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シリコンバレーの企業はどのようにしてスピードを上げているのか?
日本企業が完璧なプロダクトを1つ出す間に、シリコンバレーの競合は20%の完成度のものを5つ出し、ヒットしたものだけを残し改善すると言われるほど、決断、実行、リリースのスピードが速い。
シリコンバレーの企業と日本企業の決断スピードの差は100倍
シリコンバレーの企業が世界的に凄いとされている理由の一つがそのスピードの速さであろう。特にデジタルが主流になってきている現代では、これがかなり強力な武器となる。
一説によると、日本企業とシリコンバレーの企業を比較すると、その決断スピードには100倍の差があると言う。
これは、例えると時速3kmで進むカメと、時速300kmのF1カーぐらい異なると言う事だ。ある意味、全くカテゴリーが異なる。
参考: 日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事
スピードが大きな競争優位性となる3つの理由
現代のビジネスにおいては、時間をかけるのが一番のリスクとなりえるだろう。スピードが遅いのは命取りにもなりえる。
特に急激な成長を一つのゴールとしているスタートアップにおいては、”速すぎる” と言うことはほとんどない。「今さら聞けないリーンスタートアップの基本」でも紹介されている通り、できるだけ早い段階でリリースをし、改善するのがシリコンバレーのスタンダードにもなりつつある。
急いで決断、行動することのリスクよりも、得られるメリットの方が大きい。
もしそれが原因で失敗したとしても、取り返しのつかないことは少なくなってきていると感じる。スピードが速いことで得られるメリットを3つ紹介したい。
1. チャンスは長居してくれない
時代が激しく変化する現代において、ビジネスチャンスを掴みたければ、タイミングが重要になる。例えば、スマホ普及に合わせたLINE, FacebookによるInstagramの買収、リーマンショック後の不況で大人気になったシェアリングエコノミー系サービス、ブロードバンドの普及が整った時期に一気に普及したYouTubeなど、上手にチャンスを掴み取ったサービスは少なくない。
また、「世界を変えられなかった12のサービス ~第一次ドットコム時代のアイディア~」で紹介されているように、タイミングがずれているとどんな良いサービスでもヒットしないケースもある。
2. 顧客ニーズの高速化
スピードが求められるのはビジネス機会のタイミングだけではない。顧客やニーズへの対応スピードも、その企業の価値を左右する大きなファクターとなってくる。
ユーザーニーズに合わせ、プロダクトをどれだけの頻度でアップデートできるか、顧客の問い合わせにリアルタイムに対応できるかも顧客満足度を大きく左右するだろう。
3. 競合に対する防御策
決断と行動のスピードが速ければ、競合の動きにもうまく対応する事ができる。逆にその対応が遅れると致命的な結果にもなり得る。
例えば、Netflixに駆逐されたビデオレンタルのBlockbusterや、Amazon対応が遅れたBordersなど、動きが遅すぎて、新規参入のライバルに対し完全に後手にまわってしまって滅んだ企業も多い。
実例: GAFAのスピードに対しての意識の高さ
冒頭のTwitter社でのエピソードに加え、世界のトップを牽引するテクノロジー企業であるGAFA (Google, Apple, Facebook, Amazon) におけるスピードに関しての実例も紹介したい。
失敗の数だけ評価の対象になるGoogle X
前回の「日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事」にて、平均で約10日間の間に1つの会社を買収することからも、その動きの速さが理解できたGoogle. その新規事業を生み出すためのラボ的組織のGoogle Xでは、失敗を恐れずに、新しいことにどんどんチャレンジできるように、ユニークな人事評価規準を設けている。
失敗の数の多さが、評価の対象になると言うのだ。イノベーションに失敗はつきもので、恐る恐る一つのことをじっくりやるよりも、速いスピードでガンガン進め、その中のわずかでも大ヒットを出す事が出来れば大成功である。
それを実現するために、Google Xでは、一つのプロジェクトを成功させたスタッフよりも、100の失敗を経験したスタッフの方が高い評価を得られるような仕組みを導入している。
Appleでの象徴的な出来事
現時点で世界一の時価総額を誇るAppleもスピードを重要視していることがわかるエピソードを紹介したい。
2008年にプロダクトマネージャーの一人がミーティングにて、CEOのTim Cookに対して中国の工場での生産に大きな問題が発生している事を伝えた。するとCookは「それはまずい。誰か出向いてどうにかしなければ」と言った。
そのミーティングは継続し、30分ほどが経った時点で、Cookがその担当者に対し「あれ、なんで君はまだここにいるんだ?」と言うと、彼は急いでサンフランシスコ空港に直行し、服も着替えずにその足で中国行きの便に飛び乗った。
