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インクルーシブデザインとは?現代の多様性に寄り添う7つの実例
ここ最近アメリカでは、デモやネット上での熱い議論など、人種や考え方の違いによる様々な軋轢が表面化している。
それに伴い、これまでは「普通」と考えられていた概念が見直され、より多様性を受け入れる動きが進んでいる。
日本と比べても、実に多種多様な人種が集まっているアメリカでも、まだまだ多くの商品やマーケティングメッセージが画一的なデモグラフィーを中心に考えられており、マイノリティーと言われるユーザーを考慮していないケースが少なくない。
その一方で、サンフランシスコを中心とした都心部では、ダイバーシティ(多様性)を受け入れ、それを考慮することで、より多くの人々のためのプロダクト作りやマーケティング手法が進んでいる。
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ダイバーシティーの主な構成要素
最近は日本でも知名度が高まってきている「ダイバーシティー」という単語。「多様性」を意味するが、具体的にはどのような要素が含まれているのだろうか?
LGBTなどに代表される性別的な要素や人種はわかりやすい例であるが、それ以外にも複数のファクターが存在している。
- 性別
- 年齢
- 人種
- 言語
- 体型
- 肌の色
- 宗教
- 食習慣
- 障がい
- 収入
- 利き手
- ライフスタイル
人々の多種多様な要素を包み込むのがインクルーシブ
世界中には上記のような様々なバックグラウンドを持つ人々がいるが、一つの場所で生活していると、どうしてもそれを忘れがちになる。特に日本国内に住む98%が「日本人」であることを考えると、日本がダイバーシティの低い国であるということになる。
それを象徴するのが、ターゲットを性別と年齢だけで区切ってしまうマーケティング手法。おそらくこの手法は、日本国外へ出た瞬間に、一瞬で通用しなくなる。
加えて、今後は日本にも海外からの移住者がどんどん増えていくことを考えると、日本企業も、早い段階からダイバーシティーへの理解とインクルーシブデザインの採用を進めていく必要があるだろう。
インクルーシブデザインとは
どんなデザインのプロセスにおいても、特定の顧客を除外してしまう可能性がある。インクルーシブデザインは、ユーザーの多様性を理解することで、意思決定の情報を提供し、できるだけ多くの人を取り込むことに貢献することをゴールとしたデザイン手法。
ユーザーの多様性は、能力、ニーズ、願望などに様々なバリエーションがあり、インクルーシブデザインでは、それらを広範囲でカバーしている。
近いコンセプトとしては、ユーザー中心デザインや、ユニバーサルデザイン、そしてアクセシビリティーというものも存在する。
インクルーシブデザインは、一人でも多くの人に役立つ製品を作るのがゴールとなる。アクセシビリティはそれ自体がゴールとなるが、インクルージョンはそれ以上の意味を持つ。
達成できれば、多様な特性を持った人が、様々な環境で自分の製品を使用することが可能になる。特に何百万人もの人々のためにデザインをする場合、人々が体験に参加するためのさまざまな方法を作ることが重要になってくる。
多種多様な人々に寄り添うインクルーシブデザイン事例
では、具体的には世の中にはデザインを通じて、どの表に多種多様な人々に対応しているのだろうか。実際の例をいくつか見てみよう。
1. 異なる肌の色に対応したバンドエイド
これまでは、形やサイズ、柄などの種類のバリエーションはいくつかあったが、より多くの肌の色の消費者に対応するべく、Band-Aidは複数の色味を持つ商品をリリースした。
そして、公式のインスタグラムでは”We hear you. We see you. We’re listening to you.” という、消費者のことを親身に考えているというブランドメッセージを発信している。
2. 車椅子の方でもスムーズに使えて、健常者にも違和感のないお風呂
