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トランプはいかにパーソナルブランドを利用し当選したのか
先日のアメリカ大統領選の予想もしていなかった結果に世界中が驚いている。こちらカリフォルニアでも、有権者の大半がヒラリーに投票。
特にシリコンバレー地域ではトランプバッシングは強く、公の場で彼に投票したなどというと、身の危険を感じるぐらいに”あり得ない”候補であった。投票日のNYタイムズの当選予測でも80%の確率でヒラリーとされていた。しかし予想に反して勝ったのはトランプであった。
投票前は完全にヒラリー優勢と予測していたNYタイムス
投票日より随分と前からトランプが大統領になることに対して大きな不安と不満を持つ人は非常に多いと思われていた。そして、彼が大統領になることが決まった後も大きな批判と”なぜ選ばれたのか”の声が聞こえてくる。批判するのは簡単だが、なぜ当選したかから学ぶ方が良い今後に繋がる。
実はこの超意外と思われる彼の当選の裏には、緻密に考えられたブランディング要素が隠れている。
イメージ先行型のアメリカ大統領選
そもそも米国の大統領選挙の結果は、候補者の”政策”よりもその個人の”イメージ”によって結果が左右されることが多い。
もちろん、カリフォルニアやニューヨークなどの西海岸や東海岸北部の都会では、候補者の掲げている政策やプランをじっくり聞いて誰に投票するかを決める人も多いが、アメリカ全体的には候補者の持つ雰囲気やカリスマ性に対して投票しているケースがほとんどだろう。
実際の実験として、街角で黒人女性に誰に投票するかのインタビューをしたところ、”ヒラリーを支持する。
トランプはあり得ない”と答えた。次に同じ女性に”ヒラリーが唱えている州税廃止はどう思いますか?”と聞いたところ、”もちろん良い政策だと思います。支持します。”と返答。実はこの政策はヒラリーではなく、トランプの政策であった。
このように、大統領選においては、誰が好きか、どの候補者により共感できるかが重要なカギとなる。
言い換えると、当選するかどうかは政策内容や頭の良さよりも、候補者のイメージやカリスマ性 = ”パーソナルブランド力”が非常に大きな役割を果たす。どんな正しいことを言っていても、人々の心を掴まなければ当選できないということである。
そして今回の結果。とても意外と思われるが、実はパーソナルブランディングの側面から見てみると、ドナルド・トランプは非常に秀逸なブランド戦略をとっていた。彼がとった7つのパーソナルブランディング手法を紹介する。
ドナルド・トランプが活用した7つのパーソナルブランディング手法
今回の大統領選挙でトランプを当選に導いた彼のブランディング戦略を紹介する。
1. 注目されるために極端な発言をする
例えばアメリカでは、会議やパーティーで発言しない人は価値が低いと見なされる。どんな意見でも、間違っていたとしても、無いよりも良いとされる。立候補者も目立たないよりもよりも批判される方が注目を集めると言う点では正しい戦略になる。
候補者を選出する予備選挙の時点では多数の候補者がいるため、政治経験のほとんどないトランプが目立つためには、他の候補者よりも、より極端で過激な発言で目立つ戦略を取った。
また、アメリカでの大統領選はある意味で”エンタメ要素”が強い。
今回のヒラリーとのディベート戦はまるでプロレスを見ているような面白さとくだらなさがあり、多くの国民を楽しませた。その内容の質はともかく、多くの国民が選挙に興味を持ったと言う点では、トランプのやり方はある意味成功であったのであろう。
以前にAppleが行なった”Think Different”のキャンペーンのように、一般的には”ずれている”と思われる極端なブランドステートメントは時に大きな結果を生み出す事もあるのだ。
2. 主張は極力シンプルにわかりやすく
サンフランシスコに住んでいるとトランプに投票する人の気持ちが全く理解できない。
人種差別、女性蔑視、個人攻撃など、発言のそのほとんどが大統領候補者とは思えないレベルの内容。ではなぜ彼が選ばれたのか?その謎を解き明かすべく、トランプが過半数の投票を得たノースカロライナ州に住む父親に聞いてみたところ、下記のような答えが返って来た。
“都会に住む人たちはヒラリーのようなインテリのロジカルな説明を評価するだろう。
