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マーケティングに役立つ8つの認知バイアスとその活用事例
最近、書店に並ぶ本を見ていると、ビジネスシーンにおける認知バイアスへの注目度の高まりを感じる。
認知バイアスとは元来、認知心理学や社会心理学の用語。
人が何かを判断する時などに、統計学的な誤りや、個々人の物事の見方によって認知に歪みが生まれ、その結果非合理的な判断をさせる要因となるものを指す。
ユーザー理解の究極として人間の認知の理解があるのかもしれない、などと感じつつ、今回は、マーケティングに役立つ8つの認知バイアスを実際の活用シーンや事例を用いながらご紹介していく。
人は他者や周囲に影響を受ける
人は想像以上に周囲の影響を受けている、そんなことを実感する効果からまずはご紹介しよう。
1. バンドワゴン効果
これは、多数が選択をしている対象に、より多くの支持が集まるという効果である。
日々生まれるあらゆるトレンドは、どれも最初はマイクロトレンドから始まり、次第にメガトレンドになっていくが、この現象もバンドワゴン効果によって説明できる。
ちなみにこの背景には、同じく認知バイアスの1つとして語られることの多い FOMO (Fear of Missin Out) が存在していると考えられる。FOMOは、何かを見逃すことによって取り残されることへの不安や失敗する恐れを意味する。
FOMOという言葉自体はソーシャルメディアが一気に普及した数年前を境によく聞かれるようになったが、概念としてはずっと昔から人間の認知に関わる特徴として存在していた。
「取り残されないように」とまでは行かなくても「自分もその波に乗りたい」という気持ちでサービスを選んだり、利用した経験がある人も少なくはないのではないだろうか。
マーケティングに活用するなら
バンドワゴン効果をマーケティングに活かす最もシンプルな方法として挙げられるのは、キャンペーンの告知で「人気ナンバーワン」や、「ユーザーから高評価獲得」といったメッセージを使用すること。
施策そのものへの活用としては、インフルエンサーマーケティングや、著名人による口コミやおすすめなども、バンドワゴン効果を期待したものだと考えることもできる。
また、BtoC向けのビジネス施策にありがちかと思うかもしれないが、BtoB企業においても「Testimonials」として、過去のクライアントからの声をウェブサイトに載せることもよくある。
第三者からの客観的な評価を示すことで、その企業の信頼性を高めるとともに、自分たちも成功事例に続きたいと思わせる気持ちを誘発する効果が期待できる。
多数の人に支持されていることが間接的に伝わるメッセージを磨き、発信していくこと、あるいは、すでに多数の人に支持されている人の影響そのものをうまく活用することが、この効果をビジネスに活かす上で、基本でありながらも重要なことだろう。
2. 希少性のバイアス
これは、何かを失う可能性を感じたり、その恩恵を享受できる可能性が低いことを感じたりしたときに、人はより一層対象に対して価値を感じるという効果である。
希少性の高いものに対して、人はより高い価値を感じると言い換えることもできる。
マーケティングに活用するなら
この効果を演出するには、自ずとさまざまな「制限」が必要になってくる。マーケティングキャンペーンにおける訴求点として、いくつか例を挙げてみたい。
- 時間:期間限定, 締切〇〇, 有効期限〇〇まで
- 個数:数量限定, 限定〇〇個, 残りわずか
- 接点:会場限定, 出席者限定
表現のニュアンスの違いだけのものも含むが、ざっと挙げるだけでもこのような感じだろう。
特に個数に関しては、先に述べたバンドワゴン効果との相乗効果もあり、「数が少ない = 売れている、人気である」などと想起されやすく、結果その恩恵に預かりたいと思う心理からこの効果が生まれるのだろう。
人は枠組みや基準をもとに考える
想像以上に我々は枠組みや基準に振り回されて判断をしているものだ。
3. アンカリング効果
これは、先に提示された数字や条件が基準となって、その後の判断がその基準に左右される効果のこと。
アンカーとは錨のことであり、船は錨を下ろすとそこから動きにくくなることからこの名前が付けられている。
マーケティングに活用するなら
アンカリング効果が使われるシーンとしては、価格が絡むものがよく挙げられる。
例えば、上記のような価格が一覧になったもの。サブスク系サービスのプランとその価格を見せる方法としてよく見るものだと思う。
また、割引やセールの際にもよく使われている。割引前の価格を残したまま、セール価格が書かれているタグを目にしたことがある方は多いだろうが、まさにこれはアンカリング効果を狙ったもの。
