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コロナ危機でシェアリングエコノミーはどうなってしまうのか?
- シェアリングエコノミーの歴史とコロナショックが巻き起こす強制的なゲームチェンジ
- スマホの普及との相乗効果で、「シェアリング」は本流に (2010 – 2020年)
- 所有の減少はサービスの消費を促すと踏んだ矢先の…コロナ流行
- 原点回帰の時。シェアリング本来の「人間と人間のつながりや助け合い」に価値を感じるように
- 数字や評価だけに踊らされるな。重要なのは、問題の本質を解決すること
今から12年ほど前、スマホの普及が少しずつ始まってきた頃、AirbnbやUber、Lyft、WeWorkなどのサービスはまだ存在していなかった。「シェアリングエコノミー」という言葉自体を知っている人は、シリコンバレー界隈のごく一部のスタートアップ関係者や投資家だけだった。
その後数年間で、人々の生活は大きく変化した。サンフランシスコなどのアメリカ西海岸都心部を中心に、車や家などを所有せずにも自由に楽しく暮らす“新しい様式”が始まった。
これは、「しばらくはAirbnbか彼女の家で」でも紹介されているような生活スタイル。Love&Peaceを掲げる西海岸にはぴったりの生活を可能にするサービスの普及が、大きな要因の一つだろう。
2010-2020年: シェアリングエコノミー隆盛期
シェアリング系サービスは、人と人が繋がり、性善説でモノやサービスをシェアをすることで、場所、時間、お金に縛られない仕組みを実現することをコンセプトにしている。オンデマンドサービスを利用することで、仕事も移動も食事も遊びも、必要な時に必要な分だけ。まるで、究極の自由を手に入れるという、長年の人類の夢がついに叶った…。と思われた。
こういったライフスタイルは、アメリカ全土、そして世界中に広がり、スマホの普及も相まって、”新しい生活様式”として多くの人々に受け入れられ始めた。
それに伴い、シェアリングエコノミー系サービスは百花繚乱。関連スタートアップも軒並みユニコーンとなり、大型IPOも出現し始めた。それまではグレーゾーンだったサービスも、政府と上手に渡り歩き、新しいルールが制定されるまでになった。同時に、タクシーやホテルなどの旧態然とした産業は衰退を始めた。まさにそれは現代のルネッサンスの装いを呈していた。
そのブームに乗り、多くのスタートアップは各種シェアリングサービスだらけで、”Uber for X”などとも呼ばれていた。日本でも、一般社団法人シェアリングエコノミー協会ができるほどにまでエコシステムが成長した。
12年後に訪れた人類の危機
そして12年後の2020年、シェアリングエコノミーのさらなる普及を誰もが信じていたその矢先に、全く予想しなかった事態が人類を襲った。感染症の拡大である。新型コロナウイルス、正式名称COVID-19と呼ばれる感染症は、「シェア」というコンセプトを根本から奪い去るレベルの脅威となった。
本来であれば、シェアリングエコノミーは確実な成長曲線を描きながら成長を続け、世界中に普及する予定だった。90年代のインターネットの普及がそうだったように。しかし、そう簡単にはならなそうだ。人々はなるべく外出を避け、隔離生活を余儀なくされた。
それはまるで、大きな隕石が衝突したことで、繁栄してた恐竜たちが絶滅するレベルの環境変化のよう。もしくは、既定路線に予想外の出来事がおきり、新しい時間軸を作り出した、パラレルワールドのようにも感じられる。
「人を動かす会社が今だけは動かないとお願いしています」と綴られたUberのキャンペーン
シェアリングの基本コンセプト
ここで一度、”シェアリング”するメリットや、その目的を今一度振り返ってみよう。
2008年ごろ、まだスマホがあまり普及していない時代、カウチサーフィングやZipcarといった、シェアリングサービスが現れ始めた。
