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Startup Weekendのメンターになって分かった事
先日シリコンバレーの中心にあるPalo Altoにて、Startup Weekendが開催された。このイベントは三日間のうちに、チーム編成からプロトタイプ作成までを54時間にておこなってしまうという、言ってみれば、スタートアップ・ブートキャンプ的イベント。シアトルで発祥したこのイベントシリーズは、その性質と同じく急激に広まり、Startup Weekend Tokyoを始めとして、世界各地で開催されている。2011年の末にはついにGlobal Battleまで開催された、今最もホットなスタートアップイベントシリーズの一つである。
このイベントが凄いのは、参加しているほぼ全ての人が即席スタートアップに関わり、数日後にはプロダクトが完成する。そして、優勝チームにはより大きなプレゼンイベントへの出場権が与えられ、場合によっては会社設立から資金調達までが可能となる。
また、特筆すべき点としては、参加者、オーガナイザーの他に、”メンター”と呼ばれる人々が参加する。このメンター達は、主催者側から選ばれたそれぞれの分野のエキスパートで、参加チームは資金調達からプロモーション方法まで、スタートアップに関するあらゆる事柄のアドバイスを無償で受ける事が出来る。
毎回のイベント事に個別のテーマが与えられるが、今回開催されたのは、Startup Weekend Mobileと題し、Mobile系サービスがテーマ。1/20 (金)の夜から22 (日)に掛けて、アメリカ最大のモバイルキャリアであるAT&Tのラボオフィスを利用して行われた。
参加者は約120人で、合計17のチームが編成された。このイベントに対し、僕はUI/UXを始めとして、プレゼン資料やプロモーション素材、アイデンティティーに至るまで、デザイン全般のアドバイスを提供する、”デザインメンター”として参加させてもらった。
前回サンフランシスコにて女性起業家をテーマにしたStartup Weekend Woman 2.0, そして前々回のMEGA Startup Weekendから数えて、Startup Weekendでメンターを務めるのはこれで実に3回目となる。どの回も全く違うチームとサービス内容に対してのアドバイス提供になるのだが、実は毎回必ず聞く内容や、チームが直面するハードル、そしてスタートアップを始めるにあたって、共通する抑えておきたいポイントが見えてきたので、まとめてみたいと思う。
メンターをして気づいた点
デザインメンターとは?
自分に与えられた正式な役割はデザインメンターであるが、チームメンバーと議論する内容のほとんどがデザインよりもプロダクトのコンセプトや機能、そしてビジネスに関連する事柄。ヴィジュアルデザインはそれらを整理した最終的なアウトプットであるので、まずはユーザーに何をどう届けどのようなカタチでビジネスに展開して行くかを整理する事が一番重要になる。
実際の所、世の中でイメージされている”デザイン作業”はデザインプロセスの中の最終的な小さな一部でしか無く、デザイナーの仕事の大部分がプロダクトに関する情報整理と、その展開方法に関してのディレクション設定である。
特にモバイルのUI/UXに関してはページ数やプロセスをどれだけ削れるかが優れたエクスペリエンス達成の肝になる為、ストーリーボード作成やワイヤーフレーム等の実際のデザイン作業を開始する前段階のお膳立てが非常に重要になる。
Startup Weekendにおけるデザインメンターも、プロダクトを、見せ方+システム+ビジネスの三方向から総合的に診断し、それぞれの分野においてバランスのとれたものにすべく、正しい方向にチームを導くのが仕事となる。ちなみに、同じサービスアイディアでも、UI/UXの品質次第で、結果が大きく左右されるので、デザインメンターの役割は非常に重要になる。
メンターとしての本当の役割
よくメンターの役割はアドバイスを与える事だと思われがちだが、意外とアドバイスを与える事は少ない。それよりも、チームとのアドバイスセッションの時間のほとんどは、相手に質問する事に費やされる。編成されたばかりのチームで、思いついた直後のアイディアを議論しているとつい全体像が見えにくくなりより多くの機能やコンテンツを詰め込もうとしてしまう。
また、サービス内容にフォーカスしすぎる為に、ビジネスモデルがないがしろになってしまうケースも多く見られる。そこでメンターは客観的な視点から “なぜ” そうなっているのか、どのようなプロセスで展開を予定しているか等の質問をしチームメンバーの思考をクリアにして行くのが主な役割。
