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【モノ消費からコト消費へ】若者が車を持たない6つの理由
以前に下記のTweetをした事がある。
かっこ良い車とかわいい女の子に魅力を感じない者は既に男ではない
— Brandon K. Hill (@BrandonKHill) September 9, 2014
しかし、最近はもしかしたら自分が間違っているのでは無いかと思い始めている。車の存在に魅力を感じない男が増えている?
車好きの自分としては想像しにくかったが、何人かの友人や知人に話を聞いて見るとどうやら本当らしい。”アメリカ = 車社会”のイメージがあるが、実はアメリカ都市部の若者を中心に徐々に車を所有することに対しての意識が大きく変化しはじめていることがわかった。
彼らの意見に耳を傾けてみると、そには消費者意識の変化を生み出すいくつかの社会的、テクノロジー的、心理的背景がある。
実は安定的に成長し続けている自動車販売台数
全米における自動車の販売台数を示す下記のグラフを見ても分かる通り、現時点では自動車販売市場は一見伸びているように見える。しかし、今後国内人口の過半数を構成する若者たちがメインの顧客層になりはじめる。現時点では自動車は順調に売れているが、今後に危機感を感じている自動車関係者は少なくはない。
そしてこれから紹介する彼らの心理の変化、そして人口の都市への集中化が加速する中で、スマホ販売前夜のガラケー市場のごとく、今後消費者と自動車の関係がどんどん変わっていくことが容易に予想できると感じる。
出展: YChats
自動車所有に対する若者の意識の変化
これから紹介するのは、カリフォルニア州に住む友人何名かに聞いてみた自動車所有に関する意識。自分自身は車が大好きなので、客観的な意見として非常に新鮮である。
実は、サンフランシスコ周辺に住んでいる友人で車を所有している人の方が少ないし、うちの会社単位で考えてみても、市内のオフィスに会社にUberやLyftで通勤している人はいても、毎日車で通勤しているスタッフもいない。
もし本当に自動車を買うこと、所有することに対しての意識が大幅に変化するのであれば、これまでの”作って売る”事をメインで考えてきた自動車メーカーにとっては大きな盲点であり、急激な方向転換が必要となって来るだろう。
1. ステータスシンボルの変化
高級なものを所有することがダサいと思われる時代に
フェラーリやランボルギーニといった派手なスポーツカーに乗れば、周りの人から”成功者”として羨ましがられる。可愛い女の子の気を引くことができるかもしれない。と、思うのは一昔前の考え。
最近では、無理して高級車に自慢げに乗る人よりもより効率的なお金の使い方ができる人の方が評価されがち。また、ソーシャルメディアでそんな車の写真をアップしても嫌味なだけで、同じお金を使うなら海外旅行に行った写真をシェアした方が”爽やかな自己主張“ができる。
そもそも若者の間で”車=ステータス”と感じている人は実は多くはない。アメリカで若くして高級車に乗っている人は、”お父さんに買ってもらったボンボン“か、”お金の使い方が微妙な成金の自己満足”と冷ややな目で見られがちである。
例えば車好きな有名人として、ジャスティン・ビーバーが挙げられるが、そもそも世の中的には”ジャスティン・ビーバー(笑)”の状態なので複数の高級車を所有していることがステータスとして微妙な意味合いになってきてしまっている。この辺は”与沢翼 on フェラーリ”の感覚に近いかも。
最近のアメリカでの一番のステータスシンボルは、”自分が求めるライフスタイルを追求する事”であり、お金の使い方としても”モノから体験“に移動し始めている。それが自然保護や子供達への支援などの社会活動であったりすることも少なくない。
実際、成功者の一番のステータスは世の中への還元であり、著名な起業家やスポーツ選手の多くがより良い社会のために寄付をしている。そろそろ、高級なものを所有することが”ダサい”と思われる時代になっているのかもしれない。
2. 時間が占有される
車を運転しないことで一週間で8.2時間、年間426時間の節約になる
当たり前のことだが、自動車を運転している最中は運転やちょっとした通話以外何もできない。言い換えると運転時間中は運転以外にその時間を活用することはほぼ不可能に近い。もしこれがバスや電車、タクシーであれば他の事に時間をあてることができるようになる。
別に今に始まったことではないが、一昔前は本や新聞を読む程度だったのが、現代ではスマホやタブレットがあれば、移動時間もメールのやり取りや仕事をこなすことができるようになった。
それにより、車を運転しない時間を仕事や友達とのコミュニケーションにあてることで、より効率的で豊かなライフスタイルが送れると考えている人もいる。
アメリカに住むとある若者が、自身の平均的な一週間の生活時間を計算してみたところ、車に乗っている時間が平均で合計8.2時間/週であった。もしこの時間を自身が運転せずに、他に使うことができれば、年間で426時間の節約になる。彼はその時間を他のことに使った方がより有意義な生活が送れると語る。
