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ディズニーランドから学ぶ究極のUXデザインとは
ユーザーに優れた体験を提供し、提供側の利益も生み出す。これがUXデザインにおける一つの究極のゴールである。この2つのゴールを達成している最高の例の一つがディズニーランドであろう。
実際に行ったことのある人であれば、その体験の素晴らしさと、躊躇なくお金をどんどん使ってしまうその雰囲気は、まさにマジックとも言える。実は、そのマジックの裏には、UXデザイン的観点で見ても卓越した設計が施されている。
UXデザインの価値を図る際には「UXハニカム」や「UXピラミッド」が使われることが多いが、おそらくディズニーランドはそれぞれの評価軸で見ても最高峰のレベルにまで達していると言えるだろう。
今回は「ピクサーのデザインチームが重要視する4つのプロセス」に続き、ディズニーの魔法の裏には、どのような「タネ」が隠されているのかを少し紐解いてみよう。
常にユーザーを体験の中心に置いている
ユーザー体験を設計する際に、最も重要なのが「ユーザーが主役」であるということ。これはプロダクトでもサービスでも共通しており「UCD (User Centered Design)」の概念を取り入れている。
ディズニーランドはパークのレイアウトを螺旋状にし、来場するゲストがそこを中心に異なる4つのエリアを自由に選べるように設計されている。
ゲストがピーターパン視点で旅をすることができるピーターパンのライドなど、アトラクションやライド自体にもこのコンセプトは採用され、ゲスト自身が主役になる演出が施されている。
体験のビジョンを掲げ実現するために細部にこだわる
ディズニーランドは”世界で一番ハッピーな場所(The happiest place on earth)”というビジョンを掲げ、それを実現するために、キャストの笑顔、接し方からパーク細部のこだわりに至るまで、徹底的にゲストを喜ばせるための体験が設計されている。
最新のテクノロジーをより良いユーザー体験にどんどん活用
ディズニーランドが他のテーマパークと一線を画すポイントの一つが、最新テクノロジーの活用方法だろう。
シンデレラ城に投影されるプロジェクションマッピングや、フロリダのディズニーランドでライドシェアのLyftとタイアップした「ミニーバン」のサービスなどは、常に進化し続けるテクノロジーをいち早く取り入れ、より良いユーザー体験を実現している。
ウォルト・ディズニーは人類初のUXデザイナー?
ディズニーランドの生みの親であるウォルト・ディズニーは、偉大なりストーリーテラーであり、イノベーターであり、ビジョナリーであるが、同時に彼は人類初のUXデザイナーとする声も多い。それは、彼が1965年に打ち出した「EPCOT構想動画」を見てみてもわかる。
1966年に発表されたEPCOT構想が凄すぎる
ESCOTとは「実験的未来都市」”Experimental Prototype Community of Tomorrow”の略で、その当時フロリダにオープン予定だったディズニーワールドに合わせてウォルト・ディズニーが考え出した都市の構想である。
この構想を彼自身は、“最新のテクノロジーを活用し、ビジョンを実現するための実験を行うためのプロトタイプ”と呼んだ。
これは未来的な理想都市を目指し、一つの独立した共同体を作る計画、決して完成することの無い未来のコミュニティーをテーマにした、新しいシステムと素材をテストする実験場所なのである。
EPCOTの一番のゴールが、全て人々の幸せの実現することであり、そのゴールを実現するためのテクノロジーが現時点で存在していなくても、企業がそれを開発する事に対してのきっかけになればと考えているとも語っている。
その構想では、ニューヨークのマンハッタンの約2倍の敷地面積に、7千世帯, 2万人が住むことが可能ならせん状の未来都市を作る。
住宅、ホテル、オフィスなどの施設で構成されるその都市は透明の屋根で覆われ、天候までもコントロールされる。ホテルの中を縦横無尽に走るハイスピードモノレールが走る。
地下は三階層、一番下は物資を運ぶトラック専用道路、二層目は、自動車が通り、その周りにホテル客用の駐車場を設置、信号が無い。
そして、Wedwayと呼ばれるリニア誘導モーターの仕組みで人々の移動させることで、地上には車が一台も走っていないので、通行人は事故の心配をすることがない。ちなみに、自動車は全てEVである。
