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元ユニコーンのゾンビスタートアップを買い漁る謎の企業 Bending Spoonsとは?
Miroが買収された。13.55億ドル(約2,000億円)で。買収したのはBending Spoonsという聞き慣れない会社だ。でも実はこの会社、もう何年も前から僕らが毎日使ってたアプリを次々と飲み込んでる。
Evernote、WeTransfer、Vimeo、Airtable、AOL、Meetup、Issuu、Brightcove、Eventbrite。そして今回Miro。「あのサービス、最近どうなったんだろう」と思ったら大体Bending Spoonsが買ってる、というレベルの買収ラッシュだ。
それも、買収された企業のその多くが、一時期は飛ぶ鳥を落とす勢いだったサービスを提供していた。AOLはインターネット黎明期に一時代を作り上げたし、Evernoteは日本でも利用者が多いサービスとして有名だった。
でも、そんなサービスも時代の変化に合わせ、下火になり、虫の息になった頃にサクッと攫ってしまうのが、Bending Spoons。
もはやテック業界の「墓場番」と言ってもいい。

Bending Spoonsが買収した企業例
正体はミラノの小さなチーム
そもそもPending Spoonsはどこの会社なのか?買収した企業の多くがシリコンバレー発が多いので、てっきりシリコンバレーの企業なのかな?と思った。でも、彼らの正体はイタリア・ミラノ発のテック企業。
2013年に4人の創業者(Matteo Danieli、Luca Ferrari、Francesco Patarnello、Luca Querella)が立ち上げた。元々は「Evertale」という失敗したスタートアップの残骸から生まれてる。最初はモバイルゲームや写真編集アプリなど自社開発のコンシューマーアプリで足場を作って、そこから既存の有名ブランドを買収するモデルにシフトしていった。
まるで、テック業界のLVMHって感じ。

Bending Spoonのオフィス
複数のテック事業をかなり少人数で回している
そして、彼らの規模感。時価総額210億ドル規模の会社なのに、社員数は1,000人未満。一人当たりで時価総額約2,100万ドルの換算になる。
Evernote、WeTransfer、Vimeo、AOL、Eventbrite、Miroみたいな大ブランドを何個も抱えてこの人数、というのがちょっと信じがたい。完全にバグってるとしか言いようがない。
採用も相当異様で、昨年だけで80万件の応募があって、実際に採用したのはわずか286人。採用率0.04%。CEOのLuca Ferrariは「普通の面接なんてギャンブルと同じくらい予測精度がない、完全に役に立たない」と言い切っていて、適性テストとアルゴリズム分析を組み合わせた独自の選考プロセスを敷いてる。少数精鋭どころじゃない、超少数精鋭で全部回してる会社だった。

Bending Spoons CEOのLuca Ferrari
やり方はいつも同じ – 安く買い、改善し、儲ける
彼らのやり口はシンプルで、しかも容赦がない。勢いを失った有名アプリを安く買って、エンジニアリングの立て直し、大幅なレイオフ、そして値上げで一気に収益化する。他の企業がよくやる「買って転売する」んじゃなく、買ったものは基本的に手放さずに保有し続けるのが特徴。
具体例を見るとやり方がよく分かる。
Evernoteを買収した時、中身は750台の手動プロビジョニングのVM上で動くJavaのモノリスだった。それを半年ほどでマネージドDB・マイクロサービス構成に移行して、パフォーマンスと運用負荷を大きく改善させてる。その一方で従業員129人を削減。Proプランの年額は2023年以前の37ドルから、2026年時点で250ドルまで、約7倍に値上がりしてる。
WeTransferは2024年7月の買収後、従業員350人超のうち75%をレイオフする計画を発表。CEOのFerrariは「より小さく、よりフォーカスした組織を目指す」とコメントしてる。
Vimeoは2025年9月に13.8億ドルで買収された後、2026年1月20日にレイオフを実施。元社員によればVP職やソフトウェアエンジニアも含めて「大部分」が対象になったとされていて、会社側は「退職者のプライバシーを守るため詳細は開示しない」というコメントのみ。
さらに以前買収したFiLMiCというカメラアプリでは、全従業員を削減した例もある。
この「買収→エンジニア主導の立て直し→大量レイオフ→値上げ」という流れが、ほぼ毎回同じパターンで繰り返されてる。批判が出るのは当然で、価格改定と大量解雇が常にセットで語られる。それでもBending Spoons側は「利益最大化」であって「ユーザー数最大化」ではない、という割り切ったスタンスを崩してない。実際、値上げや解雇の後も解約率は「驚くほど低い」というデータもあり、乗り換えるほどのエネルギーがユーザー側にもない、というのが実情なんだと思う。

買収時とその後の評価額
買収の年表
時系列で並べるとスピード感がよく分かる。

Bending Spoons の買収年表
- 2022年: FiLMiC
- 2023年: Evernote
- 2024年1月: Meetup
- 2024年7月: WeTransfer、Issuu
- 2024年11月: Brightcove (2.33億ドル)
- 2025年9月: Vimeo (13.8億ドル)
- 2025年: AOL (金額非公表)
- 2025年12月: Eventbrite (約5億ドル)
- 2026年9月: Miro (13.55億ドル)
買収の間隔が不気味なぐらいにどんどん短くなっている。
上場してさらに加速
2025年の売上は約13億ドル。今年7月にはNasdaqに上場して、初日で株価が40%も急騰。時価総額は一時250億ドルを超えた。もともと非公開時点で110億ドルだった評価額が、上場後は倍増した計算になる。
上場申請の書類には「今後さらに1,000件規模の買収を目指す」という趣旨の記述もあったらしく、Miroの買収はその第一弾に過ぎない可能性が高い。
今回のMiroは毛色が違う
今回のMiroは月間アクティブ企業25万社、ARR約6億ドルという規模のプロダクト。しかも収益の9割がビジネス・エンタープライズ顧客由来という、単なる「落ち目のアプリ」じゃなく現役バリバリのSaaS。ここが今までの買収と少し違う。
興味深いのは、CEOのLuca Ferrariが「長期で保有・運営するつもりで買収している」とコメントしてる点。Miro側の共同創業者Andrey Khusidも「Miroの最良のバージョンはまだこれから」とポジティブなコメントを出していて、少なくとも表向きは敵対的買収ではなく合意の上での統合という形になってる。
買収額のうち2.95億ドル分はMiroの株主がBending Spoonsの新株に再投資するというスキームも組まれていて、単純な現金買収とは少し違う設計になってる。さらに競合のAirtableを買収した数週間後にこの発表というタイミングも含めて、Bending Spoonsの「止まらなさ」がよく分かる。
派手さゼロで積み上げた帝国
面白いのは、Bending Spoonsがいわゆる「AIスタートアップ」として派手に資金調達したわけじゃなく、地味な既存ブランドの買収と運営効率化を積み重ねてここまで来た点。今のシリコンバレー的な「AIで一発当てる」流れとは真逆のアプローチで、時価総額250億ドル規模まで登り詰めてる。
僕らがなんとなく「昔使ってたな」と思うアプリの裏側に、ほぼ同じ一社が座ってる時代になった。これはSaaSの終わり方、というよりむしろ「終わらせ方」の一つのビジネスモデルとして、覚えておいた方がいいのかもしれない。
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