ちなみに、アメリカでの平均的な通勤時間である片道25.5分に当てはめてみると、平日だけでも一週間で3.4時間、年間で177時間となる。年間で平日の分だけでも177時間を運転ではなく他の事に使うことができれば、その分”得をする”と考えている人も少なくはない。
3. 他のオプションの増加
通勤中にUber内で30通のメールを処理
まず、自動車の存在を”A地点からB地点への移動” という機能的側面だけで考えてみると、公共交通機関やTexiに加えて、UberやLyftといったライドシェアなどのオプションがあり、自宅から目的地までドアtoドアでの移動がどんどん便利で安価になってきている。
上記の通り、車を運転する代わりにUberに乗れば、通勤中の20分間の移動時間でUber内で30通のメールメッセージを処理することができる。むしろ運転している事でスマホ操作が遮られる事の方が精神的なストレスとなる人も少なくはない。アメリカでライドシェアの人気が高まっているのにはこのようなユーザーの心理的影響も少なくはないだろう。
また、最近ではインフラやデバイス、ツールの発達で、オンラインでの買い物、リモートワークやオンライン学習など、そもそも移動しないオプションも増えてきている。わざわざ移動に時間をかけるのであれば、その分を他の事に費やした方が合理的だという考え。
しかし、中には”自動車を運転する体験”自体に魅力を感じているケースも実は少なくはない。男性を中心に車を操る楽しみや、スピード感を求めている人も確かにいる。統計でもミレニアル世代の実に78%のがモノよりも経験にお金を使いたいと感じてることからもわかる通り、若者の興味が”モノから体験”に移行するにつれ、自動車所有の魅力も車両自体から運転体験に移行し始めている。
しかし、例えば高級スポーツカーから与えられる”一時的な体験”を得るにはコストがあまりにもかかりすぎる。逆に考えると、一時的な体験だけを求めるのであれば、ZipCarやGetAroundなどのカーシェアリングサービスでスポーツカーを借りることで獲得可能になってきているので、わざわざ所有する必要はない。
自動車を運転する事から得られる”体験”を提供するための所有以外のオプションも増えてきている。
4. 自動車の存在自体がノイズになる
車の所有が余計な気を遣う事に繋がる
本来は人々の喜びを与えるはずの自動車の所有が逆にオーナーへのノイズになっていると考える人もいる。どうやら”自分の車を持つ = 一人前”の価値観はすでに崩壊し始めているようだ。むしろ車を所有した瞬間から多くの心配事, 言い換えると精神的なノイズが発生してしまい、他の事に集中できないというのである。
例えば、購入する際の車両選びから始まり、値段交渉、納車手続きは面倒でユーザー体験の質は非常に低い。そして買ったら買ったで、盗難や傷つけられるかもしれない怖さ、もしそれが性能の良いスポーツカーであれば速く走る衝動にかられ、スピード違反を切られる危険性もたかまる。
駐車場も確保しなければならないし、保険にも入らなければならない。もちろん気軽に友達と飲みに行くことすらままならない。車を運転している最中は気をつけなければ常に事故などの危険性にさらされている。渋滞に巻き込まれるのも大きなストレス。
中古車は修理やメンテナンスにも気を使わなければならない。新車はその価値がどんどん下がって行くのが怖い。どのタイミングで再販すれば良いのかも知っておく必要があるだろう。
このような自動車を所有する際のもろもろの事柄が生活のノイズになってしまい、日常生活の様々な側面でユーザー体験がどんどん改善されている現代においては、未だ旧式な体験を提供している自動車というプロダクトはどんどん置いてきぼりにされてきている。
5. 自動車所有は費用対効的に非合理的
自動車は95%の時間使われていない
そして最も分かりやすいデメリットが、自動車を所有するコストである。人生の中で最も高い買い物が家だとしたら、おそらく多くの場合、二番目が車になるだろう。これを単純なコストだけではなく費用対効果やROI (投資に対するリターン)も視野に入れてみると、自動車の購入に躊躇する人たちの気持ちが少しわかるような気がする。
最も購入コストの高い家の場合、 アメリカでは、都心部を中心にその価値が上がることが一般的であることもあり、投資としてある程度のROIが期待できる。その一方で、多くの場合、自動車は購入したその次の瞬間からその価値が下がり始め、数年もするとその価値がどんどん目減りし、10年もすれば購入時の1/10の価値まで下がってしまう。
高いお金を払った割には、その価値の低下があまりにも激しい。加えて維持費も継続的にかかる。
実は単純に車両価格が高いというだけではなく、最近の車は様々なセンサーやデバイスがてんこ盛りになっており、事故や故障の際のパーツ代が以前と比べ物にならないぐらい高くなっている。これにより維持費と修理費がどんどん高騰してしまっている。
そして、単純にお金だけの話だけではなく、自動車の購入が”割りに合うか”という事を計算している人もいた。上記の通り最近の車は、まるでスマホのようにどんどん新しいハードウェアとソフトウェアが追加されてきている。
