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破壊的イノベーションを生み出す組織とは
グローバル化・デジタル化が進む世界の中で、企業を取り巻く環境は日々目まぐるしく変化している。
AIやマシーンラーニングといった技術の発達により、変化を必要としない業務はどんどんと自動化されていき、残る仕事は自ずと意思決定を含むもの、またクリエイティビティを必要とするものに絞られていくだろう。
企業は新しい価値を創造することができなければ生き残ることができない時代が到来しているのである。
このようなトレンドは広く理解されているものだと思うが、それに対応するための施策が、長期的視点から見た組織改革にまで及んでいる例は少ないように感じる。
インパクトの大きな破壊的イノベーションとは、短期的に戦略を立てて確実に起こせるようなものではないからこそ、組織の中で地道にその種を増やしていくような長期的な対策が必要であり、忍耐力を要するものである。
個人の「新しいアイデアを生み出す力」を最大限に引き出す環境を整えることは、スタートアップはもちろん、成熟期にある大企業こそ本腰を入れて取り組まなくてはならない課題であろう。
そこで今回は、イノベーションを生み出しやすい組織のあり方についての知見を得るべく、 従来の階層型組織とは一味違ったフラットな組織づくりをしている企業を3つほど紹介する。
1. Airbnb:ホラクラシー
UberやSnapchatと並ぶ巨大ユニコーンである宿泊場所マッチングサイト、Airbnbの成長を支えているのは、従業員に対して役職ではなく役割を与え、個人やチームが意思決定を行う組織体制だ。
このホラクラシーという体制は、分権的な働き方が好まれるコンピュータープログラミングなどの業界で2007年頃から実施が始まり、アメリカの靴通販サイトのZapposが2013年より導入を発表したことで有名になったものである。
Airbnbではこのホラクラシーを部分的に導入しており、マネージャーやチーム制は最低限残した上で、 従業員・チームが良いと思ったアイデアを無駄なプロセスを介さずともスピード感を持って組織運営に反映していけるような土壌作りを行っている。
【特徴1】マネージャーは「指示役」ではなく「お手伝いさん」
先に述べたように、フラットさが重視されているとはいえマネージャーを完全に無くしたわけではない。Airbnbでは、目標や目的、タスクを上から各作業担当者に流していく存在としてのマネージャーではなく、従業員の業務遂行における障害を取り除く役割としてマネージャーを置いている。
「お手伝いさん」としてのマネージャーが、エンジニアが予期せぬバグに遭遇した場合の解決の手助けや、チームのアサインについての不満を聞いて適宜メンバーの調整を行うことで、従業員はより円滑に業務を行うことができるようになる。
【特徴2】「役職」ではなく「役割」で動く
上記で説明したようなマネージャーのサポートを受けつつ、各従業員は必要なタスクやゴール、そこに辿り着くためのプロセスを自ら考え実行することを期待されている。
それぞれの従業員は個々のニーズやスキルに基づき「役職」ではなく「役割」を与えられ、エンジニア・プロダクトマネージャー・デザイナー・データサイエンティストから構成される10人弱のグループに入る。
グループとしての目標設定やそこにたどり着くまでのプロセスなど、すべての意思決定が各グループに委ねられているため、複数の階層からの合意を得る面倒なプロセスなしに、素早く物事が決まっていく。
【特徴3】業務に対する情熱を守る:エンジニアに与えられた2種類のキャリア
従来の階層型組織においては、階層を上がっていくにつれて裁量権や給与が上がっていくのが普通である。
しかしこの仕組みの中だと、上の階層にいるマネージャーが部下の管理ばかりに追われて個人としての業務を満足に行えなくなる、という状況が発生しうる。
Airbnbでは、マネージャーにならずとも同程度の給与を得られる“Individual contributors”という枠を設けており、エンジニアは自らのニーズに合ったトラックを選択することができる。
このように従業員の働き方を階層という枠で縛らず、一人一人に選択権を与えることで、彼らが業務に対して当事者意識を持ち続けられるような仕組み作りをしている。
2. W.L. Gore and Associates:格子状(lattice)組織
アメリカの電子機器・医療機器メーカーであるゴア社は、従業員を10,000名以上抱え、30億ドルの収益を上げるいわば大企業でありながら、フラットな組織づくりに長年取り組み続けている。
ゴア社が取り入れているのは「格子状(lattice)組織」と呼ばれる、全従業員が網目状に直接繋がりあったフラットな組織形態であり、CEOと数人の役員以外は役職を持たず、従業員同士の直接的なコミュニケーションを促すことで、通常はヒエラルキーの裏に隠れてしまう「真の権力構造」を引き出すことを目指している。
【特徴1】縦にも横にも自在に繋がる従業員
ゴア社では、ある業務に対して他の従業員の協力が必要な場合、特に上司への確認をとる必要はなく、直接その人とやりとりをして物事を決めることが当たり前になっている。
