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なぜ優秀なデザイナーでも酷いデザインを生み出してしまうのか?
日常生活において「なんでこんなデザインにしちゃったんだろう?」と感じることが意外と多い。
誰がどう見たって醜いルックス、どうしたって使いにくい操作性、非常に心地悪い体験、などなど。もっと良いデザイナーにデザインさせろよ!と思うかもしれない。でも、もしかしたら原因は他にある可能性も。
優秀なデザイナー ≠ 優れたアウトプット
優れたデザイナーに頼めば、必ず優れたデザインをしてもらえるのか?答えはNo。むしろどんな優秀なデザイナーであっても、低いアウトプットのクオリティーが低いものになってしまうこともある。
そして、その理由はデザイナーのスキル以外にあったりする。これは、イコール優秀なデザイナーさえ雇えばクオリティーの高い結果が出るわけではないということでもある。
■ 醜いデザインが生み出されてしまう主な理由■
- 事前に十分なインプットが得られていない
- 間違った期待値設定
- クライアントや担当者に対して間違った質問をしている
- 民主主義の決定プロセス
- PM主体のプロジェクトプロセス
- フィードバックではなく承認を求め始める
- 身の丈に合わないプロダクトスペック
- チームメンバーの主観だけで決めてしまう
- 全体のUXよりも見た目のデザインを優先してしまう
- 長期的なUXゴールよりも短期的な結果を優先してしまう
- 組織が分断されている
- デザイナースキルのミスマッチ
- 心理的安全性が担保されていない
- 多様性の低いチームメンバー構成
求めるデザインの仮説を立て、リサーチを行い、ユーザーとの対話もし、チェックポイントごとに関係各所と綿密な確認も行なった。その後、QAをして、リリースまで漕ぎ着けた。
しかし、完成したものを見てみると、なぜか微妙な結果になっている。そのような事例は後を絶たない。これは、デザイナーの能力に問題があったのではなく、多くの場合、組織構造、プロセスや期待値設定など、複合的な理由であることがほとんど。
より良い結果を望むのであれば、デザイナーの方々だけでなく、社内でも、社外でも、デザイナーと仕事をする方々にもぜひ覚えておきたい落とし穴をいくつか紹介する。
事前に十分なインプットが得られていない
これは、デザイン会社とクライアントとのプロジェクトで生まれやすい落とし穴。
本来はプロジェクトをスタートする時点で、クライアント側からプロジェクトの目的やゴールなど、の入念なインプットに十分な時間を費やすべきなのであるが、どうしても忙しい、納期がきつい、めんどくさい、などの理由で、いきなりデザイン作業に移行してしまうことがある。この“見切り発車”が大きな落とし穴。
そうなると、しばらくしてから出来上がった物がクライアントが想定していた目的に準じていない感じになってしまう。
我々、btraxでは、プロジェクトの開始時の1-2週間を”ディスカバリーフェーズ”と名付けた、情報共有と信頼関係構築のための期間に充てる。そうすることで、結果的に時間とコストの短縮につながる。
典型的な結果例: クライアントから発注内容と異なるというクレームが出る
間違った期待値設定
デザインが課題の解決や目的達成のための手段だとするならば、まず最初のゴールや期待値の設定がとても重要になってくる。
しかし、多くの場合その時点で既にズレが生じている。多くの場合は、当初設定していた期待値よりも、より多くのことを求めすぎる傾向がある。
例えば、ECサイトのチェックアウト機能の改善という目標に対して、リピート顧客がよりスムーズに買い物ができるようにするために、ステップを減らす、というゴール設定をしたとする。
しかし、それがいつの間にか「ユーザーの買い物体験の向上」といった、壮大なるテーマにすり替わり、デザインフォーカスがぶれ始める。
その結果、本当に何を達成すべきかを見失い始め、当初設定していたゴール達成が難しくなってくる。これは、多くの場合、プロジェクトリーダーが上司の顔を気にしすぎることで、欲張りになってしまっているのが原因だ。
典型的な結果例: 何をするにも使いにくいデザイン、構成要素が多すぎて分かりにくい
