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デザイン経営トレンドを振り返る
2019年を締めくくるにあたり、経営におけるデザインの与えるポジティブインパクトについて、まとめてみたい。アメリカ西海岸をはじめ、多くの企業がすでにデザインの恩恵を受けているが、まだまだその数は少なく、世の中のビジネスの大半は、その重要性をいまだ実感していない。
数字で表される経営に対するデザインの力
米国のコンサルティング会社Motiv Strategiesによると、デザイン的考え方を経営に積極的に取り入れている上場企業16社は、その株価の伸びがS&P 500全体と比べ2003年から2013年の10年間で228%高くなっているという統計を発表した。
ちなみに、このDesign Value Index指数におけるDesign-centric Organizationに選ばれるための評価項目は下記の通り:
- 過去10年間で上場している
- 経営とマネージメントの根幹にデザインを活用してる
- デザインに関する事柄に対しての投資と影響力が増えている
- 企業の組織構造とプロセスにデザインが浸透している
- 経営陣に15-20年のデザインバックグラウンドをもつ者が含まれている
- 経営トップ及び部門長がデザインの重要性を理解し実践している
参照: Design Can Drive Exceptional Returns for Shareholders
また、2018年10月のマッキンゼーによる調査では、デザインを経営に活用している企業は平均と比べ、売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっているという結果が出ている。
デザイン施策の計測方法とその活用事例
マッキンゼーのパートナーであり、イギリスでプロダクト開発とデザインに関するサービスを提供するベネディクト・シェパードによると、商品の差別化がどんどん難しくなってきている現代において、多くの企業の重役たちが、プロダクトやサービスデザインの重要性を叫び始めていると語る。マッキンゼーの調査では、下記の4つの領域においてのデザインの経営に対するインパクトを計測している。
1. デザインの影響が実際の数字で計測できる領域での活用
例: とあるゲーム会社はホームページのユーザビリティを改善したことで売り上げが25%アップした。
2. ユーザーとの対話を最優先したユーザー体験 (UX) 設計
例: とあるホテルは、お土産のアヒルのおもちゃにそれぞれの都市名を刻印することで、コレクション性を高めた。それにより顧客の維持率が3%高まった。
3. プロジェクトチームに優秀なデザイナーを参加させ裁量を任せる
例: ストリーミング音楽配信サービスのSpotifyではデザイナーに多くの権限を与え、自分たちの判断で自由な活動ができるようにした。
4. プロダクト開発においてリサーチ、プロトタイピング、改善を推奨
例: とある旅客クルーズ会社は、ユーザー行動調査及び支払データを元に、船上で人気の高い活動を分析し、機械学習を活用することで、最も効率の良い船のレイアウトを導き出した
リサーチの結果、上記の4つの領域を一貫して実行している企業は売り上げなどの業績が他の企業よりも急上昇していることがわかった。逆に言うと、この4つ全てをしっかりとコミットしていなければ、しっかりとした結果が出てないという事でもあった。
デザインが経営に与える具体的なインパクト
InVisionが実施した、デザインを経営経営に取り入れている企業300社に対するリサーチによると、具体的に下記のようなメリットが表れている。
商品のクオリティに対するインパクト
- ユーザビリティ改善: 81%
- 顧客満足度向上: 71%
業務に与えるインパクト
- 社員の作業効率の向上: 33%
- 商品の市場リリーススピードの向上: 29%
会社の利益に対するインパクト
- 売り上げの向上: 42%
- コンバージョン率の向上: 35%
- コスト削減: 30%
マーケットポジショニングに関してのインパクト
- ブランド価値向上: 39%
- 新しい市場参入への効果: 25%
- デザインパテントや知的財産権への効果: 13%
- 評価額や株価への効果: 10%
2019年はデザイン経営元年
グローバル規模では上記のような統計データがあるものの、日本国内において本当の意味でデザインの経営における重要性が理解され始めたのはここ最近であり、2019年になってからやっと本格的に企業がデザインに対しての取り組みを進めていると感じる。
今年は年始に予測した通り、主に下記のような変化があったと感じる。
- デザインが経営資源の一つの軸に
- 差別化要因としてのデザインの役割
- データ活用とAI連動の実用化
- デザイナーの概念の変革
- デザイン会社と企業の連動が常識に
世の中が豊かになったからこそ求められるデザイン的価値
これまではどの企業も価格や機能、品質などの「カタログ要素」で勝負をしてきた。しかし、全てのプロダクトのコモディティ化が進む中では、カタログには乗りにくい特性、例えば、斬新さや、美しさ、使い心地の良さなどで他社製品と争うことになる。
現代のような豊かな時代では、合理的、理論的、そして機能的な必要に訴えるだけのプロダクトでは、とうてい利益は上げられない。これからのビジネスの世界では、手頃な価格で十分な機能が備わった製品を製造するだけではもはや不十分である。
数字で表現できる性能の高さに加え、感覚的に美しく、ユニークで、意味があり、利用体験の優れたプロダクトでなければ、消費者の心を動かすことが難しくなってきている。
差別化の最後の砦となるデザイン的要素
むしろデザイン力を武器にすれば、大きな差別化要素を生み出すことも可能になってくる。
このことは、SONYの前会長、大賀典雄氏の下記の言葉からも推し量ることができるだろう。
