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【有名ブランド事例】タイポグラフィーとブランディングの密接な関係
あなたがデザイナーであろうがなかろうが、「タイポグラフィー」に触れることなく終わる日など1日も無いだろう。
なぜなら文字とタイポグラフィーは切っても切り離せない関係であり、現代において文字こそが一番のコミュニケーションツールであるからだ。
タイポグラフィーは文字に雰囲気を纏わせるという形で文字と人間のコミュニケーションをより確実性の高いものにしてくれる。
私達が普段何気なく広告や商品のパッケージを見る時もその文字からだけではなく、実は使用されているフォントからも無意識的に情報を得ているのだ。
勘の鋭い方ならここでタイポグラフィーとブランディングが繋がったかもしれない。以前の記事「なぜ日本企業はブランディングに苦戦しているのか」でも紹介したように、ブランドの定義もまた“人間味”や”“雰囲気”といった言葉で説明することが出来るからだ。
このことからタイポグラフィーとブランディングには密接な関係があることは明白だろう。この記事では、タイポグラフィーが実際のブランディングにおいてどのように使われているのかをご紹介したいと思う。
3分でわかる欧文書体のタイポグラフィーの歴史
実例の前にまずは歴史を少しだけご紹介したい。起源を知らずして本質を語ることは不可能だからだ。
世界初の書体:ブラックレター
タイポグラフィーの生みの親と言われているのがヨハネス・グーテンベルク。羅針盤・火薬に並ぶルネサンス三大発明の一つである活版印刷術を普及させた人物として、歴史の授業で耳にしたことがある方も多いだろう。
彼が聖書を印刷するために発明したのが世界初の書体とされているブラックレターである。ちなみに名前の由来は書いた文章の「黒い」部分が多くなることから。
↑ニューヨーク・タイムズのロゴのベースとなっている書体として、見たことがある方も多いはず。
現代のフォントのベース:ローマン体(セリフ体)
しかし、名前の由来からわかるようにブラックレターの問題点は余白が少ないが故に長文の可読性には優れていないことだった。そこで誕生したのが、ローマン体と呼ばれる書体である。
発明したのはグーテンベルクの弟子とも呼ばれている、ニコラ・ジェンソン。ブラックレターで書いた文章と比較すると余白が多くあり、ずっと読みやすくなった。
セリフがあるから別名セリフ体
ストロークの端にひげのようなものが付いているのがローマン体の特徴で、このひげの部分が「セリフ」と呼ばれていることから、別名セリフ体とも呼ばれている。
Old→Traditional→Modern
その後、Old Roman・Traditional Roman・Modern Romanと少しずつアップデートを重ね、現在ではほとんどのセリフ体がこの3つのうちのどれかに分類されている。
ざっくりとした違いは以下の通り。
セリフの太さ:Modern < Traditional < Old
太線と細線のコントラスト:Old < Traditional < Modern
モダンな印象:サンセリフ体
セリフ体の普及が一段落したころ、セリフをバッサリとカットした全く新しい書体が発明される。それがサンセリフ体と呼ばれる書体。サンは〜がないという意味で「サンセリフ=セリフがない」という訳。日本ではゴシック体と呼ぶ方も多いのではないだろうか。
欧文フォントの王様: Helvetica
サンセリフ体を語る上で外せないのがHelveticaである。世界中のデザイナーの多くが最も優れたフォントとして挙げ、デザインの永久定番との呼び声も高い。
街中で見ない日はないと断言してもよいくらい、至る所で使用されている。なんとHelveticaの魅力に迫ったドキュメンタリー映画まで制作されているのだから驚きだ。欧文フォントの王様と呼ばれているのにも納得である。
↑各国の公共機関の標識にもHelveticaが採用されている場合が多い。ニューヨークの地下鉄の標識もHelveticaだ。
日本の書体は大きく分けると4つ
日本の書体の歴史は、歴史が長くまた諸説あるため他の記事に譲り、ここでは現在主に使われている4つの書体の紹介に留めておきたい。
それぞれのざっくりとした特徴は以下の通り。
明朝体:縦線が横線よりもやや太い書体。横線の終点に三角形の「うろこ」があるのが特徴である。様々な場面で使われており、馴染みのある書体だという方も多いはず。
ゴシック体:縦線と横線の太さがほぼ均等の書体。目に入ってきやすく、読みやすいのが特徴である。この4つの中では一番モダンな印象。
丸ゴシック体:その名の通り、ゴシック体を丸めた書体。独特な可愛さが特徴で、優しい印象を与えることが出来る。
楷書体:筆使いを色濃く反映させた書体。歴史を感じることが出来、和のイメージを演出する際に真っ先に思い浮かべる書体だろう。
タイポグラフィーがブランディングに与える影響
フォントが世界観を作る
冒頭でも触れたように、タイポグラフィーとブランディング の間には密接な関係性が存在していることが間違いない。
なぜなら顧客とのコミュニケーションにおいて一番最初の窓口とも言えるタイトルやロゴのフォントは、そのプロダクトの世界観を伝えるというブランディングにおいて非常に重要な役割を担っているからだ。
実例として昨年大ヒットした邦画のタイトルフォントを使って、どのような役割を果たしているのか見てみよう。
↑上からゴシック体・明朝体(モリサワ:A1明朝)・丸ゴシック体
