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なぜ日本にはデザイナー出身の経営者が少ないのか
先週、日本デザイン学会主宰の「2020年度 日本デザイン学会 秋季企画大会」というイベントに登壇させていただいた。
セッションテーマは「チーム・クリエイション」。デザイナーを取り巻くチームとビジネスに関するトピックだったため、自分が感じている「海外から見た日本の状況」について触れさせていただいた。
というのも、最近ではビジネスにおけるデザインの重要さが叫ばれている。
マッキンゼーの調査でも、デザインを経営に活用している企業は平均と比べ、売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっているという結果が出た。
その割には、日本企業におけるデザイナーの役割と立場がまだまだ地味で、ビジネスの根幹に入り込めていないように感じていたから。
デザイン責任者を配置している海外企業
一方で、海外、特にアメリカのスタートアップでは多くのデザイナー出身者が起業し、成功している。
また、大企業でも経営陣にCDO (Chief Design Officer) や CCO (Chief Creative Officer) を配置し、経営にデザインを積極的に取り入れている会社が増えている。
CDOやCCOのいる主な企業・団体
- 3M
- ピクサー
- ペプシコ
- DBS銀行
- ロジテック
- フィリップス
- ヘルシンキ市
- キアモーターズ
- ロスアンゼルス市
- ウォルトデズニースタジオ
* https://en.wikipedia.org/wiki/Chief_design_officer
デザインドリブンな世界一の企業: Apple
デザインバックグラウンドを持つ経営陣が多いことで知られる最も著名な企業がAppleだろう。
そもそもファウンダーのスティーブ・ジョブスは熱狂的なデザインオタクだったし、後期にAppleを復活させた彼の右腕、ジョナサン・アイブも世界最高峰のデザイナーである。
技術力が重要視されていた20世紀では倒産寸前までになっていたAppleは、デザイン力が重要になった21世紀になって強烈に成長し、名実ともに世界一の企業に君臨している。
デザイナー出身の起業家たち: ジョブスチルドレンの功績
そして現代の起業家のその多くがデザイナー出身だったり、デザインバックグラウンドを持っている。そして、そのような人たちが経営陣にいる企業の成長率の高さは統計的にも実証されている。
デジタルプロダクトを通じたユーザー体験が重要になってきている現代においては、商品の差別化要因はどんどん少なくなり、最後に残されたのがデザイン性とブランド力になってきているのが理由だろう。
デザインバックグラウンドを持つ起業家のその多くがジョブスに憧れ、優れたプロダクトを武器に会社を成長させている、いわゆるジョブスチルドレンである。
この流れはアメリカだけではなく、取締役の多くがデザイン経験を持つサムスンや、海外から多くのデザイナーを採用しているアリババなど、韓国や中国の会社の多くもその流れを踏襲してる。
デザインバックグラウンドを持つ主な起業家:
- Jack Dorsey – Twitter, Square
- Brian Chesky – Airbnb
- Evan Sharp – Pinterest
- Chad Hurley – YouTube
- Stewart Butterfield – Slack
- David Karp – Tumblr
- Charles Adler – Kickstarter
- Dave Morin – Path
参照:【デザイン × 経営】ビジネスにおけるデザインの価値を追求する7人の起業家
日本企業におけるデザイナーの役割って何?
ここからが本題。そんな世界の潮流の中で、ではなぜ日本の企業の経営陣にデザイナー出身者があまりいないのか?
そもそも日本企業の従業員で「デザイナー」という肩書を持つスタッフ自体が驚くほど少ない気がする。では、日本企業におけるデザイナーの役割とは、一体何なのだろうか?
おそらくその仕事は、プロダクト制作における最終工程の装飾や、ブランディングにおけるビジュアルデザインの一部にとどまっているケースが少なくない。
とある日本の会社では、企画会議に出席したデザイナーに対して「なぜあなたが参加してるのですか?」と言われたという。
そうなってくると、どうしてもプロダクトが提供するユーザー体験の質は下がるし、ブランド資産も積み上がりにくくなってくるだろう。
なぜ日本ではデザイナー出身の経営者が少ないのか?
従業員にデザイナーが少なく、その役割も限定的なのであれば、経営陣にデザインがわかる人が少ないのもうなずける。しかし、デザインがビジネスにとても重要な時代に日本企業の経営陣にデザイナー出身者が極端に少ない場合、企業としての競争力は極端に下がってしまう。
それなのに、日本企業の経営陣にデザインバックグラウンドを持っている人はかなり少ない。
それはなぜなのか?
