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君のプロダクトはビタミン剤か?鎮痛剤か?それとも治療薬か?
プロダクトやサービスのアイディアを考える際に最も重要とされているのが「ユーザーの課題解決に繋がるか」という点。これは、どう考えても正しい考え方な気がする。だって、そもそも課題を解決してくれないサービスなんていらないし、お金も払う気にもならない。
と、思いがち。でも現実は大きく異なる。
意外と課題を解決していないヒットサービスが多い
現在大ヒットしているプロダクトのその多くが、実は元々あった課題の解決をしていないのだ。まさかと思うが、下記のようなサービスは、ユーザーのどんな課題を解決したのだろうか?
- YouTube
- TikTok
そう。どうしても解決してほしい課題があったわけではない。でも、使い始めたらなぜか使い続けてしまう。これらのサービスは、課題を解決していないのに、新たな習慣を通じ、ユーザーに大きな価値を生み出した。
これこそがプロダクトやサービスを考える際の大きな盲点。
特にデザイン思考のプロセスでは「まずはユーザーのペイン (課題) を見つけよ」とされるので、ついつい課題解決型一択でサービスを考えようとしてしまう。でもそうじゃ無くて良いことも多々ある。
スタートアップ界隈ではビタミン剤、鎮痛剤、治療薬と呼ばれることも
この、具体的な課題を解決しないタイプのプロダクトの種類を「ビタミン剤」と呼ぶことがある。特にスタートアップ系の人たちには馴染みのある表現。
それに対してユーザーの具体的な課題解決に繋がるサービスを「鎮痛剤」。問題自体を無くしてしまうようなプロダクトの種類を「治療薬」と表現されたりする。
では、それぞれの特徴を見ていこう。
Vitamin – ビタミン剤
これといった課題は解決してくれないけど、あれば嬉しい。でも無くても困らない (はず) のサービスの種類。
スマホに代表されるように、電話さえできれば事足りたと思われていた携帯に対して、今までに無かった習慣を生み出すことで大きな価値が生まれる。
その特性上、利用初期にはあまり大きな対価は払いたくはないと思うが、長期で使っていると手放せなくなることもある。
ビタミン剤型プロダクト例:
- YouTube
- TikTok
- Snap
- Netflix
Painkiller – 鎮痛剤
ユーザーが感じている具体的な課題 (ペイン) を解決してくれるプロダクト。多くの場合、提供側が普段から感じている不都合や不便を解決するために始めることも多い。
以前より感じていた課題が比較的短期間で解決されやすいので、プロダクトの具体的な価値が伝わりやすく、ユーザーの獲得もしやすい。そして、解決する課題の大きさに比例した対価が見込める。
その一方で、同じ課題を解決しようとするサービスが乱立しやすく、競争が激化したり、すでに類似サービスが存在してたりしがち。
鎮痛剤型プロダクト例:
- Slack
- Uber Eats
- Zoom
- Salesforce
Cure – 治療薬
問題の存在自体を無くすようなプロダクトは治療薬型と呼ばれる。痛みを和らげたり、感じなくさせるわけではなく、痛みの原因を消し去ってくれる素晴らしいタイプ。
根本的な解決になるので、かなり説得力が高いプロダクト。その一方で、そんなに凄いことはなかなか作れない。また、特殊なニーズを解決することも多く、ニッチになりがちでもある。
そして、一回解決してしまうと必要がなくなるので、継続的なビジネスモデルとしてスケールしづらい事もある。
治療薬型プロダクト例:
- レーシック手術
- 結婚相談所
- どこでもドア
「鎮痛剤はビタミン剤よりもヒットしやすい」は大きな間違い
冒頭でも触れたが、感覚的にどう考えても鎮痛剤型の方がビタミン剤型よりもわかりやすく、ヒットしやすいと感じる。
健康状態を少し改善してくれそうなビタミン剤やサプリよりも、現在感じている大きな痛みを消し去ってくれる鎮痛剤の方がニーズが大きい、という理論だ。
実際に、“Sell painkillers, not vitamins” (ビタミン剤ではなく鎮痛剤を売れ) という表現があるぐらい、ビジネスにおいては、顧客の課題解決を行うのがセオリー。
しかし、実はこの理論と現実には、大きなギャップがある。
鎮痛剤からビタミン剤に移行したNetflixの事例
むしろ、鎮痛剤から始まって現在はビタミン剤的な存在になり、ユーザーを夢中にしているようなサービスすら存在する。例えばNetflix.
創業当初は郵送によるDVDレンタルを提供するサービスだった Netflix. 既存のレンタル店によるレンタル期間と延滞料に不満 (ペイン) を持つユーザーのために、レンタル期間と延滞料なしのサービスを提供。一回に借りられるDVDの枚数を制限することで実現したモデル。
まさにユーザーの課題を和らげるペインキラーだった。
その後ストリーミング型のサービスを追加し、少しずつオリジナルコンテンツを増やし、現在のモデルに進化した。そして、元々あったビデオレンタル店のほとんどが倒産してしまったため、当初のユーザーの課題自体が消滅。
現在のNetflix は完全にビタミン剤的存在になっている。
ちなみにゲーム系は?
では、ヒット作品が多く存在しているゲーム系のサービスはどのタイプなのだろうか?実は、上記のどれでもなく「キャンディー」と呼ばれたりする。
そう、体に良い効果はないが、甘くて美味しい。ついつい食べちゃう感じ。
意外と多いアイディア出しの落とし穴
このように、一見ロジカルだと思われる「課題解決型」サービスであるが、必ずしもそれだけに固執する必要はない。たとえそれが既存の課題を解決していなかったとしても、ユーザーに新しい習慣を提案し、夢中になる内容であれば、大ヒットも十分に見込むことが可能である。
また、似たようなサービスであっても、後発で成功している例もあることからもわかる通り、サービス作りにおけるアイディア出しは実に奥が深い。
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