フォントを変えただけで、連想するイメージが変わる
フォント以外に全くデザインのない状態にも関わらず、抱いたイメージが違ったのではないだろうか。ゴシック体はより現代的なよりデジタルな印象で、強いて言えばSF映画のような雰囲気。丸ゴシック体だと可愛い恋愛映画寄りの雰囲気だろうか。
ほとんどの皆さんがご存知の通り、確かにこの映画には身体が入れ替わるというSF感もあるし、恋愛の要素も含んでいる。
しかし、観劇後にこの映画へ抱く感情は、SF映画の未来感でもなければ、恋愛のキュンキュンとした気持ちとも少し違ったものだったのではないだろうか。
どこか「儚さ」や「懐かしさ」を感じる映画
少なくとも筆者は、ラブストーリーでありながらも、情景描写や使用されている色彩、音楽からはどこか「儚さ」や「懐かしさ」を感じた。それに加えて、物語の鍵となる場面では日本古来からの文化が重要な役割を果たしている。
最も的確にこれらを表現しているのはやはり明朝体のタイトルであるように思う。
抱かせたいイメージによって、フォントを選ぶことが大切
この例からわかることは明朝体の素晴らしさではなく、最適なフォントは伝えたいことによって変わるということである。
同じアニメーションでもよりデジタル色の強い映画であればゴシック体の方が適しているかもしれないし(もっともその場合はタイトルはカタカナになるような気がするが)、甘酸っぱい青春ラブストーリーがメインなのであれば丸ゴシック体の方がより映画のコンセプトを表現していると言えるだろう。
あくまで筆者の個人的な意見にはなるが、タイトルに使われるフォントはそのタイトルだからというより、その内容だからこそしっくりくると言える。
3.フォントを変えないブランドと変えたブランド
VOGUEの表紙のタイトルフォントは約70年間同じ
世界で一番有名なファッション雑誌として真っ先に名前が挙がるのがVOGUEではないだろうか。この印象的なロゴに使われてるフォントは上記でも紹介したDidotと呼ばれるModern Roman体の一つ。
驚くべき事は、1920年から今に至るまで、このフォントを全く形を変えずに表紙に使い続けていることだ。流行を先取るファッション雑誌らしく、配色やキャッチコピーに使われているフォントは常に時代を反映し続けているが、VOGUEのロゴだけは全く変わらない。
このロゴこそがVOGUEが数十年に亘って積み上げてきたブランドである。時代が移り変わりろうともアイデンティティは変わらない。そんな確固たる信念を感じることが出来る。
↑次に雑誌を買う時は、タイトルのフォントに注目して選んでみても面白いかもしれない。
SAINT LAURENTは数十年もの間使われ続けたロゴを変更し、若者の支持を獲得
その一方で歴史がありながら思い切ってロゴのフォントを変更したファッションブランドもある。中でもサンローランのブランド名およびロゴ変更は、ファッション業界人のみならず、多くの人に衝撃を与えたのではないだろうか。
↑従来のVera Humana95と呼ばれるフォントをベースにしたロゴ(上)から、Helveticaをベースとしたもの(下)に変更。よりシンプルでモダンな印象を与えるロゴに生まれ変わった。
サンローランを傘下に収めるケリングによると、サンローランの総収入はロゴ変更を含めたリブランディングプロジェクト後の3年間で2倍も増加。
若者たちにも受け入れられるラグジュアリーブランドとしての地位の確立に成功し、Wallpaper誌の選ぶ「ベスト・リブランディング賞」を受賞している。
近年稀に見るこの大規模なリブランディングプロジェクトは大成功に終わったと言って間違いないだろう。1962年にオートクチュールメゾン(オーダーメイド専門店)として始まったイヴ・サンローランは見事に若者にも支持される“イケてる”ブランドへと生まれ変わったのだ。
まとめ
“Don’t try to be original. Just try to be good.”
様々なロゴデザインで知られグラフィックデザイン界のピカソとも言われているポール・ランドは、“Less is More”や”God is in the detail”等の発言で知られているミース・ファン・デル・ローエの名言である“I don’t want to be interesting. I want to be good.”を言い換え、“Don’t try to be original. Just try to be good.”という言葉を残している。
これはデザインの世界だけではなく、センスが良いと言われている人達全員に共通しているキーワードであるように思う。
例えば、どれだけ仕立ての良いスーツを着ていてもシャツの袖が少し長いだけで全体の雰囲気が締まらずカッコ悪い。まさに“Don’t try to be original. Just try to be good.”そのものだ。
もちろん、タイポグラフィーにも同様のことが言えるだろう。どれだけデザインが優れていてもフォントがマッチしていなければ統一感のない仕上がりになってしまう。
しかし、上手くハマれば自然と全体の雰囲気を底上げし、デザインのレベルを一つ上へと押し上げてくれる。上述した歴史と実例が表すように、目的こそがそのタイポグラフィーの良し悪しを決めるのだ。
参考
http://designinstruct.com/typography/typography-history-crash-course-5min/
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