすることで、米国、ひいてはグローバルでの事業拡大に寄与していきたい。
米国市場攻略のための詳細なアプローチを特集した続編もぜひお読みください。
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