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日本のアニメがアメリカで爆発的な人気を集める理由と事例3選
アメリカにおいて、アニメは絶大な人気を誇っている。
2022年7月にロサンゼルスにて開催されたAnime Expoでは、10万人を越える来場者が駆けつけ、非常に大規模なイベントとなっていた。
下のデータからも分かるように、アメリカのアニメ市場は急速に拡大中であり、2030年には500億ドル以上の収益が見込めるという。
その中でも、日本のアニメの輸出先としても、アメリカは大きな割合を占めている。
今回は、アメリカにおいて日本のアニメがどのように広まっているのかを、btraxが行ったユーザーインタビューと定量データをもとに、認知から定着までのフェーズに分けてまとめていく。
そして、2022年現在アメリカで人気を集める日本のアニメを3作品取り上げ、これらがどのようにアメリカで認知を獲得し、視聴され、人気を集めたのかを、最新の事例とともにご紹介する。
アメリカにおいて、どのように日本のアニメが広まるのか
では、アメリカにいる人がどのように日本のアニメを知り、広まるのだろうか。アニメが認知されてから定着するまでの順を追って解説する。
日本のアニメを認知する・興味をもつ
btraxの行ったユーザーインタビューによると、アメリカのアニメファンが日本の新しいアニメを知る主なきっかけは、SNSや友人からの口コミであるという声がが多かった。
アニメファンはアメリカのカートゥーンを幼い頃から視聴しているため、アニメに対しては馴染みがあるそうだ。
また、セーラームーン、ガンダム、ワンピースなど、日本のアニメは以前から人気のため、カートゥーンでなく日本風のアニメにも抵抗がないという。
日本のアニメを視聴する
アメリカでは動画配信サービスを通してアニメを閲覧するのが一般的だそうだ。主な視聴サービスはNetflix、crunchyroll、MyAnimeListだという。
特に、crunchyrollの会員は年々増加傾向にあり、2021年には500万人を突破したと言われている。
動画サービスでの日本のアニメの視聴を加速させる、コード・カッティングの拡大
「コード・カッティング(cord-cutting)」とは、ケーブル・衛星放送テレビの契約をやめ、インターネット経由の動画視聴を選択する消費者動向を指す言葉。
米調査会社 MoffettNathansonによると、2017 年第一四半期だけで、全米で 76万 2000 人がケーブル・通信会社のケーブル契約をコードカット。
その「コード・カッターズ(cord-cutters)」のうち大多数が、動画サービスの使用は継続する意向だという。(JETRO提供のデータ参照)
これらの動画配信サービスはアルゴリズムによってユーザーが過去に視聴した作品と類似した「ユーザーが興味がありそうな」アニメをレコメンドするパーソナライズ機能を備えている。
この機能により、1つのアニメを観たユーザーが、個人にレコメンドされた他の作品も次々と視聴していき、さまざまなアニメに触れることによって、アニメ全般に精通していく。
そのような観点から、動画配信サービスは、動画を視聴する目的だけではなく、新たなアニメを認知する場所でもあるといえる。
テレビを持たない選択をする人が増えることで動画サービスを使用する人が増加傾向にあること、そして動画サービスでアニメを視聴することが、アニメの認知拡大に繋がっているといえるだろう。
日本のアニメが拡散され、視聴者に定着する
では、日本のアニメはアメリカではどのように拡散され、一度獲得したファンを楽しませ続けるのだろうか。
その1つとして、インターネット上のユーザー同士のコミュニティ活動が挙げられる。
先のユーザーインタビューによると、Discord(アメリカ発のボイス・ビデオ・テキストコミュニケーションサービス)のサーバーでコミュニティを作り、同じアニメが好きな人同士で集まって配信時間にみんなで同時にアニメを視聴し、その後にストーリーの感想や考察を話し合うという文化ができているようだ。
新たな見方や考察などの意見交換を通して交流することで、アニメに対しての愛着がさらに増すのではないだろうか。
また、ポップアップストア、アニメのコラボストアや展示会も、ファンとなった人たちを楽しませ続けるための施策だ。
今回筆者が参加したANIME EXPOも、アニメの世界を体感できる展示や、人が入って楽しめるフォトブースなどが用意されていた。
このようにして、アメリカでの日本アニメの人気が拡大しているようだ。
2022年現在アメリカで人気を集める日本のアニメの事例3選
1. 僕のヒーローアカデミア(My Hero Academia)
『僕のヒーローアカデミア』は2016年に、日本での公開と同時にアメリカでも字幕版が配信されたアニメ。2020年には米国observerによる最も人気なテレビ番組ランキングで2位に選ばれている。
