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Twitter→X 事例から考えるリブランディングのポイント
昨今のホットトピックといえば、TwitterからXの社名・サービス名・ロゴ変更に関するリブランディングだろう。突然かつ大胆な変化に驚き、今後の動向が気になっている方は多いはずだ。
ビートラックスが7月より開始したPodcast「BTRAXのCEOによるサンフランシスコ・デザイントーク」においても早速本件を取り上げた。
本記事では、「【第2回】Twitter→X 事例から考えるリブランディングのポイント」をまとめる形で、デザインやブランディングの目線で捉えたTwitterからXへのリブランディングを解説していく。
ブランディングとリブランディング
まずはキーワードとなるブランディングとリブランディングそれぞれに対する簡単なご説明から。
ブランディングは、何もないところからブランドを築いていく。一方で、リブランディングは、既存のブランドを変更させた方が、より企業価値を高められる、もしくは企業の指針に合致すると判断されたケースに実施されるものである。
そして、リブランディングにおいて非常に重要なのは、これまで築いてきたブランドおよびブランド資産を上手に引き継ぎ、アップデートをする意識を持ち、それを実現することである。
ブランド作りにおけるロゴの役割
一説によると、人間のインプットはその8割を視覚に頼っているといわれている。これはブランディングにも十分に適用される。あるブランドをそのブランドだと認識してもらうために視覚的なアプローチは欠かせない。
そこで重要な役割を担うのが、ロゴやアイコンだ。
「一部がかじられた銀のりんご」を見ればAppleというブランドのものだとわかるように、これらには、例え文字を羅列しなくとも、そのブランドを視覚的かつ直感的に認識・理解してもらえる効果を持つ。いわば、ブランドの伝達をショートカットしてくれるものだ。
リブランディングにおいても、ロゴの変更となると非常に重要だ。なんといっても、ロゴはブランドの顔なのだから。それが変更されることが持つ意味の大きさは想像に難くないだろう。
デザイナーが見るTwitter→Xのリブランディング案件
”非常にまれで今までにない事例”
では早速、さまざまな議論を呼んでいるTwitterからXへの社名およびサービス名の変更を主とするリブランディングについて考えていきたい。
単刀直入に表現すると、この件は前代未聞だ。「名前とロゴを変えているにもかかわらず、サービスを変えていない」状況になっているからだ。
従来、社名やサービス名とそれらのロゴを変更する際は、会社全体の事業転換やM&Aなどが契機になることが多い。つまり、あくまで会社やサービスに関する大きな変革に伴って、ロゴ等が変更される。
しかし今回は、イーロン・マスク氏が個人的にTwitterを買収し、会社全体やTwitterというサービスに本格的に手を入れる前に、まずは社名およびサービス名とロゴだけを先行して変えている状態になっている。この順序の逆行が、今回のTwitter → Xの件が前代未聞たる理由の一つである。
従来のセオリーからの「逸脱」のオンパレード
また、2023年8月までの動きに関しては、実は、ブランディング・リブランディングのセオリーからすると「やってはいけないこと」をことごとくやってしまっている状態なのである。
先述の通り、この動きがまさに前代未聞であり、今の時点で良し悪しの評価が難しいことは前提にある。そのため、今後こうしたブランディングの動きが正になる可能性も否定できないことも併せて示しておきたい。
上記をご承知おきいただいた上で、3つの「逸脱」をご紹介していく。
1. いきなりビジュアルの変更に着手
まず1点目は、会社やサービスとして目指す全体的な方向性の説明を欠いた状態で、社名やロゴなど、わかりやすいビジュアルを変更させることから始めてしまったこと。
リブランディングにおいて何かを変更させるには、そこに至った理由やストーリーが必要だ。しかし今回はその説明がない状態でいきなりロゴと社名/サービス名が変わっている。
この状態は、まるでイーロン・マスク氏の気まぐれにしか見えない。サービスを使っているユーザーからすると、納得できず、抵抗感が強いだろう。
