デザイン会社 btrax > Freshtrax > 食の多様性を支えるフードテック...
食の多様性を支えるフードテック・スタートアップ3選
ヴィーガン、オーガニック、グルテンフリー等、食生活の多様性を表す言葉をここ数年でずいぶん見かけるようになった。btraxが本社を構えるサンフランシスコでもこれらの多様性に対応したスーパーやレストランは日常的に目にすることが多い。
そしてそれらの食生活を支える食品を供給する企業も数多く出てきた。今回は日本ではまだ馴染みの少ないこの「食の多様性」を支えるスタートアップについてご紹介したい。
ミレニアル世代による「健康」の新たな定義
ワシントンポスト紙の記事「我々の食生活に変化を及ぼすミレニアル世代の9つの考え方」では、ミレニアル世代が再定義する「健康」の概念を紹介している。記事によると、ミレニアル世代にとっての「健康」とは、ローファットや高繊維であることではない。統計によると、彼らにとっての「健康」とは、自然で、オーガニックで、地元産の商品でかつ持続可能性があるものだという。
上の世代がカロリーや脂肪の表記を確認する中、ミレニアル世代は、食品がどのように作られ、体にどのような影響を及ぼすかに対して関心を持っている。また彼らは環境に対する意識が強く、食材の持続可能性を優先事項としている。
以前ミレニアル世代のマインドセットを捉えて成功したスタートアップ事例でご紹介した通り、米国のオーガニック食品を最も購入している世代がミレニアル世代であることや、世代ごとのヴィーガンの割合もミレニアル世代が約12%と最も高い割合を占めていることから、ミレニアル世代の意識が他の世代とは異なることがわかるだろう。
食生活の変化に取り組むフードテック事例
それではこのようなミレニアル世代の「健康」ニーズをうまくとらえたフードテック系スタートアップをオーガニック、グルテンフリー、ヴィーガン、という3つの切り口からご紹介しよう。
都会向けの手頃で新鮮なオーガニック野菜の栽培:BrightFarms
(写真はBrightFarmsのFacebookページより)
オーガニック食品とは、農薬や化学肥料を使わず有機肥料によって生産された食品だ。アメリカにおけるオーガニック食品の売上は2017年に452億円に到達し、前年度に比べ6.4%の上昇が見られたという。
ニューヨークで設立されたBright Farmsは、都会のオーガニック食品消費者に向けた手頃で新鮮なオーガニックの野菜を提供している。
ほとんどのオーガニック野菜は、設備投資や人件費、またオーガニックの農地が小さく生産効率が悪いなどの要因により、通常の野菜より3倍以上高価であり、かつ収穫からスーパーの棚に並ぶまでに平均6〜7日かかるという。
新鮮な野菜を手頃な価格で安定的に供給
そのような背景を踏まえ、Bright Farmsは手頃かつ新鮮なオーガニック野菜を提供するために、大手スーパーマーケットと10年間の契約を結び、価格変動や気候変動に影響されない安定した供給を実現した。
また、独自のビニールハウスとシステムを用いて水質や気温、養分含有率のデータを回収し、水やりや気温管理のオペレーションを自動化している。これによりコストが最小限に抑えられるため、通常の野菜よりも値段が高いと言われるオーガニックの野菜でも、比較的低価格で販売することが可能となっている。
ビニールハウスはすべて大都市近郊で運営されており、例えばペンシルベニア州にあるビニールハウスは、大都市であるニューヨークまで、車で約1時間半しかかからないほどの距離にある。これにより都会に暮らしていても、収穫から24時間以内に新鮮な状態のオーガニック野菜をスーパーから購入することができるのだ。現在ペンシルベニアのほかにも、バージニア、イリノイ、そしてオハイオにビニールハウスが設置されている。
これらの取り組みにより新鮮なオーガニック野菜を手頃な値段で安定して手に入れられるようにした点がミレニアル世代の支持を集めている。
グルテンフリーを見分けるデバイスを提供:NIMA
(写真はNIMAのホームページより)
グルテンフリーとは、小麦粉の中に含まれるタンパク質である「グルテン」を摂取しない、つまり小麦粉や大麦を使わない米、野菜、肉、魚、果物を中心とした食生活のことだ。
Forbesによると、現在アメリカにおけるグルテンフリーの食生活を送る人口は310万人と言われており、2009年から3倍になったという。また、マーケティング調査会社MarketsandMarketsのレポートによると、グローバル市場のグルテンフリー商品の価値は、2020年までに76億米ドルに及ぶと見込まれている。
グルテンをデバイスで検出し結果をアプリで共有
サンフランシスコのスタートアップNIMAはグルテンフリー人口の高まりに伴い、持ち運べるグルテン検査デバイスを提供している。
このデバイスは使い捨てのカプセルに食品のかけらを入れることで、食品の中に含まれているグルテンを検出する。デバイスの中には独自で開発したグルテン抗体が含まれており、検査結果はたったの2分でわかるという。
もしグルテンが検出されたら上記の写真のように葉っぱのマークとGlutain Foundの文字が表示され、検出されなかった場合はスマイルマークが表示される。
また、NIMAはスマホアプリを用いて、他のユーザーとグルテンの検出結果を共有できるサービスを展開している。これによりNIMAのユーザーはどのレストランのどのメニューがグルテンフリーかを、自分で計測せずに知ることができるのだ。