値引き前の価格とセール価格両者を載せることで、値引き前の価格がアンカーとなり、セール価格をより安く、お得に感じさせる効果があるのだ。
4. フレーミング効果
これは、同じ意味を持つ情報でも、その伝えられ方や立脚点によって、人は全く異なる印象を受け、判断をも変わるというものだ。
この効果の説明でよく用いられるのが、病気の例だ。
医療従事者を対象にしたある研究におけるシチュエーションで、「術後1ヶ月の生存率は90%です。」と伝えた場合、手術を選ぶ人は80%だった。これに対し、「術後1ヶ月の死亡率は10%」です。と伝えられた場合、手術を選ぶ人は50%ほどにとどまったそうだ。
フレーミング効果には、場合によっては解釈を歪め、恣意的な使い方をされかねない側面もある。あくまで顧客やユーザーを利する目的で活用したい。
マーケティングに活用するなら
フレーミング効果は、上記の事例のように数字を使って何かを伝える時はもちろん、それ以外の、メッセージの伝達にも効果的に使うことができる。
英語であれば、「Now」や「Today」といった「今すぐやろう!」とユーザーを奮い立たせる言葉や、「Get」や「Grab」といった、手に入れる、掴むといったユーザーメリットがわかりやすい言葉を使う場面は非常に多い。
また、「Don`t waste your time」「Don’t waste your money」といった表現は「これ以上時間やお金を無駄にしないで」という一見ユーザーのことを気にかけているような文言だが、「無駄」や「〜しないで」という禁止の表現が使われているだけで、ネガティブに感じやすい。
こういったメッセージを打ち出す場合は、代わりに「Save」を使い「節約する」「保存する」というようなニュアンスを採用することも多い。(参考)
これらは英語ならではの雰囲気を活かした事例にはなるが、よりポジティブに聞こえる言い回しはないかと探ることは、日本語にも参考にできる部分は多いだろう。
人は時間によって判断を変える
人は、情報が伝えられる時間によっても、情報そのものに抱く印象やそこから導く判断が異なってくる。
5. 系列位置効果
系列位置効果、漢字が並んだ何やら難しそうな名前だが、定義は至ってシンプル。
人は、いくつかの情報を認知したり、記憶したりするとき、情報の順番によって認知のしやすさや印象が変わるという効果だ。
そしてこの系列位置効果は、初頭効果と親近効果に分類される。
初頭効果は、初めに提示された情報は覚えやすく、判断に影響しやすいというもの。また、親近効果はその初頭効果と対になる効果で、最後に提示された情報の方がより覚えやすく判断に影響を及ぼしやすいというものだ。
すなわち、一連の情報のうち、最初と最後の内容は覚えやすく、中間に位置する情報は見逃しやすいということ。
マーケティングに活用するなら
この効果をマーケティングで活かす時の方法もシンプル。
最も重要な情報を最初か最後に置き、さほど最も重要でない情報は全体の真ん中に配置することがおすすめだ。
また、重要な情報を最初か最後におくか、迷った時にはこのような場合分けもできるそうだ。(参考)
- 読んだ直後に、ユーザーに何かを決断してもらわなければならない場合は、最も重要な情報を最後に置く
- 読んだ後にユーザーが時間をかけて決断する場合は、最も重要な情報を一番上に置く
6. エンダウト・プログレス効果
これは、人は進捗がゼロの状態よりも、初めに進捗を与えられた状態からの方が対象へのモチベーションが高く、目標を達成しようとする効果のこと。
この効果では。負担を感じがちな「最初の一歩」をケアすることによってユーザーをエンカレッジする
マーケティングに活用するなら
代表的な活用事例を2つご紹介しよう。
まずは、ポイント制度。最初にポイントが付与された状態でスタートすると、ユーザーは、引き続きポイントを貯める意欲を持ちやすくなる。
ポイントを活用したビジネスの代表例であろう楽天社の例を挙げたい。
楽天カードに新規入会し、利用した人に対してポイントを付与するキャンペーンを長きにわたって行い、ユーザーを増やし続けている。
もちろん、エンダウト・プログレス効果だけがこのキャンペーンを成功に導いているとは言いきれない。
しかし、ユーザー側の心理として、先にポイントがもらえた状態でカードの利用がスタートできるのであれば、引き続きポイントを活用して買い物をしようと思いやすいこともまた事実だろう。
2つ目の事例は、主にWebサイトやアプリで用いられる、進捗を表すバー。この事例はマーケティングというよりは、UIデザインの範疇だ。
ユーザーに情報を入力してもらうフォームや、ローディングの残り時間を示す時によく使われるものだ。
