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体型データが秘める可能性とZOZOの海外への挑戦【田端氏・金山氏インタビュー後編】
日本最大級のファッションECプラットフォーマーであり、世界のファッション・テックを牽引する株式会社ZOZO。前編では、採寸用ボディースーツ『ZOZOSUIT』やアパレル経験豊富なスタッフによるスタイリングサービス『おまかせ定期便』など、同社が提供するの新たなファッションとそれを支えるテクノロジーについてお届けした。
後半では、ZOZOSUITから得られるユーザーの体型情報や、ZOZOTOWNローンチ当初から蓄積されてきた膨大な商品や売り上げデータが秘める可能性、そして同社の海外展開についてお伝えする。
データ活用が実現する可能性
ユーザーの体型データの活用法と可能性
ZOZOSUITが革新的なのは、その測定テクノロジーだけではない。ZOZOSUITを大量に無料配布することで、サイズ測定のグローバル・スタンダード化を手がけようとしていることだ。2018年7月31日までで、既に約112万枚のZOZOSUITがが配布されている。
これだけのユーザーのフィット・サイズに関するデータを持つ企業は、おそらく世界中でZOZOだけだろう。ECジャイアントのAmazonや、個人情報を大量に保有するfacebookでさえ、サイズに関するデータは保有していない。
気になるのはユーザーデータの活用方法だ。
同社が保有するサイズデータに他企業がアクセスできるようにする予定については、「当面はない。ただ、未来に絶対にあり得ないかというと、そうでもない」と、田端氏は苦笑いしながら答えた。やはり、多くの企業がデータ利用の可能性について興味を持っているようで、この種の質問は多々されるようだ。
また、「需要予測などを通して上流からファッション業界全体を変える、ある種のプラットフォームになれる潜在的な可能性がある。」と田端氏は予想する。
その一方で、「今までと全然違う解像度のユーザーの体型データが手に入ったとしても、本当にテーラーメイドで、一人ひとりにフィットした商品作るところまで、突き詰めている既存のファッションブランドはまだいない。」と続ける。仮にデータにアクセスできたとしても、同社が行っているように商品が作れるかどうかは、また別次元の問題ということだ。
体型データの広告利用
さらに別の論点として、広告事業におけるユーザーデータの利用の可能性についても示唆する。例えば、肥満気味の人に対して、ダイエットサプリの広告を出すなど、体型に応じた広告を出すというのは、技術的には可能だが、一方で非常にセンシティブな問題でもあると指摘する。
体型データの活用について、ファッションの分野でもまだ十分に浸透していない現状において、本来の目的以外に利用をすることで、同社が実現しようとしていることを台無しにしてしまうリスクを危惧しているのだ。
よって、当面はユーザーデータの提供に関しては、「まずあり得ない」とのことだ。服作りの文脈でユーザーの体型データを活用し、ファッション体験においてユーザーにメリットを感じてもらうことを、優先していくそうだ。
ビッグデータ+画像解析技術で、高精度なリコメンデーションを提供
金山氏がZOZOグループに参画したことはさらなるデータ活用の可能性をもたらした。
彼はもともとファッションコーディネートアプリ『IQON』を提供していた株式会社VASILYのファウンダー兼CEOだった。同社の強みはディープラーニングを活用した、ファッションに特化した画像解析技術だ。IQONでは、ユーザーが「LIKE」や購入したアイテムの傾向を学習し、精度の高いレコメンドをすることができる。
VASILYが2018年4月にZOZOテクノロジーズに統合されたことで、約1億件の購入データや、3,000万件の商品データ、さらにはZOZOSUITから得られた体型データなど、ZOZOが保有する膨大なデータと画像解析技術を組み合わせて使うことが可能になった。気になるのは、その活用方法だ。
既に始まっている試みとしては、ZOZOが保有する情報資産と画像解析技術を使ったテクノロジーを組み込んだZOZOTONW内スポンサードプロダクト広告がある。ZOZOTOWN出店ブランドはこの広告プログラムを使用することで、売れる可能性がある商品をユーザーの目に留まりやすい位置に掲載することが可能となった。
海外進出と今後の展望
今年で創業20年を迎えるにあたって、ZOZOTOWNではなくプライベートブランドとしてのZOZOを、本格的に国内外に向けて展開していくことを目指している。