またTwitterでは、原題のローマ字表記「Boku No Hero Academia」を略した#bnha というタグが拡散されている。このことからも、日本のみならず海外でも人気なアニメであることが窺える。
アメリカで人気となったきっかけ
アメリカでは、MARVELシリーズを始めとしたヒーロー物の人気がすさまじい。
同アニメは、日本版スーパーヒーローとして話題になり、世代を問わず幅広い層に閲覧されているようだ。
また雰囲気もアメコミ風のタッチで、アメリカのアニメに慣れ親しんだユーザーにとっては馴染みやすい要因でもあるだろう。効果音に「BOOOM」「YEAHHHH」などの英語が含まれていることも印象的だ。
一方、アメリカで人気のアメコミと違う点もある。アメリカの作品はシリーズものが多く、シリーズの途中から視聴しても、キャラクターの背景が分からず理解が困難なことがある。
しかし同アニメは、全てのキャラクターが本作オリジナルで生み出されたものである。キャラクターやストーリーの事前情報を知っておく必要がないのだ。
そのため、観たいと思った時に、シリーズの一番最初から観始めなくても十分に楽しめるようになっている。
アメリカのアニメファンを取り込む施策
本作品は、2022年に米国ロサンゼルスで開催されたAnime Expoにも出典していた。
全日程を通してコレクティブカードゲームのブースを構え、来場者がカードゲームで対戦できる場を提供していた。
上記のように、好きなアニメの世界観に浸るという非日常的な体験を通じて、ファン同士の関わりの場を提供している。
この取り組みにより、公式によるアニメ配信のみならず、アニメがコミュニティによって自然と広まる流れをつくることができる。作品とファンのインタラクションを増加させることができているのではないかと考える。
2. 鬼滅の刃 (demon slayer)
次に紹介するのは2016年に発表された漫画から生まれた『鬼滅の刃』である。
アメリカでも日本での公開とほぼ同時に、Hulu、crunchyroll、Funimationで配信された。
アメリカでテレビ放送がされたのは2019年。さらに本作品は、crunchyrollの2020年のアワードで最優秀作品賞を受賞したことでも話題になっている。
また2020年に公開された劇場アニメ『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、2022年8月現在までに興行収入で404.3億円を記録。この人気は留まることを知らず、本作の原作者・吾峠呼世晴氏は、漫画家として初めて「TIME 100 Next 2021」に選ばれたほどである。
アメリカではR17指定をされているにも関わらず、ここまでの人気を集める今作には、どのような背景があるのだろうか。
アメリカで人気になったきっかけ
コロナ禍において人々は、知らず知らずのうちに「死」を意識せざるを得なくなり、不安や恐怖が高まっている。
そこで、同アニメの主人公が困難に立ち向かう様子が、パンデミック中に喪失感や苦しみを抱える人々の心に強く響いたと考えられる。(参考)
アメリカのアニメファンを取り込む施策
認知拡大の施策の一つとして、ロサンゼルスのLittle Tokyoでラッピング電車を走らせて認知拡大を図っている。
Little Tokyoはアメリカ人にとっては「日本」を感じる観光地であり、日本文化が好きな人が自然と集まってくる場所であると考えられる。まさにアニメを認知してもらいたいターゲットの層が集まっている土地ともいえる。
その場所で、アニメの絵が大きく描かれた電車を走らせるという大胆なプロモーションを行うことは、ターゲットにインパクトを残し、認知を獲得できる施策だと考えられる。
Spotted in Los Angeles… 👀 #MugenTrain
Demon Slayer -Kimetsu no Yaiba- The Movie: Mugen Train is in theaters now! 🚂
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— Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba (English) (@DemonSlayerUSA) April 24, 2021
また公式のグッズサイトでは、キャラクターのフィギュアやアパレル用品に加え、お面や剣といったユニークな商品も販売されている。
これらの展開の広さは、アメリカのコスプレ文化にも通ずるところがあるようだ。
実はアメリカのコスプレイヤーは、コスプレを「コミュニケーションの一環」として楽しんでいることが多い。
