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海外出張をムダに終わらせない3つのポイント
毎年5月以降は新年度のスタートが落ち着き海外への出張者が増える時期とも言われている。国土交通省観光庁によると2017年5月の海外出張者は39.8千人と同年4月と比較し73%もの増加があるという。
私自身もお客様の出張に合わせて弊社サンフランシスコオフィスの訪問やミーティングの相談を多く頂く時期になったと実感がある。
海外出張に行くこと自体が目的なのか?
実際に出張でサンフランシスコに行かれる方にその目的を伺うと、このような回答が多い。
・新規ビジネス創出の機会を模索する為の商談やミーティング
・現地でのマーケット調査(フィールドリサーチやエキスパートへのヒアリング等)
国内に限らず海外に視野を向けたイノベーション創出を目指す意識が年々高まって来ていることは大変素晴らしいことだと感じる。ただ一方で出張に行くこと自体が目的となってしまい、「スケジュールを埋めることが大変」「実際単なる表敬訪問に終わってしまっている」といった課題もよく耳にする。
現地で得た情報や出張の結果がビジネスやイノベーションという成果に実際繋がっているケースはまだまだ少ない現状で、そこには改善の余地が大いにあるのではないだろうか。
新規事業に繋がるきっかけは意外なところに
弊社ではサンフランシスコ現地でイノベーション創出(新規サービスやプロダクトの開発)及び人材育成を行う『イノベーションブースター』というプログラムを提供し、過去15社を越える日本のクライアントに向けて実施した実績を持つ。
参加者の中にはプログラム終了後日本のクライアント向けに新たなアプリの企画開発をしたり、社内に新規事業創出のチームを作り事業部をまたいだイノベーション作りを継続的に行っている方々もいる。
はたまたプログラムで得た経験やマインドセットを活かし、帰国後にグループ企業を立ち上げ、CTOとして新規ビジネス創出、スタートアップ企業との協業やビジネス拡大の支援を行うなど、サンフランシスコでの経験を成果につなげている方もいらっしゃる。
そんな彼ら彼女らが口を揃えて言うことが、「アポイントやミーティングだけでは得られない現地サンフランシスコでの生の経験やたわいもない些細な出来事の中にこそイノベーションのチャンスが眠っている。」ということだ。出張者ではなく、現地の住人でもなく、短い期間であったとしてもいち生活者としての視点が大切なのだと。
そこで今回はサンフランシスコに実際に足を運ぶ際、有益な情報をどのようにインプットしてマインドセットを変革させるのか、そしてその後どうビジネスへ繋げたらよいのか、そのポイントを簡単にご紹介したいと思う。
1. 自由な時間を作る
出張行程以外のことをしてみる
まず出張スケジュールを組む際、行程をしっかりと埋めるのではなく、あえて自由に使える時間を設けることをおすすめしたい。
例えば散歩をして街の人の行動を観察してみても良いし、またはUberやAirbnb等の現地サービスを使ってみるだけでも良いと思う。サンフランシスコを代表するイノベーティブなサービスも元々はタクシー移動の面倒やホテルの少なさといった生活者の日常の課題感から生まれたサービスだ。
経験や先入観を捨て、日本との違いや現地で生活をしてみて感じる便利さと不便さを自身の視点で感じ、それをどう自社のビジネスに活かせるかを考えられる時間が重要である。
弊社イノベーションブースターを通じてサンフランシスコに滞在したある方は、自由な時間を設けたことで『セレンディピティ』を生むことができたと話す。セレンディピティとは、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけ、結果的に幸運をつかみ取ることである。
プログラム内のサービスアイデアの議論で行き詰まった時、彼は思考をリセットする為に思い切ってヨセミテ国立公園に向かったそうだ。ヨセミテの壮大な自然の中では自分達の議論の小ささを痛感したし、議論を突破するアドバイスをくれた現地の友人も作れた。
何気なく入る街のカフェにもセレンディピティは潜んでいる
常識や恥は捨てる
同時に彼はセレンディピティを生み出せた理由を、『恥をかいてでも自発的に行動したこと』と『まず自らGiveをしたこと』と述べている。実際彼は現地ユーザーの考えを把握する為に、地下鉄に乗った際女性の乗客に声をかけ人狼ゲームに誘ったという。
この行動によってユーザーヒアリングができただけでなく、日本では恥と思える行動がサンフランシスコでは恥ではなく、むしろ恥やみっともないという概念が全く違うものなのだ、という彼自身のマインドセットの変化も起こせたそうだ。
自由時間を設けることで出張の計画性のなさを指摘されたり、社内への報告・報告書作成といったタスクへの懸念が上がりそうだが、出張で得るインサイトやユーザーの生の声がいかに重要なのかをチームや上司に共有することが大切だ。
可能ならば帰国後に自身の成果やインサイトを社内に公開しディスカッションを行えるような場を事前に設計しておくとよいかと思う。
2. 多様性を感じる
サンフランシスコで感じられる多様性
サービス開発やマインドセットの変革に大きく影響を及ぼす要素がこの多様性の理解だ。
