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デザイン経営を実践するために知っておくべき15のポイント
『「デザイン経営」宣言を宣言で終わらせないための3つの提言』でも触れられている通り、日本でもデザインと経営の融合が叫ばれ始めた。
これは、世界的なビジネストレンドみるとその重要性は明白。
企業の時価総額を見ても、ApppleやAmazon, Googleなど、デザインの力を活用してイノベーションを生み出してる企業が活躍している。
それに伴い、私達デザイナーの仕事の内容と、ビジネスや社会に対するその影響力もどんどん広がっているとも感じる。
自ずと、”デザイン” という言葉自体の概念も時代と共に変化し始めている。
Webデザインや、UIデザインなど、これまでのいわゆる”絵を描く”ことから、デザイン的考え方を事業の為の一つの戦略スタイルとして活用する方向にシフトし始めている。
特にアメリカでは大きな企業からもデザインの重要性へが認識され、業績に直接影響を与えるレベルになってきている。
ビジネス的考え方とデザイン的考え方の違い
そもそデザインと経営は根本的に物事に対するアプローチが大きく異なる。おそらく根底にある考え方がかなり違うと言える。
ビジネス的考え方
- ロジカルで構造的
- 具体的な計画が立たない事業は進めない
- 感覚よりも分析中心
- 予算ありきの事業プラン
- 解決するべき問題が仮説ではなく明確になっている
- トラブルや制限を嫌う
- 企業利益重視で考える
- 分析 > 決定のプロセス
- 失敗やミスは許されない
- 機能やスペック重視
- 過去のケーススタディーから学ぶ
- 既存のマーケットの状況を重要視
- More is good
- 数字で得られる結果にフォーカスする
デザイン的考え方
- クリアにコミュニケーションを行なう
- 正しいものを正しいところに
- 自由な発想からスタート
- 制限をクリエイティブの源に
- 顧客/ユーザー視点で考える
- 仮説 > コンセプト > プロトタイプ > 検証 > 改善のプロセス
- 失敗から学ぶ
- 心地よさを優先する
- ロジックと感覚の両方を活用
- 分かりやすく、使いやすくを優先
- Less is more
- 相手の気持ちを理解する
これまでは、ビジネス的考え方で経営をするのが王道であった。しかし、時代の変化が激しい現代では、過去のロジックが通用せず、新しい物事を創造することがどんどん求められ始めている。
これからはデザインの役割とそれを取り巻く環境の変化に関して、経営層もデザイナー的マインドセットを持つことが大切になってくるだろう。
下記に、btraxが信じているデザインを経営に活用する方法、そして今後の変化を紹介したい。
1. 全ての企業にとってデザインがより重要になる
これまでは、ビジネスに対してデザイン性の影響力が強いとされてきた業界は限定的であった。お
菓子のパッケージ、自動車のスタイル、T-シャツのデザインなど、主に消費者向けの製品を展開している企業が、より優れたデザイン力を武器にプロダクト作りを進めた。
その一方で、これからは見た目のデザイン性に加えて、デザイン的思考があらゆるタイプの業界の企業にとって大切な要素になるであろう。
これは見た目だけではなく、ユーザーが実際にサービスを受けたり、商品を利用する際に感じる利用体験、すなわちユーザーエクスペリエンス (UX) がビジネスの成功への鍵となるからである。
現にアメリカを中心として海外では、BtoBの企業でもデザインの重要性を認識し、デザイン的思考を社内プロセスに採用したり、デザインの部署を設立したり、デザイン会社を買収したりしている。
B2C, B2Bに関わらず、多くの企業がデザインの重要性をいち早く認識し、しかるべきアクションを取っている。
2. 企業価値にもデザイン力が影響する時代に
これまでは財務指標や事情実績、株価などから判断されて来た企業の価値であるが、これからはデザイン力も判断基準の一つのなると考えられる。
イノベーションを作り出すためには、デザイン的考え方や、デザイン力が非常に重要なファクターになる。ゆえに企業の将来的価値を計る際には、デザインに関する知識やスタッフの能力、設備等の要素が評価の基準となるだろう。
現に、デザインを経営に積極的に取り入れている企業はその株価がそうではない企業に対して10年で228%高くなっているという統計もある。