これらのモデルは、ユーザー同士を繋ぎ、所有している人が所有していない人に対して、宿泊場所や車を一時的に提供することで、所有せずとも必要な時にだけ利用可能な仕組みを生み出した。スマホ利用が少なかったので、現在ほどの便利性はなかったものの、一部のコアなファンは生まれ始めていた。特にルームシェアが一般的なアメリカでは、当初から受け入れられやすかった。
コアなユーザーと提供するスタートアップを中心に、シェアをするコミュニティーが形成され始めた。そのコミュニティーが目指したものは、より良い人と人との繋がり、所有を減らすことでの環境への配慮、過剰な価格設定に対する疑問など、既存の仕組みに対してのアンチテーゼとなっていった。
そして、カウチサーフィングに代表されるように、サービスを提供する側もその価格をかなり低く、もしくは無料にすることで、お金儲けよりも人とのつながりを重視していた。
これはまさにスタートアップ特有のカウンターカルチャーの産物であり、60年代から70年代におけるアメリカ西海岸を中心としたヒッピーカルチャーにもつながるところがある。
この辺の詳細に関しては、「シリコンバレーのキーパーソン3人が語る、次世代イノベーションとは」内のAirbnbの項目でCTOのNateによって ”ホテルに泊まるよりもより思い出深い旅の経験をユーザーに提供したいと考えています。” という言葉で語られている。
「どこにでも暮らせる世界を夢見ています」と書かれたAirbnbのビルボード
シェアリングがメインストリームに
より良い体験提供の追求はスマホの普及で決定的となった。タクシーに乗るよりもライドシェアの方が格段便利だし、ホテルに止まるよりもエアビーの方が楽しい体験ができる。そんなこともあり、これまでのコアユーザーに加えて、大衆もシェアリングサービスの魅力に気づき始めた。
サービスを提供する側、Uberにおけるドライバー、Airbnbにおけるホストユーザーも増加を続け、ついに新しい働き方、稼ぎ方が生み出された。それに伴うように「ギグエコノミー」という言葉も使われ始め、働き方にも大きな変化が生まれ始めた。
ギグエコノミーは急激に拡大した。特にアメリカでは、何かしらのシェアリングエコノミーサービスを利用してお金を稼ぐ人の割合が、全人口の3分の1にまで膨らみ、本業、副業、副収入、不動産運用まで、様々な収入源を生み出している。
そのトレンドは国境を超え、アメリカ国外にも広がり、GrabやDiDiのような他の地域特有のサービスも生まれ始めた。そしていつの間にか、徐々にミレニアルズを中心とした若者たちの間で、所有することがだんだん”ダサい”というイメージが広がっていった。
この勢いはどんどんと加速し、不可逆なものになると誰もが信じていた。
企業もモノからコトへ急激シフト
そんな流れの中で「今後はモノが売れなくなる」という展望を元に、多くの企業がモノからコトへ、言い換えるとプロダクトからサービスへの移行を急いだ。
これは、GAFAに代表されるような”所有しない”企業の成功や、若者の車離れなどのバズワードからも理解できる。この辺の詳細は、2016年に書かれた「DESIGN Shift: これからのビジネスはモノより体験が価値になる」にも記載されている。
特に自動車業界は、車メーカーからモビリティーカンパニーへのシフトが求められる、100年に一度の変革期とも呼ばれた。「若者が車を所有しなくなった6つの理由」を読んでみると、まるで今後自動車を所有する事がナンセンスになる時代が来るのではないかと感じる。
シェアリングエコノミーの普及は、同時に「所有することが減る = モノが売れなくなる時代」への突入を予感させた。それに伴い、企業も提供するプロダクトのサービス化を急いだ。ちなみに、プロダクトをサービスにする方法は「プロダクトのサービス化を実現するための3つの方法」に詳しく説明されている。
プロダクトとサービスの違い
感染症がシェアリングエコノミーに与える打撃
そんな矢先にそれは起こった。新型コロナウイルスの拡大である。人から人へと広がるこの感染症は、シェアリングという概念にとっては大きな脅威となる。
政府による外出自粛やソーシャルディスタンスの要請は、シェアリングサービスの基本コンセプトである「人と人がつながる。モノや場所を共有する」を根底から否定する事態を生み出した。