そして、良いメンターの秘訣は、チームに対して正しい質問をする事。正しい質問を元に、メンバー自身が自ら答えを導きだせる環境を造り出すのが重要である。その為には、相手のアイディアを引き出す聞き上手である事も大切な要素。こちらがほとんど話をしていないのに、”良いアイディアをくれて有り難うございます” と自己完結的に感謝される事も多い。
なぜメンターになるか
Startup Weekendに参加しているメンターは基本的に全てボランティアである。それも貴重な金曜日の夜から日曜日の夜までの時間を他人のプロジェクトに費やす。メンターに選ばれる方々の多くは、それぞれの分野にて相応の成功を収めている。それ故に大変忙しいケースが多いのだがそれでもパーソナルな時間を割いて起業家志望の方々に知識とノウハウを提供する。
自分も去年より参加してから気づいたのだが、メンターになる事で得られるメリットは意外と多い。まずは、つわもの達がしのぎを削るシリコンバレーで最新のトレンドやテクノロジーを目の当たりにする事が出来る。特に各チームごとに様々なジャンルのサービスアイディアがあるので、彼らと話すだけでも随分と有益な情報収集になる。場合によっては自分の知らなかった社会的問題やニーズの解決を目指しているチームもあり非常に興味深い。
その他のメンターとの結びつきも強いので、他の分野からの専門的な知識も得る事が出来る。また、各チームごとにビジネス、デザイン、エンジニア等の担当メンバーから特に優秀な人材の発掘の可能性もある。そして何よりも、常に自分がスタートアップの情熱に触れている事で、会社を始めた頃のワクワク感を体感する事が出来るのが一番の魅力である。
多種多様なチーム編成
毎回シリコンバレーやサンフランシスコでのStartup Weekendに参加して感じるのが、参加者の多様性。老若男女x多人種で構成されるチームは、様々な角度から物事を見る事で、隠れたユーザーニーズを引き出す。例えば今回も高齢者向けのサービスや小さな子供を持つ親御さん向けのサービス等のアイディアがあったがそれぞれの世代の参加者がチームに参加していたのがポイントだろう。
特にアメリカでは、企業におけるベテランクラスの方々がスタートアップに関わる事も多く、それが成功の一翼を担っているのは間違いないと思う。様々な生活習慣・スタイルを持つ人たちでダイナミックに構成されるチームからは斬新なアイディアが出やすい。
深刻なデザイナー不足
今回のイベントでも、一般的なスタートアップ企業でも、最近は深刻なデザイナー不足に悩んでいる。言い換えると、一昔前はあまり重要ではないと思われていたデザイナーの存在が、最近は会社の将来を左右する程になってきた。企画やシステム開発はある程度フレームワーク化出来たとしてもクリエイティブな仕事をテンプレート的にこなすのには限界がありそれでは差別化も出来ない。
やはり、多くのユーザーを獲得し、長期的に使ってもらう為には、美しい見た目と優れたユーザーエクスペリエンスが必須となる。毎回イベントが開催されるたびに主催者側から、”もっと多くのデザイナーの方々に参加してもらいたい” との声が上がっている。日本の方々でも腕に自信のあるデザイナーは是非参加する事をお勧めする。若干英語に苦手意識があったとしても、自分の得意分野で勝負する事は十分可能である。
スタートアップが必ず抑えておきたいポイント
今回のイベントでのアドバイスセッション中に気づいたのだが、毎回各チームに必ず聞くポイントがある。それらはピッチの際や、投資家へのプレゼン等でも必ずと言って良い程抑えておくポイントであるので、ご紹介する。ここでは雰囲気を出す為に敢えて英語のままで。
- Market Size – サービスがターゲットとする市場規模。この規模と見込みマーケットシェアを算出してサービスの可能性を設定する。
- Key Competitors – 主な競合サービス。この数が少ない方が成功する可能性が高い。
- Customer Validation – 想定するユーザーがどれくらいそのサービスを必要としているかを証明するデータ。ニーズに対するしっかりとしたデータがあれば、失敗する可能性を下げる事が出来る。
- Distribution Strategies – サービスを広める為の戦略。広告プロモーションから、キャンペーン、ソーシャルメディアまで、多岐にわたる。
- User Acquisition Strategies – ユーザーの獲得戦略。サービスにどのようにしてサインアップしてもらうかの方法論。
- Motivating Factors – ユーザーが使いたくなる要素。使っていて楽しいゲーミフィケーションもその一つ。
- Road Blocks – ユーザーが使いにくいと思ってしまう要素。無駄に多いステップや、分かりにくいボタン位置、不必要なセキュリティ要素はすべてそれ。