「今後10年くらいのうちに、グローバルなアパレル企業として世界のトップ10に入りたいと思っています。それもECのプラットフォーマーとしてではなく、ブランドを直接運営する企業として。」と田端氏は語る。
2018年7月にはグローバルサイトzozo.com が立ち上がり、北南米、アジア、欧州など72カ国・地域でZOZOの販売を開始。10万人を対象にZOZOSUITとZOZOのTシャツとデニムパンツを無料配布するキャンペーンも実施した。ソーシャルメディアでは、ユーザーによるZOZOSUIT受け取り報告が続々となされ、着実に海外の顧客基盤を築いている様子を窺うことができる。
その一方で、海外展開においては、まだまだ課題もあるようだ。
Source: @Maccbean
Source: @hollypainex
「あなたサイズ」に対するユーザーベネフィットの提示が鍵
「ZOZOの認知がまだまだ足りないというところが圧倒的な課題だと思っていますが、その他には、サイズが合った服を着るいうことに対しての啓蒙が必要だと思っています。」と田端氏は言う。
筆者がbtraxにて日本のクライアントのアメリカ進出をサポートする際、絶対に欠かすことが出来ないプロセスがある。それがまさに、ターゲットとするマーケットのユーザーにとって、どんなメリットがあるかを考えることだ。
どんなに素晴らしい技術や商品を持っていたとしても、それらをユーザーベネフィットにきちんと置き換えができなければ、「So what?(だから、何?)」と商品に興味を持ってもらえない。
この点について、田端氏曰く「サイズが合った服を着ることは、comfortableなのか、クールに見えるということなのか、それとも、スマートに見えるということなのか…どこが正しいツボなのかは、正直まだ分かっていないのが現状」だということで、今後色々な打ち出し方を行い、ユーザーの反応を見ていく予定とのことだ。
海外版の「かわいい」、「オシャレ」を定義していくことが課題
ZOZOが提供するサービスの1つに、ファッションコーディネートアプリの『WEAR』がある。
現在、1,100万ダウンロードを突破し、800万件以上のコーディネートが投稿されている。モデルやショップスタッフ、またファッション好きな一般ユーザーがコーディネートを投稿し、コーディネートで使用された商品をZOZOTOWNをはじめ、世界のECサイトで直接購入することができるアプリだ。
WEARは、数年前からグローバル展開も行っているが、「正直、海外版のWEARって日本に比べて全然ブレイクしていない。」と渋い返事をする金山氏。その理由には、文化やコンテクストに影響を受ける、海外版の「かわいい」「かっこいい」「おしゃれ」という概念を定義しきれていないところにある、と金山氏は分析する。
インタビュー後記:ファッションの民主化
「ファッションテック」という言葉がもてはやされはじめて久しいが、「それ、本当に必要?」と思ってしまうような、技術先行でユーザー視点に欠ける商品やサービスが市場には溢れている。ポイントが貯まるスマート衣服や、ツイートをLEDで表現するドレス、身に危険が迫った時にSOSを送ってくれるリングなどなど….
このインタビューを通して、私が長年にわたって追ってきた「ファッションテックは、ユーザーにどんなメリットをもたらすのだろうか?」というテーマに対する1つの答えが見えてきた。それは、「ファッションの民主化」だ。
「テックって、チープ革命なんですよ。色々なコストが下がることによって、より多くの人達がこれまでまで体験することができなかった様なサービスを体験できるようになると思います。」と語る金山氏。
「テクノロジーの力で民主化されて、本当に普通の人が日常的にオーダーメイドの服やスタイリストが選んでくれた服を着ている世界が実現されるつつある。」と田端氏も付け加える。
オーダーメイドを服を日常的に着たり、専属のスタイリストに服を選んでもらったりするなんて、セレブリティや富裕層でなければ体験できなかったことだ。それが、ZOZOやおまかせ定期便によって可能になったのだ。
「自分に似合う服を着ると、気分が上がる」という体験は誰もが一度は感じたことがあるだろう。その体験こそが、ZOZOが企業理念としている「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」であり、今まさにテクノロジーによってそれが実現しようとしているのだ。
今後、ZOZOがどのように私たちのファッション体験を変えているのか、さらに期待したい。
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