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リーダーシップにワビサビはいらない – コロナ対応に見る日米5つの違い
今こそ問われるリーダーシップの本質を5つに分けて日米比較
- スピード感は「命」
- 人々のメンタルは規制強度と緩急で変わってしまう
- リーダーの最大の役割は決断に責任を持つこと
- 曖昧な指示出しこそ緊急事態を招く
- 平時のリーダーと有事のリーダー像は異なる
困難な状況下でこそリーダーシップの真価が最も問われる。
アメリカに住み会社を経営していると国家に何かしらの危機が訪れた際に国や州の対応次第で国民の生活も、会社の存続も大きく左右されるということをダイレクトに感じる。これは、大統領や州知事のリーダーシップ力が通常時の何倍も試されるということだ。
これは日本でも同じことが言える。今回のコロナ危機に対する対応を見てみてもリーダーの言動、判断1つ1つが”チームメンバー”の人生に多大なる影響を与えることが分かる。
そして、日本とアメリカでは明らかにその対応に差があり、与える影響も異なっていることが感じられた。
そんな内容を先日GoodpatchのCEOである土屋君と一緒に、ライブキャスト出演の際に話した。自分としても学ぶことが非常に多かったので、文章としてまとめてみた。
1. スピードが遅いのは文字通りの命取り
アメリカと日本の対応の差で最も大きな差となっているのがスピード感だろう。例えば、緊急事態宣言やStay Homeの発動について、日本の場合は、検討→調整→準備→発表→発動のプロセスを数日かけて行うことが多いようだが、アメリカだと即日や翌日発動をする完全トップダウン型で行われている。
これは企業の場合でも同じ。例えば、サンフランシスコに本社を置くTwitter社はまだまだ危機感の薄かった3月11日付けでスタッフ全員を強制的に自宅勤務に切り替えた。これは、CEOであるジャック・ドーシーの信念から来る強いリーダーシップによるもの。
その背景には、サンフランシスコ市が州政府や連邦政府よりも先立って、2月26日にすでに緊急事態を発動していたということもある。この判断はニューヨークよりも1週間以上も早い。これにより両都市はその後の結果が大きく明暗を分けた。
今までWHOによって “意味がない” と言われていたマスクの着用を朝令暮改でいち早く義務化したのもサンフランシスコ。そのおかげでこの街の感染者や犠牲者の数字は、今のところ全米的レベルで見てもかなり低く抑えられている。やはり、サンフランシスコはスタートアップ的なスピードの速さが功を奏したように思える。
このスピードの速さは、企業に対する特別補償予算の決定・配布にも貢献している。連邦政府では4月上旬の時点で複数の予算が可決され、多くの場合、申請後1〜2週間ほどで入金がされている。これに救われた企業は少なくないだろう。特に中小企業にとっては、”いつ”お金がもらえるかがとても重要であり、それが少しでも遅れると経営が立ち行かなくなる。
このスピードの速さの裏には、そのプロセスにおいても数々の特別措置を決断したことも貢献している。例えば、通常であれば書類一式を郵送する必要があるのだが、今回の状況を考慮し、書類提出は全てまずオンラインで行い、やりとりもメールが中心。対面で行うことは全くない。そして、審査プロセス完了後の24時間以内に入金を開始するルールが設けられた。
ネットにアップしたその書類一式の元本は、後日記録用に郵送すれば良いとのこと。まずは着金を最優先し、それ以外の時間のかかる作業は後回しにした。この、優先順位の付け方、既存のプロセスに囚われないやり方は、素直に拍手を送りたい。
ちなみにこれが日本の場合は、窓口への書類の提出、対面での面談、対面での捺印が求められ、審査にも1ヶ月以上かかるらしく、入金プロセスが始まる前に倒産してしまう企業もどんどん出てきそうだ。
以前の「日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事」にて、日本とシリコンバレーの企業では決断スピードに100倍の差があるという説を紹介したが、その原因の1つがリーダーシップスタイルの違いである。
スピードを上げるためには、強烈なリーダーシップが必要とされる。特に今回のような事態は、スピードが遅くなることが文字通り人間も企業に対しても命取りになりかねない。
こんな時にゆっくり周りの顔色を伺いながら調整をする、ワビサビリーダーシップは必要ない。
* 海外赴任経験者300人が語る「日本で働くリスク」リクナビNEXT調べ
2. 緊急対策の基本はまず停止 → 少しずつ緩める
これは特に日本のやり方に対してだが、スピードが遅いだけでなく、随分とゆるり&のらりくらり進めているなと感じる。2月の下旬の時点で自粛ムードにはなっていたが、その後あまりはっきりとした指示がされず、その後の状況を見ながら少しずつ規制を強めていった感じがする。
実はこのやり方は、緊急事態の対策プロセスとしては最悪で、徐々に自体が深刻化するのを許してしまう。そして、日が経つにつれ徐々に悪化する感覚を与えてしまうため、メンタル的にも厳しくなる。
その点、例えばカリフォルニアの場合は、まずは一気に強烈な規制を発動した。必要以外は外に出ないこと。10マイル以上移動しないこと。他人とは2m離れること。バーやレストランはデリバリーのみ。ナイトクラブや美容院は営業禁止、など。そしてその後しばらく様子を見ながら、少しずつ緩めていっている。
こうすることで、最初はかなり気が滅入るが、毎週のようにできることが増えていくため、気持ちが明るくなってくる。それも、科学的なデータを基にに緩めていっているという説明がされるため、安心感や信頼感が強くなる。
ちなみに、カリフォルニア州のガイドラインでは、「やっていいこと」がクリアにリストされている。その中にはなかなか面白いものもあって、心が和む。例えば、ヨガ、瞑想、卓球、日の出や夕焼けを見にいく、など。
