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未来に対応するプロダクトを生み出す フューチャー・プルーフとは
「フューチャー・プルーフ」という言葉を聞いたことはあるだろうか?
英語圏では結構頻繁に利用される単語である。これは、未来を予測し、起こり得る出来事によるマイナスの影響を最小限に抑えるための方法をデザイン・開発するプロセスを指す。
フューチャー・プルーフによって、そのプロダクトやビジネスモデルが陳腐化しないように予防することができる。
サービスデザインの領域においては、作り出すサービスやプロダクトが時代と共に消滅するのを防ぐための考え方である。現時点でイノベーティブだと考えられているプロダクトでも、結構近い未来に陳腐化してしまう可能性が高いものも少なくはない。
なぜフューチャー・プルーフが重要なのか?
サービスをデザインする時、ビジネスモデルを考える時、このフューチャー・プルーフの概念をしっかりと理解し、未来に対応することがとても重要になってくる。
その理由は、生み出されたサービスやプロダクトの寿命をなるべく長くし、そのビジネス価値を保護するのが目的である。
逆に、現時点のみ、もしくは短い時間軸だけで考えていると、リリースしても短時間で “消滅” してしまう可能性もある。
ほぼ消滅したプロダクトとそろそろ消滅しそうなプロダクト
実際に時間の経過と共に陳腐化が進み、ほぼほぼその存在価値が無くなった、もしくは無くなりつつあるプロダクトを考えてみよう。
下記のプロダクトやサービスは、一時は多大なる人気がありながらも、現代では、他のソリューションの台頭により、絶滅寸前になっている。
ほぼ消滅したプロダクト
- ワープロ
- カセットテープ
- CDラジカセ
- 電報
今後なくなる可能性の高いプロダクト
- Fax
- タクシー
- テレビ番組
- フィルムカメラ
事例1) 未来対応が全くできていなかったガラケー
では、フューチャープルーフに失敗した例をいくつか見てみよう。一つ目はガラケー。恐らく多くの方が一度は使ったことがあるプロダクトだと思う。
スマホが普及し出す2010年代前までは、日本国内の携帯電話のほとんどがガラケーで、圧倒的なシェアを獲得していた。それに合わせ、各種家電メーカーがデバイスを製造、販売し、大きなモデルとなっていた。
同時に、ガラケーを取り巻く、imodeやEZ Webなどの携帯向けコンテンツや、ストラップに代表される周辺アクセサリーからの売り上げも多く、一大エコシステムが構成されていた。スマホが根こそぎ市場を破壊するまでは…。
そして、皆さんもご存知の通り、iPhoneとAndroidを中心としたスマホの普及に伴い、ガラケーのハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ、周辺アクセサリーなどの業界は破壊的なダメージを受け、衰退していった。
iPhoneを完全否定していた日本のユーザー達
現在で60%以上のシェアを誇るiPhoneが発表された際の日本の消費者の反応がある。
当時は、ガラケーが標準的な携帯電話として利用されていた時代であり、ユーザーもガラケーとiPhoneを比べたことで、全く的外れな予想をしていた。
“ほとんどiPodに電話が付いただけじゃねぇかwwwww”
“これは何をするための道具なの? 音楽を聴くため?電話をするためのもの? よく分からんな”
“今触ってみたけどデカすぎw これ片手操作してたら落とすだろうな GPSはいいわw 持て余しそうで欲しいとは思わないが”
“正直インフラ整ってる日本じゃiPhoneなんて意味無いだろ 普通に国産携帯の方が性能良い。これ買うのなんてタッチにひかれた人間か音楽ケータイ(笑)大好き 人間だけだろうねwwww”
“これを持つメリットが感じられない 音楽聴きたいならiPodでいいし電話メールは携帯でいいしWEBサイトにしても最近の携帯なら見れるだろ”
“文字の打ちづらさがTouch並なら絶対買わない あれで携帯として使うのは無理あるだろ”
しかし、日本でのiPhoneのシェアは約70%で世界1位の普及率になっている事からもわかる通り、彼らの予想は大幅に外れ、ガラケーは消滅した。
事例2) パソコンの普及で消滅したワープロ
数十年前までワープロと言われるデバイスが存在していた。正式名称はワードプロセッサーで、文字を打つことに特化したプロダクト。
パソコンが主流になってきた現在において、ワープロはアプリケーションとして取り込まれ、ワープロ自体の存在価値はほぼなくなっている。ワープロが未来の変化に対応していたかったというもう一つの例。
しかしながら、ワープロが主流の当時においては、それを予想することが難しかったようだ。そして、多くの家電メーカーが当時絶好調のワープロの生産を続けていた。その様子は、1989年に行われた下記の雑誌の関連インタビューを見てもわかる。
一般ユーザーは未来予測をしてくれない
フューチャー・プルーフを実現することが難しい理由の一つが、既存のプロダクトが基準となるため、ユーザーは未来を教えてくれないところにある。これは、iPhoneに対する当初の日本ユーザーの反応を見てもわかるだろう。