同じものを不特定多数のユーザーが共有することや、初めて会う人同士が同じ空間にいることは、このような状況では非常に難しい。それにより、多くのシェアリングエコノミー系サービスの利用が急激に下がってしまっている。そして、サービスを提供する企業の売り上げも、株価も、評価額も急降下をしている。
この流れは、シェアリングエコノミーの雄であったAirbnbやUberの業績を急激に降下させ、大量のレイオフを進める状況まで追い込まれてしまっている。これまでグレーゾーンを責めることで、ユーザーに対しての価値を生み出してきたサービスが、ここで大きな危機に直面している。
急激にニーズが高まっているケースもある
その一方で、この危機を乗り越えるために、シェアリング系のサービスが大きな活躍をしているシーンも増えている。例えば、Airbnbのホストが医療関係者に無償で滞在先を提供したり、Lyftが政府機関、地元の非営利団体、医療機関に対してライドをや生活必需品のデリバリーを提供したりするなど。
簡単に買い物に行けない人のためのInstacartやPostmatesの需要が高まったり、UberEats、GrubHubなどのフードデリバリーのニーズも高まっている。これは、場所や物をシェアするのではなく、「サービスのシェア = 代行業務」を提供するプラットフォームへのニーズが強くなっているということでもある。
利用者が支払い額の端数を自動的に寄付できる仕組みのLyft Up
実は社会インフラとして、よりその必要性を実感できている
ここ数ヶ月間サンフランシスコの街では、人々の移動が極端に減り、外食もほとんどゼロに近い。その一方で、スーパーマーケットには列が出来、毎日自炊するのもしんどくなってきている。そんな時に、人と人が助け合うことで、より良い日常生活を提供してくれるサービスは、非常にありがたい。
感染症がシェアリングサービスに与えるビジネス的な打撃は大きいが、皮肉なことにインフラとしての価値は高さが同時に浮き彫りになっている。そして、地元コミュニティーの人々を助けるという、本来のシェアリングエコノミーの魂に立ち返った利用のされ方に立ち戻ってきている印象も受ける。
去年までは、急成長、ユニコーン、IPOなど、派手なニュースが多かったシェアリング系サービス会社も、ここにきてシリコンバレー的ビジネス感ではなく、より町内会的な人間の温もりを感じさせるようなサービスに心を癒される。それは人に会うことが極端に減った自粛期間中において、束の間の安らぎでもある。
一つ前の危機=リーマンショックから人々を救うためのサービスとして生まれたシェアリングエコノミーは、今後も形を変えながらも我々の生活を救ってくれるはずだ。
いつでも重要なのは本質的な課題の解決
ここ数年のスタートアップバブルが加熱気味だったこともあり、ユニコーンバブルに代表されるような評価額至上主義が横行していた。これは、実際の売り上げや利益よりも、将来的にどれだけ市場を独占できるかをベースに、企業の価値を換算する方法だ。
企業の評価は、実体経済よりも、架空の数字で算出され、場合によっては地道に稼いできる企業が正当な評価をされない場合もあった。同時に、ユーザーの本質的なニーズが置き去りにされることも。それが、今回のコロナショックで、一度大きくリセットされ、今一度ユーザーの本質的なニーズに立ち返る必要が出てきた。
これから新しいサービスを作ったり、既存のサービスのピボットを行う際にも、ぜひユーザーの本質的ニーズに立ち返って行うと良いだろう。
btraxでは、ユーザーへの共感をベースに本質的なニーズを理解するマインドセットを体験、身に着けるワークショップを提供し、最近ではオンラインでのワークショップ実施も行っている。
本質的なニーズとは?どう見つけるべきかわからない…などお困りの方も、ぜひワークショップの詳細を聞いてみたいという方も、ぜひこちらよりお気軽にお問い合わせいただければと思う。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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