一部のシリコンバレーのVCでは、いち早くデザイン業界経験のある人材獲得を進めている。
また、Google Venturesでも、スタートアップの価値を判断するときや、成長ステージにおいてもデザイン力を非常に重要視している事で知られている。
3. 役員や社長もデザイン感覚が必要になる
マネージャーや事業主任などのリーダー達にとっても、これからはデザイン的考えがとても重要なスキルになってくるだろう。
物事の捉え方や解釈の仕方、また判断を下すときなどにも、デザイン的考察を入れる事で結果に大きな差が生まれる。
これは、変化のスピードがどんどん加速して行く中で、ロジックだけでは説明のつかない状況がどんどん増えていくのが理由。
Twitterがリリースされた直後、多くの専門家はこれほどまでに普及するとは予想していなかった。
TeslaやBeatsのヘッドフォンもそうだ。もちろんAppleの大成功はデザイン的側面によるファクターが大きな要因となっている。
使っていて心地の良いUXを兼ね備えている事が成功への一つの重要なファクターである事は間違いない。
それを嗅ぎ分ける嗅覚を持つ事が、物事を正しい方向に導くリーダーには必須のスキルになるだろう。
企業のトップも、言葉や数字だけでは説明しきれないけれども、ユーザーに”どこか良いと思わせる”何かに気づくが一つの重要なスキルとなる。
これまでは、”センス”や”直感”などの言葉で認識されていたが、それこそが、もしかしたらデザイン的な感覚ではないかと思う。判断に迷ったらデザイン理論的に優れた方を選べば間違いは無い。
4. 個々のデザイン性よりも全体のエクスペリエンス
時代が進むにつれ、複数のデバイス同士がコネクトし、ソフトウェアとハードウェアの距離が縮まり、UIとコンテンツ、機能性と操作性の境界線がどんどん薄れていく。
そんな時代にはそれぞれのプロダクトやメディア”だけ”のデザインを追い求めるだけでは不十分だ。全体をふかんで捉え、プラットフォームとしての総合的なエクスペリエンスをデザインする必要がある。
これまでの日本企業は、一つ一つの製品の作り込みは非常に優れていたが、それだけでは成功出来ない時代になった。
造形的デザインだけではユーザーに満足してもらう事は難しい。見た目だけではなく、利用時に心に響く総合的なプロダクト作りが必要とされている。
5. 行動心理学も重要な知識
User Centered Design (ユーザー中心のデザイン) を行う歳には、利用する人の目的を最も正しい方法で達成する為のデザインが必要とされる。
その目的を果たす為に、利用時のユーザーの心理を捉え、理解し、それに対して最適な施策を打ち出す必要がある。例えばUXデザイナーで、デザイン科卒ではなく、心理学や人間工学、人類学を学んだ人も意外と多い。
また、「デザインの力で人々の行動を変える – ビヘイビアデザインの裏側」でも紹介されている通り、行動心理学を元に、ユーザーの行動をデザイナーが誘導し、企業としての結果に直接繋げることも可能である。
逆に考えると、これまではデザインだけを学んで来た人も、今後は上記のようなその他の幅広い学問の知識も必要とされるだろう。
人間という生き物をより理解する事で、より最適なデザインを作り出す事が可能になる。
そういった意味では、脳科学を学ぶ事で、人間の脳がどのようなデザインにどう反応するかを理解する事が出来たりもする。
6. 広告やマーケティングがデザインのプロセスの一つになる
プロダクトを作り上げてからプロモーション用の広告やマーケティングを考えていた企業も、これからは、プロダクトをデザインする時からどのようにプロモーションされ、ユーザーに届けられるかを意識する必要がある。
かつて、Appleの新製品を考案する際にスティーブ・ジョブスは、発表会でどのようなプレゼンを行い、オーディエンスからどのような反応を得られるかを基準に、そのデザインやスペックを決めていった。
プロダクトの構想段階からPRを想定していたという事になる。
また、GoProの様に製品自体がバイラルマーケティングを喚起する様な機能を実装して作られていたり、そのデザイン性や機能性で、広告に全く費用を費やさなくても、話題性だけで人気に火がついたTesla Model 3など、企画をするときから、どのような方法で世の中に広げて行くかを意識する事が重要である。
