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もはやデザイナーは職種ではなくマインドセット 〜デザイナーのマインドセットとは〜
「シリコンバレーはすでに地域の名前ではなく、マインドセットである」これはシリコンバレーの著名VCであるAndreessen HorowitzのMarc Andreessenによるもの。今までに無い新しいアイディアを元に同じ情熱をもった仲間を集め,プロダクトを作成し、その夢に賭ける。
最近ではこの考えは、この地域以外にも世界中に広がり、”シリコンバレー的な考え方”として認知されている。
参考: シリコンバレーはただの場所ではなく、マインド(とコミュニティ)である
We are all designers
これに近い考え方がここ数年でデザイナーにも広がっていると思う。我がビートラックスのコアバリューの一つに”We are all designers“がある。これは文字通り、”我々は皆デザイナーである“の意味。
しかし、普通に考えて社員全員がデザイナーの会社などあり得ない。
経営者を始めとして,総務や経理など、いわゆる”デザイナー職”以外の役職が必ず必要であるからだ。”We are all designers”に込めたメッセージは、”皆デザイナー職”ではなく”皆デザイナー的マインドセットをもった人々”である。
これは、「たとえあなたがデザイナー職としてこの会社で働いていなかったとしても、デザイナー的マインドセットをもっていればデザイナーなのですよ」の意味。
アメリカでは例えプロではなくても何らかのかたちで音楽を演奏する人を”Musician”と呼ぶ感覚に近い。
ところで”デザイン”って何?
ではなぜそんなに”デザイン”や”デザイナー”という言葉をもてはやすのか?そもそも”デザイン”にはどのような意味が含まれているのであろうか?
恐らくその定義は時代と共に大きく変化し、最近では見た目を美しくする役割のDesignからデザイン思考を活用してビジネスやプロダクト領域までを大きくカバーする広義のDESIGNにその定義が広がっている。
DESIGNとは問題解決を行なうためのメソッドであり、ユーザー視点から”どう見えるか”よりも”どう機能するか”を主軸したプロセスである。
そう。デザインは結果的アウトプットよりもそのプロセスに比重がおかれるべきである。
で、デザイナーの仕事って?
このようにデザインの定義が時代と共に広がっている事に対して、おのずとデザイナーの仕事内容と守備範囲も大きく変化しており、最近ではデザイナーではない役職の人達にもデザイン的感覚や考え方が求められ始めている。
主なデザイナー職
世の中には異なるデザイナー職があるが、簡単に思いつくものだけでも下記の役職名が挙げられる。
- Graphic Designer
- Web Designer
- Fashion Designer
- Product Designer
- Automotive Designer
- UI Designer
- Service Designer
- UX Designer
時代と共に変化するデザイナーの役割
そして、これらのデザイナー職であるが、時代の変化に合わせてカバーするべき領域がどんどん変化する。
今まではプロダクトなどの見た目をデザインする事から、そのプロダクトの魅力をユーザーに伝える為のデザイン的役割、そしてこれからはビジネス全体にデザイン的思考を活用するDesign Thinkingの領域までデザイナーの役割が広がり、この時点で既に”デザイナー職”の域を超えている。
- design 見た目の中心デザイン
- Design デジタル時代のデザイン
- DESIGN ビジネス向けデザイン的思考
全ての役職は2つの要素で構成される
そもそもデザイナー職とは主に下記の2つの要素で構成され、これは全ての仕事・役職にも共通である。
1. コアスキル:
レイアウト、タイポグラフィー、カラーから、Figma, Illustrator, Photoshopの活用などのデザイン作業を行なう事に必要な技術
2. マインドセット:
問題解決に対するアプローチにおけるデザイナー的な考え方
上記のうち、2番目は今後どのような役職にも活用可能であろう。これからはデザイナーとしてのコアスキルが無くても、デザイナー的マインドセットが必要とされる。
エンジニアにもデザインマインドが必要とされる
