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DESIGN Shift: これからのビジネスはモノより体験が価値になる
これからのビジネスはどうなっていくのか?そして、それに対してのデザインの役割は? 経済産業省が主催する新事業創造カンファレンス&Connect!での基調講演にて、それらのポイントに関してのプレゼンをさせて頂いた。
そもそも日本ではこのような1,000人規模のビジネス系イベントで”デザイン”をテーマとしたプレゼンが出来た事は非常に嬉しいと同時に時代の変化を感じる。
数年前までであれば、アメリカやシリコンバレーからのプレゼンターを招く場合、そのトピックは最新のテクノロジートレンドやスタートアップ投資、そしてエコシステムに関しての内容がほとんどであった。しかし、今回経済産業省からリクエストされたのは、ビジネスにおけるデザインの重要性に関するスピーチ。
デザインの重要性が今までに無い程に高まる中で、基調講演のタイトルを“DESING Shift:” と名付け、サンフランシスコのデザイン会社, btraxのCEOとして、DESIGNという言葉の意味、そしてなぜ今デザインがそこまで重要なのか、これからの日本企業にとってデザイン、そしてデザイナーの重要性を説明する機会を頂いた。
DESIGN ≠ Design
最近では英語でデザインを表示する際に”Design”と普通に書く場合と、全て大文字で”DESIGN”と書く場合で意味を分けるケースが増えている。Designとは見た目や表面の美しさなどをビジュアル面の設計をさすのに対し、DESIGNは広い意味でビジネスやプロセス全体に対してデザイン的考え方を用いて価値を生み出す為の戦略までをもカバーしている。
DESIGNが生み出す価値
広い意味でのデザイン = DESIGNが生み出す価値の代表的なものとして下記があげられる。
ブランディング
ユーザーが企業やプロダクトに対してどのような感覚を持つかを司るのがブランディングである。優れたブランディング戦略はユーザーにポジティブな印象を与える。
サービスの差別化
アメリカやその他の先進国では”デザイン的思考”を社内の全てのプロセスに採用し、他社との差別化を図る事で、大きな成功を成し遂げている企業が増えている。
UX (ユーザー体験)
Webサービス、モバイルアプリ、ソフトウェアに関わらず、様々なプロダクトにおいて、見た目の美しさや使いやすさは人気を得る最大の秘訣の一つである。
イノベーション
世の中で”イノベーション”と考えられている商品/サービスのその多くが、デザイン的プロセスに起因する部分が大きいと考えられる。実にユーザーエクスペリエンスが劣るプロダクトで人々がイノベーションの例として挙げるものはほぼ無い。
デザインはビジネスの全ての側面にて価値を生み出す
– DESIGN creates values to every aspect of business
サービス化できないプロダクトは生き残れない
ここ数年でビジネスモデルにおける大きな改革が進んでいる。一番大きな波はプロダクトのサービス化であろう。2015年の時点で、
世界で最も大きなタクシー会社はUber – 所有している車: 0
世界で最も大きな宿泊業者はAirbnb – 所有している宿泊施設: 0
世界で最も大きな販売店はAlibaba – 所有している商品: 0
世界で最も人気があるメディアはFacebook – コンテンツ作成無し
世界で最大の映画ネットワークはNetflix – 所有している映画館: 0
これらの事実が示唆するのは、ユーザーが求めているのはモノではなくサービスであるという事。上記の企業は全てユーザーにとって最適なサービスを提供している。実際のところ、世界の若者を中心に消費者の多くは、”モノよりも体験にお金を使いたいと思っている”と答えている。
これからの時代は例えプロダクトを所有していなくても、最適なサービスを届ける事が出来ればユーザーを獲得する事が出来る。逆にもの作りだけにフォーカスしてしまうと、ビジネス的には苦戦を強いられるであろう。
プロダクトを上手にサービスに変換し、ビジネス的な価値を生み出すのがサービスデザインの役割である。ここにおいても、広い意味でのデザインの存在が重要になってくる。
プロダクトとサービスの違い
では、プロダクトとサービスはそもそも何が異なるのであろうか?極めてシンプルに定義するのであれば、おそらく下記の様に表現出来るであろう。
プロダクト
基本的に購入する時点でその内容と価値が決定している
利用を始めてからもユーザーにとってその価値が変わらないか下がる
サービス
基本的に購入する時点でその内容と価値が決定していない
利用を始めてからユーザーにとってその価値が上がる
消費材、プロダクト、サービスにおける時間に対する価値の変化