Amazonは平均で11.6秒に一回の頻度でデプロイしている
Appleに迫る勢いで時価総額記録を更新し続けているAmazonも、スピードに関しての意識はかなり高い。その一例として、彼らは実に平均で11.6秒に一回ソフトウェアの更新を行なっているというのだ。
もちろんこれは平日だけでのケースではあるが、常に最善の体験をユーザーに届けるため、そして競合に勝つために、新しい仕様リリースしまくっていると言うことになる。
スピード優先を社訓にしているFacebook
シリコンバレーの企業の中でも動きの速さを武器にしていることで有名な企業がFacebookだろう。
オフィスのいたるところに社訓である”Move fast, and break things. “ や “Done is better than perfect.”と書かれた表札が飾られていることからもわかる通り、彼らのモットーはとりあえず作り、リリースし、そこから改善をしよう、と言うもの。
ソフトウェア、特にWebやアプリなどのプロダクトの場合、
リリースしてからいくらでも変更が効くので、完璧を目指す必要はない。ある程度の精度が得られた時点でとりあえずリリース。ユーザーの反応を見ながら改善をすることができる。それも、特定のユーザーだけを対象にすることも可能なので、速く動く事のメリットは大きい。
日本企業は「礼儀正しく時間を奪う」
それではなぜ日本企業はスピードが遅いのだろうか?その理由は実はその「礼儀正しさ」に隠されている。これは、企業のワークスタイルの改善を進めている日本マイクロソフト株式会社 テクノロジーセンター センター長の澤 円氏による分析で、彼によると日本企業は「礼儀正しく時間を奪う」事で、生産性を極端に下げていると言う。
これは言い換えると、多くの時間を費やしている割りには、アプトプット量が極端に少ない。時間をかけるべきところと、そうで無いところの分類がズレているとも考えられるだろう。
例えば、見るだけで済む結果のレポートに関しては、わざわざ会議をしなくても、メールやチャットで送っておき、各々が空いた時間に確認すれば良いはず。なのに、日本企業は「礼儀正しく」するために、わざわざ忙しい人たちの時間を割いて「報告会議を」行う。
加えて下記のような点も日本企業のスピードを遅くしている要因であると思われる。
スタート時間にシビアで終わり時間には無頓着
日本企業は、出勤時間や会議の開始時間には神経質であるが、なぜか終わり時間には全く無頓着である事が多い気がする。スタートには少しでも遅れれば警告されるが、仕事も会議もなぜか終わり時間をシビアに管理しているケースはまだまだ少ないように感じられる。
何も決まらない会議が多い
そして、1日の仕事時間の大部分を割かれる肝心の会議でも、報告と議論はされども、何一つ決定しない、もしくは決定できる人がそもそも最初から参加してない事で「前向きに検討」することしかできないケースが後を絶たない。こんな単純な決定をするだけなのに何時間かけてんだ?と思うこともしばしばある。
決断を先送りしてもペナルティー無し
そもそも決定がされない理由の一つとして、決裁権のある役職の人が決断を先送りしても、何のペナルティーも受けない事が理由だろう。これがアメリカの企業の場合、会議で発言しない人や決断をできないマネージャーは会社にとって必要のない人材だとみなされ、最悪首になるケースだってある。
シリコンバレーではどのように企業スピードを上げているのか?
では、シリコンバレーの企業はいかなる方法でスピードアップを図っているのだろうか?”Move fast or die”と言われるほど、スピードが遅い事が命取りになるこの地域では、徹底的な効率化が進められ、急成長のための素早い行動が推奨されている。
アメリカではメールは短いほど良い
日本の場合、メールの書き方の基本として、「お世話になります。XXX社の〇〇です」から始め「よろしくおねがいします」でしめる事がマナーとさている。そしてその内容もかなり丁寧に書かなければならない。
おそらくこのようなメールの書き方一つをとっても、日本全体でのGDPの1%ぐらいを浪費してしまっているのではないか。そもそも、そんなメール、モバイルのプレビューで見たら、全部「お世話になっております」しか表示されなく、可視性がかなり低くなってしまう。
アメリカでは、メールを書くときには短い方が良いとされる。と、言うのも、読む人の時間を極力奪わないために、ごく単純にわかりやすく書く方が逆に良い印象を与えやすい。
GoodpatchのCEOの土屋くんがうちでインターンをしてた頃、家を借りるために大家に出したメールになかなか返信がない状態が続いた。その内容を見たら、とにかく丁寧すぎて、読む気にもならない。そこでアメリカ風のノリで書き換えたら一発で返信が来た例を紹介する。
元のメール内容:
Whom it may concern,
Hi my name is Naofumi Tsuchiya. I am visiting San Francisco from Japan.