コスプレをした自分の姿が、どれだけ本家のキャラクターを再現できているか、という完成度よりも、好きなキャラクターの衣装を着て、同じキャラクターや作品が好きな友達と出会ったり、その作品やそのコスプレについて話したりすることがとても楽しい、というモチベーションなのだ。(参考)
彼らにとって、カジュアルに着られるTシャツやジャケットは、自分の好みを手軽に表現できる嬉しいアイテムかもしれない。
3. SPY×FAMILY
最後にご紹介するのはSPY×FAMILYである。2022年4月、日本と同時にアメリカでも配信された本作品は、配信開始直後から話題となった。
6月には、アニメサイトMyAnimeListにて10位以内にランクインし、好調な滑り出しを記録した。
アメリカで人気になったきっかけ
『SPY×FAMILY』が人気である要因として、アメリカではコメディアニメが依然として人気を誇っているという背景がある。
個性的なキャラクターの言動には、スパイ一家というシチュエーションにはそぐわない、くすっと笑える要素がふんだんに含まれている。
それに加え、このアニメ独自の特徴であるアニメの「ほのぼの感」も本作品の特徴だ。
観る人を選ばない日常型のストーリーが人気を博し、癒し系アニメとして瞬く間に広まった。過激な表現や描写もコミカルに描かれており、幅広い年代が安心して視聴を楽しめるようになっている。
登場人物であるアーニャの過去の出来事と絡めて展開していくストーリーの奥深さと、表情豊かで象徴的なキャラクター、アーニャの描写も、アニメファンからの人気を獲得する一因となっているのかもしれない。
さらにその日常感とスパイものという掛け算は、今までにない切り口として注目を集める要因の一つだろう。
アメリカのアニメファンを取り込む施策
『SPY×FAMILY』がアメリカで爆発的な人気を獲得し、アニメファンを取り込む戦略の一つとして、ファンアートを公式に推進していることが挙げられる。ファンアートとは、既存の作品を元に描かれた二次創作物のことだ。
日本では著作権を侵害する行為としてグレーゾーンと認識されており、「黙認」されているケースが多いのが現状である。
それに対し同アニメは、公式自らがファンアートのコンテストを開催するなど、非商用でのファンアートを積極的に推進している。
2022年4月にはアニメ放送に合わせ、pixiv上でSPY×FAMILYのファンアート特集が開催されるなど、大々的なキャンペーンも実施されている。
公式Twitterで、キャラクターの塗り絵画像を配布していることからも、アニメ画像の著作権保護に走るのではなく、むしろ二次創作を促すような寛容な姿勢をとっていることが分かる。
これらの取組により、ファン同士の間での情報拡散を促進しているのだ。
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筆者が7月にロサンゼルスで開催されたAnime Expoに参加した際にも、アニメの公開から2ヶ月しか経っていないにもかかわらず、数多くのクリエイターによる、同アニメの二次創作の作品を目にした。
まとめ
本記事では、2022年現在のアメリカのアニメ文化と共に、アメリカで人気を集めている3つの日本のアニメが、アメリカ市場で認知を獲得し、爆発的な人気を獲得した理由を考察した。
上記の事例から見えてきた、現代のアニメ文化におけるトレンドには以下のようなものが挙げられるだろう。
コロナ禍の人々に共鳴するようなストーリー
絶望感や苦しみを抱える人々に対して、アニメが慰め、癒し、勇気などのポジティブな感情を引き起こしている。
配信サービスの発展
本場である日本と同時にアニメを視聴同じタイミングで盛り上がれることで、日本にいるかのような臨場感を味わうことができる。多数の動画配信プラットフォームがアニメの配信に力を入れていることで、従来よりも試聴できるアニメのコンテンツの幅が広がっている。
ファンコミュニティによるコンテンツの拡散効果
- 僕のヒーローアカデミア:体験型のエンターテインメントによってユーザーを巻き込む
- 鬼滅の刃:大規模なオフラインのプロモーションや、コスプレをする人の心理をくすぐるグッズを展開する
- SPY×FAMILY:二次創作のシェアを通じたファンコミュニティの広がりを重視する
以上のようにアメリカにおいては、地域や時間、情報、さらに情勢の隔たりが薄れ、日本アニメをより身近に感じられる条件が揃っているようだ。
今までは、アメリカから英語字幕/吹き替え付きで視聴できるアニメも、それらに関する情報も限られていただろう。
しかしインターネットやSNSの普及により、環境的制約が取り除かれてきている。そのため今後のアニメ文化においては、ストーリーやキャラクター設定といった、作品の本来の価値がより重要視されると考えられる。
またアニメの視聴に留まらず、その先のグッズ展開やファンコミュニティの醸成なども、アメリカでの展開を考える上では重要なポイントとなっていくだろう。
Written by: Miyu Okubo