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サンフランシスコのバブルは崩壊するのか ~ドットコムバブルとの違い~
今から7年前、サンフランシスコに本社を構えてスタートしたUber。その評価額は去年12月の段階で625億ドルと日本円にして7兆3100億円に及んだ。
この評価額は日本の時価総額ランキング7位である日本郵政の6兆3800億を越し大手金融機関である三菱UFJフィナンシャルグループの7兆6200億円に差し迫る金額だ。同じくサンフランシスコ発のスタートアップであるAirbnbの評価額は255億ドル(2兆円)にのぼる。
10年も満たない彼らの評価額は既に日本を代表する商社、三菱商事を越えている。
【サンフランシスコに本社を置くユニコーン企業の評価額】
- Uber: 625億ドル(7兆3100億円)
- Airbnb: 255億ドル(3兆円)
- Pinterest: 110億ドル(1兆2850億円)
- Dropbox: 100億ドル(1兆1680億円)
またMartin Prosperity Instituteによる最新の調査”Rise of the Global Startup City”(下図)によるとシリコンバレー内の都市サンノゼと、サンフランシスコ市の2都市の企業だけで106億8600万ドル(約1兆2500億円)もの資金調達を成功させたという。
主要都市ごとにみるスタートアップへの投資金額
※東京は圏外だったので何位かは不明
※ちなみにパリ(53位), 上海(74位)
これだけの時価総額と投資額をみればサンフランシスコやシリコンバレーがどれほど経済的熱狂状態にあるのかが伝わるだろう。しかし実際のところUberは2012年以降赤字を出し続けている。
世界の最新経済情報を提供するBloombergの調査ではUberの赤字額は4億7000万ドル(550億万円)にものぼっていた。これだけの赤字を出しているにも関わらず去年の12月に21億ドル(2450億円)もの資金調達を成功させていると聞くと90年代のドットコムバブルが頭にちらついてしまう。
ドットコムバブルとは何か
ドットコムバブルとは1999年~2000年頃にアメリカ・シリコンバレーを中心として起こったIT・インターネット系企業を巡った経済的熱狂状態のこと。当時、「インターネットは生活やビジネスを一変させる」という期待が熱狂を生み、資産や利益などの裏付けが無い企業でもネット関連であるというだけで莫大な資金調達することができ、赤字の状態でも短期間で株式を公開することすらできた。
1999年をピークに株価は業績と関係なく暴騰したが2000年初頭、実態のない企業は次々と破綻に追い込まれるた。それにつれて熱狂は冷め、株価は暴落。バブルは崩壊した。
Nasdaq Pointsの急上昇と急降下
※1999年~2000年に膨らんだ株価が一気に暴落しているのが見て取れる
今年サンフランシスコのバブルは弾けてしまうのか?
下の図は同じくBloombergによる調査結果をまとめたグラフである。これをみれば2015年のS&PのIT指数がドットコムバブルの始まりだった1999年の値に近づいていることがわかる。
赤字が出ているにも関わらずに資金調達、投資がまかり通っている現在サンフランシスコで起きている経済的熱狂状態はかつてのドットバブルのように暴落してしまうのだろうか。
S&P IT指数が1999年のバブル時の値に近づいている
さらにトップ20社への投資額だけでみるとドットコムバブル当時の数字を大幅に越えていることが下記のグラフから見取ることができる。つまり一部の優良企業が倒産しただけでもその被害は甚大となる。
アメリカ国内のテック企業への投資総額の推移 (1996~2014年)
ドットコムバブルと全く同じ状況とは言えない?
こういったドットコムバブルを彷彿させる恐ろしい数字を並べたが調査を進めるうちにサンフランシスコやシリコンバレーの現状とドットコムバブルでは大きく異なる点があり、同じような形でバブルが崩壊するとは言えなそうだ。どういった点が過去のバブルと異なっているのだろうか。4つの点を紹介する。
4つの点で異なる”現状”と”第一次ドットコムバブル”
① 環境が整ってきた
下記にインターネットの利用者数と普及率を比較してまとめた。これをみれば各数値が倍増したことが明白だろう。
ドットコム時代
- 世界のインターネット利用者数: 4500万人 (95年)
- 世界のインターネット普及率: 6% (※00年)
- アメリカのインターネット利用率: 14% (95年)
現在: 2015年
- 世界のインターネット利用者数: 33億5000万人 (75倍)
- 世界のインターネット普及率: 46.1% (7.6倍)
- アメリカのインターネット利用率: 87% (6.2倍)
※2015年のカッコ内はドットコム時代のそれと比べたときの値
下のグラフではオンライン利用者数とスマホ所有者数の推移を示している。インターネット利用者数がバブル時とは圧倒的に異なり、今後もインターネット利用がより身近になって行くことを予感させる。
世界のオンライン利用者数とスマホ保有者数 (1995年~2020年予測)
ドットコム時代と現代のインターネット利用状況では桁が全く違う。90年代でインターネットを利用する人はアーリーアダプターでしか無く、必ずしも皆に親しまれているものではなかった。今ではほとんどの先進国におけるインターネット普及率は80%を越えており、上の図からも想像できるようにインターネットは不可欠となった。
90年代のITバブル時は「これからはインターネットだ!」とサービス開発を加速させていたものの、社会が追いついておらずそこに実態は無かった
