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Tesla Model 3は予約段階で1.4兆円の売上!!その3つの顧客体験とは (CX)
発表後わずか1週間で325,000台、1ヶ月で400,000台を超える予約。最新のiPhoneではない。自動車の事である。
Tesla社が今年4月に発表した最新のModel 3は、その発表よりものすごい勢いで予約が集まり、自動車業界では異例の事態を生み出した。
実車を見ずに予約殺到
何が異例かというと、ほとんどの消費者が実際に見ていない、触れていない車両。それも本当に予定通りに発送されるかも怪しい車両に対して飛びついたのだ。それも予約方法はオンラインのみ。
さすがElon Musk率いるTesla。これまでの常識ではあり得ないイノベーティブな方法で、予想の倍以上の台数の予約を獲得した。その裏には実は巧妙な演出が隠されていた。
発表1ヶ月で約1.4兆円の売り上げ見込み達成
ベースの車両価格が$35,000に設定されたModel 3の”予約権”は一口$1,000。予約数が400,000としても、Tesla社は単純計算で発表直後の時点で400万ドルのキャッシュ売り上げと、140億ドルの見込み売り上げを獲得した事になる。
実は、自動車業界での予約型販売は珍しくは無い。例えばフェラーリやランボルギーニなどは、発売になる前から新車の限定予約販売を行い、先着順に納車を行う。
しかし今回のTesla Model 3の場合は、その予約数が桁違いに多い。
上記のような高級車であれば、出荷台数は数百台に限定されているケースがほとんどで、今回のTeslaのように数十万台クラスを全て予約販売するケースは今まで無い。
Model 3に予約が殺到した3つのファクター
世紀のイノベーター、Elon Musk自らが行なったModel 3の発表会。その様子は往年のSteve JobsによるAppleの新製品発表会を彷彿とさせる。
以前より”Teslaから$50,000を切る車両が発表されるらしい” とだけ噂されていたModel 3は3月31日にベールを脱ぎ、全容が明らかになった。しかし実際に出荷されるまでには1年以上掛かる見込みで、現在は試乗する事も出来ない。
しかしそんな状態でも予約が殺到した。これはある意味、新型iPhoneの発表よりも衝撃的だ。では、今回の発表がなぜそんなにも多くの人々の心を掴んだのか。そこには3つのファクターが隠されていると思われる。
1. 消費者の購入動機は”なに”を買うかから”なぜ”買うかに変化した
若者を中心に、最近の消費者はプロダクトを購入する際には、”なに”よりも”なぜ”を重要視するようになってきている。消費者の所有欲はプロダクト自体に対してではなく、そのプロダクトを所有する理由にフォーカスされている。
例えば、最も好きなブランドとして、自動車のTesla挙げた26歳の男性は、その理由を、“世の中の未来を視野に入れたグローバルなブランドと感じるから。そして代表のイーロン・マスクはリスクを恐れずチャレンジを続ける所に共感出来るから。”と答えた。
すなわち、今回のModel 3に対しても、下記のような”なぜ”が大きな購入動機になっていると考えられる。
- イノベーションをサポートしたい
- 社会、環境に優しくありたい
- 先進的でありたい
- イーロン・マスクの無謀なチャレンジを応援したい
2. クラウドファンディング型購入の定着
今回のModel 3の予約 > 購入のプロセスはクラウドファンディングにかなり近い。最近は日本でもその認知が高まって来ているクラウドファンディングであるが、アメリカを中心に海外ではEコマースに次ぐオンライン購入方法としてかなり定着している。
クラウドファンディング型購入では、プロダクトの提供者がプロトタイプの画像や動画を元にそのコンセプトや仕様を説明、賛同した消費者が”予約”に近い方法で購入を行なう。
提供側は通常お金が集まってからプロダクト制作を開始するので、実際に製品が購入者の手元に届くまでは数ヶ月から1年以上掛かる事もある。
もちろん購入時に確認出来るのは画像と動画のみで、実際のプロダクトを手に取ってみる事は出来ない。それでも年間で合計数百億円規模の取引がクラウドファンディングを介して行なわれている。
このトレンドは主に下記のポイントを示唆している:
- オーダーしてから届くまで待つのも楽しい
- 実際にプロダクトが本当に届くのかが楽しみだ
- 他のユーザーと一緒に製品製作を”サポート”している感覚を得たい
- クレジットカードで払えるぐらいの額($1,000)程度であればリスクを取る
3. 絶妙な顧客体験の演出
今回のTesla社がデザインした顧客体験はかなり巧妙だ。それも幾つかの複数のポイントにおいて。まずは消費者が得られる”選ばれし者”感。
これは、新型のiPhoneが発売された際にも利用された方法で、限られた人しか予約が出来ない雰囲気を演出することで、お金を払っているのにいつの間にか”得した気分”を得られる様になっている。
そもそのTeslaの車両は初代のロードスターからはじまり、大ヒットしたModel Sや最近出荷が始まったModel Xまで、全て1,000万円クラスの高級車である。
最近でこそサンフランシスコの街には複数のModel Sが路駐されているが、多くの庶民にとってはまだまだ高嶺の花。多くの人達が憧れをもつ車両で、”いつかはTesla“の思いを持っていた人も多い。
そこに対して数ヶ月前からのModel 3の噂。これを聞いて多くの消費者は”When Model 3 Comes Out (Model 3が出たら絶対に買うぞ)”がキーワードになっていた。今回の発表会 > 予約開始は彼らにとってはまさに”満を持した”タイミングであった。予約しないわけにはいかない。
そして、参加する事でのみ得られる他の予約者との仲間意識とゲーム感覚。予約者に送られてくるTesla社からの開発状況に関する定期的なアップデート。本当にスケジュール通りに届くのだろうか?
そして誰が先に実際の車両が届くかのワクワク感。会員制のクラブに入会した様な感じにさせる。これはまるで$1,000で馬主になったような気分に近い。
待たされる、じらされる、ドキドキさせられる、自分は選ばれた存在である。それらの感覚の一つ一つが一つのエキサイティングな消費者体験として演出されている。
Tesla社からオーナーに送られた今回の発表会への招待状
おめでとうございます!このたび貴方はModel 3の発表会への参加者として選ばれました。つきましては、3月31日の木曜日の夜、南カリフォルニアの会場にお越しください。参加者として1名同伴可能です。ちなみに会場までの移動費や宿泊費は自己負担でお願いします。最寄りの空港はロスアンゼルス国際空港になります。….
まとめ: これからは予約/購入体験自体も重要な顧客体験 (CX) になる
ここ数年でプロダクトの品質に加えて、ユーザー体験(UX)や顧客体験(CX)が企業の成功に対する重要なファクターになってきている事は間違いない。機能性や品質レベルだけではユーザーの心を掴む事は難しく、正しい”体験”を提供出来なければヒット製品は生まれない。多くの場合その体験は、製品自体が与えると考えられがちである。
しかし、今回のTeslaのケースからもわかるとおり、実は本来の顧客体験は予約、購入時から始まっており、そのタッチポイントをしっかりと把握し、正しい演出を生み出す必要がある。
今回のTeslaのケースで分かる通り、アメリカを中心に海外の企業は、製品の発表時からユーザーの心を掴むのがかなり得意で、製品の魅力以上の体験を提供している。その点で日本企業はこの購入体験に関しての演出は苦手なケースが多く、今後の大きな課題となると考えられる。
ユーザーに提供する体験価値としては、25%が予約/購入時、50%がプロダクト自体、そして25%がアフターサポートになってくると考えられる。
Tesla Model 3の発表イベントの様子
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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