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パーソナライズの死角とデジタル・セレンディピティ
パーソナライズ。ユーザー個々人の嗜好に合わせて、最適と思われる選択肢をサービス側から提示してくれる仕組み。
これが「トレンド」という認識は過ぎ去り、もはやスタンダードと言えるほどに様々なサービスに適用され、ユーザー体験を豊かなものにしてくれている。
しかし、実はパーソナライズには思わぬ罠が仕掛けられていて、知らないうちにそれにハマっている可能性もあるのではないか。そんなことに気がついたので、この記事を書いている。
パーソナライズ機能の虜に
唐突だが、私はNetflixユーザーで、よく映画やドラマを観ている。
会員になったばかりの頃は、自分が興味がありそうな作品がどんどんおすすめされてくる仕組みにワクワクした。マッチ度98%の作品なんて観ないという選択肢はないとさえ思ったし、実際に観てみると「やはり」と思わされた。
逆に、あえて60%程度のあまりマッチ度が高くない作品を観てみると、なるほどハマらない。Netflixは私よりも私のことをわかっているのではないかと思うほどにレコメンドの精度が高くて驚いた。
パーソナライズの死角
しかし、次第にどことなく味気なさを感じるようになった。もちろん、Netflixや作品に非があるのではない。
Netflixの作品の80%以上がレコメンド機能を通じて観られているというデータも存在するほどで、非常に精巧に設計されていることは言うまでもない。ただ、マッチ度にしたがって映画を観ることに対してもどかしさを抱き始めたのだ。
良くも悪くも、すべてが想定内なのだ。マッチ度が高い作品=面白い。感動した。マッチ度が低い作品=あまり響かない。刺さらない。といったように、どんな時もマッチ度に比例した等式が成り立ってしまう。
だから、「たまたま観てみた作品が面白かった」という経験をすることが難しくなってしまったのだ。
これはもう少し概念的な言葉で表すと、デジタルデバイス上で映画を観るという行動における、偶発性がもたらす幸福、つまり、セレンディピティを得られるチャンスがグッと減ってしまったということだ。
もちろん自分の意識の問題もあるのだろうが、いつの間にか自分の嗜好の中でしかサービスの選択ができなくなっている可能性に気づき始めた。
デジタル・セレンディピティの時代
昨今のテクノロジートレンドを語る上で、デジタル・セレンディピティという言葉が使われ始めている。この言葉は、文字通り、デジタルの世界における偶発性、セレンディピティのことを指す。
デジタル・セレンディピティを望む声は、大きくなってきているようだ。なぜなら、セレンディピティはオフラインの場で起こりやすいものだから。
例えば、ふらっと立ち寄ったお店で戦利品に出会えたり、旅先のホテルがアップグレードされていたり。こういったことはまさにセレンディピティに当たるが、経験のある方もいらっしゃるのではないだろうか。
しかしコロナ禍に突入し、オフラインでの行動が大幅に制限され、代わりにオンラインの世界での行動が増えたことで、こういった機会は減ってしまっているのだ。
先ほどまで挙げていたNetflixをはじめとするパーソナライズ機能を持ったサービスにはAIが必須の存在。そしてこれまで、AIをはじめとするテクノロジーやデジタルにはできなかったこと。それは、偶然や予想外を演出すること。
AIによるパーソナライズやレコメンデーションは、そのユーザーが何を見たか、何を買ったかなどといった事実に基づく。つまり、過去の事実に基づいた結果であるため、ある程度はユーザーの趣味趣向に合致した「堅実な」ポイントに行き着くが、逆に言うと、それ以上の偶然な出会いにはなりにくいものだった。
デジタル・セレンディピティの演出 – 3つの方法
しかし2021年は、そういったテクノロジーやデジタルの世界でも、セレンディピティが生み出されることが見込まれている。
レコメンドやパーソナライズの精度が上がるにつれ、偶然な出会いの機会は反比例的に減っていくことは、AIを中心とするテクノロジーの進歩に伴う代償だと思っていたが、諦めなくて良いようだ。