設立者のShireen YatesとScott Sundvorはもともと食物アレルギーに悩まされており、確実に安全な食べ物を探すのに苦労したという背景から、このグルテン食品を見分けるデバイスを発明した。グルテンを含むかどうかについての記載のないメニューで悩む消費者は多く、手軽に確かめられる点で非常に優秀なデバイスと言える。
ヴィーガンのための食肉の生産:Beyond Meat
(写真はBeyond Meatホームページより)
ヴィーガンは、2019年のトップトレンドになると予想されているほど注目度の高い食生活だ。絶対菜食主義を意味し、肉や卵と言った動物性の食品を一切口にしないほか、レザーやウールを用いた衣料品も持たない。代わりに、野菜や穀物、果物などや、それを加工したものを口にする。
調査会社のGlobalDateによると、現在アメリカにおけるヴィーガン人口は2千万人で、2014年から実に6倍に急増した。また、アメリカだけでなく、イギリスでは2006年から2016年の間に3.5倍、ポルトガルでは2007年から4倍、オーストラリアでは2014年から約2倍に上昇したほか、アジアでも2020年までに、中国では17%、香港では22%増加するとの予測がされている。
この急増の背景にはミレニアル世代が重視する持続可能性がある。もともと畜産業には持続可能性に関する疑問点が多く、例えば畜産の放牧地の確保のために大規模な森林伐採が行われていたり、家畜用の肥料の生産や家畜の排泄物によって排出される温室効果ガスが環境へ悪影響を与えていたりする背景がある。
そんななかで注目を集めるのが「代用肉」だ。動物を飼育せずに動物の細胞から成長させる「クリーンミート」と呼ばれる代替肉や、動物ではなく植物由来の肉が登場したことで、肉を食べることが今まで考えられなかったヴィーガンの食事の幅を大きく広げた。
肉の味と見た目を植物から再現
Beyond Meatは2009年にEthan Brownが創業した、ロサンゼルスの会社である。動物ではなく植物から作った肉(牛肉、鶏肉、ソーセージ)を販売しており、現在アメリカ国内の1万店舗以上に展開している。
同社は自社のテクノロジーを用いて動物を使わない食肉を作っている。牛肉を構成する4つの要素、プロテイン、脂肪、微量のミネラル、そして水、これらを動物からでなく植物から採取し、加熱、冷却、圧力を加えることで、植物タンパク質を動物タンパク質と同じ線維の構造に整列させて本物の肉を再現している。
また、栄養素だけでなく本物の肉の味と見た目を再現するため、片栗粉とココナッツオイルで噛み応えとジューシーさを持たせ、肉汁にはビーツと呼ばれる野菜を用いるなどといった工夫をしている。
実はこの代用肉はヴィーガンではない消費者の間でも注目されつつある。米国では多くの畜産農家が家畜の成長を早めるためにホルモン剤を使用したり、農場で家畜が病気にならないよう大量の抗生物質を使用したりしていると言われている。
そのため、以前からホルモン剤や抗生物質を摂取した家畜の肉を口にすることの人体への影響が危惧されていた。そんななかでこれらの代用肉はホルモン剤や抗生物質を気にすることなく食べられる肉としても注目が集まっているのだ。
1,200人近くの消費者を対象とした最近の調査では、動物を飼育せずに動物細胞から成長するクリーンミートの簡単な定義を聞いた後、従来の食用肉と比較したいくつかの利点に関する簡単な説明を受けた消費者のうち、66.4%がクリーンミートを試しても構わないと答えている。
まとめ
今回は食にフォーカスしたが、ミレニアル世代が従来ある概念について他世代とは異なる捉え方をするのは、何も健康的な食事に限ったことではないだろう。衣食住を始め、すべての世代が関わる生活の基本的なことに対して、ユーザーの価値観やマインドセットというのは当然ながら世代や時代によって変化する。
そんななかで常に重要となるのはユーザー理解だ。開発者の事情や常識、思い込みを一旦捨て、ユーザーのベネフィットにフォーカスしたサービス開発は必須だ。btraxではサービス事例の調査からユーザー視点でサービス作りを行うために必要なマインドセット、その後のプロトタイプ開発からユーザーテストまで一貫して行っている。是非一度お気軽にご相談を。
【イベント開催!】Beyond Borders: Japan Market Success for Global Companies
日本市場特有のビジネス慣習や顧客ニーズ、効果的なローカライゼーション戦略について、実際に日本進出を成功に導いたリーダーたちが、具体的な事例とノウハウを交えながら解説いたします。市場参入の準備から事業拡大まで、実践的なアドバイスと成功の鍵をお届けします。
■開催日時:
日本時間:2024年12月6日(金)9:00
米国時間:12月5日(木)16:00 PST / 19:00 EST
*このイベントはサンフランシスコで開催します。
■参加方法
- オンライン参加(こちらよりご登録いただけます。)
- 会場参加(限定席数) *サンフランシスコでの会場参加をご希望の方は下記までお申し込みまたはご連絡ください。(会場収容の関係上、ご希望に添えない場合がございます。予めご了承ください。)
- 対面申し込み:luma
- Email(英語):sf@btrax.com
世界有数の市場規模を誇る日本でのビジネス展開に向けて、貴重な学びの機会となりましたら幸いです。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。