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アメリカの丸亀製麺から考える日本でDXが進まない本当の理由
先日サンフランシスコ市内にある丸亀製麺 (アメリカだとMarugame Udon) に行った。コロナの期間は閉店していたが、今年に入ってからは営業を再開している。地元の人たちにも大人気の繁盛店。
入口でトレイを取り、列に並んで、カウンター越しにオーダーを行う仕組み。
そこであることに気づいた。
「めっちゃ人多くない?」と。それも、お客さんだけではなくて、従業員の数が。
従業員がめっちゃいる。列に並んでいる客と同じぐらいに。そして、それぞれのスタッフが “一つ” の作業しかしていない。
実際、オーダー内容に関しての質問をしてみても、
「私は漬け汁担当ではないのでわからない」
「トッピングに関しては横の人に聞いてくれ」
「私は天ぷらを作るだけの役割だから」
などの答えが返ってくる。まあ、これはアメリカのレストランだと日常的な会話。
一杯のうどんに12人
そう、それぞれの工程がきっちりと分業されており、それぞれの “担当者” が決まっている。言い換えると、一人につき一つの作業が割り当てられているのだ。
ざっと見ただけでも下記が担当で分かれてる。
- オーダーを取る人
- 麺を準備する人
- 麺を茹でる人
- 茹でた麺を渡す人
- 麺を冷やす人
- 麺をお椀に入れる人
- お椀に汁を入れる人
- お椀にトッピングを入れる人
- お椀をお客さんに渡す人
- 天ぷらを揚げる人
- 揚げた天ぷらを並べる人
- 会計をする人
これだけでも12人。
つまり、一杯のうどんがお客さんの手元に渡るまでに12人のスタッフが関わっていることになる。これは凄い。F1のピットストップを彷彿とさせる超分業スタイルだ。
これに加え、テーブルを片付ける人や後ろのキッチン、マネージャーなどを含めると相当の従業員数になるだろう。
従業員が多いと値段も高くなる
これだけの従業員がいるということは、もちろんお店へのコストも掛かってくる。そしてその結果として、値段も高くなる。
ちなみに、メニューに記載されているアイテムの数は必ずしも多くない。なのにめっちゃ従業員が多い。
時給が低いと複雑な作業は任せない
ちなみに、ここのアルバイトの時給は2,300円ちょっと。これでもこっちだと最低賃金に近い。
働いている方からすると「こんな安い時給なんだから、一つのことしか出来ない」と感じる金額であるため、アメリカでは、飲食店のバイトに複雑なオペレーションを任せることは稀である。
アメリカはチームプレーが結構苦手
また、それぞれのプロセスを分業にすることによって、うどん一杯を作るという比較的単純そうなタスクでも、チームワークが求められる。
しかし、アメリカの職場は結構ソロプレイが多いため、その作業を見ていると結構ぎこちなく感じる。
シングルタスクのアメリカとマルチタスクの日本
これが日本だとどうだろう?たとえ決して時給の高くないコンビニのバイトであったとしても、少人数で超マルチタスクが求められる。
レジ業務はもちろん、棚卸しや各種支払い、宅配便の手配、簡単な調理、清掃などなど、数十種類のタスクを、一人のバイトがまかなうことも少なくはない。
言い換えると、コンビニは一人の人間が超マルチタスクで運営している。
参考: コンビニアルバイト仕事内容21個の業務。経験者が教えます!