I have my family with me staying here. So, I need to have a room in a safer area.
I need to find a room from June X to July X. I have found your room listing on Craigslist.
It looks very interesting. I’d like to come to your place to take a look at it. And if I like it, I want to rent the space.
Could you possibly tell me when I can visit there to have a look?
I am looking forward to hearing from you soon.
Sincerely,
Naofumi Tsuchiya
改善したメール内容:
Hey, found your room on Craigslist.
When is the best time to come see the place?
Best,
Nao
無駄なミーティングを避け、できる限りオンラインで行う
時間の無駄遣いを避けるため、シリコンバレーを中心にアメリカの企業ではまず、表敬訪問や情報交換のためだけのミーティングは行わない。これは挨拶や営業文化の根強い日本企業との大きな違いだろう。日本企業がシリコンバレーに「視察」で来る際、企業訪問に苦戦する理由もこれ。
そもそもアジェンダのはっきりとしていないミーティングや、お互いのメリットが見当たらない打ち合わせは時間の無駄とされる。ミーティングをする際にも、社内以外のものは面接を含め、極力オンラインですませてしまうことが多い。
これは、国土が広いことに加え、例え同じ地域にオフィスがあったとしても、移動時間の短縮を図るためである。仕事においてのキーワードは”To respect your time”で、自分の時間だけではなく、極力相手の時間を尊重する文化ができている。
契約関係をデジタル化
印鑑文化がまだまだ根強い日本の商習慣では想像しにくいかもしれないが、アメリカで契約書はどんどんデジタル化が進んでいる。パソコンやモバイル上でサインができ、法的効力もあるため、印刷 > サイン > 郵送のプロセスが一気に短縮ができる。
もちろん収入印紙のような化石のようなシステムも存在していないし、今後はブロックチェーンの活用などで、契約書関係はどんどん効率化が進む見込み。
http://blog.btrax.com/jp/2017/06/30/contact/
承認プロセスのシンプル化
おそらく日本企業のスピードが極端に遅い理由の一つが、一つ一つの決断に必要とされる承認プロセスが極端に面倒であるからだろう。結構小さな判断に対しても、かなり上の人からの承認が必要で、もしその人が出張や休暇、もしくは忙しい時期の場合は、ハンコを押してもらうまでにかなりの時間を要する。
この辺に関しては、アメリカでは権利の譲渡が担当者にもしっかりと行き渡っているケースが多く、逆に上の人に話しても「担当に聞いてくれ」と言われることもあるくらい。
例えば、広告プラットフォームの売り込みをしようとマーケティングマネージャーに話しても、それは部下の広告運用担当に聞かないと決めることができない、など、役割ごとに決裁権も分散されていたりする。また、人材採用に関しても、人事部が行うのではなく、それぞれのチームリーダーがリクエストを出し、人事部はそのプロセスを効率的に進めていくサポート役になるケースも少なくない。
社内政治を排し、物事を性善説で進める
社内のコミュニケーションにおけるスピードを上げたければ、社内政治を極力減らし、スタッフ同士が強い信頼関係をもてるカルチャーを醸成するのが最も効果的である。なぜならば、報告書一つとっても、信頼度が低くなるとその分量がどうしても増えがちで、自ずと作成と読解に費やす時間も増えてしまう。
そのためには、スタッフ同士が思いやれる環境と、正しい人選が重要になってくる。例えば、どれだけ優秀だったとしても、他のスタッフに嫌な思いをさせるような人間を社内にいないようにしなければならない。
信頼度とコミュニケーションコストは反比例する。シリコンバレーの企業ではこのロジックが浸透しており、優秀なスタッフは同時に人間性も非常に高いことが多い。スキルが高いからといって嫌な奴は出世できないのだ。
日本企業がスピードを上げる5つの方法
では、これまでの情報を踏まえ、日本企業、それも大企業がスピードを上げるためにはどのような事柄に着目するのが良いのだろうか。すぐにでも行動に起こせる5つのポイントにまとめてみた。