業務遂行に際するチーム運営も個人間のコミュニケーションに依存しており、各個人は自分の仕事量を管理する責任、チームメンバーへの説明責任を負うほか、リーダーは上から指定されるのではなくチーム内で民主的に決めるなど、従業員一人一人が率先して自らを組織化していく姿勢が求められている。
【特徴2】従業員をサポートする「スポンサー」
ゴア社では従業員一人一人に、「スポンサー」と呼ばれるコーチがつく。彼らは上司ではなく、各個人の成功のために手を貸してくれるコーチのような存在である。
スポンサーは、従業員自身の能力を伸ばしていくためのこまめなフィードバックや、他の社員とのコネクションづくりのサポートなどを通じて、その人の成長をサポートしていく。
【特徴3】業務内容は成長ニーズに基づき自分で決める
ゴア社の従業員は、リーダーとスポンサーからのサポートの下、全社としてのビジネスのニーズに合致し、かつ個人の成長を後押ししうる担当任務やプロジェクトを見つけ、「コミットメント」 として表明する。
各プロジェクトはこのような「コミットメント」を各自持ったメンバーが自然に繋がったスモールチームによって進められ、その中に誰かが仕事をアサインしたりされたり、といった上下関係は存在しない。
コミットメントの遂行に責任を持つ各個人が自主的に業務に取り組む仕組みを取ることで、業務への当事者意識・モチベーションを高めている。
3. The Morning Star Company:セルフマネジメント
全米1のシェアを誇るトマト加工業社であるThe Morning Star Companyは、従業員400名・売上7億ドルの規模でありながら、ここで挙げている例の中でも特に突き詰めてフラットな組織作りを行っている企業である。
同社は、従業員全員が「誰かから指示されなくとも、同僚、顧客、卸業者、その他の関係者とのコミュニケーションを主導できる自己管理型プロフェッショナル」で構成される企業を目指し、CEO以外に役職を与えない「セルフマネジメント」体制をとっている。
【特徴1】上司ではなく個人のミッションに従う
The Morning Star Companyでは 「高い質と、顧客が期待するサービスを実現し続けるトマト関連製品・サービスを作る」という企業としてのゴールに対し、各個人がどのように貢献していくのかについて、各自でミッションステートメントを作成することが義務となっている。
従業員は自ら定めたミッションの実現に対して責任を持ち、それを指針として日々の業務を行うため、マネージャーの指示ありきで作業の進む環境では育ちづらい、従業員一人一人の当事者意識を掻き立てるような仕組みが整っていると言える。
【特徴2】一人一人が働き方をデザイン
The Morning Star Companyでは年に1回、 社員一人一人に対して、自分に関連度の高い他の社員10名程度と業務に関する「交渉」を行う機会を与えている。この交渉では、自らのスキルセットや希望に応じ、どのような体制の下でどのような業務がしたいのかについて当事者同士で細かく話し合い、合意形成を行う。
このように各個人が納得した業務体制へのアップデートを適宜行うことで、役職が固定された階層型組織ではなし得ない、個人の興味関心やスキルの変化への柔軟な対応を可能にしている。
【特徴3】個人での判断を可能にする十分なリソース提供
The Morning Star Companyでは 、各個人・チームが承認プロセスなしに、オフィスサプライの注文など日々の小さな業務や取引先との交渉に際する意思決定を行う権利を持つが、自由が無秩序へと傾いてしまわないよう、そのために必要な情報をきちんと与えている。
個人の決断が他の社員や業務にどのような影響を与えるのかを数値として確認できるような仕組み作りのほか、取引先との交渉の仕方・金融システムに関するトレーニングを従業員の多くに提供することなどを通じて、個人が意思決定をより正確に、迅速に行うことができるようサポートしている。
ReasonTVが行ったThe Morning Star Companyのセルフマネージメントに関するインタビュー
ここで紹介した3社の組織体制に共通しているのは、従業員を意思を持った個人として尊重し、その意思決定を取り入れるオープンさがありつつも、メンターや新しい知識といったリソースを適宜与えることで、管理と放任のバランスをうまくとっている点である。
自由とともに責任も与える仕組みづくりを行うことで、当事者意識に基づいた新しいアイデアが生み出される環境が実現しているのである。
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もちろん組織作りに正解はなく、それぞれの組織にはそれぞれに合った組織のあり方があるはずである。しかし、ここで紹介したような例を「成熟度が違うから」「業界が異なるから」というような理由で一蹴してしまうのはあまりに勿体無い。
正解がないからこそ、自己とは異なる視点で同じ問題に取り組んでいる企業からヒントを得ることは非常に有益であり、その上で今回紹介したユニークな3例は良い参考になるのではないだろうか。
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