これがアメリカの場合、アルバイトはシングルタスクが基本になるため、属人的なオペレーションに頼ることが出来ない。一人のバイトにつき、一つの業務が基本である。
日本は従業員やバイトが優秀すぎる
これを考えてみても、やっぱり日本の人たちはすごいと思う。そこまで高い報酬を受け取っていなくても、しっかりと業務をこなす。それも、結構複雑な内容を。
これがアメリカだと「そこまでの給料もらってません」の一言で断られる。そもそも、採用する際に “Job Descriptions” という業務内容を書いた書面で、役割がここからここまでとクリアに定義され、それ以外は任せられないことが多い。
関連記事: 【カルチャーショック】日本人スタッフがアメリカの職場で感じた10の企業文化の違い
自動化 vs 運用でカバー
この状況を考えてみると、一つの結論に行き着く。そう、シングルタスクの単純作業は、テクノロジーの発展とともに、デジタルや機械、ロボットに置き換えやすい。アメリカは単純作業を自動化する動きが加速している理由にもつながる。
逆に、属人的なマルチタスクによるオペレーションの場合、人間による運用でカバーしようとする。むしろ、テクノロジーで置き換えるハードルが高くなってくる。
安い時給でマルチタスクできちゃうとなると、DXを進める理由が薄れてくるのかもしれない。日本では、無理やりデジタルにしなくても「究極のアナログ = 人間による作業 」が最強なのだから。
アメリカ: シングルタスク = 自動化しやすい
日本: マルチタスク = 自動化しにくい
関連記事: これから失われる仕事と求められ続ける3つの能力
日本はDXを推進する理由が薄い
DXの重要な目的は、これまでのアナログなやり方や属人的なプロセスから、デジタルテクノロジーを活用して、より自動化、効率化を進めること。
しかし、日本の場合は、品質の高い労働力を比較的安いコストで獲得できるし、これまでは、多くの業務を人的オペレーションでなんとかなってしまったこともあり、DXに対する “焦り” が少ないのかもしれない。
業務のデジタル化や自動化を進める長期的コストよりも、人を雇う短期的コストの方が低い場合は、どうしてもDX導入への腰が重くなりがち。
また、すでに正社員が多い会社は、簡単に解雇しにくいため、どうにか既存の社員の雇用を守るためにあまりDXに前向きではない可能性も考えられる。
関連記事: DXを推進する前に必要な5つのカルチャー変革
アメリカは人的コストが高い = 人を減らしたい
そもそもアメリカだと、アルバイトだったとしても、かなり人的コスト高&コスパが良くないため、どうにかしてテクノロジーによる置き換えを考える。テクノロジー企業の多くが電話によるサポートを提供していない理由も理解できる。
また、労働力の品質も日本のように高水準で安定していないため、属人的なオペレーションだとヒューマンエラーが多発する。
アメリカ: 時給が高い割にはパフォーマンスが低い
日本: 時給が低いのにパフォーマンスが高い
ということは、コストが高い割には業務の品質が低くなるため、経営者としてはできるだけ機械による代替え案を探すことになる。
その象徴的な例が、ロボットがハンバーガーを作るファーストフードのThe Creatorだろう。なるべく人的リソースを減らすことで、コストとエラーを下げるのが目的。
関連記事: ロボットハンバーガー店Creatorで感じたUXの改善点
くら寿司ではオートメーションが進んでいる
ちなみにこの丸亀製麺サンフランシスコ店のすぐ近くに同じ日本食のくら寿司がある。
こちらはかなり自動化が進んでおり、従業員の数はかなり少ない。
参考: アメリカの回転寿司から学ぶフルオートメーションの未来
業務的なペインが少ないとDXのゲインも感じにくい
ここ数年で日本国内ではDXが叫ばれているが、そもそも「なぜ」DXが必要なのか?
究極的には、人がやりたがらないこと、人間が苦手な業務をテクノロジーに変換することで、ヒューマンエラーを減らし、より豊かな生活を実現するのが目的だろう。
しかし、世界的に見ても賃金が安く、平均的な教育レベルの高い日本では、わざわざテクノロジーに頼らなくても人を増やせば良い。低い賃金でもあまり文句を言わず、しっかりと仕事をしてくれる。結果的に、今のところ頑張って人力による運用でカバーしてもコスパは悪くない。
でも、もちろんこれには限界もある。これから深刻になってくる労働人口の低下や、長時間の過剰な業務により体力・気力の限界。そして、従業員のメンタル的な問題もどんどん増えていくだろう。
ここで経営者として今一度「どのようにDXを進めるか」の前に「なぜDXが必要なのか」をしっかりと考えてみたいところ。
アメリカのレストランが高いのは、材料とか家賃の値段もあるけど、従業員の効率が悪くて、日本よりも数倍の人数を雇ってるからかもな。この写真は丸亀うどんの例。 pic.twitter.com/sL2B3iP93V
— Brandon K. Hill | CEO of btrax 🇺🇸x🇯🇵/2 (@BrandonKHill) February 22, 2022
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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