重要なのは、この都市自体がプロトタイプであり、そこに住む人々からのデータやフィードバックを元にどんどん改善を進め、最終的にはアメリカの他の都市にも適用していく事を計画していた。
この構想を通じて彼は、今から50年以上も前にすでに現代におけるUXデザインの概念を導入し、人々の幸せと経済、テクノロジーの発展を計画していた。
この発表の直後にウォルト・ディズニーが死去したことで、プランに大きな変更が加えられたが、その構想は現在のUXデザインに通じるところが多いだろう。
ディズニーが実践する7つのデザインプロセス
ではウォルト・ディズニーの遺志を受け継ぎ、現代でも彼のビジョンを実現するために、ディズニーが採用している7つのデザインプロセスを紹介する。
1. 特別な瞬間を演出する
来場したゲストの一生の記憶に残るためのマジックを生み出す。そのために彼らにとって特別な瞬間を感じる体験の演出を行う。そうする事で、優れた以上の体験を提供する事ができる。
2. 最初から完璧を目指さない
今では全てが完璧と感じるディズニーランドも、1955年のオープン当時は全く違った。。食べ物は売り切れるし、ライドは壊れるし、偽のチケットは出回るしで、散々であったという。それでも、直後にしっかりと反省会を開き、翌日には大きな改善が施された。
2. 常に改善を続ける
ディズニーランドは完成の概念がない事で知られているが、それは同時に常に改善を続けているということでもある。例えば、カリブの海賊一つとっても、映画公開後にはジャックスパロウが登場するなど、基本は同じだが、常に何かしらの改善が施されている。
重要なのは、それが常に「追加」されているだけではなく、改善がされているという点。新しいアトラクションを追加すると同時に、ビジョンを実現するために、常に削る努力も繰り返している。
3. ユーザーに複数のオプションを与える
老若男女、異なるゲストの志向に合わせて、異なるテーマのエリアを設けたり、親と子供が共通で楽しめる場所を確保したりなど、様々なニーズに対応する事を実現している。
5. 新しい手法に挑戦する
「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」の名言を体現するかのように、ディズニーランドでは、常に新しい手法を取り入れている。一見するとアートとテクノロジーは相反するイメージがあるが、最高レベルにおいては相互関係性がかなり高い。
6. データの有効活用
ゲストに魔法を感じてもらいながらも、運営側ではしっかりと顧客データを獲得・することで、より良い体験の提供と利益の向上を実現している。例えば、どこに設置されたアイスクリームが一番売れるのか、ライドの列を減らすためにレイアウトをどのように変更するべきかなど、データに基づく施策が日々施されている。
7. テスト・改善・テストを繰り返す
ジャングルクルーズのオープン前にウォルト・ディズニーは、友人とその家族を招待し、その感想を集め、改善を行なった。ユーザーテストはUXデザインプロセスの中でも、最も重要なプロセスの一つであるが、これを60年以上前のオープン当時から行なっている。
ディズニーがデザインチームに提唱する10の戒律
ちなみに、ディズニーでは、デザイナーに相当する人たちを「イマジニア」と呼ぶ。そして、54年間そのイマジニアチームのトップであった、Marty Sklarは下記の10つのマインドセットを説明している。これらは、“ミッキーによる10の戒律 (Mickey’s 10 Commandments)” と呼ばれている。
Mickey’s 10 Commandments
- オーディエンスを理解せよ
- ゲストの立場になって考えよ
- アイディアをストーリーにせよ
- 見えない導線を提供せよ
- ビジュアルで伝えよ
- てんこ盛りを避けよ
- ストーリーは1つずつ伝えよ
- 一貫性を保て
- 強制ではなく自発的に楽しんでもらう演出を
- 常に最高を目指そう
参照: Walt Disney Imagineering: A Behind the Dreams Look at Making More Magic Real
それらを追い求める勇気さえあれば、全ての夢は現実となるだろう。
– ウォルト・ディズニー
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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