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COACHの “Comeback” – 2000年代の流行から低迷期を経て、人気が再燃した理由とは
2000年初期はコーチにとって全盛期であったともいえるだろう。
レッドカーペット上でも、セレブがこぞってあの印象的なモノグラムのバッグを持ち歩いていた。
惜しくもその人気は長続きせず、いつの間にか「流行遅れ」「古くさい」といったイメージがついていたが、実はここ数年、若い世代に再び支持され始めている。
一体何があったのだろうか?本記事では、全盛期から低迷期、そこから“カムバック”と言われるまでになった復活劇を追い、更にはブランドの今後についても垣間見る。
始まり~全盛期~低迷期
まず、その歴史に目を向けると、コーチは1941年にニューヨーク・マンハッタンで革製品の工房として始まった。
創業者のマイルズ・カーンとリリアン・カーンは夫婦で6人の職人を率いた。彼らは野球用グローブからヒントを得た「グラブタンレザー」を開発するなど、コーチは高いクラフトマンシップの伝統を継承していくこととなった。
その後、時を経て1979年にコーチに参画したビジネスマンのルー・フランクフォートのもと、高い品質と手の届きやすい価格で、中流階級層をターゲットとし、世界に名が知れるブランドへと成長する。“Accessible luxury”の名を手にするのであった。
1996年にはリード・クラッコフがクリエイティブディレクターに就任。ブランドイメージの活性、ポジション向上に大きく貢献し、売上を5億ドルから50億ドルに伸ばしたと言われている。2000年にはIPOを果たした。
コーチのアイコンともいわれるのが、2001年に発表したコーチ・シグネチャー・コレクションである。大胆にコーチの頭文字”C”をあしらったモノグラム柄をフィーチャーしたこのコレクションは、様々なスタイルやカラーで展開された。これが大ヒットし、2000年代初期を代表する“It Bag”となったのである。
しかし、人気を得ることもデメリットとなりうる。高い人気に加えてデザインのインパクトの大きさも相まり、“It Bag”としての特別感を失うのは宿命であった。
また、不幸にもモノグラムは偽物を作る輩の恰好の餌食でもあった。加えて同時期にコーチはとにかく店舗数を増やそうとしたがそれも上手くいかず、多くの商品がディスカウントショップに置かれる始末となった。
この状況は、コーチのブランディングにおいて痛手である。このような状況の中、ブランドは低迷期に入っていくことになる。
復活に向けて
低迷期に入ってしばらくした2014年、コーチはビクター・ルイスをCEOに迎える。(実は彼のコーチへの初参画は2006年、コーチジャパンのCEOとしてである。その後様々なポジションを経て全体のトップとなる。)
彼のもと、業績の立て直しを目指して5カ年計画を立てた。消費者嗜好や市場の変化に対応すべく、プロダクト、店舗のコンセプト、マーケティングの改善が計画の中に組み込まれた。
「コーチは、ファッション的な信頼を取り戻す必要があった」とルイスは語る。まず、デザインディレクションの転換に彼らは立ち切った。
2000年頃のコーチの成功をけん引したリード・クラッコフに代わり、2013年にスチュアート・ヴィヴァースが新たにクリエイティブディレクターに就任した。
スチュアートのもと、コーチのデザインは、身なりの良いWASP(White Anglo-Saxon Protestantsの略、白人の中・上流階級層を指すことが多い)的、プレッピーな印象から、ブランドのルーツを顧み多様性・インクルーシブ・個性の街、ニューヨークを体現するようになった。
画像はニューヨークにあるフラッグシップストアの様子だ。ポップな恐竜のアイコン“REXY”やカラフルなパレットがどこかニューヨークらしさを醸し出しているのを感じる。
また、バッグのデザインもモダン仕様にアップデートされた。2000年代によくみられたゆるい形状から、よりモダンでしっかりした構造のデザインになった。
バッグなどのアクセサリーだけでなくアパレル商品の展開にも踏み込み、名だたるヨーロッパ系のデザイナーブランドのように、シーズン毎にランウェイでコレクションを発表した。
その他にも、キース・ヘリングなどアーティストとのコラボを行うなどしてブランドは徐々にその新しい姿を形成していった。
