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なぜアメリカのエリート大学生は起業を選ぶのか
優秀な人ほど起業する。この概念がシリコンバレー地域ではすでに一般的になってきている。
その一方で、日本ではまだまだエリート学生による起業は多くないと感じる。
もちろん在学中に”起業ごっこ”はしているだろうが、卒業後はちゃっかり外資コンサルや投資銀行に就職し、無難かつ堅実なキャリアパスをたどっている印象がある。
実際、うちの会社で経験を積んだ学生たちのその多くが慶応や東大、早稲田などのトップスクールに通っていたが、卒業後は大手に就職するケースがほとんど。
自分で起業して会社を経営しているのはわずか2名だけで、両方とも最終学歴は高卒。決してエリートと言えない。
多くのスタンフォードの学生が起業する意外な理由とは
一方で、シリコンバレーの中心に位置し、世界屈指のエリート校であるスタンフォード大学は、Googleのファウンダー2名をはじめとして、多くの起業家を輩出している。
このようにスタンフォードは以前より学生起業家が多かった、最近はそのトレンドが加速している。
起業が卒業後の選択肢の一つになっている
というのも、学生にとっては優良企業に就職することや大学院に進学することに加え、起業することが普通に卒業後のオプションの一つとして検討されているのだ。
通常に考えて、もっとも失敗するリスクが高いはずの起業やスタートアップで働くことが、エリートにとっての一般的な選択肢の一つとして考えられる。ここにまたシリコンバレー地域でのスタートアップが盛んな理由があった。
彼らの目的は一攫千金?
ではなぜアメリカでは優秀な学生が起業の道を選ぶのか。
一つの理由として、成功した際に一攫千金が狙えるからという事があるだろう。日本と比べてみても、FacebookやGoogle, 最近のSnapの成功を見てみると、若くてもスタートアップで成功すれば膨大な富と名声が得られる。
そもそもリスクが少ない?
もう一つの理由は、たとえ投資を受けても返済義務が発生しないことが多いことによる、リスクファクターの低さがあるだろう。
アメリカの常識では、エンジェル投資家やVCから投資を受け、もしうまくいかなかった場合はそのお金を返済する必要がない。「また頑張れよ」の一言で済むケースがほとんど。
その点を考えてみても、起業してもしうまくいかなくても大きなリスクではない。
実は起業やスタートアップでの経験が就職に有利に働く
しかし実は最も重要なポイントは、起業やスタートアップの経験がその後の就職に有利に働くということ。
いわゆる日本的な”就職活動”が存在しないアメリカでは、新卒、中途の概念がない。いつでも就職できるし、いつでも転職可能。企業も常に人材募集を行なっている。
そして、最近のトレンドとして、GoolgeやFacebook, Appleなどの優良企業が起業経験のある人材を積極的に採用している。
もし起業して失敗したとしても、通じて得られた様々な経験を履歴書に書くことで、他の候補者よりもより高い評価を得ることができるというのだ。
なぜなら、企業はその結果のみではなく、起業やスタートアップを通じて得られた様々な経験、例えば、プロダクト作り、チーム編成、資金調達、メディアプロモーション、ユーザー獲得、人事マネージメント、などの経験を総合的に評価するからである。
もちろん上記のような企業はチーム獲得のために、手っ取り早く優秀なスタートアップを大きなお金で買収することもある。
その一方で、たとえ成功しなかったとしても、その経験を積んだ人たちも積極的に採用しているという。そんな状況の中で、学生にとって卒業後、起業することがリアルなキャリアオプションの一つとして存在している。
リアルな起業経験から得られることは膨大
自分も起業してわかったのだが、自分で会社を興し、経営することで得られる経験や知識は半端ない。
おそらく人間的な成長にも繋がる。それが成功するかどうかはタイミングや時の運もあるが、どちらにせよある一定期間におけるスタートアップでの経験は厳しくも、他では絶対に得られない貴重なものである。
成功よりも失敗から学ぶことの方が多い
そして実は成功することよりも失敗することから学べることの方が多い。
よくアメリカでの面接では”前職でどのような失敗をしましたか。そしてそこから何を学びましたか?”と聞かれる。失敗したことよりも、そこから学んだことを評価する文化が浸透している。
それゆえに、アメリカの企業は成功した会社を買収する事、そして失敗から学んだ起業家を人材として獲得すること、この二つを成長戦略として取り入れているのにも頷ける。
そんな状況では一度起業した経験が履歴書にあるだけで、他の候補者よりも優先される可能性が高まっているのだ。
では日本の状況はどうなっているのか
おそらく日本でこのような感覚はを理解するのは難しいだろう。もちろんビジネスプランコンテストやハッカソンに出場して起業家っぽいことをしている学生は多いし、スタートアップ系イベントに積極的に参加するケースもあるだろう。