サンフランシスコの街はご存知の通り数多くの国・人種や文化の人々が集まる場所である。その中で皆に共通の当たり前は存在しない。そもそも価値観が皆全然違うはずなのに、UberやAirbnbも生活者全体に共通する課題感を解決するサービスとして広く展開できている事自体がすごいと思う。
なぜこのようなことが実現できているかというと、ひとつはデザイン思考にもあるユーザーを深く理解し共感する『Empathize』というプロセスを通じてサービスが開発されている点だと感じる。多様性を理解できれば、当たり前の意識がないので固定概念に囚われることなくユーザーやターゲットの考えの本質を深く理解、共感できるのである。
つまり物事の理解を「そうなんですね。」ではなく「そうですよね!」という深さまで落とし込めるのだ。
デザイン思考の基本である5つのプロセスを表した図
関連記事:デザイン思考の本質とは?—新米ファシリテーターの経験を通して気づいたこと
全てを自分のものさしで計らない
出張で短期間の滞在だとしても多様性を感じられる場はたくさんある。
例えば、【コーディング禁止?】非エンジニア大歓迎!サンフランシスコのハッカソンで垣間見るイノベーションの源流でも紹介したようにサンフランシスコでは毎日多くのハッカソンイベントが開かれている。
日本から来られたエンジニアの方が驚いていたのが、ハッカソンなのにエンジニア以外の人が大勢参加していることだった。小学生から主婦まで老若男女・職種問わずにイベント参加者がいることは彼にとって衝撃の多様性だったそうだ。
またその多様性が実現できている理由はITという軸がサンフランシスコの街の文化に根付いているからだと彼自身のマインドセットの変革に繋げる事もできたそうだ。
別の例で言うと、スーパーマーケットでの惣菜売り場のおばちゃんをぜひ見て頂きたい。
日本では考えられないほど無愛想でホスピタリティのかけらもなく(当然、中には親切丁寧で愛想のいいスタッフも沢山いるが)お弁当を取り分けてくれる様子を見る事ができるであろう。この光景は現地サンフランシスコでは当たり前で客は慣れているので気にも止めず、自分の注文を伝えるのだ。
「日本ではありえない」「私はこんなサービスは好きじゃない」と自分主体で物事を考えるのではなく、「なぜサンフランシスコではこのようなサービスが存在しているのか・どのような背景から作られたサービスなのか」「ユーザーはどう感じているのか」と“WHY”から考えてみるべきである。
こうすることで多様性を深く理解することでき、日本では考えもしないような新たな視点を身に付けられる。つまり多様性という言葉本来の意味を理解する為には多様性を体感する必要があり、そこから自社のビジネスに繋がる可能性のある新たなインサイトを得る事ができるのだ。
3. セルフブランディング
とはいえ、出張で得た情報やインサイトを継続的に自社のビジネスに繋げることは至難の技である。
社内でイノベーションを起こす為の協力賛同を得なければならないし、自身の業務やミッションもある中で行動し続ける事は容易なことではない。ただ、前段で挙げたように帰国後に成果に繋げている方々もいる事は事実だ。
最後に、過去イノベーションブースターを通じてサンフランシスコに滞在された方々から頂いた帰国後のアドバイスを紹介したい。
まず、社内の協力を得る為には自身のブランディングが重要だそうだ。イノベーションというカタチがないものを生み出していくためには「良くわからないけどこの人は何か知ってる」「こんな活動をしている人と誰かから聞いた事がある」といった印象を周囲に持ってもらう為の認知活動が必要なのだ。
その彼は帰国後に有志メンバーと共に報告会・勉強会をスタートしノウハウの共有を行ったそうだ。その後の継続的な活動が人事部の耳に入り研修プログラムに発展し組織の設置にまで至ることができた。
発言・アウトプットを重要視し、こんな事を実現したいという意見を種まきのような形で近い存在だけではなく、勉強会等を通じて接する自身の業務に直接関係のない人にも伝えることを意識したそうだ。
そのような活動を経て、セルフブランディングを築き、網を広げられたことで次第に外からも情報が入るようになったという。
社内認知活動のイメージ
もちろん全てが順調に進んだわけではなく、上司の賛同を得ることができなかったり、認知活動が会社の方針からずれているのではないかという周囲の意見もあったそうだ。地道な勉強会等の実績、理解者、そして経営陣への報告を通じた理解の蓄積があったからこそ成し得た成果だという。
このように、当事者となりオーナーシップを持った継続的な行動が重要となるので、簡単なアクション(海外のイノベーションに関する情報をニュースレターとして社内に配信する等)でも構わないので、まずは行動に起こしてみてもらいたい。
帰国後も行動し続けることで社内の理解者や協力者が増え、必ずやイノベーションに繋がると私は信じている。
まとめ
生活者になった方がよりイノベーションのきっかけをつかみやすいという考えを今回共有させて頂いた。
出張時は日本と違う生活者になった方がイノベーションのきっかけをつかみやすい環境なので、些細な違いや変化に敏感でインサイトを得やすいタイミングと言える。ぜひ出張ではイノベーションに繋がる数多くのインサイトを経て現地で会得した新たなマインドセットを帰国後も継続的にサービス開発に活用して頂けたら幸いである。
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