クライアントや担当者に対して間違った質問をしている
デザイナーが最もしてはいけない質問は「こんな感じでどうでしょうか?」だろう。この質問をした瞬間に、そのデザインに対する主導権は相手に渡ってしまい、デザイナーの仕事は一気に言われたことだけをやる、オペレーターになってしまう。
そして、最悪なことに、その時点からデザインのことがよくわからない素人が、個人的な感覚で指示を出し始める。
そこにデザイナーとしてのアイディアを提案する余地は残されていない。そうなってくると、その後はデザインのクオリティーがどんどん劣化してしまうだけだ。
以前に先輩のデザイナーから受けた最も重要なアドバイスの1つが「デザインプレゼンの際にはデザインの話をするな」だった。
この狙いは、そのデザインが解決するべき課題や、目的、経営的ゴール、プロダクトのビジョンなどにフォーカスを当てることで、デザインを”目的”ではなく、あくまで”手段”として客観的に捉えるようにすることだ。
その目的も考慮せずに、ボタンの色は青が良いか、赤が良いか、のような議論が始まったとしたら要注意である。
典型的な結果例: デザイン理論的にもトンチンカンなアウトプット
民主主義の決定プロセス
優れたデザインを世の中に出すことよりも、プロジェクトメンバーや上司の顔色を伺うことを優先したプロダクトは必ず失敗する。例えば、Appleの製品のその多くが、機能面でかなり”削られた”ものであるケースが多い。
それは、iPhoneの物理的ボタンの数や、Macbookのポートの数を見てもわかる。これがもし、プロジェクト参加メンバーみんなの合意を得るプロセスであったとしたら、あのようなプロダクトは生まれない。
また、SONYのウォークマンのような、新しい価値を生み出すプロダクトは、熱狂的なリーダーの一存で決まっていくことも多い。この辺は議論やぶつかりを避ける傾向にある日本企業にとっては大きなハンデとなっている。
典型的な結果例: つまらないデザイン、機能てんこ盛りのプロダクト
PM主体のプロジェクトプロセス
ユーザーのと対話がデザインプロセスの中で最も重要なポイントであるのであれば、デザイナー自身がエンドユーザーとの対話ができていないのに優れたデザインを生み出すのは、ほぼ不可能に近いだろう。
しかし、多くの場合は、プロジェクト担当者やPMの方が表に立ち、デザイナーはあくまで”裏方”として仕事を進めていく。ここにプロセス的に大きな問題が潜んでいる。
デザイナー自身が直接ユーザーとの対話ができないことでモチベーションが下がり、デザインのオーナーシップが失われる。そして、その後はデザイナーとPMとの伝言ゲームが始まり、負のスパイラルに陥る。
加えて、デザイナーは最終的なビジネスゴールを理解するのが難しくなり、見た目のデザインだけに終始してしまう現象が発生する。
典型的な結果例: 見た目のクオリティーは悪くないが、妙に使いにくいUX
フィードバックではなく承認を求め始める
プロジェクトにおける定期的なチェックポイントでは、主にフィードバックとディスカッションに時間を費やすべきなのであるが、チーム内、およびデザイン会社とクライアントの間でフラットな信頼関係が構築されていない場合、どうしても、承認を得るのが目的になってしまい、ミーティングの内容も「これで進めて良いでしょうか」に終始してしまう。
このプロセスに巻き込まれると、承認を得るために、決定権のある人の顔色ばかりを伺ってしまい、デザイナーのスキル以上のアウトプットを出すことが不可能になる。
典型的な結果例: とてもダサいデザイン
身の丈に合わないプロダクトスペック
サイトやサービス、プロダクトを考える際には、リリースした後の状態も考慮して設計をする必要がある。と言うのも、あれもこれも含めてしまって、リリース後にコンテンツが間に合わないケースが多発しているからだ。
例えば、更新頻度がめっちゃ低いブログや、表記項目だけあって、中身が空っぽのECページなど、明らかにリリース後の運用フェーズを想定せずにデザインされていることが意外と多い。また、リソースの足りなさから、箱は作ったものの、中身が空っぽの状態でユーザーに届けられる。
そうなると「これ、誰が責任持ってアップデートしていくの?」という質問が公開後にされ、短時間でサービス終了に追い込まれるケースも少なくない。