ヘンリー・フォードが自動車を発明した際にも、下記のように語っている。
「もし人々に何が欲しいかと聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう。」
したがって、未来に対応できるプロダクトを作るには、デザイナー達がじっくりと考えるしかない。
未来に起こる可能性のある主な変化
フューチャー・プルーフを行う際に気をつけておくべき未来に起こる可能性のある変化の種類を考えてみよう。簡単にリストしたでも、下記のような変化が考えられる。
- テクノロジーの進化 (例: スマホ登場)
- 人々の生活の変化 (例: リーモトワーク)
- デザイントレンドの変化 (例: モバイルファースト)
- 他企業のサービスの台頭 (例: 携帯メール vs LINE)
- 海外サービスの進出 (例: mixi vs Facebook)
- 規制の変化 (例: ガソリン車禁止)
- 安価な代替商品の登場 (例: ユニクロ登場)
- AppleやGoogleなどの有力企業が参入 (例: iTunes)
変化のスピードがどんどん速くなっている
現代においては、上記で紹介されている変化が複数が同時に発生することも少なくはない。また、恐ろしいことに、その変化のスピードはどんどん速くなっている。
異なる時代のプロダクトが、5,000万ユーザーを獲得するのに要した時間を紹介したい。例えば、飛行機の場合、5,000万人が利用するのには68年かかった。自動車なら62年、電話なら50年だ。電力が5,000万人に行き渡るのにも50年かかっている。
それが、21世紀に入り、その大量のユーザーが利用するまでに掛かる時間 = アダプテーションスピードは飛躍的に伸び、Facebookなら3年、Twitterは2年。ポケモンGoに至っては、19日で5,000万ユーザーを達成している。
参考: 日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事
未来対応するサービスをデザインするための6つのポイント
では、実際にフューチャー・プルーフされたサービスをデザインするにはどのような点に気をつけるべきなのだろうか?
1. 人間の本質的なニーズに対応する
時代が変化しても、人々に愛されているプロダクトのその多くは、人間が根本的に感じるニーズにしっかり対応している場合が多い。
例:
誰でもパソコンを利用できるようなソフトを提供 – Microsoft
スッキリ爽やか – コカ・コーラ
うまい、安い、早い – 吉野家
2. プロセスを未来にも対応・展開できるようにモジュール化させる
時代の変化でプロダクトの陳腐化が進む可能性や、新しいプロダクトを導入する必要があることを事前に想定し、プロセス自体を未来対応する方法もある。
例:
マクドナルドのオペレーション
モジュール化されたTeslaの工場
3. 内製するものと外部からの取り込みのバランスを取る
デジタルサービスを中心に、あまりにもさまざまなコンテンツの更新が必要になってくる場合、コア機能以外の部分を外部サービスと連動させる手法を採用することで、ある程度自動的にアップデートされる部分を増やす方法。
例:
位置情報にはGoogle Mapsを利用する
4. 普遍的な価値と短期的なトレンドの違いを理解する
プロダクトを時代と共に変化させることを前提にデザインする場合は、普遍的に変えるべきではない価値と、変化に合わせ、臨機応変に変化するべき部分を想定しておく。
例:
iMacの提供する普遍的な存在価値と、デザインの柔軟性
5. 永続的なUXを実現する
UXデザインの領域におけるフューチャー・プルーフを実現するには、かなり直感的な操作性を実現し、表面的なデザインの変更を行ったとしても、本質的なユーザー体験はタイムレスな内容になるように設計する。
例:
表面的なデザインスタイルが変わってもユーザー体験は10年以上変わっていないスマホの操作性
5. 人気のないサービスや機能は勇気を持って終了させる
盲点になりそうなポイントとして、もし時代に対応できないと判断した場合は勇気を持ってプロダクトを終了させる。
例:
Amazon Fire phone, Facebook Home, Google+, Apple ニュートン, Microsoft Windows Phone など
まとめ: サービスを考える際には未来対応を視野に
このように、サービスの企画を考える際には、現在の時間軸だけではなく、ぜひ未来の変化も視野に入れておくと良いだろう。
そうしなければ、例え現在世の中に求められている内容だったとしても、時代の変化と共に急激に陳腐化が進み、一気に廃れてしまう可能性も少なくない。
逆に、未来予測をしっかりと行い、現在のユーザーが気づかないニーズに着目してサービスをデザインすることができれば、ユニークなサービスを生み出し、スマホやシェアリングサービスのような、大きなヒットを生み出すこともできるかもしれない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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