- Entry Barrier – 参入障壁。他社がマネのしにくい要素。固有のテクノロジーや人材、特許等もその例。
- Monetization – サービスの課金モデル。フリーミアムや、月額課金、アプリ内課金等。
- Business Model – 全体的なビジネスモデル。収益ゼロからのエクジットモデルでもOK。
参加者との熱い議論
実は今回のアドバイスセッションのうち、一つのチームとの議論がかなり白熱した。結論から言うと、先方が僕からのアイディアに全く同意出来ずに、かなりの言い争いになった。最終的には、”それは君個人の考えで、他のユーザーはそうは感じない” と言われてしまった。しかし、その後日に他のイベント会場にて偶然その方に会い、”あの時はとても有益なアドバイスを頂けて嬉しかった。今度仕事を依頼したいんだけど。” と言ってもらえたのは嬉しかった。
ちなみに今回の出場チームはこちら:
イベント出場チーム一覧
金曜日の夜に120人程の参加者が集まり45のア イディアが集められた。そのうち、17が予選を通過し、チームを編成。僕自身はメンターとして、土曜日の夜7pmより、それぞれのチームに対して、15分 のアドバイスセッションを行った。今回はアイディア、参加者共に非常にクオリティが高いと感じた。それぞれのチームとサービスアイディアは下記の通り。
HabituallyMe
アプリに自分が達成したい習慣を入力し、21日でそれらを達成さ せる。その際には友達を誘い入れ、一緒に頑張る事で達成率をアップさせるのが狙い。ソーシャル修行のようなサービス。
Pop-up
ファーマーズマーケットやフードトラック、Pop-up Shop等の非定期ショップの検索サービス。全米に広がるデータベースを元に、最新の情報をユーザーに提供する。
4Square Dating
バー やクラブでのパーティー等の際に、チェックイン情報やFacebookのプロフィールデータを元に、近くに居る共通点の多い人達を表示。友達の友達も分か りやすく表示する。”似たようなサービスで、WondershakeやMiepleっていうのがあるのしってる?”と聞いたところ、”知らなかった。で、 それらはうまくいってるの?” との答え。
Real Change
サポートしたい政治家や法案に対して、モバイル経由で寄付が出来る仕組み。また、現在提案中の法案や立候補中の候補者も表示。
LiveBuzz
スポーツや音楽等をリアルタイムで観戦中に、自分の感情をボタン一つで表現。ユーザーが文字をタイプする事無くワンタップで自己表現が可能になる。
ChannelMe
動画を通して、自分のライフログを”自分チャンネル”を通して表現出来るサービス。
Audience Amp
セ ミナー系イベントにてリアルタイムで、プレゼンターに対してのフィードバックが提供出来るアプリ。
Shop N Tag
店頭で商品やバーコードの写真を撮り、値段を入力。他の店舗やオンライン等で最安値が更新された際にアラートが届く。
SpeechLater.com
ニュー スやブログサイトで読む時間が無い際に、ブラウザープラグインを利用して、ハイライトした部分をスマートフォンに転送。時間のある時に機械音声にて読み上 げてくれる。
AwayWeGo
ロケーション情報を元に、自分の居る場所に応じたモバイルゲームを提供。車に乗っている時に子供達をおとなしくさせる為に一役買うのが狙い。
Find My Phone Deal
携帯機種の買い替えをサポートするアプリ。新型機種やキャリア別の購入可能なデバイスを表示し、最安値のストアも検索可能。
Poopspotter
道ばたや公園に転がっている犬のフンを知らせてくれるサービス。ユーザーが自主的に情報と写真をアップして、他のユーザーに警告する。
Claim Wars
子供がスマートフォン上で動画を見る際に、あらかじめ大人がそのコンテンツ内容に制限が掛けられるアプリ。また、自分の子供に見せたい動画をブラウザーからワンクリック登録する事も可能。
Sidewalk HQ
こ こ最近より話題が高まっているモバイルクレジットカードリーダー、Squareが提供するAPIを利用し、ロケーションごとの売り上げや販売商品内容を表 示するアプリ。デザインは卓越だった。場所によってどのくらいの売り上げが見込めるか、等の予測機能がつくとかなりエキサイティングなものになるはず。個人的にイチオシのチーム。
オフィシャルレポート(英語)はこちらから。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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