典型的な結果例: UIは美しいが、コンテンツが空っぽのアプリ
チームメンバーの主観だけで決めてしまう
優れたデザインプロセスには、ユーザーとの対話が不可欠である。しかし、現実はそれを行っていない場合の方が多いだろう。
なぜなら、デザイナーを含めた、プロジェクトチームのメンバーの直感で多くのことが決められるからだ。人間は視覚で物事を判断しやすく、ことビジュアルデザインに関しては、エンドユーザーでなくとも、意見が言いやすい。
それが上司なのか、クライアントなのか、製作者なのかはケースによって異なるだろうが、想定される利用者からのフィードバックを得ずにデザインされたプロダクトのクオリティーはどうしても低くなってしまいがちである。
典型的な結果例: 説明してもらわないと意図が伝わりにくいプロダクト
全体のUXよりも見た目のデザインを優先してしまう
これは、昔からの叩き上げや、アーティスト気質のデザイナーが陥りやすいトラップ。本来、プロダクトやサービスにおけるデザインクオリティーを考えた場合、総合的なユーザー体験が最も優先されるべきである。
しかし、目先のビジュアルクオリティーにこだわりすぎたがために、利用した際に、使いにくい、心地悪いUXになってしまうこともある。
このポイントにおけるもう1つの弊害は、デザインした内容が技術的に実現不可能であるケース。見た目にこだわりすぎて、実際にどのようなテクノロジーを活用して”動かす”かを見落としているために、総合的なUXが全く実現されなくなる。
典型的な結果例: 全てが画像になっているサイト
長期的なUXゴールよりも短期的な結果を優先してしまう
ビジネス的な結果を重視するのは良いのだが、短期的な結果を求めすぎるが故に、長期的なユーザー体験が犠牲になる。そして、最終的にはブランド価値の低下を招き、顧客離れが起こってしまう。
例えば、短期的な売り上げや問い合わせを増やすことに気が取られすぎると、サイトに余計なポップアップバナーやキャンペーン広告がどんどん表示されたり、連日割引メールが届いたりする。短期の売り上げ目標を達成し、予算獲得をしたいのはわかるが、長期的には絶対的にマイナスなイメージしか残らない。
典型的な結果例: 売り上げ重視が丸見えの使いにくいサイト
組織が分断されている
多くの現代企業における大きな問題の1つが、組織の分断だろう。戦略、マーケティング、企画、エンジニアリング、などそれぞれの役割のチーム間にギャップができてしまうと、ユーザーにとって使いにくいプロダクトや体験が生み出される。優れたデザインを求めるのであれば、相互が重なり合う、”クロスファンクショナル”なチームが理想とされる。
お互いがお互いの領域を理解しながらも、自分たちの専門分野をカバーすることで、一貫したユーザー体験を生み出すことができると考えられている。
典型的な結果例: 一貫性の無い体験、低いユーザービリティー
デザイナースキルのミスマッチ
そもそも、”優秀なデザイナー” という概念自体がナンセンス。それぞれのデザイナーには得意な範囲や、媒体、スタイルがあり、どんなプロジェクトに対しても良い結果を出すことのできるデザイナーは皆無だろう。
加えて、今の時代は、グラフィック、Web、イラスト、UI、UX、サービスデザイン、ビジネスデザイン、などデザイナーが関わる範囲が無限大に広がっており、一人のデザイナーが全てのエリアで貢献するのはほぼほぼ不可能である。
これは医者に例えると分かりやすい。一言で”医者”と言っても、内科、外科、精神科など、異なる症状に対して、そこにエキスパートがいる。何事も適材適所が重要だ。
逆に考えると、デザイナーとしては、自分の得意な領域とスタイルを集解と理解し、そのスキルセットに合致した役割を与えてもらえるプロジェクトに関わらないと大怪我をしてしまう。
典型的な結果例: フレキシブルになっていないUI、ずれた色やレイアウト、タイポグラフィーの詰めが甘いパンフレット
心理的安全性が担保されていない
優れたデザインを生み出すには、ディスカッションをする時点で、異なる役割の人から多種多様なアイディアを出すことから始める。その際には、”Yes, &”と呼ばれる、相手の意見を否定せずに、よりそれを良くする助言をする姿勢が良いとされる。