こういった新しいコーチの姿を世に認識してもらうため、彼らはマーケティングにも力を入れた。
若い世代に訴求すべく、SNSプラットフォームや人気のセレブリティを活用する。
2016年にはセレーナ・ゴメスをアンバサダーに起用した。彼女は当時Instagramで最もフォローされている、若者世代を代表するセレブリティであった。
また2019年にはジェニファー・ロペスをブランドアンバサダーに、その他にもマイケル・ジョーダンなど幅広く人気セレブリティー・インフルエンサーを登用し、SNSへの投稿も頻繁に行うことでオンライン上のプレゼンスを高めていった。
加えて、デパートでの販売チャネルを減らした。セールで安売りされることが恒常化していた状態から、価格やブランドイメージに対してより主導権を取り戻す為と考えられる。
代わりにオンラインストアを強化し、オンラインプレゼンスをより高めていったのは、良い動きであったといえるだろう。
絶好のチャンス、Y2Kトレンドの流行
こうして様々な施策を重ねていったコーチだが、復活を完全なものにしたのはY2Kトレンドの台頭だ。
Y2Kとは“the year 2000”の略で、正確には90年代後半から2000年代初期にかけてのファッションを指している。まさにコーチがアイコン的存在であった時代だ。
このY2Kトレンドの流行は2020年頃から見られ始めたが、Z世代にはノスタルジックながらも新鮮として人気を博した。Z世代が古着やヴィンテージ好きであることとも相性が良かった。
コーチはもちろん、このチャンスを見逃さなかった。2020年には早速、2000年代に大流行したSwingerバッグを現代風に復活させた。キャンペーンにはY2Kのアイコン的存在ともいえるパリス・ヒルトンを登用した。
そしてさらに、復活を加速させたのがPillow Tabbyバッグである。
目を引く華やかな色使いに、まさに枕のような形状。このバッグがSNSで“バズった”のである。(参考までではあるが、Tiktok上で#pillowtabbyのハッシュタグが付いた投稿は5000万回以上、#coachpillowtabbyのハッシュタグでは1500万回以上視聴された。)
この頃には、コーチが“comeback”に成功したことは誰から見ても明らかとなっていた。
これからのコーチ、“accessible luxury”から“modern luxury”、そして“expressive luxury”へ
さて、ここまでは復活に至るまでのコーチの具体的な動向を追ってきたが、今後はどうなるのだろうか?
コーチは長い間、“Accessible luxury”と呼ばれ顧客にリーチしてきた。その後2019年に退任したビクター・ルイスのもと、“modern luxury”への変化を狙ったが、ターゲットをZ世代に見据えた今、そのポジションをまた改めようとしている。
彼らが狙っている新しい位置づけは“expressive luxury”である。
ここ数年、コーチでは消費者フィードバックやエスノグラフィックリサーチに労力を費やしており、その結果からブランドの新しい方向性が見えてきたという。
グローバル・アンド・ノースアメリカ・マーケティング・アンド・サステナビリティのシニアヴァイスプレジデントを勤めるジュン・シルバースタインは、Vogue Businessのインタビューにてこう答えている:
「ブランド表現よりも自分表現、エクスクルーシブよりもインクルーシブ、地位や所有よりも感情や価値観へと、消費者ニーズの変化がフォーカスグループや消費者調査を通して見えてきた」
この言葉は、過去に、btraxではブランドの透明性が高まっているという現象について記事にしたことがあるが、その動きとも共通する部分がある。
消費者はただブランドの透明性を支持するだけではなく、そもそもブランドという権威性に対して疑問を抱いているのかもしれない。あくまで、メインはブランドではなく「わたし」なのである。
そういった意味で、“expressive luxury”というのは非常にしっくりくるし、このポジションに位置するブランドはコーチ以外なかなかないのではないか。
今後も、コーチはアメリカを代表するレザーブランドとして、まだまだ発展し続けるだろう。
Written by Ruqa Oida, btrax Japan Marketing Intern
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