しかし南部や中部などの郊外の庶民層は、シンプルでわかりやすいメッセージを伝えてくれる人を好む。彼らにとってヒラリーの発言はレベルが高すぎて自分たちが見下されているとさえ感じる。その一方で、トランプの分かりやすい’アメリカ万歳’の方がよっぽど刺さるのであろう。”
今回の選挙でもトランプは難解な表現を避け、誰にでもわかりやすい単語 (かなり下品な表現を含む) を使い、まるで子供の喧嘩のような表現で弱者の心にも訴えかけた。
インテリにとっては低脳な候補に見えたかもしれないが、中南部の住民には自分たちの苦しみを自分たちの目線で日常会話の単語でわかりやすく代弁してくれるヒーローに見えたのであろう。
メッセージをシンプルにすることは、ブランディングおいてもかなり強力な威力をもつ。
3. 覚えやすいキャッチコピーを作成
今回トランプが取ったブランド戦略で最も注目すべき点の一つがキャッチコピーの活用であろう。
彼自身のコピーは、”Make America Great Again (素晴らしいアメリカをもう一度)” これ以上ないぐらいにわかりやすく覚えやすい。まさに”アメリカ万歳”戦略には最適なコピーである。
実はそれ以上に注目すべきは、相手候補者に対してもキャッチコピーを利用した点だ。例えば共和党の対抗候補であったTed Cruzを”Lyin’ Ted (嘘つきテッド)” と呼び、その響きの良さもありトランプサポーターがそのフレーズを合唱した。
そしてヒラリーに対しては”Hearless Hilary (冷酷なヒラリー)”のキャッチコピーを使った。これはわかりやすいだけではなく、Heartless Hilaryと二つの”H”で始まるようにすることにより、ライム (韻)を踏むことで響きも良くなっている。
このキャッチコピーにおけるライム手法はCoca Colaや彼自身のTrump Towerでも活用されている通り、聞いた人に音で覚えやすくする効果がある。
ちなみにヒラリーのトランプに対するキャッチコピーは”Pretentious Donald (思い上がっているトランプ).” これは、長く発音しにくいだけでなく、”Pretentious”と言うアメリカ人でも知らないような難しい単語を使ったのがブランディング手法的には間違っていた。
4. 興味を引くターゲットを絞る
今回、トランプのパーソナルブランディングにて秀逸だったのは、ターゲット選定であろう。あえて万人に好かれることを避けて、あくまで”勝つ”ためのターゲット戦略を行った。
例えば、共和党内で候補者を選出するための選挙では、ラテン系で共和党に投票する有権者自体が極端に少ないことを踏まえ、敢えてメキシコ批判を行った。それにより、共和党を支持するエスタブリッシュメント層からの票を多く集めた。
そしてヒラリーとの大統領選挙でも投票を得るべきターゲットを明確にしたブランドポジショニングを行なっている。
例え都会のリベラル層に笑われ、マイノリティに”あり得ない”とディスられても、自分がターゲットとしている層からは絶大なる支持を獲得していた。それもかなりの票数を集めるほどに。
ブランディング戦略においては、万人に好かれようとすると誰からも支持されないと言う状態を生み出しかねない。それよりも、明確なターゲット選定とそれに対しての具体的な戦略が必要になる。それを上手に活用したのがAppleであろう。まずはセンスの良い限られた人たちの心を鷲掴みにし、少しずつファンを増やし、トップブランドの座を獲得した。
5. 感情に訴えて人々の行動を喚起する
どんなに人気があっても選挙では有権者に”投票”してもらわなければならない。言い換えると、行動に起こしてもらわなければ票は集まらない。では、どうすれば人々は行動を起こすのか。ペンシルバニア大学のBerger教授の研究によると、人は感情を揺さぶられた時に行動を起こすと言う。
そして、その感情の中でも最も行動喚起力が高いのが”怒り”である。今回のトランプのキャンペーンを見てみても、過激な発言を通じ、人々の感情に訴えた。それも、彼らの怒りを呼び覚まし、有権者同士の連帯感までをも生み出した。
時にそれは過激がゆえ、メディアからの大きなバッシングを受けることも多かった。トランプ支持派はそれに対し、メディアという”権力”が自分たちを批判していると感じ、怒りをベースとした反骨精神でより一層トランプの人気は高まった。