。現在で例えるとすれば「これからはAIだ!」、「これからはロボティクスだ!」とスピード勝負の開発を進めたものの、蓋を開けてみればまだ社会が成熟しておらず、需要が無かったというオチになるようなものだ。(AIやロボティクスが失敗するといっているわけではない)
② インターネット上でお金を使うようになった
20年前の人々はインターネットサービスにお金を支払うことに抵抗があった。もちろん今でも無料アプリのダウンロード数の方が圧倒的に多い。しかしオンライン上で使われる金額は年々増加傾向にあり、アメリカ国内でeコマースに費やされた金額の総額は120億ドル(1999年)から3040億ドル(2014年)と約25倍となった。
アメリカ国内にみるオンライン収益の推移 (1999年~2014年)
料金が支払われるようになったのはeコマースだけではない。App MusicやNetflixといったストリーミングサービスなどの有料会員サービスへの登録数も増加。月々に巨額の契約金が支払われている。
【例】各サービスの有料会員数と契約額
- Amazon Prime: 6000万人(3900円/年)
- Netflix: 5448万人(650~1450円/月)
- Spotify: 2000万人(9.99ドル/月)
- Yahoo Premium: 1040万人(380円/月)
③ シリコンバレーからサンフランシスコへと拠点が移った
Uberやairbnbをはじめ、ユニコーンと呼ばれるスタートアップが”サンノゼ”から”サンフランシスコ”に集まっている。その理由としてJobviteのCEOであるDan Finniganは「スタートアップで働く優秀な社員達がクールでオシャレな場所で生活したいと考えるようになったからだ」と説明した。
【各地域におけるユニコーンと呼ばれる企業の数】
- 世界のユニコーン企業: 151社
- アメリカのユニコーン企業: 97社
- シリコンバレーに本社を置くユニコーン企業:49社
- サンフランシスコに本社を置くユニコーン企業: 33社
- 一箱に含まれるとんがりコーンの内容量: 75g
ユニコーン企業というのは市場価値が10億ドルを超える巨大なスタートアップ。1990年代には10本の指で数えられる程しか存在せずそのほとんどがサンノゼのような郊外に分布していたのが、今ではサンフランシスコに本社を据える企業が増加。世界の5分の1のユニコーン企業はサンフランンシスコに拠点を置いている。
さらにMartin Prosperity InstituteのZara Mathesontheがまとめた地域ごとにみる投資成立数(下図)を見ればサンフランシスコ市一帯だけでもシリコンバレーすべてを含めた数に匹敵していることがわかる。
投資成立数がサンフランシスコに集中している
『デザインに関する5つのトレンド』 でも述べられていたように最近ではユーザー自身も利用するサービス対してデザイン性を求めるようになってきている。単にサービス性を追求するのではなく、高いエクスペリエンスを生み出す感性を育むためにも元々”アートの街”として知られていたサンフランシスコの土地柄がマッチしたのかもしれない。
④ サービス特性がリアルな生活に影響をもたらすようになった
90年代のインターネットサービスはというと、近くにいる人の生活を変えるというよりもいきなり世界全体を変えることを目指すサービスだった。しかし、現在成長しているUberやairbnbといったユニコーン企業が提供するサービスは”タクシー”、”ホテル”というような生活の一部として確実に存在したものの在り方を変えており、サンフランシスコやロサンゼルスのように本社から近い都市からサービスを普及させている。
【例】各サービスが生活にどんな変化をもたらしたのか
- Uber: タクシーが目の前にいてもUberをオーダーする
- Airbnb: ホテルを予約せずAirbnbにあげられている宿に泊まる
- Yelp: 専門家ではなく民間人の口コミによって飲食店を決定する
- Spotify: CDは買わず契約料で音楽を好きなだけ楽しむ
まずは身の回りの生活を変化させる彼らにとって都市の方が郊外よりも実装やテストの場として適しており、開発を進めるにも都合が良い。だからサンノゼのほうからサンフランシスコの方に移るスタートアップが多いと考えられる。
サンフランシスコの勢いはまだ続きそう
以上「インターネットサービスが生活と身近になり、ビジネスとして実態が供なっている」ということがドットコムバブルと大きく異なるとまとめられるだろう。そんなサンフランシスコには本気で世の中を変えようとするアイディアと知性そしてテクノロジーとデザインが集結している。この勢いはしばし続くと同時にまだまだ世界の注目を集めることになりそうだ。
【参考記事】
- I studied the world’s $42 billion in venture capital — here’s where it’s going
- Uber is reportedly losing boatloads of money
- Here Are the Internal Documents that Prove Uber Is a Money Loser
- U.S Tech Funding – What`s going on
- CB INSIGHT
- Why Today’s Tech Unicorns Aren’t What They Used to Be
- This company is betting millions that you’ll use cartoon bears instead of English
- Why San Francisco May Be the New Silicon Valley
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