そうすることで、どんな肩書きや役職の人であっても、否定されることを怖がらずに発言ができる安心感が得られる。
これを心理的安全性の担保されている状態と呼び、Googleが行った調査によると、パフォーマンスの高いチームに共通していたポイントだという。相手の反応が怖くてクレイジーなアイディアが出せないチームは、面白いプロダクトが作り出せない、と解釈しても良いだろう。
典型的な結果例: どこかで見たことのある平凡なプロダクト
多様性の低いチームメンバー構成
デジタルテクノロジーが進んだ現代においては、ユーザーを特定することは非常に難しくなってきている。それを逆手に取れば、世界中の多くの人たちに使ってもらうことが可能で、様々なニッチなニーズに対応する事でヒットを生み出すことも可能になってきた。
その一方、作る側の多様性が低いと、異なる世代、性別、収入、カルチャー、生活様式のユーザーが求める体験に共感するのが難しくなってくる。
例えば、日本人だけのチームの場合、一昔前の自動車や家電といったユニバーサルな商品には強かったが、多様性の高くなった現代のニーズに対応するのは非常に難易度が高くなってきている。
この点も、シリコンバレーやシンガポールといった、他民族で構成される地域の地の利となっている。
典型的な結果例: 国内ユーザーにしか使ってもらえないサービス
■デザインクオリティーを向上させるための5つのポイント■
では、上記のような落とし穴にはまらないためにはどのような方法があるのだろうか?今回は考えられる5つのポイントにまとめてみた。
納品型プロセスからの脱却
常にバージョンアップが求められる今の時代のデザインプロセスにおいては、受発注、納品のプロセスは全く合っていない。デザイン会社やデザインチームは、たのメンバーと文字通り1つのチームとして動く必要がある。
工数管理主義から抜け出す
一般的なプロマネのプロセスでは、タスクを作りスケジュールを管理する。
しかし、デザイナーなどのクリエイティブな仕事は、タスクや工数で換算、管理するのには向いていない。デザインがタスクになった瞬間にモチベーションが下がってしまう。より自由で流動的な仕事の仕方を見つける必要がある。
言葉だけではなく、ビジュアルでやりとりをする
デザインを言葉で伝えるのは非常に難易度が高い。特にUXデザインのフィールドになってくると、何がどうなってこうなります、という言葉の説明では、何がなんだかわからない。
btraxでも、最初のディスカッションの時点で、ビジュアルファシリテーションと呼ばれる、ホワイトボードになっている壁に絵を描きながら、言語以上の理解ができるプロセスを採用している。
デザイナーを積極的に意思決定に参加させる
これまでの問題点の多くが、デザイナーがオーナーシップを持てていないことに原因がある。デザイナーではなく、むしろPMやプロジェクト主任などが決定権を持ちすぎているが故に、いつの間にかデザイナーは彼らに喜んでもらえるのような仕事の進め方をしてしまう。
最低でもデザイナー自身が決定権を持っていなくとも、意思決定のプロセスに含む必要があるだろう。
経営会議で必ずデザインの話をする
そして、最もおすすめなのが、経営会議で何かしらデザインの話をすることを議題に含む方法。どうしても経営会議の場合、営業戦略や数字的な事柄に終始しがちで、無理やりでもない限り、デザインの話が出てこない。
一番良いのが、経営陣にデザイン出身の人がいることであるが、そうでなくても、議題にデザイン的な内容を入れるだけでも、デザインを経営戦略の1つとして認識できるようになると思われる。
デザインの良し悪しはデザイナーの手だけにかかっていると思っては大間違いだ。ここまで述べてきたことは、経営やチームの構造、クライアントを含めたプロジェクトメンバー内でのコミュニケーションなど、プロジェクトに関わる人全員が意識すべきことだ。
btraxでは、デザイン思考を活用したワークショップを提供している。デザインのマインドセットを身につけたいとお考えの方は、ぜひこちらからお問い合わせください。
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