でも学生生活の終焉と共にスタートアップへの興味もなくなり、結局は大企業で無難に働くのが大部分のような気がする。その理由はいくつかあるだろう。
起業することで大切な新卒採用枠を逃してしまう
まずは日本特有の新卒での就職活動。はっきり言って完全に時代遅れかつ最低な仕組みであるが、これがまだまだ一般的で、親や親戚を始め、同級生の間でも卒業したら大手に就職するというのが最も良いオプションとされ、それ以外は評価されにくい。
そんな風潮の中で卒業と共に起業なんかしたものなら、失敗のリスクに加えて、貴重な新卒での採用チャンスを逃してしまうことになる。それを天秤にかけるとやはり起業するのは良いオプションではなくなってしまう。
日本の社会は失敗に手厳しい
そして最も厳しい現実として、日本では一度失敗してしまうと、そのあとのキャリアが非常に難しくなっている事実。
特に起業家が融資や投資をしようと思った場合、個人補償を行わなければならないし、例えVCからの投資だったとしても、もしうまくいかななかった場合には投資されたお金を返却しないければならない場合も多いという。
この日本の失敗者への厳しさはアメリカでも有名で “ハラキリ” 文化として知れ渡っている。
失敗した起業家の末路
日本では起業家が失敗した場合、その後どうなるのか。興味があったので、会社の経営をしている友人に聞いてみた。答えは「悲惨だよ」の一言。あまり表には出ていないが、日本では起業して失敗するとその後の人生がかなり厳しくなるというのだ
。それを教えてくれた友人が、一つの例として紹介してくれた記事には下記のように示されている。
“信用力の弱い経営者は、融資の担保として、複数の生命保険に加入することをなかば強制されていたことである。みずから死を選ぶことで会社への融資が返される”
引用元: 地方で自殺が急増した「意外な理由」〜日本社会の隠れたタブー
日本のエリートにとって起業はROIが合わない
このような事実を突きつけられるとやはり日本で起業するのはかなりのリスクに感じられる。そしてそれが学生であれば、かなりの覚悟が必要とされるであろう。
特に大手や希望する企業への就職が得やすいエリート学生にとっては、リスク計算をすればスタートアップは割に合わないのは明白。ある意味自殺行為。
上記の友人の言葉を借りると「だから日本で優秀な学生は就職し、残ったわずかな変人たちが起業してるよ」という状態らしい。以前は世界的に活躍できる会社も多かった日本であるが、今後はその可能性も下がってしまう危険性が高い。
社内起業家を育てるよりもリアルな起業家を採用する方が早いのに
では、企業側から見てみるとどうだろうか?大企業を中心に最近ではスタートアップやオープンイノベーションのブームに影響され、”社内起業家制度”や”社内アクセレレーター”などを通じ、起業家精神の育成に積極的な企業が増えている。
その一方で、人事において起業経験のある人材を積極的に採用しているケースはあまり多くない。
おそらくあまりにとんがり過ぎていて扱いにくいと思っているのだろうか。社内で起業家を育てるぐらいなら、起業家を採用した方が早いのに、なんて単純に思ってしまうのだが…。
大企業はスタートアップ経験のある人材を優先して採用するべき
もし自分が大企業の経営者だったとしたら、起業経験のある人材を積極的に採用するだろう。おそらく彼らは多くの修羅場を経験し、地べたを這いつくばりながら地道にネットワークづくりをし、生き残るために必死に勉強しただろう。
そして何よりも”自分が動く”という経験をしている。その経験は決して企業の従業員として得ることは不可能である。
そして何よりもそこから得られたであろう知識、経験、リーダーシップ、精神力、交渉力、人間性はかなりのクオリティであるはずだし、新規事業やチームを任せるのにも最適な人材であろう。
もし本当に優秀な人材だと思うのであれば、以前の起業で抱えた借金も肩代わりしたって、そのぐらいの価値はあるはず。もちろんロックアップ期間は設けるが。
起業がキャリアオプションの一つになればイノベーションも加速する
このように、日本の学生にとっては起業するということは宇宙旅行に行くぐらいリスクがあり、実感が湧きにくいだろう。もしスタートアップや起業に興味があったとしても、そのあとに待ち受けている厳しい現実と高いリスクを考えると、諦めざるを得ないのが現実になっている。
もしこれがアメリカのように、起業することが大手への就職に有利に働くこともあるのであれば、セーフティーネットができ、起業家の数も増えるだろう。
すでに国や地自体、一部の組織がスタートアップ育成に乗り出しているが、就職においての大企業至上主義とスタートアップを取り巻く根本的な社会構造が変わらない限りは、焼け石に水な気もしてしまう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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