フォームの入力をしてもらう際に、何も情報を入力していなくても、バーが少し進んだ状態からスタートするようにしておく、もしくは名前を入れただけで、グンと入力バーが伸びて、一気に進んだ感覚にさせる、など。
フォームの入力はユーザーにとっては単に面倒なだけの作業。できればスキップしたいと思うくらい煩わしいものだろう。ましてやローディング時間など、ただ待つだけの時間で、短ければ短いほど良い。
ユーザーに快い体験を提供するために、かなり細かいことと思われるかもしれないが、侮ることなかれ。
人は物事と自分の距離によって判断を変える
人は、対象と自分がどれだけ身近/疎遠であるかによっても、判断を変えてしまう。
7. IKEA効果
世界的に有名なインテリアブランド「IKEA」を冠したこの効果は、自分が手をかけたものに、人はより価値を感じるという効果だ。
そう、まさに、IKEAで購入した家具を自分の手で作り上げた際に感じるあの達成感と家具への愛着がこの効果を物語っている。
一歩間違えると、自分の成果物を過信することにもなりかねないため、あくまで客観的な視線を忘れずに、とここでお伝えしておきたい。
マーケティングに活用するなら
上記とは反対に、このIKEA効果を用いたマーケティングキャンペーンを実施し、収益を増加させた成功事例がある。コカコーラ社の事例だ。
同社が行った「Share a coke」というキャンペーンは、歴史上最も成功したキャンペーンの1つとさえ言われている。
これは、顧客にカスタマイズデザインボトルを作ってもらい、それをSNS等で拡散してもらう、UGC(User Generated Content)を促す目的を持ったキャンペーンだった。
顧客心理としては、自分で作った世界に一つだけのコカコーラボトルをシェアしたい、見てもらいたい、ということだろう。
結果、売上は爆発的に伸びた。そして、その成果はかなり短期間でも目を見張るものだったとのこと。フォーブス誌によると、最初の1年で、コカ・コーラは、収益の増加と世界市場シェアの9%増という大きな成功を収めた。
IKEA効果をうまく活用し、ユーザーに委ねるカスタマイズというオプションを導入することで、顧客エンゲージメントを高めることに成功した事例である。
8. MAYA理論
最後にご紹介するのは、マーケティングはさることながら、サービスデザインにおいても知っておくと便利な「MAYA理論」だ。
MAYAとは、Most Advanced Yet Acceptable の各単語の頭文字をとった言葉。意味は「最も先進的だが、受け入れられる」。
物事における新しさと、馴染みやすさのバランスを考えた理論である。
両者のバランスは上の図で読み取ることができる。横軸が「新しさ」縦軸が「受け入れられやすさ」を示す。
あまりにも新しさに欠けると魅力も欠けてしまい、受け入れられないことは想像に難くないだろう。しかしそれと同じくらい、”あまりにも新しい” とそれはそれで受け入れられにくいものになってしまうのだ。
この背景には、人間が新しいものに対する好奇心と、変化を嫌う保守性という2つを併せ持っているからだと考えられる。
マーケティングに活かすなら
先述の通り、この理論自体は、マーケティングよりはサービスデザインの領域と強く関連したものに感じるだろう。
しかし、マーケティングにも非マーケティング領域とのとの合わせ技で、この理論の活かしどころがある。
それは、新たなものをプロモーションする時だ。新たなサービス、プロダクト、もしくはキャンペーンなど、どんな対象にも活かせると思う。
新たな画期的なサービスを馴染みのある言葉で例えて、親しみを感じてもらい、利用した時のイメージを持ってもらいやすくする。もしくは、既存のサービスを新鮮な切り口から捉えて、メッセージを作り、改めてプロモーションする、など。
今ではかなり多くの商品が販売されている「食べるラー油」は前者の好例だろう。
当時、商品自体はとても革新的な商品だったが、その商品名の明快さ、わかりやすさも相まって、大ヒット商品になっている。
この例はごくごく一部に過ぎず、世の中には想像以上にこうした工夫がなされたネーミングやキャッチコピーの商品が多く存在すると思う。
終わりに
マーケティングに役立つ認知バイアスとして8つの効果や法則と、実際にマーケティングの現場での活かし方のアイディアをご紹介した。
認知バイアスの面白いところは、国境やその土地の文化の影響を受けにくい、いわば人類共通のものであること。
国内向けであろうと、グローバル向けであろうと効果的に活用できれば、更なる効果が見込めるかもしれない。
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