7. 独学でデザインを学ぶ必要性が高まる
テクノロジーが加速度的に進んでいる中で、学校でデザインを学ぶだけでは足りなくなって来ている。デザイン学校やデザイン科を卒業しただけではプロの世界では十分ではない。
もちろん基本的なデザインの知識はとても重要である。それに加え、新しいメディアやデバイスなどに即座に対応出来る様に、経験豊富なデザイナーでも常に新しい手法を学び続ける事が必要とされる。
それに対応する為に、最近ではオンラインでデザインを学べるコースや、サンフランシスコなどの都心部では、社会人向けのクラス等も増えている。大学にいかずに独学でデザインを学び、デザイナーとして活躍している人も増えている。
加えて、すでにデザイナーとして活躍している人たちも、常に新しいスキルを身につけ続ける意識がなければ、すぐに時代に対応できなくなってくるだろう。
これからのデザイナーに必要なのは、スキルアップではなくスキルチェンジである。
8. クリエイティブ/技術職の境界線がどんどんなくなる
ここ数年間であらゆる製品の”コネクテッド”化がどんどん進んでいる。
それに伴って、製品開発チームも、UIデザイナー、テクノロジスト、ソフトウェアエンジニア、インターフェイスデザイナー、ハードウェアデザイナー、工学エンジニアなど、実に様々な役割の人々が関わる必要が出てくる。
その一方で、企業によってはそんなにも多くの人材を投入する事が出来ない事も多いため、1人の役割が多くなる。それに伴って、どこまでがデザインでどこまでが技術なのかの線引きが難しくなる。
デザイナーもテクノロジー的な部分もまかなうし、ハードウェアエンジニアがUIをデザインする事もあるだろう。
実際、あれほどの規模のAppleでも、主任デザイナーのジョナサン・アイヴはハードウェアもOSもデザインしている。現に、新しい職種としてUXエンジニアや、クリエイティブ テクノロジストなどという肩書きもできてきている。
これからは、”○○デザイナー”という、デザイナーの前につく肩書きは時と場合によって臨機応変に変える、もしくは潔く、”デザイナー”の一言で完結してしまっても良いかもしれない。
9. エンジニア経験を持つデザイナーの重要性
デザイナーとエンジニアは2つの異なる職業とされてきた。しかし、新たなテクノロジーが進むにつれ、デザイナーでもある程度の技術的知識が必要とされる。
これはハードウェアでも同じ事が言える。「【これからのスキル】デザイナーとエンジニアの境界線がどんどん無くなる」でも説明されているように、デザインをする過程で、動く部分までを作り出す必要性が上がってきている。
そういった意味では、エンジニアの経験やバックグラウンドを持つデザイナーは非常に重要な人材となるだろう。
逆にデザイナーからエンジニアに転身する事も珍しくは無い。この2つの職業の境界線はどんどんなくなり始めている。これからは、僕はエンジニアだから…, 私はデザイナーだから… などの言い訳は出来なくなる。
10. デザイナーと呼ばれなくなる職業
デザインがどんどん重要になってくる事に全く疑いはないが、逆に,いままでデザイナーと呼ばれいた人達の中で、そろそろ呼ばれ方が変わってくる役割が出てくるだろう。
例えば、イラストを描く仕事はイラストレーターだし、Webページをコーディングする人はコーダー、Photoshopを上手に活用する事だけに専念している人達はオペレーターと呼ばれるべきである。
簡単に言うと、与えられた課題に対して最善の解決策を考え、それをデザインのアイディアとして落とし込む人がデザイナーであり、デザイナーの出したプランやディレクションに応じて、出来るだけズレない様にそれを具現化して行く人達がその他の職業となる。
呼び方の定義だけであると思うかもしれないが、実は全社はクリエイティブ職であるのに対し、後者はオペレーション職になる。
オペレーション系の仕事は今後マシーンに取って代われる可能性もあるので、仕事が無くなる、もしくは待遇が悪くなる危険性をはらんでいる。
11. デザイナーはデータを理解し活用しなければならない
デザイナーが感覚やデザイン理論だけをベースに仕事を行う時代は終わるだろう。
何が本当に正しいデザインかの判断をある程度データから読み取る必要がある。そして、常にデータを分析しながらデザインの改善を行う。
「数字として結果に繋がらないデザインに価値はないのか?」でも説明されている通り、それぞれの目的に沿った正しいデザインを行う為には、データありきで仕事をしなければならない。
