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「デザイン経営宣言」とは 単なる宣言で終わらせないための3つのこと
Freshtraxの読者の方であればすでにご存知かもしれないが、先日経済産業省と特許庁が主催する「産業競争⼒とデザインを考える研究会」から「デザイン経営」宣言という報告書が出されて話題になっている。
参考:「デザイン経営」宣言、経済産業省・特許庁、産業競争⼒とデザインを考える研究会
btraxでも以前からデザインと経営を融合する重要性についてFreshtraxやセミナーなどを通じて訴えてきたが、特許庁では自ら省内にデザイン統括責任者(CDO)を設置してデザイン経営に取り組んでいこうという動きも始めているようで、いよいよ国を挙げて日本全体で取り組んでいこうという潮流が出てきたようで感無量である。
今回は「デザイン経営」宣言の内容をbtraxの視点で解説するとともに、どうしたらデザイン×経営を融合させることができるのか、そのポイントを3つ提言したい。
「デザイン経営」とは?
「デザイン経営」宣言の中身を見てみると、下記のように定義されている。
デザイン経営とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです。
(経済産業省HPより)
ブランド力向上とイノベーション力向上
「デザイン経営」の効果として、”ブランド力向上+イノベーション力向上=企業の競争力の向上”と定義しており、ブランド構築に資するデザイン(Design for Branding)とイノベーションに資するデザイン(Design for Innovation)の二つの要素に分解して定義しているところが興味深い。
昨年btraxが開催した『DESIGN for Innovation』に登壇したFrog DesignのTimothy Moreyは、「Business Value of Design」として5つの価値を挙げている。
- Speed To Market 〜より早く市場の機会を捉えることができる〜
- Market Reach 〜自社商品・サービスの市場規模の拡大に繋がる〜
- Engagement & Loyalty 〜より深い顧客ロイヤリティを獲得できる〜
- Internal Capability Development 〜組織のイノベーション能力を高める〜
- Visionary Transformation 〜これまで築いてきたものをぶち壊し自己変革を促す〜
今回の宣言はまさに、このTimothyの挙げる価値を日本全体で追求していこうと言っているのに等しい。
例えば3のEngagement & Loyaltyではユーザー視点でカスタマーエクスペリエンスにフォーカスすることで顧客エンゲージメントや顧客ロイヤリティを向上させていくことを謳っているが、これはまさにブランド力向上に直結する価値だと考えられる。
またイノベーション向上につながる価値は1のSpeed To Marketと2のMarket Reachが挙げられる。
プロトタイプなどのデザインツールを活用することで新しいビジネス機会の検証を素早く行い、その後フォーカスグループインタビューなどの手法によりユーザーの潜在的なニーズを掘り下げることでこれまでにない市場機会の発見に繋げる。
リーン型の手法やデザイン思考などの考え方が広まっていることからもわかるように、これらは新規サービスの開発においては欠かせないアプローチになっている。
さらに、4のInternal Capability Developmentではデザインの力で組織のイノベーション能力の開発を促し、5のVisionary Transformationでは商品・サービスだけでなく組織自身も変革して進化していくことを謳っており、これらはまさに組織レベルにおけるイノベーション力の向上であり、企業の競争力向上に繋がる価値だと言える。
発明とイノベーションをつなぐデザイン
また、これまで「イノベーション=技術革新」と翻訳されてきたことに対して、「革新的な技術を開発するだけでイノベーションが起きるのではなく、社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付けること、すなわちデザインが介在してはじめてイノベーションが実現する」としている点もとても共感できる。
つまり、これまで「技術起点」:企業のシーズ起点のアプローチが主流であったのが、「社会価値起点」:ユーザーや顧客、社会がまだ気付いていない潜在的な要望を掘り起しその解決へ向けてイノベーションを興していくアプローチの重要性がいよいよ高まってきたということだ。
日本の産業においてデザインがその間を繋ぐ架け橋となりうることを、今回の宣言で国として公式に認めたのだと言える。
デザイン経営の実践
「デザイン経営」宣言では、デザイン経営と呼ぶための必要条件として、
- 経営チームにデザイン責任者がいること
- 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること
の2点を挙げており、デザイン経営のための取り組みとして下記の7つを挙げてより具体的な方向性を示している。
- デザイン責任者(CDO,CCO,CXO等)の経営チームへの参画
- 事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
- 「デザイン経営」の推進組織の設置
- デザイン⼿法による顧客の潜在ニーズの発⾒
- アジャイル型開発プロセスの実施
- 採⽤および⼈材の育成
- デザインの結果指標・プロセス指標の設計を⼯夫
最近はシリコンバレーのスタートアップでも、デザインバックグラウンドを持つ創業者が増えてきており、デザインに関わる人材の重要性は益々増してきている。企業経営においてもこれからはそのようなデザイン人材がこれまでとは異なる角度から経営に参画していくことが求められているのだ。
単なる「宣言」で終わらせないための3つのこと
今回の宣言ではとても大事なエッセンスが盛り込まれ、具体的な方向性も示されているが、では果たしてこれで日本の企業も「デザイン経営」を容易に取り入れることができるのだろうか?
この宣言を本当に宣言だけで終わらせないためのポイントについて、考えられる落とし穴も踏まえて3つほど提言したい。
1. サービスデザイン組織への変革を会社全体で推進する
多くの日本企業では、従来のデザイン組織をビジュアルデザインやプロダクトデザインだけでなくサービスデザインまで担えるような組織に役割をシフトさせてきている。
しかし、デザインとビジネスの微妙な関係でも述べているように、小文字のdesignと大文字のDESIGNの間には大きな隔たりがありスキルセットも異なるため、ビジュアルデザイナーにいきなりサービスデザインを考えろというのも無理がある。
これらのデザインを一緒くたにせず、従来のビジュアルデザイナーがサービスデザイナーに転身できるように、スキルの習得やキャリアパスの構築など組織が充分に支援していく必要がある。
2. ビジネス的考え方よりデザイン的考え方を優先させる
また、同じく上記の記事でも述べているが、デザイン的考え方とビジネス的考え方の間にも実際大きなギャップが存在する。
現在はVUCAの時代「Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)」と呼ばれているように時代の変化が激しく、既存のマーケットの状況や過去のケーススタディーの分析だけではこれからの顧客が求めるニーズを割り出すことは難しい。
すでに従来型のアプローチでは限界を迎えており、ビジネスサイドよりもデザインサイドがうまく主導権を握れるような工夫も必要になる。
また、ビジネスサイドの人間にもデザインマインドも身につけさせることで共通認識を持たせることが重要である。
3. 「技術」起点一辺倒から脱却する
最近btraxのクライアントから「新規サービス開発において従来の技術Orientedよりもデザイン思考などUser Orientedなアプローチが重要になってきていることは理解できたが、技術起点とユーザ視点をどのように結びつけていけば良いのか分からない」という悩みを聞いた。
実際に新規サービスを開発していくに当たっては、多くの日本企業がこの点について悩みを抱えているのではないだろうか?
技術起点でビジネスを創造していく場合においても、まずはその技術を使うことによってどのようなユーザーのどのような問題を解決できるかに焦点を当てて発想していく必要がある。
技術は解決策にしか過ぎず、それよりもまず問題にフォーカスを当てることが重要で、一度技術のことを忘れるくらいユーザ側に立って個々の問題を深掘りし、リフレーミングの手法などを用いて様々な角度から問題を捉え直していく。
あくまで技術ありきで考えないことが重要である。
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