リブランディングは、ロジカルな意思決定に基づき、そのブランドに関わるステークホルダーとのコミュニケーションの上でなされるという従来の考え方からすると、ユーザーを置いてけぼりにしていることは物議を醸すひとつの要因になっていると考えられる。
2. Twitter社が築いてきたブランド資産をゼロリセット
ブランドには、人々に認識され、愛されることで培ってきたブランド資産がある。Twitter社も例に漏れず、2006年の創業以来、青い鳥のアイコンを見ればTwitterだと認識し、使い続けるファンを世界中に拡大させ続けてきた。これらは紛れもなくTwitter社のブランド資産だ。
冒頭でも述べたように、リブランディングには、まるでバトンリレーを行うように、既存のブランド資産を上手く引き継いでブランドをアップデートさせる発想が不可欠である。リブランディングは、ブランド資産のバトンを渡すことなのだ。
しかし、今回のTwitterからXへの移行においては、慣れ親しんだ鳥のアイコンはXの文字に、青のブランドカラーは黒っぽい色にと、それぞれを引き継ぐことなく、全くの別物へと変えられた。
これは、ブランド資産というバトンを完全に落としてしまい、再度ブランド構築のスタートラインに立っているような状態なのだ。これが2点目の逸脱である。
これの何が問題か。ブランドの再構築には膨大な時間とお金を要するということだ。これから、Xとして0からブランド構築およびその認知活動をしていく必要があるだろう。また、ブランド作りにおいて、近道や時間短縮はできない。それ相応の時間がかかるのだ。
3. とりあえず社名・サービス名とロゴだけ… 変更の中途半端さ
ブランディングで一番重要なのは、統一性である。
しかし、この点においても、現状のX社はうまく行っていない部分が多い。これまで述べてきた社名・サービス名とロゴの変更においても、「差し替え」程度であり、その範囲はまだごく一部に限られており、中途半端だ。
青いボタン(現在 文字はTweetからPostに変更されている)しかり、本社の看板しかり、多くのことがTwitterのまま残されていた。
このチグハグ感もまた、人々を混乱させることになってしまっている。サービスは変わっていない上に、色々なものはTwitterのままであるのに、肝心なブランドは全部更地の状態になっているのだ。
ブランディング・リブランディングの効果的なプロセス
ちなみに、ビートラックスでは、ブランディングとリブランディングの効果的なプロセスをそれぞれ定義している。
まずブランディングにおいては、以下の5つのステップを設けている。
ポイントは、いわゆる見た目のデザインを行うのではなく、それ以前で、ブランドがステークホルダーに届けたい価値を明確にしたり、自社理解を深めたりするステップが存在すること。
これらをベースにロゴやアイコンなどのビジュアルアイデンティティや、それらをデリバリーするためのマーケティング戦略などを練り上げていく。
また、リブランディングにおいては、リーンブランディングという考え方が効果的だと考えている。図にすると下記のようにサイクル型になる。
ここでも「ブランドコアの策定」として、まずはブランドのあり方を見つめ直すことから始まる。
そして、そのコアを「検証」としてブランドに実装することで、ユーザー含むステークホルダーに見える形にし、リブランディングの様相を明らかにしていく。さらにそこで得られた反応を学びとして捉え、場合によっては次の意思決定の材料にする、というのがざっくりとしたリーンブランディングの流れだ。
リーンブランディングもやはりそのプロセスは、まずはブランドが自らの足元を見て、そして目指す場所を眺めて、という内省的なアクションから始まるのだ。
おわりに:吉と出るか凶と出るか 今後の動きに注目
8月上旬現在時点におけるTwitterからXへの社名およびサービス名の変更を主とするリブランディングに関する所感をまとめてみた。
本件がこれからどのような展開を迎えるのか、イーロン・マスクの意思決定およびX社の動向について、我々ビートラックスも引き続き注目していきたい。
今後もビートラックスでは本ブログ Freshtraxに加え、冒頭にご紹介したPodcast「BTRAXのCEOによるサンフランシスコ・デザイントーク」においてもデザインに関する情報を発信していく。ぜひお聴きいただけたら幸いだ。
そのほか、今回のエピソード内で取り上げた話題に関連する記事はこちら:
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