特にユーザビリティやユーザーエクスペリエンスなど、利用するユーザーありきのデザインの結果は、データが全てである。
得られた数字を元に、デザインを柔軟に変更し、改善を進めて行く事が重要になっていく。これからは、デザイナーとデータサイエンティストという、一見関係の薄そうな2つの職業が密接に関連してくるだろう。
この辺を考えて見ても、今後は経営とデザインが密接に関連してくること想像できる。
12. クリエイティブ性を重要視したオフィス環境
デザインの重要性が高まるにつれ、よりデザイナーがクリエイティブに仕事ができるオフィス環境が必要とされている。「クリエイティビティのリミットを開放する6つの要素」でも触れられている通り、より想像力を解放してくれる環境が重要である。
これは特にデザイナーだけに限った事では無いようで、最近ではサンフランシスコ・シリコンバレーを中心として、多くの企業のオフィスがクリエイティブ重視にデザインがされている。
これからは、オフィスも機能性や合理性に加えて、新しいアイディアのインスピレーションを与える様な、クリエイティブさの重要性も高まってくるだろう。
13. 少数向けのデザインと大衆向けのデザイン
異なるテクノロジーやインフラの状況に合わせて、デザイナーの役割も変わってくる。
ごく少数のユーザーにしか使われない事が想定されるプロダクトやデバイスに関連するデザインと、世界中のより多くの人々に利用してもらう事を目的としたデザインでは、そこに必要とされる内容も知識も異なる。
それぞれの利用シーンや目的に応じて施すデザインを分けて考える必要がある。
例えば最先端の技術の一つ、ドローン関係や、VRデバイス向けのデザインは、大衆ウケする必要は必ずしも無いが、かなり専門的な尖った内容になる。
一方で、ネット環境の遅い国の人達にも利用してもらう為のECサイトをデザインする場合には、低いスペックのデバイスでもストレス無く使ってもらえる様に、なるべくややこしい機能は実装しない、など、自分が行っているデザイン作業が最終的にどのくらいのスケールで、どのようなタイプのユーザーに利用されるかをしっかり理解する事が必要とされる。
そして、それに応じて,最適なデザインメソッドを採用する。
それにはやはり、具体的なペルソナやカスタマージャーニーマップなどのUXデザインプロセスを活用すると良いだろう。それを元に、ビジネス的プランにも反映させていく。
これはまさに経営やマーケティング戦略にも密接に連動しているべきで、デザイナーやデザイン部署を個別に切り離すべきではないことがわかるだろう。
14. 高齢者向けデザインの重要性
日本もそうであるが、世界的に見ても高齢者はどんどん増えている。そして、今後は高齢者であっても、例外無くインターネットをはじめとしたテクノロジーに触れる機会が増えていくだろう。
これまでのWebサイトやモバイルアプリは若者向けに作られる事が暗黙の了解になっていたが、今後はより上の世代向けのサービスをデザインする事が一つのビジネスチャンスになっていくだろう。
それに伴い、アメリカ西海岸では世界に先駆けて高齢者が利用する事を視野に入れたウェアラブルデバイスや、スマートホーム、自動車などの開発も進められている。テクノロジーを活用し、それを上手にデザインしてあげる事で、本当の意味でのバリアフリーが実現出来る日も近い。
15. デザインと経営に”完成”は無い
これからのデザインは、デザイン作業が終わってからが始まりである。
ユーザーのデータを集め、分析し、より良いデザインを施す。ソフトウェアがそうである様に、デザインにもバージョンアップやパーソナリゼーションのコンセプトが導入される。
一つのプロダクトに対して、一つのデザインで完結する時代は終わった。作り上げたデザインはその次の瞬間からどんどん進化させる事。その覚悟が無いのであれば、デザインを行う資格は無い。
それと同じく、経営においても常に変化をし続ける必要があるだろう。
ユーザーの生活環境の変化による新しいニーズの掘り起こし、新興勢力によるこれまでの産業に対するディスラプトなど、経営課題がどんどん増幅する中で、経営チームにデザイン系の人材を抜擢するのは至極当然になってくるかもしれない。
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