州知事も週に最低2回は会見を開き、現状のアップデートと今後の展望を話す。そして、必ず状況の改善がされていることを示し、ポジティブなメッセージを複数発信し、明るい展望を届けることで、人々に希望を与えるようにしている。これは、リーダーとして最も重要な役割の1つだろう。
3. リーダーの最大の役割は決断に責任を持つこと
ここまで読むと「そんなのアメリカの仕組みだからできるんだよ」と思うかもしれない。もちろん日本だと自粛要請をすることが限界で、強制力も罰則も設けられないのが現実かもしれない。しかし、アメリカもリーダーだからと言ってどんな法令を出しても良いわけではない。
カリフォルニアの知事であるニューサムは、コロナ対策のためにこれまで多くの知事令 (Executive Order) を出してきたが、そのいくつかに対して憲法で定められている国民の自由保障に関する条項に抵触しているということで、すでに複数の訴訟を受けている。
もちろん本人もそれを承知の上でどんどん政策を進めているのだろう。人々を守るためのリーダーシップは時に自身の立場を失うリスクをとる覚悟が必要とされる。それが政治家として、リーダーとしての責務なのだから。
複数の意見やデータを元に、方針の決定し、対策を取り、責任を取るのは政治家の役割であり、自分自身の決断に責任を持つことができない場合は、リーダーという立場を速攻退く必要が出てくる。さもなくば、メンバーの多くが露頭に迷ってしまう。
大臣や首相は「専門家のご意見を伺って」と強調するが、「専門家の言う通りにやったのだから、自分たちの責任ではない」というロジックは通用しない。
そして、自粛要請は究極的には自己判断、イコール自己責任になってしまうため、国のトップはその結果がどうなっても責任を取らないことになりかねない。それではすでにリーダーとしての資格がないと言わざるを得ないだろう。
ギャビン・ニューサム カリフォルニア州知事
4. 中途半端な指示出しをすると混乱とストレスを招く
加えて、現在の日本の「自粛要請」はかなり国民に混乱とストレスを招いていると思う。何をするのは許されて、何をしたらダメなのかがあまりはっきりしていないし、罰則規定もない。あまりにも曖昧すぎるため、多くが国民に解釈や行動を委ねる指針にとどまってしまう。
そうなってくると、どんどん混乱するし、こっそりやったもん勝ちにもなる可能性があり、頑張って我慢してる人たちにとって、ストレスになるし、結果的に感染拡大を招く恐れも否めない。
言い換えると、リーダーが決断や指針をなあなあにすると、国民が混乱する。結果として、決断しないリーダーと、指示なしでは動けない国民のキラーコンボが発令する。これは非常に危険だ。
そして、具体的な根拠と細かなロジックも無しに、とりあえずあと1ヶ月緊急事態延期の発表を行う。今後のポジティブな展望も感じられず、ストレスはどんどん増えていく。この流れでは、二次災害的に、ウイルス以外で犠牲になる方が増える可能性も高いだろう。
5. 平時と有事では求められるリーダーが異なる
リーダーという存在は、その状況によって求められる資質が異なる。その状況は大きく分けると、大きな問題が発生していない平時と、緊急に解決しなければならない問題のある有事に分けられる。それぞれのシチュエーションに応じて、リーダーには最適な動きが求められる。
スティーブ・ジョブズがAppleに復帰した1997年、会社は倒産まであと数週間という緊急事態だった。ジョブズはスタッフ全員に彼のやり方に順わせ、正確に動き、短期間で目的を達成させるために、かなり強引なやり方で会社を救った。有事に適したリーダーシップスタイルだ。
これとは対照的に、Goolgeが検索エンジン市場を独占したことに合わせ、経営陣は全従業員が自分たちの新しいプロジェクトに時間の20%を費やすことを可能にしたことで長期的な成長に繋がるイノベーションを促進した。
今回のコロナショックの対応に関していうと、トランプには一定の評価をする人も少なくはない。それまで都会のインテリ層を中心に一部の人たちに相当嫌われてた大統領であるが、ここにきてビジネスマンとしてのバックグラウンドが重宝している。
本人も自身を”War Time President (有事の大統領) “ と呼んでいることからも分かる通り、大きな危機に際した場合に求められるリーダーシップの取り方は 有事の連続である経営者としての彼の経験が大いに役立っている。
データを元に優先順位を付け、速いスピードで多くの決断を下し、経済と安全のバランスの取り方は、政治一筋のタイプよりも上手にできているように感じられる。
これは、第二次世界大戦の際にイギリスの首相であったウィストン・チャーチルもそうだったが、国に危機が訪れた場合には、みんなをハッピーにさせようとしない現実主義のサイコパスの方が大胆な決断を下せるのかもしれない。
覚えておいて欲しい人生の5つのボール
今回のコロナショックに関する1つの大きな論点として、人命と経済のどちらを優先するべきか、が挙げられる。そんな問いに対して、世界的なトップ企業のリーダーだった、コカコーラの元CEO、ブライアン・ダイソンの話を紹介したい。
人生では複数のボールを常にジャグリングしているようなものです。それらは仕事、家族、健康、友人、そして精神の5つ。その中で、仕事はゴムボールで、落としても跳ね返ってくる。しかし、他の4つはガラスでできています。一度落とすと取り返すことができないのです。何が一番大切かしっかりと考えていきましょう。
今回の状況でもし仕事を失ったり、会社を失ったりしても、きっといつか取り返せる。希望さえ失わなければ。
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筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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