この答えは、日本は経営において営業がとても重要であるから。
言い換えると、日本では営業力が企業にとってとても重要な役割を果たす。下手するとプロダクトの質以上に。自ずと営業畑出身の人間が経営者や取締役などに出世しやすい。
特に経営者が創業者ではない企業はこの傾向が顕著だ。
この理由は、以前に一緒に登壇したTakramの田川さんも、Goodpatchの土屋くんも、今回登壇したNOSIGNERの太刀川さんも、AIR Designの中平さんも一様に同意していただいた。
めっちゃ使いにくいプロダクトのなのに何故か売れている。その理由は営業力にあったりする。
最近ではメルカリのようにエンジニア出身の人が経営をしている会社も増えているが、デザイナー出身者はまだまだ少ないだろう。
結果として日本の多くの優秀なデザイナー達は、自分たちのフィールドだけにとどまり、ウンチクを語る日々を過ごしている。
日本と海外でなぜこんなにも違うのか?
では逆に、アメリカをはじめとした海外ではデザイナー出身の経営者が多いのか?おそらくその秘密は、国土の広さにあると思われる。アメリカと日本の国土の違いをおさらいしてみよう。
ざっとこんな感じである。
アメリカの国土は日本の約26倍。
ニューヨークからサンフランシスコまでは飛行機で片道6時間。3時間の時差がある。近そうに思えるロサンゼルスからサンフランシスコまでも飛行機で1時間以上かかる。サンフランシスコ – シリコンバレー間だって、車で1時間以上かかる。
これはどういうことかというと、簡単に足で稼ぐ営業ができないということ。では、どのようにして顧客やユーザーを集めれば良いのか?
そう。プロダクトの質、ブランド力、マーケティングにフォーカスするしかない。
足を使った営業力に頼れない分、他の方法でユーザーを集めてくるしかないのだ。
だから自ずとプロダクトの質が上がり、重要な差別化要素であるデザインおよびデザイナーの役割も上がる。結果として、デザインバックグラウンドを持つ人材の重要性が高まり、経営陣にもどんどん採用される…という感じ。
特に短時間で急成長が求められるスタートアップに関しては、一気にユーザーを集めなければならないのだ。営業に頼っている場合ではない。
と、いうこともありスタートアップ界隈の人たちはスーツを着る機会がほとんどない。
スタートアップの中心地域にデザイン会社も密集している
ちなみに我々ビートラックスのオフィスのあるサンフランシスコからは多くのスタートアップ が生まれている。下記がそのスタートアップのMapである。
サンフランシスコ市内のスタートアップMap
次に、もう一つのマップを紹介したい。これは、市内にあるデザイン会社のMapである。
サンフランシスコ市内のデザイン会社Map
そう、スタートアップ が密集しているエリアとデザイン会社のオフィスの分布が似通っている。これは決して偶然ではない。
多くのスタートアップ がデザイン会社とコラボしているのだ。
そうすることで、プロダクトのデザイン性が高まり、世界有数のスタートアップ が生み出されるという仕組みができている。デザイン会社のトップがスタートアップの取締役として参画しているケースもある。
これからは経営陣にもデザイン的感覚を
DXやイノベーションを促進することが急務になっている日本企業も、これからはデザインバックグラウンドを持つ人材の積極採用、経営陣への抜擢、そして外部デザイン会社とのコラボを通じて、世界的にも競争力の高いプロダクトを生み出すことが求められるだろう。
経営陣たちもデザイン的感覚を身に付ける必要がある。
逆に言うと、デザインを上手に経営に活かすことができれば、世界有数の企業に名前を連ねることも不可能ではないということだ。
ビートラックスでも、企業の経営陣に対するデザインワークショップや、デザインスプリントを通じて、よりデザインとビジネスが直結した日本企業を増やすことを大きなミッションとしている。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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■開催日時:
日本時間:2024年12月6日(金)9:00
米国時間:12月5日(木)16:00 PST / 19:00 EST
*このイベントはサンフランシスコで開催します。
■参加方法
- オンライン参加(こちらよりご登録いただけます。)
- 会場参加(限定席数) *サンフランシスコでの会場参加をご希望の方は下記までお申し込みまたはご連絡ください。(会場収容の関係上、ご希望に添えない場合がございます。予めご了承ください。)
- 対面申し込み:luma
- Email(英語):sf@btrax.com
世界有数の市場規模を誇る日本でのビジネス展開に向けて、貴重な学びの機会となりましたら幸いです。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。