デザイナー的マインドセットはビジネスサイドだけではなく、エンジニアにも大きなメリットがある。プロダクトを作成する際に最初から顧客視点で正しいユーザー体験を提供する事ができれば、デザイナーとのコラボレーションもよりスムーズに進み、時間の短縮とクオリティ向上に繋がる。
そして何よりも、他のチームメンバーとのコミュニケーションがより円滑に進むことで,職場のストレスが減る。
Design-orientedな会社の台頭
最近サンフランシスコでは、この「デザイナーではなくても、デザイナー的感覚=マインドセットを持つ事が重要」という考え方はがスタートアップ界隈でも大きなトレンドとなっている。
実は世の中で話題になっているスタートアップのその多くが、”Design-oriented”な会社なのである。
Design-orientedな会社とは、会社の経営からプロダクトの開発に至るまで、”デザイナー”的感覚を中心に行なうという考え方。Steve Jobsは厳密にはデザイナーではないが、デザイナー的感覚を武器に、見た目や体験に至るまで細部にこだわり、Appleを成功に導いた。
同様に、TwitterとSquareのCEOであるJack Dorseyもデザイナー的感覚を最も重要視し、シンプルで優れた体験を提供するプロダクトをプロデュース。そのデザイン的なカルチャーで知られるAirbnb社のBrian Cheskyもデザインバックグラウンドを持つCEOとして注目されている。
彼らに共通するのは現在には存在しない”未来”を作り出す人々 (=デザイナー) であるという事。
上記の彼らに加え、Pinterest, Dropbox, Slackなど、デザインバックグラウンドを持つファウンダーを中心に、デザイナー的観点からビジネスを進めるDesign-orientedな会社の活躍が目立つ。
デザイナー的マインドセットって何
では、これまでに何度も出て来ている”デザイナー的マインドセット”の実態は何であろうか?感覚的には下記の要素になるだろう。
デザイナー的考え方
- クリアにコミュニケーションを行なう
- 正しいものを正しいところに
- 自由な発想からスタート
- 制限をクリエイティブの源に
- 顧客/ユーザー視点で考える
- 仮説 > コンセプト > プロトタイプ > 検証 > 改善のプロセス
- 失敗から学ぶ
- 心地よさを優先する
- ロジックと感覚の両方を活用
- 分かりやすく使いやすくを優先
- Less is more
- 相手の気持ちを理解する
この逆にこれまでのビジネス的な考え方は下記の感じになる。
ビジネス的考え方
- ロジカルで構造的
- 具体的な計画が立たない事業は進めない
- 感覚よりも分析中心
- 解決するべき問題が仮説ではなく明確になっている
- トラブルや制限を嫌う
- ビジネス視点で考える
- 分析 > 決定のプロセス
- 失敗やミスは許されない
- 機能やスペック重視
- 過去のケーススタディーから学ぶ
- 既存のマーケットの状況を重要視
- More is good
- 数字で得られる結果にフォーカスする
ビジネス的アプローチからデザイナー的アプローチへ
ビジネスにおいては全てがデザイン的にも出来るしその逆もあり得る。しかし上記のスタートアップの活躍を考えてみても、今後はデザイナー的感覚をビジネスに活用するべき理由は明白である。
その大きな理由としては、時代の変化が激しすぎて、既存のマーケットの状況や過去のケーススタディーからのデータ分析だけではこれからの顧客が求めるニーズが割り出せないからであろう。
今後ヒットするプロダクトを作るには、徹底的なユーザー分析を行い、未来予想を元に速いスピードでのプロダクトアウト&改善が不可欠であるからだ。
その点においても今後、デザイナーに求められる領域がどんどん広がり、ビジネスにおけるデザインの重要性も拡大する中で、今後は”デザイナー”とはデザイナー職以外の人にも必要なマインドセットとなる。
これからのデザイナーに不可欠なのは、ユーザーニーズの理解、そこから導きだされる仮説、コンセプト作成、検証、改善のプロセスを通じた未来を作り出す役割。
むしろ、ある意味で世の中で”デザイナー”と呼ばれている”絵を描くだけのデザイナー”はむしろこれからはデザイナーでは無くなるのかもしれない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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