これをスマホの感覚で考えてみると分かりやすいのだが、3年もすれば新しいバージョンがリリースされ、古いものは完全に時代遅れとなる。ソフトはアップデートできるが、ハードは買い換えるしかない。
5万円のスマホであれば単純に新しいバージョンに買い換えれば良いが、数百万円する車はそうはいかない。そうなると、今買うべきなのか、新しいバージョンが出るまでもう少し待つべきなのかで躊躇してしまう。
20年前の自動車と10年前の自動車は機能的にそこまで変化はなかったかもしれないが、10年前の車と現代の車では”別物”に近いくらいに異なる機能が実装されている。そしてこの変化のスピードと量はどんどん加速して行く見込みである。
また、費用対効果で考えてみても自動車は非常に非合理的だと指摘する人もいる。例えばHonda Silicon Valley Labの杉本氏は以前に下記のように語っている。
“作った車は5%とか10%とかしか使われませんよね。こんなに地球にとって無駄なことをしている会社はない。
– 中略 –
しかも残りの95%は駐車スペースを取るだけで、何もせず場所を取るだけで邪魔な存在になっている。で、世界の各地ではすでにそれに対して静かに行動が起こっています。現代では都市にいて車を買うということが、すでに合理的な選択ではないという風になっている。”
自動車はスマホと比べてみても稼働率が格段に低すぎる。このことからも自動車がかなり非効率的な使われ方をしていることがわかる。ネットやスマホに触れて育ってきた世代から考えると、自動車を所有することが”非合理的”であると感じる事もうなずける。
6. ミニマリズム主義のトレンド
自動車の所有は’持たない贅沢’のライフスタイルに反する
そして最後に最も注目すべき社会的トレンドとしての”ミニマリズム”を挙げたい。アメリカの若者を中心に浸透し始めているこのライフスタイルを一言で表すと、”余計なものを所有せずに、住む場所や特定の仕事に縛られない自由で身軽なライフスタイル”である。
アメリカを象徴するような物質主義 (マテリアリズム)に対する、反物質主義とも言う事もできるミニマリズムは、”持たない贅沢”を楽しむ考え方。所有物をなるべく減らし、それによるノイズやリスクも極力少なくする。まさに”禅”の精神に近い。この考えを愛していたのがスティーブ・ジョブズであり、Appleの製品もミニマリズムのコンセプトが一つの大きな軸となっている。
特にこのミニマル志向はサンフランシスコ/シリコンバレーの起業家の間でもかなり広がっている。TwitterのCEOであるジャック・ドーシーも無駄が多いという理由で車を所有していないし、マーク・ザッカバーグも一般的な日本車に乗っていたはず。
高級車を所有している著名な起業家で思いつくのはイーロン・マスクぐらいか? (まあ彼が乗るのも自社のTeslaだけど。)
過剰な所有は悪とされ、より環境に良いライフスタイルを優先するのもミニマリズム主義の特徴。Googleに勤めている友人は、自動車は持っているのに、週に2日は”あえて”自転車通勤をしている。それもサンフランシスコ市内からシリコンバレーのGoogle本社オフィスまで、片道約50kmを。
以前より”シンプルライフ”などの呼び方でも一部の人たちの間で流行っていたこのマインドセットを加速させたのが、スマホとシェアリングエコノミーサービスの存在であろう。必要なものを必要な時に必要なだけ得る事で、いつでもどこでも自由に暮らす事を実現できる世の中になり始めている。
世の中のインフラで考えてみても、固定電話から携帯電話、有線からWifi、デスクトップからラップトップ、個別賃貸からシェアハウスなど、日々の生活に必要なコストを抑え、どんどん場所と物に縛られない、自由なライフスタイルを実現しやすくなってきている。
その点で考えてみても、自動車を所有する事は、余計な持ち物を減らそうと考えるミニマリズム的ライフスタイルに逆行する。とある若者は、必要な時にだけ送り迎えをしてもらうという条件で自身の車を友達に無償で譲渡した。
これにより彼としては余計なリスクとノイズから解放され、自由なライフスタイルの元で、必要な時にだけ自動車に乗ることができる生活を実現したと語る。
自動車は生活必需品から嗜好品へシフトする?
実は免許を取る前にポルシェを買っちゃったぐらい、自分自身がかなり車が好きな事もあり、今回の意識調査はかなり衝撃であった。それと同時に”なんとなく気づいてたけどね”感も否めない。
やっぱり自動車を所有する事はコストの面でも合理性の面でも無駄が多い。自分はその”無駄”が大好きなのであるが、感情よりもロジックを優先する人からすると、”所有しなくて良いならしたくない”と考えたとしても不思議はない。
逆に自動車メーカー側から考えてみると、他の移動手段にはないエモーショナルな要素を提供することがヒットするプロダクトを提供する際に不可欠になってくるだろう。
自動車産業最大の帰路に立たされているこのタイミングで今後自動車がマニアのための嗜好品になるのか、コレクターグッズになるのか、それとも若者にも広く愛されるプロダクトとして存在し続けるかはプロダクトを作る側のマインドセット一つで変わってくるだろう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.