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スタートアップのレイオフ – 明暗を分けたAirbnbとBirdの事例
新型コロナウィルスの影響で、多くのスタートアップにてレイオフ (一時解雇) が進んでる。具体的な状況は「コロナの影響でアメリカのスタートアップではどのくらいレイオフが進んでいるのか」にて説明されているが、現在まで400社以上がレイオフを行っている。
中でも最も多くのスタッフをレイオフした1社がAirbnbであるが、その進め方やCEOからのメッセージ内容の素晴らしさは注目を集めた。プロセス・内容共に、企業として、リーダーとして模範となるだろう。その一方で、同じくレイオフを行ったシェアリングスクーターのBirdは、真逆のやり方で多くの批判を生んだ。
明暗を分けたBirdとAirbnbのレイオフ手法
「レイオフ」という苦渋の決断を、この2社は全く逆のやり方で行い、その結果も大きく明暗を分けた。では、それぞれがどのようなプロセスでレイオフを進めたのかを検証する。
以前に「リーダーシップにワビサビはいらない – コロナ対応に見る日米5つの違い」で日本とアメリカのリーダーシップの違いを説明したが、今回は2つのスタートアップにおける、異なるリーダーシップ手法を紹介したい。
Airbnbのケース
世界ユニコーンランキングのトップ5に入るAirbnbは、新型コロナウィルス の影響による業績の悪化が原因で、5月5日に全体の25%にあたる1,900人のレイオフを行った。そして、その詳細とCEOからのメッセージを公式ページに公開した。そこには、手厚い退社待遇とスタッフを思いやるメッセージ、そしてフォローアップ施策が書かれており、企業カルチャーとリーダーシップのお手本となるべき内容だった。
以下にその主なポイントをまとめる。
1. CEO自らその経緯を詳細に説明
どのようにしてレイオフを行うに至ったのか。その原因、直近の展望、今後のプロセスなどをできるだけクリアに明記している。
2. 該当するスタッフにとことん対峙し、納得が得られるまで説明
会社のカルチャーポリシーを尊重し、レイオフになる人たちに対して1on1を通じ、納得がいくまで説明をじっくりと行う。
3. 当人たちの責任ではないことを複数回説明
会社を去らなければならなくなったのは不幸な状況が原因で、スタッフ自身には全く落ち度がなく、今までもこれからも素晴らしい人材であることを強調。
4. 可能な限り手厚い退職手当を提供
アメリカの企業がレイオフを行う際には、1〜2ヶ月分の給料を”退職手当”として提供するのが一般的。今回のAirbnbのケースでは、14週間分のベース給与に加え、勤続年数1年ごとにプラス1週間分の手当てを提供。勤務年数に関係なくストックオプションも与え、向こう12ヶ月分の健康保険もサポート。仕事で使っていたパソコンもキープして良いことになっている。
5. できるだけアフターフォローを行う
それぞれのスタッフに対して、直属の上司からの説明がされる。加えて、CEO Q&Aセッションを設け、直接CEOに質問を投げることが可能。退職後4ヶ月分のメンタルカウンセリングサービスの提供も行い、レイオフされたスタッフのメンタルをサポートする体制も整っている。
6. 転職支援も行う
レイオフになったスタッフができるだけ早く転職できるように専用のサイトを立ち上げた。Alumni Talent Directoryと呼ばれるこのサイトでは、Airbnbで働いていた優秀なスタッフを見つけることができる。プラス外部のリクルーティングサービスも提供することで、転職斡旋を行う。
7. リーダーとして言い訳をしない
今回の不測の事態はスタッフに原因はない。今までもこれからもAirbnbのチームメンバーとして心から愛していることを伝え、責任は自分にあることを説明することで、レイオフされたスタッフも、残るスタッフに対しても感謝を届けている。
Birdのケース
このようなAirbnbのやり方と全く違うプロセスを選んだのが、シェアリングスクーターを提供するスタートアップのBirdだ。新型コロナの影響で外出自粛やロックダウンをする都市が増えたことで、その利用が極端に減り、業績に影響が出た。
それに伴い、Birdは3月27日に全体の30%、406人のレイオフを敢行したのだが、その手法があまりにも残酷だったことで、テレビのニュースになるほど話題を集めた。
1. レイオフのお知らせはZoomのバーチャルセッションで
ある日突如、一部の従業員が事前の説明が全くないまま謎のZoomミーティングに招待される。参加してみると、何人参加してるか、誰が参加しているかが全く見えない一方的なオンラインセミナー的状態。
2. 誰も知らない謎の”人事担当”が登場
そこで、どこの誰かがわからない謎の”人事担当”の女性が一方的に話出す。顔も見えない。声は機械音っぽい。
3. 事前に録音したメッセージが一方的に流れる
会社は否定しているようだが、そのメッセージは明らかに事前に録音したもの。ちなみに、その一部でキーボードを叩く音とテキストメッセージを送る音も聞こえる。
4. その経緯の詳細や退職手当などの説明は無し
内容としても「COVID-19が原因であなたたちのポジションがなくなります」といった、非常に漠然とした内容。詳細は各々のプライベートメールに後日連絡が行くとだけ説明。
5. 参加者からの質疑時間も無し
このZoomセッションが双方向ではなく、一方的な設定だったため、参加者が質疑を行う方法も時間も与えられなかった。
6. たった2分でセッションは強制終了
カレンダーに予定されていたミーティング時間は30分だったが、実際のセッションは2分で強制終了された。
7. 直後にアカウントから強制的にロックアウト
セッションが終了直後、参加者はメールやSlackなどの仕事で使っていた各種アカウントとパソコン自体から強制的にロックアウトされた。
8. 同時ロックアウトシステムを開発した担当者もレイオフ
そしてなんと、この同時ロックアウトシステムの開発を依頼されていた担当エンジニアもレイオフされた。
9. CEOからの説明は一切無し
この一連のプロセスにおいて、BirdのCEOからの声明や説明は一切無し。そもそもセッションに参加していない。直接質問をすることも不可能。
このまるでミッション・イン・ポッシブルのようなメッセージの一部を下記にて確認できる。
リーダーは危機に直面した時こそ、その実力が試される
レイオフという苦渋の決断を行うプロセス1つを取り上げても、その会社やリーダーによってやり方が大きく異なることが分かる。多くの人たちの人生を左右するレイオフは、会社にとっても、スタッフにとっても非常に辛いことである。それに対してどれだけ真摯に向き合えるかが、リーダーシップの素質でもあるだろう。
同じアメリカ西海岸のユニコーンスタートアップでも中身は千差万別
今回のケースをみても分かる通り、AirbnbもBirdもアメリカ西海岸発のシェアリング系ユニコーンスタートアップではあるが、企業カルチャーもスタッフとの接し方も、CEOの動きも全く違う。「スタートアップ」と聞くと、ついつい全て似たような感じをイメージしやすいが、これだけ異なる。今後、これらの会社がどのような方向を進んでいくかも興味深い。
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筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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