デザインが解決すべき最も大きな多様性の一つが障がい者向けの施設だろう。特にトイレやお風呂は、日常での利用頻度も高いため、とても重要な場所になってくる。
駅や総合施設などでは、車椅子の方でも利用できるトイレを見かけることはあるが、お風呂はあまり知られていないだろう。
今回ご紹介するお風呂は、静岡県のJIKKAというゲストハウスに設置されたスパイラル形式のお風呂。5mのスロープを設置することで、体の不自由な方や、お年寄りにも優しい設計を実現している。
3. 性別や体型の既成概念にとらわれない下着
下着といえば、ついついヴィクトリアズシークレットのセクシー系や、トミーヒルフィガーのワイルド系など、どうしても型にはまったスタイルを想像しがちであるが、TomboyXでは、多様性の高いユーザー向けに、多種多様なアイテムを提案している。
トランクスやボクサーブリーフなどの男性的な下着を女性の体に合わせてアレンジしたり、男性の体向けにフェミニンなデザインを提供したりもしている。これはいわゆる、ジェンダーニュートラルのコンセプト。「男性っぽさ」や「女性っぽさ」からあえて離れることで、新しいニーズに対応している。
4. 宗教の違いに合わせてキャラクターをリデザインしたキューピーマヨネーズ
日本でもお馴染みのキューピーちゃんであるが、実は販売されている地域で、そのキャラクターのデザインが一部変更されている。変更している地域は、東南アジアのマレーシア、インドネシア。オリジナルのキューピーの背中の羽をなくし、顔と手だけのデザインになってる。
この地域ではイスラム教徒の方々が多いのが理由。イスラム教では、偶像崇拝が禁じられており、オリジナルの羽のついたキューピーは、天使と受け止められる可能性を考慮したものなのだ。
5. 赤ちゃんから大人までが使える椅子
赤ちゃんが生まれて、成長する過程では、身体がどんどん大きくなる。その度に家具を買い替えていると非常にコスト高になる。
この課題を解決すべく、北欧のデザイナー Peter Opsvikは、一生使える椅子をデザインした。TRIPP TRAPPと呼ばれるこの椅子は、生まれた直後から、大人になっても使える。全てのライフステージをインクルーシブにデザインされている。
6. 誰でも使えるニュートラルトイレ
海外では、男性でも女性でも利用できるトイレが増えてきているが、ヨーロッパなどでは文字通り「誰でも」使えるユニバーサルトイレが出現。
サイネージには、男性、女性、車椅子、老人、人魚、バッドマン、アンドロイド、そして宇宙人までが表記され、しっかりと点字も記載されている。まさに、全てを内包 (インクルード) するデザインとなっている。
7. 男の子でも女の子でも使えるカスタネット
おそらくほとんどの人が学校で使ったことのあるカスタネット。多くの場合、赤と青の2色で構成されている。実は、その理由は男子でも女子でも使えるようにするため。もともとは、男の子向けの青と女の子向けの赤が別々に存在してた。
しかし、クラスによって男女比率が異なったりすることで、どちらかの数が足りない状態が発生していた。そこで、両方の色を合わせて一つにすることで、どちらでも使えるようにデザインをしたというもの。
ちなみに現代では、青=男性、女性=赤、という概念自体がなくなり始めている。
インクルーシブデザイン入門
それでは、どのようにすれば、多様性に対応したデザインが実現できるのだろうか?我々btraxでは、世界の異なる地域の様々なニーズに合わせたプロダクトに対するデザインを提供するために、まずはユーザーを深く理解し、共感することからデザインのプロセスを始めている。
これは、デザイン思考のプロセスの第一歩である、エンパサイズのプロセスでもある。
そして、実際のデザインプロセスを進めるにあたり、下記のような命題を踏まえ、より多くの人々に受け入れられるようなプロダクト作りを進める。
- デザインを始める前に自分たちにはどんなバイアスがかかっているのか?
- このデザインを良しとしないのはどのような人だろうか?
- 必要のない要素にこだわってはいないか?
- 自分のためだけのデザインになっていないか?
- 最終的に誰のためにデザインをしているのか?