SONYでは、同業他社の製品は全て基本的に同じ技術を使っていて、価格、性能、そして特徴に差はないと考えている。市場において製品を差別化できるものは、デザインをおいて他にない。
価格競争から抜け出し付加価値で勝負
特にアメリカでは、今日の供給気味の市場の中で、他社製品やサービスとの差別化を図るには、デザイン性やユーザー体験の品質が高く、消費者の心に訴えかけるようなものを提供するしかなくなってきている。
言い換えると、どれだけ付加価値を提供できるかが勝負のポイントになってくる。さもなければ、熾烈な価格競争に巻き込まれるのがオチであり、中国などの製造コストの安い国には全くをもって太刀打ちすることが出来ない。
まずは社員にデザイナー的マインドセットを
デザイン経営を始めるにあたり、よく聞かれるのは「何から始めたら良いでしょうか?」という質問。答えとしては、スタッフの方々にデザインの基本や、その役割を理解してもらう事から始めるのが良いと思われる。言い換えると、デザイナー的マインドセットを身に付ける事である。
デザイナー的マインドセットとは
デザイナーの人たちが普段問題解決を行う際に利用している考え方やプロセスを元にした価値観や考え方。
デザイナー的考え方:
- クリアにコミュニケーションを行なう
- 正しいものを正しいところに
- 自由な発想からスタート
- 制限をクリエイティブの源に
- 顧客/ユーザー視点で考える
- 仮説 → コンセプト→ プロトタイプ → 検証→ 改善のプロセス
- 失敗から学ぶ
- 心地よさを優先する
- ロジックと感覚の両方を活用
- 分かりやすく使いやすくを優先
- Less is more
- 相手の気持ちを理解する
- 細部にこだわる
- 一つの問題に対して複数の解決方法を考える
- 前例のとらわれずに未来を考える
- 全ては世の中をよくするために
- 企業の利益よりユーザーのメリットを優先
これからはプロダクト重視からサービス重視のビジネスへ
メーカー系を中心にこれまでの多くの企業、特に日本国内では世界的に見ても高い技術力を武器に、それがどのようなビジネスに変換出来るかを考えながらプロダクト作りを進めて来たケースが多い。
しかしながら、今後もその方法を続けて行くとユーザー視点でのサービス化が難しくなり、正しいユーザー体験の提供も出来にくくなってしまう。
近い将来、多くの企業においてビジネスモデルの変革を余儀なくされるであろう。そのためには、デザイン思考などのプロセスを通じて、ユーザーを理解するマインドセットを持つ文化が必要になる。
イケてる企業は重役にデザイナーを配置している
マネージャーや事業主任など、リーダーの役割をする人達にとっても、これからはデザイン的考えがとても重要なスキルになってくるだろう。物事の捉え方や解釈の仕方、また判断を下すときなどにもデザイン的考察を入れる事で、結果に大きな差が生まれる。これは、変化のスピードがどんどん加速して行く中で、ロジックだけでは説明のつかない状況がどんどん増えていくのが理由である。
企業のエクゼクティブといえば、これまではCEO (Chief Executive Officer), CTO (Chief Technology Officer), CFO (Chief Financial Officer)などのビジネス系、もしくはテクノロジー系がメインであったが、今後はデザインを理解している重役が会社にいる事がその企業の成長に重要なファクターとなるであろう。
マッキンゼーやIBMなどのゴリゴリのビジネスコンサルティング会社でも、ここ最近ではデザインバックグラウンドをある重役を登用してる。そして、多くのデザイン会社が、コンサルティング会社に買収されている。(残念な事に…)
一昔前だとエンジニア出身が多かったスタートアップ界隈を見てみても、最近はデザイナーの活躍が目立つ。AirbnbやPinterest, Dropbox, Lyftなどのサンフランシスコ地域のイケてるスタートアップのファウンダー達は、デザイナー出身が多い。
企業の最も大きな財産はクリエイティブ人材
これらの事柄からはっきりとわかる事は、今後の企業にとって最も大きな財産になるのは、クリエイティブ人材である。すなわち、スタッフに求められるのは、創意、人間関係、共感、ストーリー作り、直感、遊び心、問題解決能力、リーダーシップといった、「機械では置き換えられない」能力である。
以前書いた「人工知能 (AI)や機械に絶対奪われない3つのスキル」でも紹介されている通り、クリエイティブ、リーダーシップ、そして企業家精神の3つのスキルは機械にはマネのできにくい数少ないエリアなのである。
重要なのは、経営陣がデザインの重要性を理解し、それを試してみる事
上記のような状況は会社全体のプロセスに関する内容であることから、デザイナーやデザインチームではなく、経営陣やマネージメント全体が作るべき”仕組み”なのである。
しかし、今までそのような仕組みを持たない企業はどのようにすれば経営にデザインを導入することが可能になるのであろうか?
おそらく、まずは試しに1つのチームにおける1つのプロジェクトを題材に、前出の4つの領域において、しっかりとデザイン施策を盛り込んでみる。
そして、その結果をデータを元に分析し、どれだけ効果があったかを測定する。その結果を元に徐々にその仕組みを会社全体に広げていくのが正しいやり方だと思う。
我々btraxがクライアントプロジェクトに取り組む際もその方法を活用している。例えば大企業の一部署におけるプロジェクトに対して、デザインスプリントなどの、今までのやり方ではなく、”デザイン的”アプローチを採用し、その結果を冷静に測定する。
今までのやり方と比べ、どのような変化が起こり、そしてその根本となる理由を明確にすることで、小さいスケールではあるが、少しずつでも経営にデザインを取り組むことができるようになってくる。
なお、この辺のプロセスに関してより詳しい内容を知りたい方は、公式サイトの問い合わせページよりご連絡ください。
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