この感情に訴えかけるブランディング手法はアメリカでは頻繁に活用されている。スティーブ・ジョブズもプレゼンで”半ギレ”キャラを演じているのも良い例だろう。この怒りの感情は愛情をプラスすることで情熱に変換する。情熱のエネルギーは速いスピードで飛び火しやすい。
一方、ヒラリーの場合はその発言内容は非常にポジティブで視聴者を勇気付ける内容であったが、心の底に訴える”何か”が足りなかった。それゆえに、彼女を支持するが行動に移さなかった有権者も多いと言う。
トランプが当選した今になって、それに対しての”怒り”を原動力にデモ活動していると言うのはなんとも皮肉である。
6. 炎上マーケティングの効果は世界共通
メディアにとってトランプの強烈なキャラクターはコンテンツ価値がかなり高い。そのルックスの強烈さもあり、彼が出演すると視聴率が上がり、彼の写真のメイン画像にした記事のクリック率も上昇。その内容は何であれ、ユーザーはその”面白さに”惹きつけられ、簡単にはスルーすることのできない存在になった。
これにより、トランプは無理にお金を使わなくてもマスメディアだけではなく、ユーザー主導のSNSを含む様々なメディア上で無料のパブリシティを獲得することに成功した。
その価値は何と約2億円ほど。言い換えると2億円の広告を無料で獲得した事になる。確かに彼を批判するコンテンツも多かったが、”Trump”の名前が世の中に出て、多くの人々に知れ渡った事は間違いない。
事実、ヒラリーのキャンペーンキャッチコピーの一つとして”Love trumps hate (愛は憎しみに勝る) “であるが、皮肉にもこの中にもTrumpの名前が入っている。それだけ彼の名前が選挙期間中、毎日の様に目に入ってきていた。
過激な発言で民衆の注目を集め、時には大きな批判と反発を生み出す。これはいわゆる”炎上マーケティング“であるが、今回の選挙戦でも大きな効果を生み出した。ブランディング的には伝家の宝刀である炎上マーケティングも上手に活用すれば狙った結果を生み出すことが可能になる一つの例である。
Fortune誌によると選挙中ヒラリーは有料広告を3万回以上配信。トランプはほぼ行なっていないという
7. 一度暴言を吐き期待値を下げてから少し優く論理的なプランを示す
ドナルド・トランプと聞くと乱暴な発言、攻撃的な仕草ばかりが思い出されるが、実はもしかしたらこれも彼のブランディング戦略の一つかもしれない。そう感じさせるのは、時には彼が”意外と”冷静で論理的な説明をしているケースがあるからだ。
これはいわゆる最初に期待値を下げ、その後に予想外に良い発言をすることで通常よりも何倍にもポジティブなイメージを作り出す心理作戦。コワオモテの男性が意外と優しいと、優しそうな人よりも数段優しい人に感じるのに似ている。
トランプも敢えてまずはアホな発言をし、見ている人の心理的期待値を下げる。
その後に意外とロジカルなプランを説明し、”彼もああ見えて意外と良いやつかもしれない”と思わせる。まるで暴力を振るう男性がたまに優しいと一気に気持ちが揺らぐDV的手法を上手に活用した。
初めは冷やかし目的で彼の姿を見ていた人も徐々に取り込まれてしまった”ミイラ取りがミイラになった”ケースもあるだろう。また、もしかしたら彼を応援している人の中には、”頑張ってるのに世の中の権力からバッシングされかわいそう”と感じている人もいたかもしれない。
今後より高まるパーソナル・ブランディングの重要性
この様にトランプは自身のブランド構築を巧みに行なった。ソーシャルメディアなどのユーザー配信コンテンツが普及した現代、個人も世の中に対する”イメージ”がとても重要になる。本当はそんな人ではなかったとしても、メディアやインターネットを通じてイメージの一人歩きが加速している。であれば、それを上手に活用すれば狙ったイメージ構築も可能になる。
今回の選挙戦からも分かる通りこれからは企業や商品に加え個人もにイメージ作り注目するべきだろう。このパーソナル・ブランディングは上手に活用すれば求める結果を、間違えると予想外のイメージを植え付けてしまう諸刃の刃であるので最新の注意が必要なのは間違いない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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