どんなデザインチームでも、これらのシンプルな質問を自問自答し、包括性について考え始めることが重要になってくる。
インクルーシブデザインを実現するための6つのステップ
実際にデザインプロセスを進めるにあたって、下記の6つのステップが有効になる。
1. 排除されているポイントとユーザーを理解する
排除のポイントを積極的に探し出し、それを利用して新しいアイデアを生み出し、新しい解決策を生み出す機会を模索する。人々がどのようにして、なぜ排除されているのかを正確に理解することで、よりインクルーシブになるための具体的なステップを確立することができる。
例えば、動画作成をする場合に、耳の不自由なユーザーにもメッセージが届くかどうかを検証するために、音量がオフになっていても、内容が伝わるかの検証を行う。
2. 状況に応じた課題を特定する
排除は状況に応じて発生する可能性がある。ユーザーがプロダクトを利用している際の「特定」のポイントにてインプルーシブではない瞬間が発生していることを探る。
今回の例の場合、通常は問題なく視聴できている動画コンテンツでも、空港やカフェなどの騒がしい場所では、音が聞こえなくなる瞬間がある。その場合、耳の不自由なユーザー向けにデザインされた要素がその課題を解決してくれる。
3. 個人的なバイアスを認識する
デザインプロセス全体を通して、さまざまなコミュニティの人々を巻き込むことで多様な価値観やバックグラウンドを理解する。そうすることで、ユーザーが必要としているものに気づくことができるだけではなく、プロダクトを作る際の制作側のバイアスを理解することに役立つ。
例えば、「カルチャーの違いを考慮したデザインのポイント」で紹介されているように、日本国内だと理解されているようなアイコンでも、海外ユーザーにとっては全く馴染みがなかったりもする。
4. 複数の異なる利用体験方法を提案する
プロダクトの体験を受け取るためのさまざまな方法をユーザーに提供する。複数オプションがあるため、ユーザーはそれぞれの状況に応じて最適な方法を選択することができるようになることで、より多くのユーザーを含むことが可能になる。
例えば、音が出せない環境において、動画が自動的に字幕が生成されるようにデザインするなど。
5. なるべく同等のユーザー体験を届ける
異なるタイプのユーザー向けに、複数のオプションを提供する際には、それぞれがなるべく同等のユーザー体験価値を届けられるようにデザインを行う。この点においては、アクセシビリティーがクリアされていても、体験の価値が保証されていない場合もあるので、注意が必要だ。
例えば、動画を音声ではなく、字幕で見る場合は、内容に関して同等の理解度を担保するために、再生スピードを変化させたりする必要が出てくる。
6. より多くのユーザー向けにサービスを拡張する
コアユーザーの課題を解決するデザインを行い、少しずつより多くのバックグラウンドを持つユーザーにも利用価値の高いサービスに昇華させていく。例えば、Slackは元々社内エンジニア向けのコミュニケーションツールだったが、それを一般ユーザーにも利用可能にしたことで、サービス価値が格段に上がった。
これからはインクルーシブデザインが競争優位性となる
ここ数年で、ユーザー体験 (UX) デザインの重要性の理解が急激に高まってきている。その一方で、では一体誰のためのデザインなのか?という問いが置き去りになっていることも少なくない。そして、驚くべきほどに多くのプロダクトやサービスが「無意識のうちに」特定のユーザーのためだけにデザインされている。
例えば、左利きの人には非常に使いにくいパソコンのマウスや、両手に荷物を持っていたら絶対に開けられない扉など。その原因の多くが、知らず知らずのうちに製作者側が蓄積してきた固定概念だろう。
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我々のプロセスの第一歩は、クライアントとともに、その固定概念を崩すところからスタートしている。これからの企業にとっての最も大きな競争優位性の一つが、どれだけインクルーシブなデザインが提供できるかになってくると考えられる。
インクルーシブデザインを上手に活用できれば、ユーザーと企業にとってWin-Winの状態を作り出すことができる。そして、プロダクトの可能性をを広げ、イノベーションに拍車をかけ、会社の社会的責任の達成にも繋がる。
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