1. すぐに行動に移せない要因を極力排除し同時進行を増やす
人間は本来心理的に、すぐに行動をしないための理由を見つけるのがうまい。特に外的要因であればなおさらである。例えば、自分の仕事を開始するには、他のタスクが完了してから、などがそれである。
本能的に何かが終わるまでは行動を開始しない特性があるのだ。厄介なことに、実は多くの場合、その要因は実際には存在していない事も多い。
例えば、会社登記が終わって初めてプロダクトづくりを始めたり、オフィスが見つかるまで営業をしない、お金が貯まるまで結婚しない、など。
これはまるで動画ファイルのダウンロードと、YouTubeの差のようなものである。一昔前まで、動画を見るには一度ファイルを全てダウンロードする必要があった。ダウンロードが完了しないと見始める事ができなかった。YouTubeがヒットした最も大きな理由は、ロードしながら動画の再生を可能にした点だ。
一つのことが終わらないと次が始まらないようでは、組織全体のスピードが極端に遅くなるため、マネージメントは同時進行を増やす努力をしなければならない。
リーダーは常に”なぜ今できないのか?”を問い、できるだけ頻繁にメンバーに対し「〇〇が終わるまで待つ必要はない。今すぐに始めよう。」と伝え続ける必要がある。
このように、物事のスピードをあげたければ、一つ終わらないと次が始められないのではなく、何かを進めならが他のことも開始できる会社のカルチャーを醸成する必要があるだろう。
2. 目標設定にはS.M.A.R.T.を活用する
物事がスムーズに進まない大きな理由は、その目標設定がクリアではないことが多い。その場合は、目標が下記のSMARTの頭文字のそれぞれの項目をクリアしているかを確認することで、短時間で具体的な結果を測定することが可能になる。
- S-Specific (具体的)
- M-Measurable (計測可能)
- A-Actionable (行動可能)
- R-Realistic (現実的)
- T-Time-based (締め切り重視)
3. 前例など無いのが当たり前と認識する
これほどまでに変化の激しい時代においては、前例のある仕事の方がどんどん少なくなってきている逆に前例が出た時点でそのビジネスは既に手遅れになっていることも多い。そうなってくると、日本企業がお得意の「前例がないので…」的な理由で決断を保留するのはかなりのリスクとなってくるだろう。
そもそも前例など無いのが当たり前だし、細かなプランなど立てようも無い。そして、プロダクトが世の中に出るまでは、どんなに時間をかけていてもアウトプットはゼロなのである。それを打破するために、うちの会社ではクライアントと一緒にデザインスプリントを通じて、5日間で意思決定からプロトタイプづくりまでを行なっている。
参考:【デザインスプリント入門】話題の高速サービス開発法とは
4. ワークライフインテグレーションを可能にする
実は日本の祝日の多さは企業のスピードを非常に遅くさせていると感じる。現時点での日本国の祝日は年間17日で、年を追うごとにどんどん新しい祝日が追加されている。問題は、ゴールデンウィークや元旦休日などで、国全体が一斉に休んでしまうため、仕事においては非常に効率が悪い。
しかし、モバイルやクラウドなどのテクノロジーを活用すれば、自宅でも休日でも5分ぐらいあればサクッとメールやメッセージが返せるのに、それができない会社が意外と多かったりする。そのような概念をぶち壊すのが、「ワークライフインテグレーション」。
無理に仕事とプライベートを分けるのではなく、それを上手に融合して時間の節約をしようという考え方。いつでもどこでもサクッと仕事ができる環境を作り出すことで、継続的に無駄のない仕事の進め方が可能になり、会社全体のスピードも格段にアップする。
5. マネージャーはとにかく”何かしら”の決断をする
決断が遅れるのが企業のスピードを遅くするのであれば、上司やマネージャーは一定の期日までに必ず何かしらの決断をするような仕組みを作るべきである。成功要素がそろうまで決断しないでいると、いつまでたってもきりがない
。ここは、結果的に上手くいっても行かなくてもトップが責任を持ってスピーディーな決断を下す事に対して、腹をくくる事が重要である。
会社としても、決断しないよりも決断した事を評価し、たとえそれが望む結果にならなかったとしても、次のチャレンジを見守れるような仕組みが求められる。
実はこの辺は、エイベックスの行動規範の一つとして「決断できない上司は容赦無く飛び越えろ」というものがあり、日本企業としてはかなり珍しく、面白い価値観だと感じた。
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