例えば、椅子や机といったプロダクトは購入する際にその価値が決定しており、使い続けた後もその価値はあまり変わらない。その一方で、FacebookやLINEなどのサービスは利用開始当初よりも現在の方がユーザーにとってその価値は高いはずである。なぜなら、他のユーザーと繋がったり、コンテンツが充実したりなど、使い続ける事でそのユーザーが求める内容がどんどん増えているからである。
これだと一見ハードウェアはプロダクトでソフトウェアはサービスの様な気がする。しかしそうではない。サービス化を進めているハードウェアも多くある。例えばTesla社の自動車、Model Sは、乗り続ける事で制御システムのアップデートや、ユーザーからの走行データをもとにした機能の改善など、乗り続ける事で価値が上がる”サービス化”が大きな商品価値となっている。その点ではiPhoneなどのスマホもその性質を持っている。
そして、これからの時代の消費者は”サービス的”要素を重要視し今後は所有という概念が薄れて全てはサービス化していく。これは、産業革命、情報革命などに続くサービス革命が始まっている事に他ならない。それに合わせ日本の大きな産業の一つである製造業がサービス業に変化する必要がある。その点においても今後はサービスデザインの重要性がどんどん高まっていくだろう。
優れた体験がユーザーそしてビジネスの大きな価値となる
サービスのデザインを進める際には、そのプロダクトがユーザーに与える体験、いわゆるユーザーエクスペリエンス (UX)が非常に重要なファクターとなってくる。上記の通り、消費者が求めるのはモノではなく体験であり、優れた体験を提供する事で、確実にユーザーの心をつかむ事が出来る。言い換えると、プロダクトではなくてエクスペリエンスを売る事が求められてくる。
ユーザー体験が生み出すビジネス的可能性: Case of Uber
ビジネスにおけるユーザーエクスペリエンスの重要性を理解する為に、世界最大のライドシェアサービス、Uberを例にとってみてみよう。ご存知の通り、Uberはアプリを通して手軽に自動車を呼べる仕組み。運転する側もアプリを通じてユーザーの場所を確認する事が出来る。その使いやすさが話題となり、ここ数年で人気は急上昇。創業5年足らずで未上場にも関わらず企業価値は6兆円を超えている。
使いやすさを最優先したUberアプリ | photo credit: Mark Warner
優れたユーザー体験はそのままに複数のサービスに転換
実はこのUber, サンフランシスコでは最近自動車以外にも新たな展開を始めている。Uberがユーザーに提供する主な利用体験は:
- スマホを通じて近くにいる車を自分のいる場所に呼ぶ
- 車が自分の所にやってくるのが地図上でリアルタイムで分かる
- 近くに来た車に乗る
- 利用後にアプリに登録しているクレジットカードで自動的に支払いが行われる
- 利用体験を☆の数でレビューが出来る
であるが、これをそのままに、利用目的をタクシー的に乗るのではなく、車両に積載されている食品をユーザーに”出前”するのが、Uber Eat. 食品のデリバリーが少ないアメリカでは重宝する。また、ユーザー体験が既存のサービスと同じな為、ユーザーからの支持は得やすい。
車に載っている食べ物が届くUber Eats
また、Uber Eatsの少し変則的なものとして、アイスクリームトラックがやってくる Uber Ice Cream. 子犬がやってくる Uber Puppyなど、同じアプリ内で異なるアイコンをクリックするだけで、届けられるものを変更する事も可能になって来ている。これは、まさにユーザーに正しいサービスとユーザー体験を届ければ、プロダクトはいつでも変更出来るという良い例である。
アイスクリームトラックがやってくるUber Ice Cream
子犬がやってくるUber Puppies
異なる事業領域でも既存のユーザー体験を活用出来る
この様な例をもう一つ。アメリカでは若者を中心に人気の友達間で送金が出来るアプリ, Venmo. このフィンテック系アプリのUIを下記に見てみよう。何かに似ている。ぱっと見金融系のアプリというよりも、SNSっぽい。むしろまるでFacebookのようなUIである。利用体験としても友達同士の誰が誰にいつ送金したとか、友達を検索してメッセージを送る感覚で送金/リクエストしたりなど、その利用体験はSNSである。
ここで気づくのは、例えそれが金融系のサービスであってもユーザー同士でやり取りするような内容のサービスであれば、正しいユーザー体験はSNSなのである。この辺は業界を飛び越えた考え方が必要になってくる。
SNSライクな利用体験を提供する送金アプリのVenmo
ユーザー体験を武器にサービス展開