では具体的にどのようにサービスにおいてデジタル・セレンディピティを生み出していけば良いのだろうか?(なお、ここで言うサービスはでデジタルであることを前提とする。)
まずは、ユーザー自身で、自分の守備範囲から出ることを意識してみることだ。この意識を持つだけでも変わるだろう。自分を客観視したり、他人の視点を入れてみたりすることも、デジタル・セレンディピティに近い恩恵を受ける一助となるだろう。
ただ、可能ならサービス側からサポートがあるとより嬉しい。そこでサービスを考える上で、デジタル・セレンディピティの機会創出を促す、サービスデザイン的な仕掛けを考えてみたい。
1. バリエーションを増やす
これは、実際にプロダクトを販売するサービスだと想像しやすい。プロダクトのバリエーションを増やすことは、シンプルにユーザーにとっての選択肢を増やすことになる。選択肢が増えると、そのユーザーにとって新たな出会いとなる確率も比例して高まる。
ユーザーに「そういえばこれが欲しかった」、「こんなものがあったら良いと思っていた」などといった気付きを与えられるかもしれない。
また、マーケティング戦略において、「ついで買い」や「合わせ買い」を視野に入れた商品展開をも一つの方法になりうる。英語では「クロスセル」と呼ばれ、国内外問わず世界中で採用されている手法だ。
例は数多くあるが、Appleもこの方法を取っている。MacBookを購入するする際に、アクセサリーをついでに勧めている。MacBookの価格を考えるとこういったアクセサリー類の価格は安く感じてしまうし、いつか必要になりそうだと思ってつい一緒にカートに入れてしまうことを誘発する。
2. ユーザーとの接点を増やす
サービス側がユーザーとの接点を増やすことも有効だろう。彼らがサービスを使う機会を増やしたり、WEBサイトを訪れてもらう回数を増やしたりすることで、サービスの利用を通じたセレンディピティに出会う可能性を高めるという考え方だ。言わば「場数を増やす」作戦だ。
ここでは、オムニチャネルでユーザーとの接点を総合的に捉え、全ての接点における体験の質を上げるCXデザインの発想が求められてくる。
各チャネルとコンテンツの適性を考慮するだけでなく、ユーザーがどのような流れでサービスを体験し、どこで彼らにとって新鮮なコンテンツを提供できそうか、そんな視点を持つことが重要だろう。
3. 新たな切り口を提案する
最後は、新たな切り口の提案をすることでユーザーを喚起する方法だ。例えば1人のユーザーに対し、その人自身の過去の行動ではなく、時には他のユーザーの行動をもとに、新たな提案をしてみることも良いだろう。
通販サイト等でよく見かける「他のユーザーはこんな商品も見ています」といった商品の案内は、まさにこれを実践しているものだ。
ここで重要だと思うのが、ユーザーの嗜好から全く外れているものは強く勧めないということだ。いくらセレンディピティを狙ったとはいえ、それまで完全に蚊帳の外だったものに突然惹かれる確率は高くはないだろう。
ユーザーの視野に入っていないコンテンツは、存在を認識されていないのと同然。それを見せることは、ユーザーの目には新鮮に映り、結果的にセレンディピティを生みやすくなると思う。
こうしてポイントを挙げてみると、非常にシンプルだったり、すでに実践されていたりするものも多い。ただ、「セレンディピティを生む」という視点で見てみると、新たな気付きがあるのではないだろうか。
終わりに
“意図的に”“意図しない”出会いをデザインすること、これがこれからのユーザー体験の向上のために重要なポイントになると考えている。
そのために、コミュニケーションの延長線上にあるようなごく自然な方法ながら、ユーザーの視野を広げたり、視線を変える後押しとなるサービスデザインや、マーケティング戦略づくりが求められていくと思う。
ユーザーが本当に求めているサービスデザインとは?そんな疑問や課題をお持ちの方はぜひお気軽にお問い合わせいただきたい。
デザイン思考をインストールするためのワークショップやユーザーリサーチを通じた彼らの本質的なニーズの発見など、様々なデザインアプローチでサポートさせていただきたい。
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