と、おもっていたらSNSの王者であるFacebookもアメリカではちゃっかり送金サービスを開始している。Facebook Messangerのアプリに”$”のマークの付いたアイコンを追加して、メッセージと同じ感覚でお金を友達に送れるようになった。Facebook社もいつのまにかあっさりとフィンテック業界に進出している。これは、正しいユーザー体験を設計しておけば、事業展開が無限大に広がるという良い例である。
米国ではFacebook Messenger経由でお金が送れる
優れたユーザー体験をデザインするUXデザインの重要性
上記の通り、優れたユーザー体験を提供する事はビジネスにとって非常に重要なポイントとなってくる。プロダクトをスペックや性能で選ぶ時代が終焉を迎え、利用した際に具体的な何を得られるかが、プロダクトの成功を左右する最も重要なファクターなってきている。それは言い換えると、商品自体にお金を払う時代が終わり、ユーザーは”経験”に価値を見いだすようになったとも言える。UXがビジネスのコアとなってきている。
逆に考えると、どれだけ細部にこだわり素晴らしい技術を活用して作り上げられた製品も、そこにユーザー視点で正しいエクスペリエンスがデザインされていなければ価値の無いプロダクトになってしまう危険性が高い。重要になってくるのがUX Design = 体験をデザインする. ここでもデザインの重要性が高い。
テクノロジー視点からデザイン視点のビジネスへ
ITやメーカー系を中心にこれまでの多くの企業、特に日本国内では特殊技術や要素技術などを元に、それがどのようなビジネスに変換出来るかを考えながらプロダクト作りを進めて来たケースが多い。しかしながら、今後もその方法を続けて行くと、ユーザー視点でのサービス化が難しくなり、正しいユーザー体験の提供も出来にくくなってしまう。
“Business Models based on Technology” から “usiness Models based on Design“へ、企業のビジネスモデルは変換を余儀なくされるであろう。その為には、デザイン思考などのプロセスを通じて正しいサービスを創り出す必要がある。
デザインシフトを実現させる3つの方法
品質の高い日本のもの作りをベースとした企業に必要なのは、技術視点でのプロダクト制作からユーザー視点でのサービス設計への転換、DESIGN Shift: (デザインシフト) である。正しいデザインプロセスを通じて、新しい視点でのビジネスの構築はアメリカ西海岸ではスタートアップを中心に既にどんどん進んでいるが、この変換を日本の企業もいち早く行わないと時代に取り残されてしまう。
その為には、下記の3つの戦略が不可欠である:
1. 会社全体がデザイン的感覚を身につける
デザイン的考えやプロセスを社内全体に浸透させる為にはまずはリーダーとなる経営層がそれにコミットする必要がある。ビジネスモデルが老朽化していたシリコンバレーの老舗会計ソフトウェア会社、Intuitを蘇らせたのはCEOが社内全体に要求したデザイン思考プロセスの定着である。
2. ユーザーに一貫したエクスペリエンスを提供する
プロダクトやサービスを企画する際に、もっとも初めにやるべき事は一貫したユーザー体験 (UX) のデザインである。技術面や会社の哲学、社内の政治はまずは置いておいて、ユーザーメリットを最大限に引き出すようなUXデザインがビジネスの成長においては不可欠となる。
3. テクノロジーではなく顧客視点でサービスを考える
どうしてもテクノロジーに偏りがちな日本企業であるが、ユーザーからしてみればカタログに掲載されているスペックなど、今となってはハンバーガーの横のポテトほどの価値も無い。そんなエンジニアのエゴのようなものは、まずは忘れて顧客が心地よいと思えるサービス設計を行う。ここでもサービスデザインがキーとなる。
DESIGN creates Innovation, Innovation creates global-scale business.
ps.
今回のイベント登壇直前に会場のホテルニューオータニの控え室にて、経済産業大臣政務官とデザインの重要性に関してのお話をさせて頂いた。政務官もその重要さを以前より感じていたとの事で、
“テクノロジーも大切だけど、やっぱりデザインが一番重要だよね。僕も以前よりずっとそう思っていた。日本は技術やモノ作りは素晴らしいが、デザインがあと一歩で、世界レベルのプロダクトが生まれにくい。僕も以前は日本製のガラケーを使ってたけど、やっぱりそのデザイン性の高さで、今ではiPhone使っているもんね。”
と言われた際に政務官がふとポケットから出したスマホがAndrdoidだったのに対してつっこむ勇気は無かった…。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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